◎ 一目惚れしましたっ
霊感、俺はそれを持って生まれた。
小さい頃から色々なものが見えた。
それをみた親や同学年の奴らは俺を気味悪がり、小学校を卒業するころには誰も近寄ることはなかった。
それもそのはずだ、俺は視るどころか触ることもできるのだから。
霊力の小さな奴には触ることはできないが、ある程度力のあるやつになら可能性なのだ。
高校に入り、霊が見えることを隠してのんびりと過ごしていた。
そんなある日のこと。
「やっ…たすけてっ」
男に絡まれている同じ制服のやつ。鈍くさいなと思ったのに身体が勝手に動いた。
「お前、朝から鬱陶しいぞ」
男の身体を蹴り飛ばして絡まれていた奴を助ける。
だが、男の見えるのか、と言う言葉にしまったと思った。
俺は時々霊と人間の区別が出来なくなるときがある。
寝不足を引きずっていたからか、単純に間違えた。
霊なら放って置けばいいと蹴り飛ばすだけ蹴り飛ばしてその場を無視して学校へと向かった……のだが。
「あ、あのっ…さっきは助けてくれてありがと」
「……」
俺が不可抗力にも助けてしまった奴は学校までついてきた、というか目の前にいる。
クラスの奴らは見えてないからいいものの、さっきからうろうろうざい。
声を出そうにも空中に話しかけるなんて不審なこともできず、俺はノートを取り出した。
『わかったから、もう他へいけ』
「他って…どこ?」
『しらねぇよ、自分でわかるだろ』
「わからないよ、怖いよ…」
うぅ、と瞳を潤ませている霊につい、顔が引きつる。
何が怖いだ、お前がもう怖がられる存在なんだっつの。
俺ははぁっとため息をついて、仕方なく…提案した。
『しばらく、家にいるか?』
「いいの!?」
ぱあっと顔を輝かせたやつに、つい笑みが零れそうになって口を引き結ぶ、厄介ごとは持ち込みたくはないのに…きっとそのときの俺はどこかおかしかったのだ。
「お前、俺と同じ制服着てるってことは同じ学校か?」
「ん?ああ、そういえばそうだね…でも、俺良くわからない」
「記憶ねぇのか?」
「そうみたい?」
帰り道、誰もいない道を歩きながらようやく俺についてきた幽霊と話しができた。
なにも知らないのを見ればこんな幽霊見たことがないので頭を抱える。
仲良くなった幽霊も確かにいたが、そいつらは自分のおかれた状況をよくわかっていた。
少なからずこんなにも迷子になるようなことにはならないと思っていたのだが、こいつはそうなっているらしい。
どうせ、放置してもまた何かに絡まれるのだ、そしたら一度助けてしまった性質上俺を呼ばれる…。
呼ぶ…?
「名前は知らないのか?」
「へ?」
「自分の名前だ、名前がわかれば学校で調べられるだろ」
「そうなんだ?えーっと、さわだ…つなよし…沢田綱吉」
「長いな、ツナで良いだろ」
「え、まぁいいけど…君の名前は?」
「俺はリボーンだ」
リボーン、と小さく何度も呟いて俺の名前を覚えたツナは嬉しそうに笑みを浮かべた。
家に帰れば、挨拶することもなく部屋に入る。
ツナを部屋に入れればベッドに座った。
「で」
「で?」
「ツナ、お前はなにしたいんだ?」
「なにって…」
今後どうするか考えなくてはいけないと提案した、けれどツナはなにか勘違いしたように顔を赤くしている。
ツナの行動がよくわからず首を傾げればぱっと顔を上げて手を握られる。
幽霊に触られるというのは貴重なことだが、少し冷たい空気が触れてくるような感じだ。
特に感触といったような感覚もないため、握られてもよくわからない。
「あのっ、一目ぼれ…したんですっ」
「は?」
「いや、男同士だとか気にならないとかじゃないけど、俺はリボーンがかっこいいと思ってそんな人の傍にいたいって思って…だから、だからっ」
「その前に人間と霊だってことを頭に入れろッ!!」
「っいたー……」
つい、告白とかそれ以前の問題にツナの頭を思いっきり殴っていた。
まず同類じゃないだろ、お前は死んでて俺は生きてる今はよくても俺は老けてお前はいつか成仏するかもしれない。
そこをちゃんとしっかり考えろと言いたい。
「なら、人間同士だったらいいの?」
「…考える余地はある」
「じゃあ、俺誰かに乗り移って」
「くるなっ」
変なことを仕出かそうとする前に俺はツナの首根っこを掴んでベッドに座らせる。
「いいか、お前はここにいろ。なにもわかんないなら動くな」
「う…ん…」
「学校はついてくるな、邪魔だから。それと、ベッドは一つしかないがお前は他で寝ろ」
「えーー!!」
「えー、じゃねぇそんなこと言われて一緒に寝る度胸は俺にはない」
夜に霊に襲われるなんて、いろんな意味で怖いとぞっとしながらぺしょっと耳がたれているように錯覚させるほどへこんだツナについ押される。
そんなことをされても俺の心は揺らがない。
第一、 こんな男俺の好みではないのだから。
もっとぼんきゅっぼんで…ってなに考えてんだ。
はぁっとため息を溢せばベッドに横になり仰向けになった。
それを覗き込むように見下ろしてくるツナ。
「なんだ?」
「いや、いいのかなって…こんなこと言ってるのに、俺ここにいてもいいの?」
少し寂しそうにしながらもいいのかと首を傾げてくる顔は気丈にも笑っていて、遠慮するなら最初にしてくれとおもうがそれは口に出すことはなくツナの手をとれば俺の横に置いた。
「別に、普通にいる分には全く関係ないからな」
言えば一瞬驚いた顔をしてそのあと笑顔を見せた。
「優しいんだね、リボーン」
「別に、普通だろ」
ベッドに頬杖をついて俺を見てくるツナと視線をあわさないまま違う方向へと視線を向ける。
いきなり告白されるなんて初めてのことだ。
普通ならある程度確信があって告白するものなのに、どうしてこうなってしまったのか。
すると、ドアをこんこんと叩かれる。
夕食のできた合図だ。
俺は身体を起こしツナをそこにおいて部屋を出る。
テーブルに用意された食事に俺はお盆を持って部屋へと戻る。
「あれ?呼ばれたんじゃないの?」
「飯の呼び出しだ」
「皆で食べないの?」
「…いろいろ事情があるんだ、余計な口出ししなくていい」
聞かれる前に話しを打ち切り、机に盆をおいた。
いただきますと手を合わせて食べ始める。
だが、それをじっと見つめてくる視線が鬱陶しい。
「なんだ、見られてると食事もできねぇだろ」
「ご、ごめん…しっかりいただきます言うんだなって」
「なんだよ、常識だろ。沢山の犠牲のもとに生かされてんだ」
言えばそうだよねと笑ってツナは俺の隣に移動して座った。
多分俺の視界からなるべく入らないようにした結果なのだろう。
特に邪魔にならなかったためそのままにして俺は食べ始めて、いつもと変わらない味に満足して笑みを浮かべる。
「やっぱり、好きだな」
「ん?」
「なんか、不良っぽそうなのに律儀だし親切だし…見ず知らずの俺にも優しくしてくれたし」
「だから、それはお前の勘違いだ」
そっけなく言ったのにそうかなぁと俺を見つめてくる。
だから、その視線が鬱陶しいんだっつの。
それに、今の中にさっきふるった暴力が含まれていないが大丈夫なのか。
「でもさ、好きなら好きって言っておかないと後悔すると思うから」
「……」
「ほら、俺こんなじゃん?今言わないと、さ…ずっと胸に秘めておくだけなんてできないよ」
多分こいつなりに考えたことなのだろう。
元がどんな性格か知らないが、そういうまっすぐなところは嫌いじゃない。
そのせいで、まわりが見えなくなるのだろうと思うが想われる側としては、嬉しいだろう。
俺は別として、だが。
「だから、俺決めた」
「なにをだ」
いきなり拳を握って立ち上がるツナに視線を向ければ嫌な予感がしつつも問いかけるのを止められなかった。
「絶っっ対、リボーンに俺が好きだって言わせてやるっ!!」
「…だっ…から、俺は友人以上にお前を好きになるなんて有り得ねぇっ」
「大丈夫、そのうちリボーンも俺の魅力に気づくから」
気づかねぇよ、心の中の呟きは聞こえることはなく、気合いを入れるツナに何と声をかけていいものやらまったく道行がわからぬまま、ツナとの生活が始まったのだ。