◎ もう一度組みなおして
「……ん……っ!?」
目を開けたら恋人が隣で寝ていました。
なんて、ベタな展開いいなとか思ったことは何度かあるが、一方的な告白をされた揚句一方的にイかされたあとでこの展開は如何なものかと思う。
なにも嬉しくない。
思わず漏れそうになった声を抑えてリボーンを起こさないようにそっとベッドを出る。
一緒に寝るなんて…。
まぁ、ベッドは一つしかないから仕方ないが。
近くの椅子に上着が掛けられているのをみると、皺になっては困るとハンガーを取り出して壁にかけてやる。
リボーンの姿もあの仕事帰りからだからネクタイをとりワイシャツを緩めたまま眠っている。
それでは疲れもとれないだろう、風呂を用意してやろうかと考えてハッと我に返れば、何無理やり犯されかけた男に風呂なんか勧めようとしてるんだと思いなおす。
「むしろ、勝手に寝てるんだし…」
「なに一人でブツブツ言ってんだ?」
「うわっ…起きてるならそう言ってよっ」
「今起きたんだ、そんなの予告させるな」
俺の言葉に返事が返ってきて驚く。
居心地悪く理不尽なことを言えば、ばかだろと返された。
な、なんでこんなに普通にしてられるんだろう。
俺はもう目を合わせているのも嫌なのに。
昨日のことが頭から離れない。
俺はリボーンの口に出してしまったのだ。
「やっぱり風呂に入ってっ」
「はぁ?」
「お願いだから入れっ、あ、あんなこと…したし…」
リボーンの手を引いて無理やり起こすと背中を押して風呂場へと連れて行く。
もう、何でもいいから早く洗って昨日の余韻でもなんでも取り払ってこい。
真っ赤になりそうになりながら言いきれば、リボーンの手が俺の腕を掴んだ。
「えっ…」
「俺が風呂ならお前もだろ」
「何言ってんだよ、俺は…えーと、そう…朝ごはん作ってやるからっ」
何言ってるんだこいつ。
俺は別に昨日の告白に返事をしたわけじゃないのに。
俺は誰も本気にならないって決めたんだ。
顔は好みだけど、無理…。
絶対、それだけは…無理だ…。
俺はリボーンの腕を振り払ってドアを閉めた。
あんな風に裏切られるのは、もうこりごりなんだ。
たった一度の失敗でと思うかもしれないが、それが本気で好きだったらそうなっても仕方ないことだと思う、
それだったら、後腐れなく自分の好みの男を選んで一夜限りの関係の方がどんなに楽だろう。
俺はため息を吐くとキッチンに向かった。
言ったからには朝食を作らなくてはいけない。
何かあったかと冷蔵庫を見るが特に何もない。
パンならあったかとレタスやトマト、ハムをだして適当に挟んでみる。
食べれるものができれば何でも良いのだ。
「…はぁ、なんか知らない間に部屋も荒れてるし…」
夏輝に会った後からの記憶は曖昧だ。
自分がどう生活をしていたのかもわからない。
ただ、部屋にはビール缶が転がっていたり菓子の袋はそのままだし、三城に休みの連絡をしたのだろうケータイは近くのコンセントから充電しながらのまま放置されていた。
ただ、思いだすのも怖くなって何も考えたくなかった。
だから酔おうと思ったのに、それもできずにずっといた。
でも、なんでだろう…一週間ぶりによく寝たと思う。
隣に他人がいるとよく眠れないと言うが、昨日無理やり疲労させられたからか、朝まで一度も起きることもなかった。
それに、忌々しいほどの悪夢もみなかったのだ。
「リボーンがいたからとか…そんなこと…ないから」
そんな都合のいいことあってたまるか。
そういえば、いつの間にかリボーンに対して使っていた敬語もなくなっていることに気づく。
そもそも、この前から俺は余裕がない。
リボーンに振りまわされている気がしてくる。
リボーンはあんなに余裕そうな顔をして、俺を翻弄してくるし。
俺はどうすればいいんだろう…。
とりあえず、帰ってもらう方が先だよな…。
と、思った矢先足元がふらついた。
自分で立つこともできずにその場に座り込んでしまう。
「あれ……なんでだろ…?」
「これだけ不摂生してれば当たり前だろ」
「へ…うわっ…なんて恰好してるんだっ」
「これしかおいてなかったんじゃねぇか」
後ろから声をかけられて何度も脅かすなと振り向けば腰にタオル一枚撒いた姿で現れて、慌てて視線を逸らす。
そもそも、男同士なんだからそんなことする必要ないけれど、癖みたいなものだ。
リボーンは仕方ねぇなと吐き捨てると腕を引かれて立ちあがらされた。
それでも足に力が入らず、ふらつけばリボーンに胸に抱きついてしまう。
「積極的だな」
「ばっ…力はいんないんだよっ」
「丁度いい、そのまま力抜いとけ」
にやりと笑われて顔熱くなれば視線を彷徨わせる。
そして、リボーンの声が頭上から降ってくると同時に腰を抱かれて抱きあげられた。
驚いて暴れようとしたら、落としてもしらねぇぞと脅されてフローリングに落とされるのも嫌なので大人しくするとベッドに下ろされた。
「寝てろ、熱あるだろ?」
「…熱?」
「それも自分でわからないのか?」
「それもってなんだよ、もって…熱とか自覚したくないから丁度いいじゃないか」
「ばぁか、それで倒れたら三城に迷惑だろ」
熱の自覚は全くなく首を傾げれば額を小突かれた。
痛くなかったのに、ぐわんと頭が揺れた。
ほら、自覚するとすぐこれだ。
何事も知らない方がいいこともある。
熱出てると気づかなかったら、倒れることもないだろう。
「これぐらい、平気」
「体調不良って休んで本気で体調崩してんじゃねぇよ」
起き上がろうとすれば無理やり布団をかぶせられて額に掌が触れる。
熱を測ろうとしているのだろうか、シャワーで暖まったはずなのにリボーンの手が少し冷たくて気持ちいい。
心地よくて目を閉じれば髪を優しく梳いてそっと離れて行った。
俺は目を開けてリボーンを見る。
「あの、朝食作った…から」
「ああ、ありがとう。服と薬はあるか?」
「…えーと、どこかに…服はそこのなかの使って」
ようやくなんか落ち着いてリボーンの言葉に苦笑を浮かべて答えた。
指さしたのはわりと大きめの服をいれておいている引きだしだ、着るものなら何かあるだろうと呟いた。
よくよく考えてみればあんなぐちゃぐちゃの部屋から薬を見つけ出すのも至難の技だろう。
寝てれば治るから大丈夫だと言いかけるがリボーンは服に着替えると無言で寝室を出て行ってしまった。
まさか、あの中から見つける気だろうか…無理だろ。
普通…二度目だとしても他人の家の薬箱のありかなんかわかるはずがないんだ。
「リボーン…いいから、寝てれば治る」
「なら、大人しくしてろ。声出すな、喉も痛くなるぞ」
声出すなってどういうことだ。
そんな張り上げなくてもこんな狭い部屋なら声も届くっつの。
むかむかとするが、だんだん睡魔が襲ってくる。
さっきまで散々寝ていたのにと思いながら目を閉じたらそのまま意識が途切れた。
綱吉が寝たのを確認するとため息を吐いて作ってくれたサンドイッチを租借した。
「今回は美味く作ってるな」
クスリと笑みを浮かべてこの汚れた部屋をどう片付けてやろうかと見回した。
何もかもが散乱しているように見える。
アレだけひきこもっていれば仕方ないことかとゴミの袋を広げた。
綱吉が起きないようにと気をつけながらゴミを処理していき、頭痛薬をとりだそうとしていたのだろうか。
口の開いたままの薬箱を見つけた。
起きたら飲ませてやらなければと用法を見れば何か食べないといけないらしい。
従来のものはそういうものが多いが、自分はどうにもそう言うのが苦手だ。
冷蔵庫を開ければ、使えそうなものが何もない。
「ったく、買ってくるか」
暫く起きる様子もないしなと確認すれば、部屋を出た。
コンビニがあったはずだと店に降りて行けば三城がいた。
「なんだ、こんな時間からいるのか?」
「たまに…マスターの様子が心配で」
「大丈夫だ、熱が出てるが何か食いもん買ってくるから…今日は休むがすぐ直るだろ」
「そうですか、わかりました…あの…余計なことして、すみませんでした」
掃除をしていた手を止めて俺に謝ってくる三城に苦笑を浮かべた。
昨日の場面を見せてしまえば心配になって当たり前だと思う。
謝ってくる三城にこっちこそと謝った。
「どうして、リボーンさんが謝るんですか」
「これからは、俺があいつの面倒をみるからな…姑の機嫌取りだ」
「マスターが落ちたんですか?」
「いや、実質的にはまだだ…でも、俺のもんにするから問題ないだろ」
にやりと笑ってやれば三城はフッと真顔を崩して笑った。
じゃあいってくると手を振ればいってらっしゃいませとやわらかな声に見送られる。
近場のコンビニでうどんや蕎麦を買って、それとフルーツゼリーを数種類。
これで十分だろと戻ればカウンターにコップが一つ置いてあった。
「ブランデー・エッグノッグです。栄養たっぷりなので、飲ませてやってください」
「ありがとな」
俺が戻ってきたことに気づいた三城がカウンターに出てきて説明してくれた。
綱吉のことをよくわかってるんだなと笑みを浮かべてそれを受け取ると上にあがる。
中に入って材料を冷蔵庫やらにしまい込むと綱吉の様子を身に寝室へと入った。
顔をのぞき込めばまだ寝ていた。
少し汗をかいていて掌で拭ってやるとすりっとすり寄ってくる。
「寝てる間は素直なんだな…」
綱吉が俺に向ける感情はただ顔が良いと言うだけでは、ないとおもう。
まぁ、本人が顔だけだと言い張るから確証はないが…俺がどこかでそれを信じていたいからかもしれない。
このまま近くにいるのもまずいなと思い始めたころ、ぴくっと瞼が震えて開いた。
「起きたか?」
「……うん…」
「なんか食べるか?」
「なにかあるの?」
「買ってきた」
「お腹すいた…」
少し幼さを残した声でのんびりと話す綱吉は俺のことがわかっているのか一瞬わからなくなった。
もしかして、あの夏輝だとかいう男と重ねているのかと思えばそうではないらしい。
俺をまっすぐに見つめて早くくれと言い張る。
それを宥めてすぐ持ってくと言い置くと急いで戻って買ってきたものを取り出した。
リボーンが帰ってきた。
実はリボーンが帰ってくる少し前に目が覚めていて、嫌な夢をみたからすごく不安だった。
帰ってきたリボーンは俺のところに来て意外にも優しい手で汗を拭ってくれて、それが嬉しくて目を開けたら心配そうな顔で見ていた。
俺はそんなに酷い顔をしているのだろうか。
自分ではよくわからず、リボーンの質問に答えた。
リボーンが寝室を出て行って、俺は何もかも面倒を見られるのは嫌で自分で起き上がる。
「うどん食べれるか?」
「ん…食べたい」
ひょこっと顔をのぞかせたリボーンにかわいいところもあるんだなと感心した。
あんな隙のない男だからそういう一面を見てしまうとつい、なんというか許してしまいそうになる。
すぐに戻ってきて、コンビニで買ってきたと思われるうどんを手にしたリボーンがベッドに座る。
腰を引き寄せられてくすぐったいと照れくささから抵抗したら、ふらふらするなと怒られた。
「ふらふらしてない」
「だったら寄りかかってろ」
「…そこまで面倒見なくていいよ、一人で食べれる」
「俺が甘やかせたいんだ、好きにさせろ」
「っ……」
熱い顔がますます熱くなっていく気がする。
こんな風に無意味に甘やかされるってないことだから、つい…絆されそうになる。
弱ってる身体にこれはまずい…。
思考能力も落ちてるし、なんでも許してしまういそうになる。
うどんを手渡されてちびちびとそれをすすった。
お腹は空いているはずなのに、少し食べたところで食欲はなくなった。
「もういいのか?」
「うん、ごめん…なんか食べる気しない」
「三城がブランデー・エッグノッグ作ってくれたんだ、飲むか?」
もう寝る体勢に入ろうとしていたところに言われて俺はリボーンを見つめた。
三城のブランデー・エッグノッグはとても美味しいのだ。
「ほしいっ、あれがあれば薬いらない」
「わかったわかった、はしゃぐな…」
早く持ってきてと呼びながら離れて行くリボーンを見送った。
三城は何に対しても不器用だが、ブランデー・エッグノッグだけは俺の好きな味で、本人もこれを大切な人に飲ませてあげるために頑張って作ったと言っていた。
まぁ、まだ三城にその大切な人は現れていないが…俺がその人の変わりだ。
リボーンが持ってきたそれを見れば奪うようにしてとった。
ブランデーの香りと優しいミルクが合わさって、こくりと飲めば沁み渡るようだ。
あっという間に飲んで空をリボーンに渡せば驚いて俺を見ていた。
「な、なんだよ」
「食欲ないんじゃなかったのか?」
「それとこれは別」
お腹一杯だとベッドに横になればリボーンが覆いかぶさってきた。
なんだと見返すと納得いかないなと呟いている。
納得いかないと言われてもどうしようもない。
すると、リボーンの手がするすると布団の中に入り込み俺の身体を撫でてくる。
気持ちいいが、これはいけない。
「ちょっ…なにしてんのっ!?」
「嫉妬だ、お前が折り合いつけさせろ」
「なにそれ、俺病人っ」
「これだけ元気なら、関係ないだろ」
「っ…ひっ…ん…ちが、これ…ちがぁ…」
自身を握られると少し反応しているのを思い知らされる。
こんなの俺のせいじゃないと言い張ってもリボーンは嬉しくなるだけだ。
下着を脱がされ自身を直接握られるとビクッと震えて、熱が高いせいかなんなのかわからないが背筋がぞくぞくして訳が分からなくなってリボーンにしがみついた。
「あっあっ…はぁっ…んんぅ…だめ、イっちゃ…すぐ、でちゃ…」
気持ち良くされるままに快楽を受け取り腰が勝手にかくかくと揺れてしまう。
それでも、リボーンは顔中に優しくキスをして、扱く手を早めてくるのだ。
そんなことしたらベッドを汚すと切れ切れの言葉で言えば近くに置いてあったティッシュを何枚か重ねて被せられた。
「ひっ…あぁっ、イくっ…りぼーんっ、イくっ…」
「いいぞ、だしちまえ…また寝れるから」
涙腺が壊れて泣きながらくびれを擦られるたびイくイくとうわ言のように呟きながら先端を強く擦られたらリボーンの腕を握って吐精した。
「はっはっ…はぁっ…うう……んっ…」
「適度に疲れれば寝れるだろ?」
「そんな、いいわけ…」
「やっぱり、お前かわいいな」
人が疲れている時に好き勝手言いやがって。
リボーンを殴ってやろうと右手を蒲団から出すがぽすりと掌に受け止められた。
「ばかっ…も、お前…やだ」
「なにがいやなのか、はっきりいえ」
「俺のなか…かき回してきて、ぐちゃぐちゃ…やだ…も、こんなの…やだ」
涙は相変わらず止まらなくて、ますます混乱する。
好きにならないとか言っておきながら頭の中は意味のわからない言葉ばかりで埋め尽くされて、自分ではどうにもならなくて全部を投げ出してしまいたくなる。
リボーンは俺の言葉を聞きながらティッシュを捨て服をなおし、涙を指で拭ってくれる。
そんなにやさしくしないでほしいのに…。
ブランデーの効果か再び瞼が重くなってくる。
またこんな風に終わってしまうのかとおもうとそれはいやで、リボーンの手をぎゅっと握った。
「もう…帰ってよ」
「ああ、明日には帰る…」
「俺が起きたら…いるなよ…」
「やくそくする…今日は特別だ。次からはじっくり…惚れさせてやる」
ちゅっと触れた唇が優しくて、握り返された手は裏腹に離れる様子がない。
うそつき、と呟いた気がしたが…それははたして言葉になったのか。
それはわからぬまま、酩酊してくる意識のなかでリボーンの心音を聞いていた…。