パロ | ナノ

 溶けだした優しい霧

車の止まる音に目を開けたら僕が抱えられて降ろされるところだった。
顔をあげれば夜だというのに屋敷の明かりに照らされて眩しいぐらいの金色。

「おかえり、思ってたより早かったな。手間取らなかったのか?」
「ぁあ?手間取ったに決まってんだろバカ馬、もったいつけやがるから攫ってきた」

声は一緒に車に乗っていた黒い男のものだ。
僕を抱いているこの男は誰なのだろう…。
小さく身じろぎすれば気付いたように僕に視線を落としてきた、その瞳も金色で優しげに細められる。
歩きだして、僕を繋ぐ首輪の鎖がじゃらりと鳴った。

「名前はなんていうんだ?」
「六道骸だ、元からあった名前らしいぞ。俺はもう寝るからそいつは適当な客室に寝かしておけ。洗うなりトリミングなりは明日にしろ」
「骸か、ついてた名前なら変える必要ねぇな」

僕に問いかけられた言葉は後ろを歩いてきている黒い男が答えて、階段を上りきったところで別れたようだった。
近くの部屋に入ると僕はそのままベッドに降ろされた。

「起こしちまったか?」
「いえ、もともと眠りは浅い方なので…」
「俺はディーノだ、詳しいことは明日説明する。眠れそうならこのまま寝ちまえ」

そう言うとディーノは僕の鎖に手をかけ、外し近くのテーブルへと置いた。
僕はその様子をじっと見ていたが、ふっと疑問に思ったこが口をつく。

「いつまで…僕を振りまわすんですか…」
「それは、もうおしまい。これからは好きに生きて良いんだ」

好きに…生きる…。
僕には理解できないことだった、生まれてオッドアイという特殊な顔立ちで貸出されて性欲処理に使われることもあった。
何もない日には研究中の薬物投与、僕の意思なんてそこには存在しなかった。
好きにといわれても、僕には…どうしていいかわからなかった。
不安げな僕の心情をくみ取ったのかそうでないのかわからなかったが、ディーノは僕の頭を撫でるとおやすみと囁いて部屋をそっと出ていったのだ。
静かになった部屋、牢獄とは違い窓から差し込む月明かり。
僕はベッドの中に潜り込み身体を丸めた。

「…びゃくらん…っ」

白蘭と言うのは先程まで捕らえられていた研究所の幹部だ。
白蘭を取り巻くものたちは確か大学生だとか言っていた。他の研究員とは違って比較的友好的に接してきて馴々しい印象をもったのだ。
だが、所詮は研究員…僕の身体が物珍しく懐かせようとしていただけのこと。
こうなった今では関係のないことだというのに…。
暗闇でぎゅっと目を閉じた。
早くこの思考から離れたくて、逃げたくて…わけのわからない感覚を振り切りたくて…。





朝になれば最初に綱吉が起きてきた。今日は自分が食事を作ろうと早めに支度を済まして部屋から出てきたのだ。
冷蔵庫の中を見て何が出来るか確かめると目玉焼きにしようと決める。
そもそも、綱吉はずっと親の脛を齧ってきたために自分で作れるのは味噌汁か目玉焼きといった卵焼きのたぐいだけだったりもする。
丁度パンもあったのでトーストを作って、店長が帰って来た時のためにと三人分を用意した。

「おい、ディーノ。ちょっと飯早くねぇか?」
「え?」
「あぁ!?」

もう食べれるころになってダイニングに入ってきたのは見知らぬ男だった。
しかも、寝起きは機嫌が悪いらしく綱吉を見たときの目は喧嘩腰で睨んできた。

「お前、誰だ?」
「あ、えと…沢田綱吉、大学生です」
「…それでか?なんかの詐欺じゃねぇだろうな?」

その男の言葉の端にこんなに小さいのに、とつかんばかりの人を疑ったような物言いに気にしている綱吉はカチンときてしまった。

「詐欺って何だよ、俺はれっきとした大学生だっ。昨日アルバイトしにここに面接にきたんだ、俺は店長って人に顔合わせしなきゃいけないんだよ」
「…お前バカだろ、ディーノに聞かなかったのか?俺がここの店長だ」

一気に思考が停止した。
この人が…いかにも悪そうな顔をしているのに、店長…。
綱吉は頭の中で言葉を反芻した。

「……え、えぇえええっ!?」
「うるせぇ、朝から声上げてんな」

ボルサリーノを深く被りながら椅子に座れば綱吉の作った朝食に手をつける。
一口二口と食べていく様子を見ていたら、なんだか驚きも半減だ。

「あ、その…俺…学校なんで」
「……」

そんな綱吉の言葉も聞いているのか聞いてないのか、男は食べ続けていて。
綱吉は適当にパンを持つとそのまま店を後にした。
小さく零れたため息は誰にも聞こえることなく、ばたんと扉が閉まる音だけが響いた。

「あーあ、あんなに邪険にしてやることないだろ」
「ディーノ…バイトなんて雇う決定権は俺なんだぞ、勝手な真似してんじゃねぇ」
「いいじゃねぇか、あいつだろ、待ってたのは」

リボーンの後ろから先程のやり取りと見ていたらしいディーノが顔をのぞかせた。
リボーンは食べ続けていてディーノの話しを無視する。
そうリボーンは一目見たとき綱吉に驚いていたのだ。
それを悟られないようにした、名前を確認したのも本人かどうか確かめるためもあった。
けれど、これはリボーンしか知らない事実。綱吉に会えたのも何かの縁だと思っている。

「待ってたわけじゃねぇ」
「嘘だな、何かるたび思いだしてたくせに」

ディーノの言う通りでもあったが、このまま会えないままでもよかったのだ。
綱吉がここにきたのは偶然か必然か、リボーンは小さく笑みを浮かべた。

「……あの」
「あ、骸起きてきたのか。食べるか?」

そこへ骸がでてきたのを知るとディーノは綱吉が作ったトーストを差し出した。
特に警戒することなくディーノの手からそれを受け取ると食べ始める。

「なら、俺は部屋の用意でもするか。ディーノ骸の世話やっとけ」
「了解」
「骸、俺もちょっと用意しなきゃなんねぇからもうちょっと部屋にいてくれ」
「……わかりました」

ディーノは目玉焼きをたべて、うまいなと租借しながら骸の身体を反転させて先程の部屋へと促した。
骸は素直に従って部屋に戻るのを眺めて、ディーノは食器を片づけると診療室へと入ったのだった。





店スペースの空き部屋からリボーンが出てきた。
どうやら中の掃除は終わったらしい。
俺は骸を呼びにと部屋に入った。

「骸、お前の部屋の確保ができたからこっちにきてくれるか」
「……」

昨日より少し顔色が悪い気がする。せっかく綺麗なオッドアイも少し曇っているようで、ロシアンブルーの毛並みは悪そうだ。
これはそうそうにトリミングも必要だなと考え、まずは予防注射だと骸の手を引いた。
俺より小さな手を握って、診療室に連れてきたらあきらかに身体が硬くなった。
そう言えば、骸は研究所にいたんだったか。
獄寺の時も相当暴れたなぁと考えて、俺は骸の顔を覗き込んだ。

「お前がいたとこってアブナイとこだったか?大丈夫だ、予防注射するだけだからな。少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」
「っ……」

注射器をとりだして、薬を吸い上げる。
呼吸が乱れた、止めた方が良いかと顔を見れば完全に怯えている。
耳はさがって震えているのに、それとは反対に瞳は強く睨みつける。

「骸、腕…だしてくれ」
「……」
「注射器一本も無駄にできないんだ」

ここまでいっても骸は動こうとしない。完璧に警戒されているのがわかって俺はため息をついた。
正直信じてもらえる方が不思議なくらいだとは思う。
俺はしかたなしに、自分の腕を出した。
薬自体、人間用にも使えるのだから何ら問題はない。ただ、リボーンが煩いだけだ。
自分で腕に注射して痛みに呻く…自分の腕もまだまだだなぁと感じつつ何もないことを証明するように骸を見た。

「…しかた、ないですね」
「信じてくれてうれしいぜ」

腕を出してくれた骸に注射して何とかひと段落だ。
長袖で隠れていた腕の注射の痕には驚いたが、あまり深く追求することではないだろう。
そのあと、骸を山本と獄寺に対面させた。
身体の大きさも同じくらいだ、人型動物と言うのは人間より短命だ。
だから成長スピードも人間の三倍は早い、今は俺や綱吉より小さいと言っても二、三年で追い抜かれてしまうだろう。
そんな短い人生、研究材料にされてしまうなんてことは悲しすぎる。

「あの黒い人間はいいんですか?」
「黒い?リボーンのことか?まぁ、大丈夫だ。こいつらもお前と同じ奴等、ここはお前達のためのペットショップなんだ」
「お?新入りか?よろしくな、俺は山本。こっちの無愛想なのが獄寺な」
「…お前も連れてこられたんだな」
「おや、貴方はいつぞやのバカ犬ですか。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

獄寺と骸は知り合いだったらしく、なんだか最初から喧嘩腰だ。
まぁ、こちらから見れば犬と猫の威嚇にしかみえないのだが。

「仲良くしろとはいわねーが喧嘩すんなよ」
「こんなのと喧嘩?するだけ時間の無駄ですよ」
「んだとっ!!」
「まぁまぁ」

なにやら雲行きが怪しくなってきた。
骸の機嫌が一気に悪化した。
ヤバいなと思ったときに入り口のドアが開いたのだ。

「ただい…」
「あっ、やば…ツナそいつ捕まえてくれっ」




こんなところはごめんだ。
目の前の同胞、見たくもなかった。
それにこんなにも人型動物がいるなんて…。
僕は今開いたドアめがけて走っていた。
そしたら、目の前に男がいてそれを構わず押し倒して、ディーノの声を背中に聞いたら外に向かって走り出した。
けれど、僕の服の裾を掴まれていた。

「放してくださいっ、僕はこんなところにいたくないんです!!」
「え…」
「ツナ、そのまま」

一瞬僕の声に驚いて手が緩んだ隙をつき、逃げ出すことに成功した。
全速力で走って、無我夢中で息が切れたころには自分がどこにいるかさえもわからなくなっていた。
けれど、結構離れられたように見えて、大きく深呼吸した。

「ここまでくれば、大丈夫でしょうか」

周りを警戒しながら近くの路地へと入った、奥へと進んでいけば空き地になっていてこんな姿を誰かに見られるのも危険だと悟った僕は隠れる場所を探そうと顔をあげたらいきなり足音が聞こえて、反応する前に壁に顔を押さえつけられてしまった。

「っつ…」
「こんなところにいたんだ、探したよネコちゃん」
「…白…蘭…」

耳に入ってきた声にビクリと身体が反応した。
あそこから逃げてきてここで見つかってしまうなんて最悪だ。
顔をあげれば案の定嫌な予感は当たって僕の目に白が焼き付く。

「ちゃんと覚えてたんだ、嬉しいな。でも、貸し出しオークションの目玉であるキミがいなくなっちゃったら…どうなるかわかってるよね?」

わざとらしくおどけて言うが白蘭の機嫌は最悪なのだとわかる。
射抜く視線が動けなくする。
押さえつける力も今では簡単に振り払えるのに、身じろぎすらもできなかった。

「ねぇ、まだ僕の前だと黙りなの?」
「……っ」

無理やり顎を掴まれて白蘭と目を合わせられる。
虚勢をはって睨みつければ、ギリッと何かが鳴った。

「なにその目、キミの可愛いオッドアイ潰してあげようか?それとも今開発中の薬投与してほしい?」

恐ろしいほどの迫力と本気の口調、笑っているのに目は嘘をつかない。
白蘭はやると言ったら決して違えない男だ。
一刻も早く逃げなければならない。

「とりあえず、帰ろうね。キミはこんなところにいちゃいけない」
「…嫌、です」
「キミに拒否権なんてないよ、キミは僕のモノなんだから」

きっぱりと切り捨てられた言葉に絶望を味わう。
ほら、やっぱり駄目なんじゃないですか。
僕はこの男から逃れられない。
逃げたところで捕まり、また同じことの繰り返しだ。




まず第一に思ったのは、デジャヴ。
それと、なんか小さいの来た…と、すごく悲しそうな声。
俺は掴んだのに逃げられてしまった。
しばらく呆気にとられていたがようやく我に返って身体を起こす。
せっかく、バイト首になるかと腹を括っていたのにそんなことが一瞬にして頭から飛んでいた。

「大丈夫か、ツナ」
「はい…今のは」
「骸だ、昨日来たばかりでちょっとパニクっちまったんだと思う」
「ディーノ、そいつに探させろ」
「リボーン」

どうすっかなぁ、と困っているディーノに声をかけたのはリボーンだ。
欠伸をしながら言われた言葉に俺は顔をあげた。

「これでバイト採用するかどうか決める。骸を連れ戻したら採用、連れ戻せなかったら、この話はなかったことにする」
「ちょ、リボーン」
「わかった。連れ戻せばいいんだろ」

せっかく見つけた良い条件のバイトだ。
ちょっと変わっているとはいえ、言葉が通じるあたりとてもやりやすい。
ここで働けたら最高なのだ。
たぶん、骸はこれからも一緒に居ることになるのだ、だったら少し話しを聞いてみるのも良いかもしれない。
リボーンはニヤリと笑って、俺を見た。

「なかなか粋が良いじゃねぇか。行って来い」
「言われなくても」

よし、と俺は店を出る。
骸が走り去った方角へと走り出すが、どこまでにげたのかわからないのでとりあえず闇雲だ。
あの姿でこの街は目立つだろう。それなのに何も騒ぎになっていないということは人が少ない場所へと逃げた可能性がある。
けれど、探せど骸は見つからず、公園や猫の集まる場所を見て回った。

「どこに居るんだよ…」

日が傾いてきているのを見て俺は焦った。
このまま見つからなかったら俺は首…。そう思うと諦められなかった。
そして、狭い路地を見つけた。
一見人が入らなそうな場所だ、俺はそちらの方へと足を向け奥へと入って行く。
そこに見つけたのだ、同じ大学生でよく仲間と歩いている白蘭の姿と先程俺を振り切って逃げた骸の姿を。

「あれって、なんで……」

俺とは学年も違えば話したこともない、けれどあの風貌は目立つのだ。
それに、いつもなんだかよくわからない話しを仲間でしている。
リボーンの命令もある、ここで骸を見放すことはできない。

「骸っ」

声をかけたら骸は俺を見て逃げようとして、白蘭の前から走り出し別の方向へと行こうとしたので俺は駆け寄りその手をとった。

「放してくださいっ」
「ダメだって、帰るんだ」
「…嫌がってるのに、連れていくの?」

嫌がる骸を見て、白蘭が声をかけてきた。
できれば、話したくはない。
けれど、声をかけられてしまっては無視をすることもできない。

「…これが、俺の仕事ですから。それじゃ、失礼します」
「そ、ざんねん」

何が残念なのかわからないが、笑顔を見た瞬間ぞっとする感覚を覚えた。
それには骸も同じ感覚を覚えたらしく身体から力が抜けた隙に、骸を連れてその場を逃げた。
白蘭は追ってくる様子もなく店に戻る道を歩きながら骸との会話に困っていた。
なんで逃げだしたのか結局話しを聞かず終いだったのでわからない。
どうしたものかと歩いていたら、ふっと骸が足を止めた。

「やっぱり、放してください」
「ここまで来て駄々こねるなよ。俺も叱られてやるからさ」

俺はリボーンやディーノに怒られるかもしれないのが怖いのかと思って骸にそれを伝えたらぷっと吹き出した。

「僕が言ったのは、そう言う意味じゃなかったんですけどね」
「は?」

初めてみた笑みに俺は目を奪われた。
笑うと案外かわいい。
骸は何か吹っ切れたように止めた足を動かして今度は俺の手を引いて歩きだした。
何を言いたかったのかは結局わからなかったが、骸の心は開けたようだ。





「お前、今何時だと思ってんだ」
「え…七時半」
「心配すんだろうが、ただでさえディーノの飯はまずいっつうのに」

帰ってきて出迎えたのは意外にもリボーンだった。
探しにいけと言って連れ戻したのに怒るというのはどういうことだろうか。
わが道を行く発言についていけず、小さくため息を吐くとますます不機嫌にさせてしまったらしくクドクドと説教が始まってしまった。
骸は骸でディーノが連れていってしまったので白蘭とのことはわからず終いだ。

「おい、聞いてんのか?」
「はいっ、聞いてます」
「はぁ…まあ、いい。明日からちゃんと仕事しろ、世話の仕方とかはディーノに聞け。あいつに全部叩き込んであるからな」
「なら、店長は何してるんだよ?」

全部ディーノに任せるその態度は本当に店長なのかと少し心配になる。
すると、リボーンは椅子に座るなり背もたれに身体を預けた。

「そんなに決まってるだろ、店長は椅子に座ってるだけで充分なんだぞ」
「いや、充分じゃないよな!?」
「ぁあ?この俺に口応えか?」
「イエ、すみませんでした」

店長がそんなのでいいはずもないけれど、これで許されているということは何かあるんだろうなぁ。
ある意味面倒なところに来てしまったのかもしれないと俺の胸中に不安がよぎった。
白蘭のことといい、何かが動き始めているのを知ってしまったのだから。
骸だって新しく入ったといっていたけど人型動物は研究者がいるので増えているとはいえ早々お目にかかれるものじゃない。
リボーンがそういう何かにかかわっていることは明白だった。
けれど、ちょっとした好奇心。これから何が起こるのか気にならないわけじゃない。
俺はバイトをやめる理由もなかったんだ。





その日の夜、俺は夢をみた。
それは小さいころ死なせてしまった猫の夢。
その猫は不気味なくらい真っ黒で、俺は一目見たときから飼いたいと駄々を捏ねた。
結局両親の反対を押し切る形でその猫を飼い始めたのだが、その猫は生まれたときから片目が見えなかったらしくいつも足がおぼつかなく猫のくせに壁や柱に頭をぶつけていた。
けれど、その猫は俺の後をついてまわったのだ、いくらダメだと言っても健気についてきてくれていた。
そんなある日、些細な事故だった。
俺が道路を渡っていた時、覚束ない足で歩いていたために躓き、転んでしまった。そのとき偶然通りかかった車にひかれそうになった俺を庇ってネコが死んでしまったのだ。
そのことは子供心に重くのしかかり今でもその猫が恨んで切り殺しに来る夢だ。

魘されて目を覚ますと見慣れない天井に寂しさを感じた。
再び目を閉じたら同じ夢を見てしまいそうで目を閉じることはできなくて、俺は起き上がるとそっと部屋を出る。
ディーノに説明を受けた時俺の部屋の近くはリボーンの部屋だと教えてもらった。
一人で寝ることはできなくて、向かい側にある部屋のドアをノックする。
返事がなかったら大人しく戻ろうと思っていたのに、奥から声が聞こえて、そっと顔をのぞかせた。
そこにはナイトキャップをかぶってパジャマ姿のリボーンがいた。

「…あの……」
「どうした、部屋が寒くなる。入るなら入れ」
「あ、うん…」

リボーンは何か本を読んでいたらしく顔をあげて俺を見てきた。
思いなおせばとても恥ずかしいことだ。
今日初めて会った人にこんなこと頼むのも…一人寝が寂しくてベッドに入れてくれと言うのも…。

「子供っぽいって言われてもいい…一緒に寝かせてください」
「は?……っとに、子供だな」

俺は断られるのは覚悟の上だったけれど、リボーンは怪訝な様子を見せたがそっと隣を開けてくれた。
理由はとか聞かれると思ったのにそれもなくて逆に拍子抜けしてしまった。
俺がベッドに入るとリボーンの手が俺の髪を優しく撫でてくる。
それは無意識だったのか、指先に戸惑いを見せて一度だけで手が離れていった。

「恋人と間違えないでよ」
「そんなのいるか、ばか」

冗談で言ったにもかかわらず当然のように言葉が返ってきて焦った。
なんで焦るのかわからずに俺は布団を握りしめると顔の辺りまで引き上げる。
本をめくる音だけが聞こえて、それが心地いい。
ゆっくりと睡魔がやってきて、リボーンはいつ寝るのかと心配になったが、隣に感じる温もりが意外にも温かくておやすみ、と小さく呟いて俺の意識はゆっくりと落ちていった。

不思議な感覚だ。
初めて顔をみたはずなのに、初めてあったはずなのに…リボーンの近くは心地が良いと身体が知っているよう。
俺は知らず知らず安心していた……。








「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -