◎ 素直になってくださいっ
最近、ツナの様子がおかしい。
目に見えて変というわけではないが…なんと表現しようか…。
そう、一言で表すならウザくなくなった。
「リボーン、どこ行くの?」
「コンビニ」
「わかった、いってらっしゃい」
いつもならどこに行くにもついてきたがったツナは俺から距離を置くようにしつこくしなくなった。
押してダメなら引いてみろとか変なことをしているんじゃないかと疑ったりもしたが、どうやら素でやっているようだ。
だが、家から出て部屋をみると俺が行くのを見送っていたりするので本格的に距離を置きたいわけではないらしい。
そもそも、そうしたくなれば今は帰る場所もあるのだからここにいることが無意味だ。
なのに今の生活をしているということは、嫌われたわけじゃないらしい。
「って、別に嫌いになられたら困るわけでも……チッ」
自分で言いかけてこれではまるで拗ねているようだと気づけば舌打ちをしてさっさとコンビニへと入った。
苛立ちを払拭するように適当にアイスを掴み、レジへと向かう。
だいたい、この外出だって本当にツナがついてこないつもりなのか確かめるためにやったことだ。
買う予定もなかった。
無駄な出費にため息をつきながら、だんだん自分の方がツナから離れられなくなっているのを知る。
会った日に“絶っっ対、リボーンに俺が好きだって言わせてやるっ!!”と言われた言葉が頭を過る。
言いかけた…が、幸か不幸かツナが自分で遮ってくれたおかげでそれは免れたのだ。
そうはいっても、別に言ってやらないでもない…ツナが、雰囲気を作ることに疎いからいけない。
あいつはどうしてあんなにも雰囲気を読まないのか。
「ただいま」
「おかえり、何買ってきたの?」
「アイス」
「あっ、食べたい食べたいっ」
「お前食うっつても無理だろ」
部屋に入ればツナが待ち構えたようにコンビニの袋を覗き込んでくる。
仕方なくテーブルに出してやれば早くあけてあけてと急かす。
どうせみてることしかできないくせにと開けてやればおいしそうと目を輝かせている。
「美味しそうっ」
「うまいな」
「一口っ」
「ほれ」
「…うぅー」
一口すくって口元に運ぶがやはり食べれるわけがない。
俺を睨むようにして唸っているツナに笑えば、自分の口に放り込んだ。
「卑怯だ」
「だったら戻った時にするんだな」
「戻ったら…もどったらさ、リボーンは俺を見つけてくれる?」
「は?」
「俺は多分忘れちゃってるかもしれない。そしたら、ここにはこれないし、リボーンの記憶もない…そしたらさ、リボーンは俺を探して見つけて俺を惚れさせてくれる?」
「そんな保障できないだろ」
「嘘でもいいから惚れさせてやるって言ってよ」
また無茶なことを言うなと手をあげかけるが、ツナの顔は冗談じゃなく泣きそうになっていて振り上げようとした手はそっと頭を撫でた。
するとほろりと涙が溢れた。
止められず流れる涙の意味を俺は知らない。
なんで泣く?
そんなに俺の答えが嫌だったのか?
それだったら、言わせてもらうけどな…お前だって俺と距離おきすぎなんだよ。
もっとひっついてこいよ。
いつもみたいにウザくしてればいいだろ。
俺の言葉は口から出ることなくツナの涙を指先で拭っていた。
自分でも信じられない位、優しい手つきだ。
俺は、こいつの泣き顔に弱いらしい…。
「泣くな」
「だって、リボーンが酷いこと言う…当たり前かもしれないけど…」
「当たり前だな…でも、お前を見つけたら…話しかけてやらないでもない」
「…ははっ、なにそれ」
精いっぱいの譲歩として言ってやればそれは嬉しかったらしい、涙は止まりギュッと抱きついてきた。
俺はそっと背中を撫でて、すると一瞬身体が透けた。
なんだと瞬きをすれば、さっきとは何の変哲もない光景が広がっていた。
気のせいかと深呼吸をして抱きついたツナはそのままにアイスを食べ始める。
「アイス食べるんだ…」
「悪いか?欲しかったら自分で買え」
「買うよ、美味しそうだもん」
「俺が食べるもの全部に言ってねぇか?」
「うん、リボーンが食べてると美味しく見える」
「なんだそりゃ」
いいじゃんかと頬をふくらますのに、俺は頬を摘まんでぷっと空気を抜いてやる。
ますます怒って殴ってくるのに俺は知らんふり。
アイスを食べ終えれば休みでなにもやることがないとベッドに横になった。
「あーあ」
「なにため息ついてんだ」
「だって、さ…こうやってベッドで二人で寝転んでるのになにもないなんて…」
ベッドに頬杖をつきながら憂いを含んだため息とともに吐き出される言葉に嫌な予感を覚えた。
最近ようやくわかってきたことだが、こいつのなかでスイッチがあるらしくベッドや風呂、裸などエロイ方面をにおわせるものに関しして唐突にスイッチが入るらしい、大抵こういう場面では俺の拳が飛ぶ。
大体、学習しないこいつも悪いのだ。
「何が言いたい?」
「普通だったら、リボーンが俺を優しく押し倒して…みみもとで、ツナ…ってぇー」
「言うか」
やっぱり飛び出した。
まったく、こいつはエロイことしか考えないのか。
「だって、やっぱり両想いになったんだから…したいじゃん」
「したいじゃんってなにドヤ顔で言ってんだ?それはお前だけだから安心しろ」
「そんなことない、リボーンだって俺の裸見れば勃つだろ」
「勃つかっ!!」
もう一発お見舞いしてやろうかというところで今度は避けられた。
逃げることだけは得意になりやがって。
逃げてもなお服をちらちらとめくってアピールしてくる。
…正直、萎える。
いっぺん絞めあげてやろうか…。
がっと胸倉を掴めば、その拍子にツナからキスをされる。
「おこっちゃやーよ?」
「………もういい」
さすがにそこまで怒れる気になれなくて離してやればもう終わりなの?と顔を覗きこまれる。
頭痛くなってきた…。
「リボーンはホント、優しいね」
「呆れただけだ」
「ううん、優しいよ…」
照れたように笑うツナに俺は何を言うでもなくただ目を反らし続けた。
「いってらっしゃい」
「おう…」
今日もリボーンの部屋からリボーンを見送る。
俺は消えかけている自分の身体に怖くなって、逃げた。
自分の本体を確認しようにも大変なことになっていたらと考えたら怖くて、病院にいこうとも思わなかった。
だって、いろんな管とか電子線に繋がれていたらと思うと、それだけで恐怖だ。
もうすぐ、俺はいなくなるのだろうか…時々現れる自分の存在が消える予兆の様なものは日に日に回数を増していき、このままでは隠し通せなくなってしまう。
そのため、俺はリボーンから離れることを選んだ。
学校について行くのをやめ、風呂場も覗かない。
もちろん、でかけるときも家でお留守番。
こうなってしまった以上、一分一秒でも近くにいたいのに、それもできない。
もし、このまま消えてしまうかもしれないと言ってじゃあ消えてしまえばいいじゃないかといわれてしまうのが怖い。
だから、できるだけ隠して最後の最後まで近くにいようと思った。
でも、こうやって待っている間はとても寂しい。
「俺って我儘なのかな」
少しでも好きな人の傍にいたくて、離れたくなくて、相手を常に笑顔にしたいと思う。
欲望だって普通にある。
男だし…でも、リボーンは抱かれてくれないと思うから俺が抱かれる側でいいと思うくらいには、惚れこんでると思う。
迷惑…なのだろうか。
今更…とか、思ってしまうのか…。
リボーンが嫌だと思うこともしてきたと思う。
それでも、俺の気持ちに応えてくれただけで奇跡のように感じるのに…。
ぼーっと流れて行く雲を眺める。
そうすると日もすぐに傾いてくるのだ。
自分の手を見つめればすぅっと薄くなる。
ここにあるんだと思いこめば色素が戻ってくる。
…俺は、何をやっているんだろうか。
こんなことで弱くなって、俺が戻ればすぐに元気にしてやれると言うのに…。
なんで、戻れないんだろう。
俺の身体なのに…。
足に顔を埋めてまた溢れてくる涙で足を濡らした。
昨日はリボーンが拭ってくれたけど、今日は一人だから涙もそのまま。
どうせ、泣いても目も充血しなければ、涙後も残らないので問題ない。
霊体である俺の身体は健康そのものだ。
「ただいま」
「おかえり、リボーン」
ギュッと抱きつけば引っぺがされていたのに今日はない。
なんだと顔をあげれば、いつもの表情と違う。
初めて見る顔だ…。
「どうしたの?」
「なんでもねぇ」
「なんでもないって、顔してない」
「なんでもねぇって言ってんだろ?」
少し強い口調で言われて、俺はリボーンが本気で言ってるのがわかってつい口を閉ざした。
なんでこんなにイライラしてるんだろう。
どうしちゃったんだ、とリボーンを見つめていれば、なんだか不安の色が見てとれる。
なんだろう…なにが不安なんだろう。
「ねぇ、リボーン…俺、わかんないよ…教えてよ」
「わかんねぇなら気にすんな」
「気になるって、好きなんだもん」
「ならっ、俺に隠し事すんな」
「え…」
「知らないじゃすまさねぇぞ」
「なんで…わかったの」
「わかりやす過ぎなんだよ、早く教えろ。今すぐにだ」
リボーンの怒りが爆発するように聞かれて俺は慌てる。
なんで知られてしまったのか。
いや、それは俺がわかりやす過ぎたのがいけないんだろうと思うが、これで隠し通すこともできなくなったわけだ。
はぁと苦笑を浮かべながらリボーンの目の前に両手を差し出した。
「これね、薄くなってるのわかる?」
「…やっぱりか」
「リボーン知ってるの?」
「しらねぇ、お前の身体が一回消えかけたの見たんだ」
「そっか…もう、見られてたんだ」
ならしかたなかったなぁと笑って、笑ってるのに涙がこぼれた。
最近泣いてばっかだなと思いながらリボーンに引き寄せられて俺は肩口に顔を埋めた。
「どうなってるか、見てくるのも…怖いんだ」
「…ああ」
「俺、死んじゃうのかなぁ?」
「…まだ、わかんねぇだろ」
「だって、だんだん感覚短くなってる…いつ、消えるかって…思っただけで…リボーン、好きだよ…ねぇ、好きだよ…」
ぽんぽんと背を撫でられて宥められる。
ひぃひぃいって泣いて、鬱陶しいのにリボーンの手はずっと俺の背中を撫でてくれて、言葉はなくても愛されているんだって実感した。
なんで、こんなにもリボーンは温かいんだろう。
「リボーン…リボーン、ずっとそばにいて…」
「わかった、今日は傍にいてやるよ」
ずっとって言ったのに、やっぱりリボーンは一筋縄じゃいかないなと苦笑を浮かべた。
そして、言ったとおりその日の夜、リボーンはずっとそばにいてくれた。
なんだかんだこんなに甘いのは初めてだと思う。
風呂場についていってもなにも言わないし、ちょっとまた下ネタいったら小突かれて、叩かれなかったことに感動を覚えた。
寝るときも一緒で、本当に幸せだった。
これが同情でもいい、俺のことが好きって言うのも同情でもいい。
その代わり、俺を最後まで騙していて…。
とても嬉しく思いながら目を閉じた。
いつも、寝てるようで寝ていない俺の身体は今日はなんだかすごい睡魔でリボーンが頭を撫でながら寝てしまってから、今日は寝れるのかなと思って目を閉じた。
ゆっくりと意識が途切れて、綱吉の身体も、リボーンの傍からゆっくりと薄れて消えてしまった…。