◎ 一緒にいてみましたっ
「おはよー、リボーン朝だよっ」
俺がリボーンの部屋にやってきて一週間が経とうとしていた。
最初は言いつけを守っていた俺だけど、そんなんじゃリボーンは振り向いてくれないとわかったから遠慮するのは止めた。
朝になればしっかり起きてもらうためにリボーンを起こす。
「鬱陶しい」
「もう、起きないとまた怒られるよ?」
「関係ねぇだろ」
手を振って払われても俺は諦めずに布団を引っ張った。
お前はだだっこかと思いながらばっと取り払ってやれば眠そうに俺を睨みつけてきた。
「ほら、起きろって…」
「お前、あまりしつこいと追い出すぞ」
脅してくるがそう言って追いされたことはない。
放っておけない性格なんだよね、優しい優しいリボーン。
あの日から、俺の想いは日々成長していくばかり。
自分でもどうかしていると思う、こんな種族違いだと言われてもしかたないし…むしろ、俺なんて死んじゃってるみたいだし…。
渋々といった様子で制服を着るリボーンを見ながら鞄を持って出ようとする。
「ご飯は?」
「いらねぇよ」
「じゃあ、行こうっ」
「……って、お前はくるなって何度言ったらわかる」
俺はすかさずリボーンの首に腕を絡めてついていく。
リボーンは不機嫌そうに、だが道に出てしまったから声をひそめて言う。
こういうとき便利だ。
俺はリボーンに触りたい放題、リボーンは気にして何もしてこない。
怒っても怖くないんだから。
「いいじゃん、今日は連れてってよ。リボーンが勉強するところ見たい」
「…んなの見ても、つまらないだけだろ」
「いいよ、一人でいる方がつまらない」
誰かと一緒にいたかった、けどそれがリボーンなら尚更嬉しいんだ。
そんなこと、わかってくれるとは思えないけど…。
つくづく、俺って健気っ。
学校につけば、リボーンがげた箱を開けると一枚の手紙がひらりと舞った。
よくリボーンが持って帰ってくるもの、まぁ家に持って帰ればそのままゴミ箱行きなのだが学校では捨てないのだろう…。
「なんて?」
「昼休み、中庭だとよ」
「ふぅん…」
何でもないように手紙を鞄の中へと入れる。
俺は部屋でしか見てなかったけれど、意外にリボーンはモテる。
いや、こんな性格だから良いのだろう…現に俺だって夢中になってしまっているのだから。
けれど、リボーンのそういう小さな優しいところは俺だけが独占してしまいたいと、思ってしまう。
だって、この手紙を送ってきた人は人間ってだけでリボーンに好かれる可能性があるのだから。
教室に行くのを俺はずっと背中にくっついたままでいた。
俺は重くないし、こんなにぴったりくっついてたって誰も見えないし。
教室に入ればリボーンは席に座り、俺はリボーンの机の上に座った。
ぼーっと授業を聞いている様子のリボーンを見て新たな顔を見つける。
つまらなそうだな、とか。
「ねぇ、楽しい?」
『楽しいわけないだろ、静かにしてろ』
「俺は誰にも見えないし、聞こえないもーん」
『俺が気になるって言ってんだ』
「気にしてほしいもん」
「………」
あ、怒った。
俺はつい言い過ぎてしまったと感じたが、ぴんっと張りつめた空気は戻らない。
しかたなく、俺は黙っていることにした。
これ以上怒らせたら、取り返しのつかないことになりそうで…少し、怖かった。
昼休みになれば、購買で買ったパンを早々にリボーンは食べてしまい席を立った。
あれ以来、話しかけてくれないリボーンに俺はついていこうかどうしようか迷って、結局ついていくことにした。
だって、リボーンが告白を受けるなんて思ってないけど…一人にされたような気がして、寂しい。
リボーンに気づかれないようにして中庭までくれば一人の女子がそこに立っていた。
リボーンを待っていたようだ。
「あのっ、きてくれてありがと」
「手紙をいれたのはあんたか」
「…好きなの、付き合って…ほしいの」
初めて見る告白現場。
生きているからこそ、許された…行為。
俺は何度もそう言っているのに、軽くあしらわれてばかりだ。
「すまん、俺は誰とも付き合う気はない」
「どうして?リボーンくん、いつもそうやって断ってるよね?」
「…本当のことを言ってるだけだ」
「ちょっ、待ってよっ」
女子の悲痛な声が聞こえる。
それに耐えるようにリボーンは一度も振り向くことなくその場を離れたのだ。
なんで、付き合わないのか…なんて聞けなかった。
それでは、まるでリボーンにその子と付き合えと言っているように思えたから。
俺は朝のようにリボーンに抱きつくこともできずに少し距離を置いていれば、ぴたりとリボーンは足をとめた。
なんだと顔をあげれば、リボーンは俺をじっと見つめていた。
俺以外に誰かいるのかと後ろをみても誰もいない。
「何してんだよ、早く来い」
「え?」
「目の届く場所にいろ、また迷子になる気か」
「……迷子じゃ、ないよ」
手を差し出してくるリボーンに俺はつい泣きそうになってぎゅっと抱きついた。
肩の辺りから呆れたため息が聞こえたけどもう気にならない。
こんなところが、優しいと思う。
「さっさと午後の授業受けて帰るぞ」
「うん…」
さっきの女子との落差はなんだろう。
幽霊でよかった、いや…よくないけど…よかった。
が、俺は放課後になって夕日の沈む景色を眺めながら誰もいなくなった教室にぽつりと残っていた。
それは委員会というやつがあるとかでリボーンは行ってしまったのだ。
ついていこうとしたら、
『お前がいるとうざいから待ってろ、待てなかったら今度こそ盛り塩して家に入れなくするからな』
と脅されたのだ。
それだけは止めてもらいたい。
盛り塩がどんな効果を持っているかわからないが俺達、幽霊にとってとても効果を持っているとみた。
なので、こうやってリボーンの席に座って待っている。
最初は早く終わるだろうと高をくくっていたのになかなか戻ってこない。
夕日が教室に差し込み綺麗だなと眺めた、
振り向いた先に俺の影は存在しない。
この世界にすら否定されたようで俺はすぐに目を逸らした。
そんななか唯一存在を見つけてくれたのがリボーンなのだ、早く帰ってきて。
そして、俺を見て。
俺が、ここにいるって証をちょうだい。
「何泣いてんだ?」
「…リボーン」
がらりと音を立てて開かれたドア。
見れば苦笑を浮かべたリボーンがいて俺はリボーンの手をぎゅっと握った。
「…待たせた、帰るぞ」
「ん…」
何を言うでもなく、リボーンは俺の手を引いて帰ってくれた。
きっと、普通の人から見たら不自然なはずなのに…どうしてだろう。
俺はリボーンのこと好きなんだよ。
幽霊なのに、こうやって好きだっていって…リボーンはそれを気持ち悪がってるはずだろ?
こんな優しくされたら、俺はますます離れられなくなるのに…どうしてこんなことするの?
言いたいことは山ほど、それなのに一言…なら、近くにいるなよ、って言われるのが怖くてなにも言えない。
だた、その伝わる温もりに甘えたくてリボーンの家につくまで俺は無言のまま背中を見つめた。
「おい、今日はやけに大人しいな」
「なんでもないよ、俺が気になりだした!?」
「すまん、俺の勘違いだった」
「なにそれっ、押してダメなら引いてみろ作戦だったのに…」
ご飯を食べ終わるのを見ていたら不思議そうな顔で言われて慌てていつもの自分を取り繕った。
それにいつものように冷たい一言を浴びせられる。
これがいつもの日常だった。
あんなことだけでへこむなんてどうかしてる。
リボーンを振り向かせるんだろ、なにへこんでるんだ、俺っ。
「ったく、また馬鹿なこと考えやがって」
「そういえば、リボーンの部屋ってなにもないよね。エロ本とか置いてあるもんじゃないの?」
「あ?俺には必要ねぇからな」
「何それ、イ○ポ!?」
「…てめぇ、玉つぶすぞ」
敢て下品な言葉を使ったのにそれ以上で返されてつい自分のものをガードするように手で隠す。
それだけは言っちゃならない、男にとってここは大事なものだ。
…先に喧嘩を売った俺が言えることではないが…。
「別に俺には必要ねぇよ。女なんて勝手に寄ってくるもんだろ?」
「……不純だっ!!自分でオナってる奴らより不純だっ」
「お前今、世のエロ本で抜いてる男全員敵に回したぞ」
「それはお前だ、なんだそれ…なに、掃いて捨てるほどいるとか言っちゃってんの!?」
「いや、そこまで言ってないだろ」
ひぃっ、怖いっとふざけて言えば言うほど自分らしさが戻っていくようだった。
そうしてリボーンが風呂に向かうので俺もついていった。
「お前はくるなっ」
「なんだよ、女じゃあるまいし」
「お前は女より質が悪いっ!!」
そしたら、締め出しを食らいました。
そんなに意識しなくてもいいのに……。
意識…?
リボーンが俺を意識してる?……だよな、だってあんなに気にするなんて…。
時々自分の思い込みの激しさには引くぐらいだが、今回ばかりはなんとも確信を突いていそうで自画自賛だ。
ちょっと近づいている気がする、リボーンが本当に俺のこと好きになってくれるかもしれない。
「なにニヤニヤしてんだ、気持ち悪いから止めろ」
「んーん、なにも」
風呂から出てきてほかほかと温かそうな身体を冷やさないように、電気を消して早々にリボーンはベッドに入った。
「なぁ、ツナ」
「ん?なに?」
すぐ寝るのかと思ったのに、今日のリボーンは何か考えるように俺に話しかけてきた。
俺はリボーンの顔を覗き込んで首を傾げる。
すると、頬を優しく撫でられて不覚にも胸がざわざわして落ち着かなくなる。
「お前のこと、調べてやる」
「え……」
「戻らなきゃ、ならないだろ?いつまでもここにいたって、なにも変わらねぇ」
それは、本当なら嬉しいはずなのに…リボーンのそばにいられなくなるということが、俺を素直に喜ぶことを拒んだ。
もとは、俺が迷子で一時的にここにいるだけ。
だから、自分で探せと言われないだけましなはずなのに…その言葉が一番の拒絶に聞こえて…俺は苦笑を浮かべて頷いたのだった。