◎ 愛してやるよ
「…そんなにじっとみないでくれる?」
「………」
「………」
「何か言えよっ」
俺は今三城と鴻上に見つめられている。
じーっと黙ったまま無言の圧力と言う奴だ。
三城と鴻上のくせにと思いながらも居心地が悪くなってくる。
別に俺が悪いことをしたわけじゃないし、誰が悪いわけでもないのになんで俺が一方的に見られなければならないのか…。
まぁ、二人がいいたいことが少し予想できるだけにあまり強く言えない。
「まぁ、幸せそうで何よりだけどね…うん」
「そうですね、見せつけられてますし」
「だっ……仕方ないだろ…いつの間にかつけられてたんだから」
じとーっと俺の首筋に視線が集まっているのがわかればばっと掌で隠す。
あれからリボーンとは何度か身体を繋げた。
恋人の様な扱いに俺は嬉しくなって、それと同じくらい硬くなっていた身体も柔らかくなっていたのだ。
そして、今日リボーンを見送れずに少し寂しく思っていた矢先のことだった。
身体を洗うために風呂場に行った俺は、目の前の光景に悲鳴をあげかけたのだ。
リボーンが残していったうっ血の痕が大量で、そのうちの一つが首筋のバーテン服でも隠れない場所につけられてしまっていたのだ。
俺はまったくつけられていることに気づかなかったので咎める事もできなかった。
というか、本人は早々に仕事に出て行ってしまったのだから…。
で、暗くてわからないと自分に言い聞かせ店に出てみたらこのありさまと言うわけだ。
別に見せつけたいわけじゃない…俺はこの店のオーナーでもあるし…三城にばかり任せられない。
「いいなぁ、俺もそんな風に愛されてみたい」
「そうだ、鴻上また恋人できたんだって?」
「うん、あんまり自己主張しない人なんだけど…そのひたむきなところが素敵なんだ」
そっと話しをスライドさせてやるとうきうきと話してくれる。
正直、鴻上にまた恋人ができたという報告は聞きたくなかったのだが…今度こそ、振られないといい。
俺は水野とが一番合っていると思うのだけれど、一向に自分の気持ちに気づかない…。
いや、気づいているのだろうか…ああ見えて、鴻上は頭が良い自分の気持ちに気づかないことはないと思うのだ。
「それはよかったな、だから今日はこんなに飲んでるのか?」
「んー、それもあるかな…バイト疲れたし」
「お疲れさん、カルーアミルクでも飲むか?」
「そうだねぇ、今日は甘いの行こうかな」
鴻上の言葉はどれもついでのように聞こえた。
バイトで疲れた、恋人に優しくされたい、そのどれもが今飲んでいることの一番の理由のついで。
本当のところはわからないが、今の鴻上は何かに傷ついているのだ。
なにがこんなにも弱くしてしまっているのだろうか…。
一番思い当たる節があるけれど…。
最近水野の姿を見ない、それは仕事が忙しいからか…それとも、もっと他に理由があるのだろうか。
カルーアと牛乳を混ぜながら二人の今後を心配してみる。
余計なことかもしれないが、俺は鴻上と水野を気に入っているから。
「はい、どうぞ」
「マスターのこの比率好きなんだよねぇ」
「牛乳多めでもか?」
「うん、優しくされてるなぁって思うから」
「そう…優しくしてるんだよ」
くしゃりと頭を撫でてやればくすぐったい、と笑った。
どこか寂しそうなその笑顔は、一体だれが見つけてやれるのだろうか。
「今日は鴻上が飲みたいだけつきあってあげる」
「ホントっ!?いつもは待ったかけるのに」
なにか裏があるんじゃないの?と疑ってくる鴻上にならあげないとグラスをとり上げようとすれば慌てて今のなしっと訂正してくる。
久しぶりにゆっくり話しができそうだと思った矢先、リボーンが入ってきてしまった。
「おつかれさま」
「ああ、マティーニ」
「三城、お願い」
だが、俺はリボーンの方へと行くことなく三城に頼んだ。
鴻上は不思議そうに俺を見ていて、つい視線をそらしてしまう。
気まずいだけではないと思ったのだろう、鴻上は俺に話しかけてきた。
「そういえばさぁ、この前知らない番号から電話あってさ」
「へ?それがどうかしたのか?」
「なんか何言ってんのかわからなくて、よくよく聞いてみれば発展場で知り合って帰り際に番号教えられたって言ってて笑っちゃった」
「…?」
何が笑ってしまうのかわからずに首を傾げれば、その男は美味しく頂かれてしまったんだと話した。
教えられた番号はでたらめでそれが偶然鴻上のものだったと言うことだろう。
「そしたら、君でもイイよっとか言って、そんな馬鹿みたいことあるんだなぁって」
「もしかして、今の彼氏がそうだとか言わないよな…?」
「違う違う、いくら俺が節操なしでもそんなことで付き合わないって、ちょっとつまみぐいはしたくなったけど」
「こら、だから…そういうのをなくせばお前は振られることがなくなるんだってわからないのか?」
「しょうがないじゃん?我慢できないんだもん」
本当に仕方ない奴だなと苦笑してお代わりを強請られて二杯目を作る。
リボーンはというと静かに飲んでいる。
時々視線を感じるから、こちらを気にしているのだろう。
俺がリボーンと距離を置いたのはただ痕をつけられて嫌な気分になったとかではない。
それだけだったら、目の前に行ってなんだこれはと怒っているだろう。
俺は最近リボーンの気持ちがわからなくなってきている。
元からわかりにくいとは思っていたし、最初が最初だからかもしれない。
リボーンが俺を好きになってくれた理由がわからないのだ。
それに、俺が嫌だと言えば大人しく引くし、身体は今でもリボーンの好き勝手されたことがない。
要は優しすぎる。
少しは感情的になってくれてもいい場面でもリボーンはいつも俺を優先してくれている。
だからか、俺はリボーンのことを本当の意味で好きになってもいいのか…わからなくなっていた。
怖い…が正解かもしれない。
本気になって突き放されてしまうことが、こんなにも俺を臆病にする。
身体だけはいつも差し出しているし、好きだと言ってくれるけれどやっぱり俺にはこういうのは向いてないのだろう。
恋愛なんて久しくしていない…。
とくに、本気の…とくれば尚更だ。
「マスター…怖いの?」
「は?」
「こんなうろたえてるマスター初めてみた…いや、最近はすごく新鮮だけどね」
にやにやと笑われて俺がリボーンのことで何か考えているのを見透かしたのだろう。
鴻上はほんのりと頬を赤らめたままお代わり早くと急かしてくる。
俺は作ったのを戻してやると、おいしそうにこくこくと飲む。
「俺は、こういうの…苦手なんだって」
「甘い雰囲気とかっての?」
「そう……どうにも、慣れない」
「勿体ないねぇ…あんなにかっこいいのにさぁ」
そろそろ鴻上に待ったをかけたほうがいいだろうか…呂律が怪しくなってきている。
今日は水野を呼ばないみたいだし、あまり酔わせてしまってはいけないだろう。
「かっこいいのと愛情は関係ないだろ?」
「そうだけど…マスターもさ、誰かに優しくされていいと思うんだよ。それが、リボーンさんじゃいけないのかな?」
飲みきったグラスで遊びながら、言うのに、それは鴻上もだろうと言いたくなる。
まぁ、人のことなんて茶々入れることでもないけれど。
うとうとしてきたところで俺は鴻上の髪を撫でた。
「ほら、起きろ。今日はどこに電話するんだ?」
「んん、マスターのとこ泊る」
「じゃないっつの、鴻上っ…寝るなって」
「マスターあとは俺が」
「あ、わかった…」
俺が戸惑っていれば三城が助けてくれた。
けれど、これは俺にリボーンのところに行けって言ってるんだよな…?
仕方なくリボーンの方へと行けば少し不機嫌そうだ。
俺と鴻上の話しは聞いてないと思われるが、俺がこっちにこれなかったのに怒っているのだろう…。
「ごめんって」
「別に…お前の飲ませろ」
「はいはい」
まずいとは言わないが俺のが飲みたくて来ているのだから三城に相手させたのはまずかったかと苦笑した。
マティーニを作ってやれば、それだけで満足したような顔をする。
ややこしい男だと思うのに、嫌いになれない。
そもそもそんなに簡単に嫌いになれるならこんなに悩んではいない。
「リボーン、あんなところにつけやがって」
「なんだ、嫌だったのか?」
「笑われたんだよっ」
「良いだろ?俺のものだからな」
なにが俺のものだ…一丁前に主張しやがって。
俺はまだ好きっていってないんだぞ。
リボーンはそれで良いのかよ…?
普通、好きかどうか気になるのに、リボーンはそれを何も聞いてこないのだ。
「マスター、鴻上さんを送ってきます」
「え?大丈夫なのか?」
「はい、家知ってるので。これで上がりにさせてもらっても?」
「いいよ、お疲れ様」
これで鴻上一人を帰すよりはいいだろうと三城の申し出に頷いた。
奥で着替えて、ふらつく鴻上を支えながら三城は出て行った。
「それじゃあ、今日は終わりにしようかな」
「辛いか?」
「な、何が?」
「昨日の」
「別に、平気…」
「無理はするなよ」
俺は伸びをして入口の鍵を閉めた。
看板をクローズに戻して、背中にかけられる言葉につい、手を止めた。
俺の心配ばかりして、リボーンはどうなんだよ…?
俺と居て楽しいのか?そんなに気にかけてばかりで、俺のどこがいいんだろう。
最初は俺の方が気に入ってたのに、今ではなんか追い抜かれてしまったみたいで、そこまでの価値があるのかどうかがわからない。
「どうした?綱吉?」
「…あのさ、俺ってなにがいいの?」
「は?」
「リボーンは、俺のどこを見て好きだって言ってくれてるんだ?…顔?身体?」
「何言ってるんだ?」
「だって、わからないんだっ…俺はどこが良いっていうのでもないし取り柄だってない、リボーンに気に入ってられるほどの価値が、俺にはわからない」
リボーンが俺を後ろから抱きしめてくる。
それにも不安を覚えてもがけば聞けと耳元で囁く。
「初めてみて気になった、ヤられかけて俺ならもっと優しく抱いてやれるのにと思った、人のことばかりで、自分のことには無頓着、それなのに、愛されてる自覚はなし。だから、もっと愛してやりたいと思った、とびっきり甘やかして綱吉がいつか好きだって言ってくれるのを馬鹿みたいに期待してた」
「っ…」
リボーンの言葉が俺の鼓膜を震わせる。
俺が言っていないのをやはり気にしていたのだ。
それなのに、俺が怖がって何もできないでいた。
俺はリボーンの腕をぎゅっと握ってすり寄る。
「あの…もう、いい?」
「ん?」
「沢山、ばかやってきてる…もしかしたら、お前よりも…でも、好きなんだ…こんなに、好きになったのは…多分初めてだから…」
好きって自覚してもいい?
問いかければ当たり前だとますます強く抱きしめられて、このままなだれ込みそうな雰囲気に俺は上に行ってからと抵抗した。
「ここじゃ、みえる」
「なら、上だ…言っとくが、昨日みたいに手加減はしない。そのつもりで、俺をあげろよ」
「え…えぇっ」
「俺は、ただ優しくするだけの男じゃねぇぞ」
ニヤリと笑われて、ああお前はそういう男だった、とつい笑ってしまった。
「バーテン服ってのも、いいな」
「ばっ、マニアかよ」
「お前のせいだ」
ベッドに寝かされてシャツのボタンを外されながら変な想像をするリボーンにそんな性癖まで持ち合わせてたのかと嫌味を言ってやれば悪いかと開き直られて言い返せなくなる。
リボーンは自分でも脱いでいて、露わになってく肌から視線を外した。
昨日つけられた痕を辿って唇が触れてくる。
くすぐったくて身をよじればやんわりと押さえつけられる。
何をするつもりだと瞳で問えば、そんなに不安がるなと笑われた。
「あのさ、にやにやするなよ…気持ち悪い」
「にやにやしたくなる気持ちもわかれ…それか、そんな心配しなくてもいいように感じさせてやるか?」
服を脱がされてしまうといつもと違う感覚に隠そうとすればそれも遮られた。
今日はとことん俺のしたいことができない。
なにがしたいんだとリボーンを見れば足を無理やり開かされそこに顔を埋めてくる。
またフェラする気かとそれに身構えればあらぬ方へ刺激を感じた。
「ひああっ、やっ…なにして、あっあっ…なめちゃっ…りぼーんっ」
「ヒクヒクしてるぞ?それに、こっちもいっきに勃ったな」
「やあぁっ…りょうほう、しないでっ…ああっ、はあぁっ…んんっ…なか、いれちゃだめぇっ」
後ろの方を舐められてびくっと腰を震わせるがリボーンはその愛撫を止めることはせずに皺を舐め、中へと舌を侵入させてきた。
それにも感じてしまい、考えられない位の愉悦を感じながらリボーンの頭に指を差し入れてもっとと押さえつけてしまうのが止められない。
こんな愛撫は初めてで、普段なら俺が嫌がれば止められていた行為が続けられている。
こんな強引なところを見てしまっていやになるどころか、どうしようもなく感じてしまう自分がいるからどうにもならない。
こんなにも征服されたかった性格だったか?と自問自答しかけるがすぐにそれも霧散していった。
ただ、感じる場所をしつこく攻め立てられて呼吸するのがくるしくなるぐらいに身体が反応する。
「もおっ、やめてっ…ゆびも、いれちゃっ…ああっ…そこ、だめっ…ああっああっあぁっ!!」
リボーンの好きにされて喘がされて指で感じる場所ばかりを突き上げられてしまえばあっという間に放っていた。
それでも、収まりきらない秘部はきゅうきゅうとリボーンの指を締めつけた。
「まだ、足りないか?…綱吉の中も、慣れてきたからな…今日は全部入れるぞ」
「はっ!?今までいれてなかったのかよっ!?」
「あんな苦しそうにされて、無体できるか」
「…はは……もう、好きにして」
どこまで自分に甘いつもりだ。
リボーンの言葉に俺は呆れてしまった。
本当に馬鹿みたいだ、こんなにも愛してくれているのをわからないでいたなんて…。
「ごめん…好きだよ」
「俺もだ、綱吉…あいしてる」
足を抱えられて甘く口づけられた。
変な味がしたけれど、気にならなくてもっとと引き寄せれば秘部に熱いものが触れた。
そのまま侵入してきて、最初はよかったがやっぱり手加減していたのだと知れる。
いつもより長く俺の中に入ってくる感覚に唇を離した。
「やっ、まだ?…もっ、おくっ…ああっ…やあぁっ」
「もうすこし、いけるだろ?」
「むりっむりっ…あっあっ、ひあぁん、くるしい」
「だったら、少し緩めろ…本当は、気持ちよすぎて仕方ないんだろ?」
わかっているぞと言われてぶんぶんと首を振るのに、中は離したくないと絡みついてしまう。
恥ずかしくてリボーンの肩口に顔を埋めれば耳たぶを甘噛まれる。
それに反応して中が震え、締めつけるとまざまざと奥に入っているのを思い知らされて感じ、という無限ループに捕らわれた。
こんなにねちっこいセックスは初めてだ。
いつも出すだけや、痛めつけられるものばかりでこんなにも感じさせられるものはリボーンとだけでしか味わったことがない。
だから、どうやって対処していいのかわからない。
感じすぎると涙が止まらなくなるのもリボーンと寝てからわかったことだ。
「んん、はぁぁっ…だめ、も…へんになる…」
「なっとけばいいんじゃないのか?」
「だって…どうしたら、いいか…わからない」
経験したことがないと不安で思わず涙が溢れてしまえば宥めるように目もとの涙を舐められた。
奥に入ったままのそれは緩く動いていて、時々いいところを擦り上げてくる。
そのたびにぱちぱちと頭の中の何かが火花を散らしていて腰が勝手に動き出す。
まるで好きなところを擦ってくれと言わんばかりに回してしまうから俺は恥ずかしくてたまらない。
顔を隠そうとすればいちいち腕を退けられる。
「もう、みるなっ…アァぁ!?」
「見ないでしてやってもいいが、そっちのほうがすごいぞ?」
何がすごいんだと言い返したかったが、目が笑っていないので俺はつい口が止まった。
その隙に腰を掴まれてがつがつと奥を突き上げられて俺はシーツを握りしめた。
何かにしがみついていないと自分を保てないと思った。
それなのに、リボーンの動きは加速して俺の感じるところばかりを狙われてぎゅうぎゅうと中を締めつける。
もうだめだと叫んで、身体を硬直させ二度目の白濁を放ったら、中に断続的に注がれた。
熱いものが入ってくる感覚に小さく喘いでそれに耐えると、萎んだそれがゆっくりと抜き去られる。
ようやく俺は力を抜くことを許されて、一気に弛緩した。
「はっはっ…はぁ……はっ…」
「涙腺崩壊だな…」
涙腺が壊れたように涙が止まらなくてリボーンはそんな俺を見てぎゅっと抱きしめてくる。
宥めるように背中をぽんぽんと擦られてますます涙が溢れた。
自分でもどうにもできずにしゃくりあげると、どうしようもないなとキスをしてきた。
甘やかされてる…。
あんなに激しくしたのにと思いながら好きと囁いていた。
「こんな、にした…だか…だいじに…しろっ」
「する、ぐずぐずにして…甘やかしてやる」
もうなってるとは言えずに、俺は仕返しにリボーンの肩へと緩く噛みついた。