パロ | ナノ

 甘い香りに誘われて

「マスター、アペロールソーダって言うの飲みたいっ」
「あるよ、珍しいねいつもと違うのなんて」
「なんとなく、友達から聞いたから」
「友達…ね、ただの友達じゃないんだろ」

店に入ってきた鴻上晶をみれば、いつもの頼むハイボールじゃなく甘いカクテルを注文されて準備しはじめる。
氷をいれたグラスにリキュールとソーダをいれて混ぜ合わせレモンを絞っていれれば、鴻上の前へと出してやる。

「まぁ、そうだけど…あ、美味しい」
「すっきりしてるから、今の時季丁度いいと思うよ」
「うん、飲みやすい」
「で、水野は?」
「お仕事」

鴻上はいつもきてくれる常連さんで、水野は水野悠大と言ってこちらも常連で鴻上の面倒をみている。
今日は鴻上だけならしくカクテルを美味しいとちびちび飲んでいる。
細々とやっているバーだ、そうそう人がくるわけもなく静かな時間が流れる。

「そういえば、今は新しい彼氏のところだったっけ?」
「そうだよ、なんでマスターが知ってるの」
「水野が言ったからだよ」
「あいつ、またマスターにちくったな」
「別にいいだろ?」
「なんか、厭味ったらしいんだよ…俺のことすぐからかうし」

ぶつぶつと呟く鴻上にクスリと笑ってやりつつグラスを拭く。
そもそも、この二人はちぐはぐなのだ。
鴻上は水野から逃げるように男漁りをし、水野は仕事に追われながらも鴻上に帰る場所を与えそれ以上何もしない。
水野は明らかに鴻上のことが好きなのに、それ以上モーションを起こそうとはしない。
鴻上は全く気づかず、それでも水野と一緒に居続けている。
見ていて飽きないが、いい加減くっつけばいいと思っている。

「俺も恋人欲しいなぁ」
「あれ?マスターの恋人って三城さんじゃないの?」
「は?」
「はぁ?」
「あ、すいません」

二人で聞き返せば鴻上は怯えたように竦みあがった。
大体、こんなぶきっちょな男と一緒になんて俺が嫌だ。
それは三城も一緒だろう。
こんな口うるさいマスターなんか嫌だと思っているはずだ、いや思っていてほしい。
この店があるのが歓楽街、それもそっち系の店が立ち並ぶ場所の近くとあって大体ここにいる男どもはそっちの趣味しかない奴らばかりだ。
俺も漏れない程度にそうだと思っている。

「ふらぁっと現れないかな」
「そんな簡単なら、俺だって発展場とかいかない」
「行くなって、危ないから」
「ヤりたいんだからしかたないじゃん」
「水野がいるだろ」
「いやだ、アイツじゃ…ヤなんだもん」

なんの我儘なんだ、もうよくわからなくて俺が頭を抱える番だった。
発展場なんて危なすぎると言うのに…。
本人は気をつけているみたいだからあまり心配することでもないが…。
そんなことをしていると、入口の鈴が鳴った。
顔をあげれば新しい人で、すらりとした身体、頭からつま先まで隙のない感じの男がそこにいた。

「どうぞ」
「…ああ」

緊張した面持ちで俺が示した席へと座った。
近くで見てもかっこいい…。
思わず見惚れてしまうほどのそれに、俺は言葉を失くした。
でも、男は何をするでもなく居るのでこういう場所は初めてなのかと首を傾げる。

「こういう場所は、慣れませんか?」
「…まぁな」
「なにか飲みたいものは…?」
「特に…」
「では、嫌いなものがなければ作らせていただいても…?」
「ああ、頼む」

普段はこんなことはしない。
それを感じてか三城と鴻上は不思議そうな顔でこちらを見ている。
とりあえず、三城にあとを任せて、俺は三種類のリキュールやジュースをシェーカーでシェイクし砕いた氷をいれたグラスに注ぎライムを添えて男の目の前におく。

「ジャック・ターです」
「……うまいな」
「どうも」

フルーツのリキュールを使用しているからこのカクテルは比較的飲みやすい。ついでに言えば、度数もそこそこ強い。
油断して飲んだら…そっこーで酔い潰れること間違いなし。
卑怯な手だと思うが…これはこれ、欲しいものはなんとしても味わっておかなければ損と言うもの。
それに、男は結構飲んでいってしまっている。
ちらりと三城を見れば呆れた顔でため息を吐いている。
なんだよ、いいじゃんっ…少し味見するぐらいいいだろ。

「っ……」
「大丈夫ですか…?」
「ああ、大丈夫だ」

ほとんどを一気に飲んだから頭に来たのだろう。
酔うのも時間の問題だなと嬉しくなっていると鴻上がすっと立ち上がる。

「俺、そろそろ帰るねぇ?」
「ああ、ありがとう…三城、お願い」
「はい、わかりました」

会計を済ませに行く二人を眺めながら俺は男に向き合った。
こんなにかっこいい人、何してる人だろ。

「今日は、どうしてここへ?」
「ちょっと、会社でむしゃくしゃしてな」
「そうですか、たまにはこういうところに来て息抜きもいいですからね」
「そういうことだ」

もう一杯どうですか?と問いかければ頼む、と頷いた。
これは本当に今夜お持ち帰りできるかもしれない。
持ち帰ると言っても、自分の部屋は店の二階部分になるのだが。
もう一杯を作ってだせば美味しそうに飲んだ。
自分が作ったものを飲んでくれるだけでも嬉しいのに、そんな人に俺は何をするのかと考えたらそれだけで楽しくなってくる。
ごめんね、ちょっと酔い潰れてもらうよ。




「大丈夫ですか?」
「すまん、つい…飲み過ぎたみたいだ」
「いいえ、気をつけてなかった俺も悪かったんです…俺の部屋で休んでいってください」

すっかり酔い潰れてしまった男を支えながら階段を上る。
店は三城に頼んで閉めてもらうことにしたのだ。
俺は男をベッドに寝かせた。
意識はあるが、力が入らないらしく足元がおぼつかなかった。
酔っ払ってくれた方がよかったが、それでも無抵抗なのはありがたい。
ザルじゃなくてよかった。

「ちょっとネクタイ緩めますよ?」
「自分でできる」
「いいから、動かないでください」

下心に感づかれてしまったかと思ったが、ただ介護されるのが嫌だったらしい。
俺は構わずネクタイをとりさり、ボタンをはずし始める。
シャツの隙間から見えた肌も羨ましいぐらいに均整がとれていて惚れる。

「あの、一回だけでいいので…抱かせてください」
「……はっ!?」
「身体、すごく綺麗で…気持ち悪いのもわかってます…触るだけでいいので」

言いながら返事も待たずに男の身体に触れた。
やっぱり良い体つきをしている。
突起を触ってみるが反応なし。
こっちは開発しないと感じる人は少ないと言うから仕方ないと思う。
止めろと言われるが今更止まるつもりもない。

「男相手って、したことあります?」
「あるわけねぇだろ」
「…あはは、そうですよねぇ」

だったら俺が奪うまで。
ごめんなさいと謝りつつ俺の手は止まるはずもなく、男の服を脱がし下着まで取り去った。
自身を握り込めば反応を見せてくれた。
少し扱いただけで先端から先走りを溢れさせているのを見れば元から溜まっていたのかなと嬉しくなる。
飲んだら、怒られるかな…いや、ここまでしている時点で結構危うい橋を渡っている気がするのは気のせいなんかじゃないだろう。
…これ以上は、諦めておこう。
自分で勝手に結論付けると俺も自身を取り出して男のものと重ね合わせ一緒にして扱き始める。
裏筋をお互いに擦り合わせているとすごく気持ちが良い。

「あっ…これ、さいこう…」
「ちっ……こんな、こと…して、ただで済むと…思うなよ」
「うん、ごめん…すっごい…好みだったから」

許してください、と囁きながらキスをしてそのまま扱く手を早める。
本当ならもっと奥まで暴いて犯してやりたい。
けど、俺を見つめる強い視線がそうさせない。

「あっ…イく…っ…」
「はっ…イきやがれ…っう…」
「はぁぁっ…ああっ…イっくぅっ…!!」

お互いに白濁を出し合うと、男はそのまま意識を失ってしまった。
仕事で疲れているだろうときに酒を飲ませ、疲労させれば眠ってしまうのも当然だろう。
俺はティッシュで身体を拭いて綺麗にすると男を寝かせたまま、俺はソファへと移動した。
一緒の部屋なんかで寝たら間違いなく朝殺されそうだと思った。
なんでそう思ったのかはわからないが、とりあえずごちそうさまでしたと手を合わせておいたのだった。




朝目が覚めると頭痛で頭を上げるのが億劫だった。
ついでに言えば、慣れない場所で飲んだから変な夢でも見ているのかと現状を飲みこみたくない自分がいることに気づいていた。
俺は起き上がり、ふらつく足取りで部屋を歩く。

「…ここにいたか」

寝室を出てリビングと思われるソファに寝ている人間を発見すれば、地を這うような低い声が出て自分でも驚く。
が、それ以上に怒りが勝る。
この界隈は同性愛者が多いと聞いてはいたが、のっけから食われかけるなんて聞いたことがない。

「いまなら、刺せる」

刺すものなどそもそも持っていなかったが、ここまで羞恥を味あわされたのは初めてでなにかしないと気が済まない。
だが、ソファを覗き込んだ俺はつい振り上げた手が止まった。
昨日は店が暗くてよくわからなかったが、きっと同じ年ぐらいだと思うのに、幼く見える顔立ちがついこれ以上の動きを制限してくる。

「ちっ…馬鹿か…こいつは、俺を犯そうとした奴だろ」

それなのに、なんで戸惑ってしまうのだろう…。
男なんて興味ないと思うのに…。
そうこうしている間にそいつは目を擦りながら起き上った。

「いてて、やっぱ痛いなぁ…って、えっ!?…あ、あの…すみません、許してっ、命だけはっ」
「…もういい、面倒だ」

何がもういいのだろう、自分は確かに怒っていたはずなのに。
ソファで寝たせいで背中を痛めたのか擦る姿を見てしまえば、つい言葉を失くしてしまった。

「…えーっと、あの…また来てくれたりするなら……でいいんですが…名前を…教えてくれませんか?」
「リボーンだ…」
「あ…丁寧にどうも」

別にこいつの作るカクテルは美味かったから、また来てもいいと思った。
とりあえず、名刺を渡しておいた。
何をやっているんだと誰かが言った気がしたが…気にするのは止めた。
それに、目の前のやつはとても嬉しそうにしているのだ。

「お前の名前は?」
「俺は、綱吉。怒ったなら、もう…こんなことしない、だからまた来て」
「…怒るに決まってんだろ…むしろ、もう少し手順を踏むことが大前提だろうが」
「……はい、もっともで」
「俺だって、少しは…好かれて悪い気もしない…」
「えっ!?」
「前言撤回」
「…あ、そう…ですか」

話してみればますます子供っぽい。
敬語を使っていたせいだろうか…。
今も使ってはいるが、素がでているのか砕けたものになっている。
俺としてはこっちのほうが親しみやすい。
出逢いなんて、最悪なもので…これからなにがあるのか…なんて、考えただけで気が引けるのに…何でだろうか。
はっきりと拒めない。
ああ、嫌な予感がする。

こいつに付き合ってはいけない
そんな気はひしひしと伝わってくるのに…。







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