パロ | ナノ

 君は乱暴に砕いた

最初の出会いは最悪。
弱った体に強い酒を飲まされた揚句に押し倒され、危うく犯されかけた。
それなのに、暇があればついバーに赴いてしまい、そんな自分に自己嫌悪すら抱いた。
そもそも男だ。
こちらに何の得もない。
ただ自分の顔が好きだと言って笑った顔が、なんとなく影を帯びていたとしてもなにも気にならないはずだった。
ついでに言えば、そんな奴なんか好きになることもないと思っていた。
そんな自分の中でもやもやとしていたものが固まりだしたのは、つい先日起きた事件…とはいってもそう思っているのは俺だけかもしれないが…がきっかけだった。
酷く怯え、それでも誰にも屈しないと強い瞳をしていた。
それを抱きしめたいと思った自分に、自覚した。
そんなことは、ない。ついには情まで湧いたかと自分を嘲笑ってみたがこの感情は止まらなかった。

「無理やられて、それで恋愛感情が湧くなんて…ばかだろ」

そうして、今日も通うためバーへと足を向けるのだ。




中に入ると、最近よく顔を合わせるようになった三城がカウンターにいた。
綱吉はいない。

「今日もでてこねぇのか?」
「はい、今日も体調不良だそうです」

はぁ、とため息を吐きながらすっかり自分の席と化してしまった椅子に座ってハイボールを注文する。
暫くしてでてきたそれを持つと氷をならしながらこくりと飲む。
三城の作るものは綱吉のを真似しているからか味が似ている。
これでも悪くないが、本人が出てこないのはいかがなものか。
あの日、綱吉は俺に気づくなり力なく座ったにも関わらずそんな余韻すら残すことなく立ち上がり上へと逃げて行ったのだ。
しかも、ご丁寧に鍵までかけられてしまい俺の入り込む隙間なんてなかった。
入口ですれ違った男とつながりがあることはわかりきっているのに、なぜアイツが俺の前から逃げるのか、それがわからなかった。
そして、それに関して三城も知っているにもかかわらず口を開こうとしない。
こうして通いつめて早一週間になろうとしている。
これでは店を開いているだけ無駄じゃないんだろうか…。

「こんばんは、って…マスターは?」
「体調不良で」
「大丈夫?」
「はい、多分」

帰ろうかと思っていたところ、俺がここに来た一日目にいた男が入ってきた。
慣れた場所なのだろう俺と同じハイボールを注文して三城とした親しげに話しをしている。
が、俺に気づいたらしく俺の方をじぃっと見つめてきた。
そのまま無視もできずに視線を合わせてやるとにっこりと綺麗な笑顔で笑った。

「初めまして、鴻上です」
「初めまして、リボーンだ」

差し出された手を握った。
そののち満足したらしく三城に向き合うと俺の色仕掛け効かないっと喚いた。

「は?」
「普通だったらこれで一発なのにっ」
「まぁまぁ、この方はノンケですから」
「…でも、俺に靡かない男は三城さんとマスターだけだと思ってたのに」
「今ので惚れるとか、ないから安心しろ」

言ってやればむぅっと唇を尖らせてハイボールを一気飲みした。
おかわりっともう一杯頼みつつ鴻上は俺の隣へと移動してきた。

「まぁね、マスターのだから俺は手を出したりしないけど…なんでいないか、知ってるよね?」

近くに来てわかったが、鴻上の頬全体が青墨かかっているのに気づいた。
どうしたのかと初対面で聞くのも面倒だったのでそのまま流すことにして鴻上の質問に俺はどう説明していいのか分からず三城へと視線を向けた。

「…夏輝さんが、いらっしゃいまして」
「え…なんで来たの?」
「マスターはすぐに奥へ入ってしまって、水野さんが経緯をご存知です」
「水野…まだ、会えないからなぁ。そっか、夏輝がきたんならわかる気がする…でも、顔も見せないなんて変だよ」
「そのとき、偶然…リボーンさんがはち合わせたからだと…」
「なんで俺のせいになるんだ」

三城の言葉通りなのでつい不貞腐れて言ってしまうが、鴻上は気にした風でもなくそっかとだけ呟いた。
こいつとは二度目なのに、なんでこんなにも知られてるような気がするのだろう。

「俺さ、ちょっとわかるんだよね」
「は?」
「俺に惚れてるかどうかって」

いきなり何をいいだすのだろうか…それともナルシストかなんかだろうか…。
俺が不審に思っていると鴻上はふっふっふ、と笑って二杯目のハイボールを飲んだ。

「勘ってやつ、一目ぼれしたって視線でわかるの。リボーンさんはそういうのないよね…マスターに惚れてるから?」
「っ…ごほっ…なんっ…はぁっ!?」
「俺に隠せると思ったら大間違いなんだからっ」

俺も氷の溶けかけたそれに口をつけたが鴻上の一言につい噴出しそうになった。
むせながら鴻上を見れば胸を張って得意げだ。
なんで、どうしてお前がそれを知っている。
つーか何だこいつ。

「まぁ、マスターが狙ってたのは知ってたからその想いに応えてもらって俺としては嬉しい限りです」
「なんでお前が喜ぶ、俺は避けられてんだぞ?」
「それはね、言えないなぁ…」

そこまで言っておきながらそのまま流そうとする鴻上に呆れてものも言えなかった。
むしろ何か言うだけ無駄なのかもしれない。

「これは、独り言だよ」
「は?」

鴻上の前では俺は驚かされたばかりだ。
今度は何を言い出す気だと見ていればグラスの水滴を指先で弄って遊びながら、鴻上は思い出話をするように口を開いた。

「あるところに、男の子がいました。その子はある男を好きになってしまいました…すごくすごく好きで、自分の気持ちが抑えられず告白してしまいました。でも、男の子にかけられたのは告白の返事ではなく凌辱と言う愛玩道具への誘い文句でした。そのこは何も分からず身体を開け渡し、自分の置かれている状況もわからなくて気づいた時には深く傷つけられた後で、その男と別れた男の子はもう誰も好きになることはしませんでした…身体だけの付き合いを繰り返し、それで自分が傷つくこともあったけれど男の子は感情を殺していきました。何もかもうわべばかり、そんな男の子の心を溶かしてあげられるのは…はたして、誰なんだろうか」

男の子と言うのは綱吉のことだろう、男は夏輝だとかいう男。
俺には男と付き合った経験なんてものはないが、トラウマを植え付けられるぐらいにはきつい仕打ちを受けたのだろう。
言葉の最後に鴻上は俺を見つめた。
俺に何を求める。
俺はただの男で、大それたことなんて何もできないんだ。

「リボーンさん、いつもは普通にしてるマスターがあんな風になっちゃうのも…きっと、リボーンさんだからなんだよ」
「そんな高望みするな…俺は」
「もう、何言ってんだよ」

鴻上を咎めようとしたところ上から声がして、綱吉が降りてきた。
実に一週間ぶりだ。なんと話しかけようか考える前に先程の話を聞かれていたらしい。
不機嫌そうに眉根が寄っている。

「鴻上、話し過ぎ…上まで聞こえた」
「壁薄いんじゃない?」
「少し見ない間に生意気になったな?」
「そう?これが俺だよ」
「水野呼んでやろうか?」
「だめっ、止めて…俺まだ帰れないからっ」

綱吉は不機嫌を隠そうとしないでケータイを手に持つ仕草をすると慌てて鴻上がそれを止めている。
半分泣きそうになっていて俺は三城に助け舟を求めた。

「マスター、あまり苛めないでください」
「三城も…黙って見てただろ」
「それは、悪い話しではないと思ったので」
「おい、そんなに当たり散らすな」
「うっ……なん…どうせ、ばかだと思ってるんだろ」

挙句の果てには三城にもあたっているのを見て俺は仕方なく声をかけた。
すると、綱吉は顔を真っ赤にして怯えたように言い捨てている。
そんなに自分を卑下することなんてないというのに。
二人きりの時にしか敬語抜きはしないとか言っていたのを思いだすがそんなことを考える余裕も綱吉にはないのだろう。
そんな姿がかわいいと思ってしまう。

「別に、好きになったんだから仕方ないことだろ」

世のなかには受け入れがたいこともあるのだ。
それはつい最近知ったことだが…。

「三城、鴻上、もう帰れ」
「なっ、何の権限でそんなこと言うんだよっ」
「お前が不貞腐れてるのが悪い」
「では、お言葉に甘えて」
「じゃあ、俺もかえろーっと」

慌てる綱吉を逃げないようにと手首を掴んで捕まえれば、二人はさっさと支度をして三城は従業員控室に、鴻上は会計を済ませて帰ってしまった。
綱吉は逃げようとしていたが、俺の力が強いことが分かると途端に抵抗を諦めてしまった。

「何してた?」
「なにって…なに?」
「俺がここに通ってんの知ってたんだろ、その間お前は何をしていたときいてるんだ」
「何してたって……療養…?」

笑顔で平然と言ってのける綱吉に俺は無性に腹が立った。
俺はチッと舌打ちすると綱吉の腕を引いて二階へと上がった。

「ちょっ、なにしてんのっ…やだって」
「お前と話しつけるまでいてやるよ」
「何考えてんのっ、仕事あるだろっ」
「残念だったな、明日は休みだ」

俺がやけくそで言ってやれば、もう返す言葉もないのか会話が途切れた。
そうして綱吉の自室に入れば後ろ手に鍵をしめて壁に追い詰めた。
横から逃げようとするのを腕を突っ張ってそれを阻止する。

「聞けよ」
「な、何をっ」
「好きだ…お前があんまり言うから、好きになっちまった…責任取れ」
「責任って…そんなの、しらないっ…嬉しいけど、俺はお前の顔が…」

顔だけが良いのだという口を塞いだ。
わかっていることでも、それを言われるのは辛い。
俺を惚れさせておいて自分は適当なところで逃げるなんて、そんなことは絶対させない。
無理やり口を割って舌を侵入させた。
抵抗してくる舌を絡め甘く吸ってやれば俺の胸を押し返そうとしていた手が緩く握られ甘い声を上げる。

「心が無理なら、身体からでも先に落としてやるよ」
「んんっ…はっ…なに、言って…できないくせにっ」

やけくそで言ってやればはっと笑われて、それを証明するために綱吉のズボンに手をかけた。
嫌な予感を覚えた綱吉は激しく抵抗しだした。
でも、そんなのは遅い。
あっという間に自身を取り出せば、そこに唇を寄せた。
好きというだけでここまでできるのだ。
ほんの一ヵ月前の俺には同性のあそこに口をつけるなんて行為想像もしなかっただろう。

「ひあっ…なにして、やだやだぁっ…ああぁぁっ…だめぇっ」
「っ…ちゅぷっ…ちゅっ…」

唾液を絡めて先端に舌を這わせるとビクビクと震えた。
敏感な身体だ、こんなので俺を抱こうとか考えてたのだとしたら本当に馬鹿だと思う。
腕の力が抜けて腰が震えてしまうのを必死で抑えている。
ちゅぅうっと強く吸えば肩に置かれていた手に力がこもる。
気持ちいいのだとわかって俺の行為はますますエスカレートしていった。

「ああっ、リボーンッ…リボッ…ふぅっ…もうやだっ、イく…くち、はなしてっ」

出すのは嫌だとすすり泣く綱吉に構わず腰を太ももを掴み先端を甘噛みしてやるととびっきり腰に来る声で咥内へと白濁を放ってきた。
いがらっぽいそれが俺の喉を打ち、吐き出しそうになるのを無理やり飲みくだした。
そのまま力なく壁を伝って座り込む綱吉を抱きしめてやればそれでも抵抗された。

「んっ…やぁ…も、おまえ…わかんないよ…やだ…」
「ヤダじゃねぇ、辛いならいてやるから…一人で泣くな」
「なにそれ…なん……お前わかってるのかよ…」

すっかり力の抜け切った身体を抱えると寝室を探す。
もうこれ以上はしてやるつもりはないが、隈を見てしまえば碌に寝れていないのがわかる。
それでも素直に甘えることをしない綱吉に何がだとそっけなく返す。

「それ、元彼に嫉妬してる男みたいだ」
「してるんだろ…ばかだな、それぐらいすぐに理解しろ」
「なっ…はぁっ!?……そんなの、知るわけないっ」

だったら教え込むだけだ。
もう一度、愛して愛されることを…。
今度は俺が…。







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