◎ 叶うなら、たったひとつだけ
綱吉が泣いて帰って来た時は肝を冷やしたが、逸美に確認したところ服をただ単に忘れただけだと言うのでそれを信じることにした。
これ以上あいつらに無用な波風を立てないでやってくれと誰ともなく愚痴を溢したくなる。
はぁ、と息を吐きだせば白く今日はホワイトクリスマスになりそうだと澄んだ空気でいつもよりはっきりと見える星空を仰いで思った。
バイト帰り、少し髪をワックスで整えくたびれた髪を誤魔化した。
本当なら、家に帰りたい。家に帰ってテレビを見て、のんびりと平和にニュースでカップルと見てリア充だと罵っていたい。
「目の前で見る羽目になるとはなぁ」
幸せ自慢はテレビの中だけにしてくれと毒づきながら本日の待ち合わせとなるツリーのイルミネーションの前に俺は一人立った。
待ち人は勿論、綱吉。
あの初めて逸美にあった日、俺は逸美に計画を持ちかけた。
計画と言っても、その場で思いついたものだ。
けれど、これなら確実に二人をくっつけることができる。
計画の内容はこうだ。
まず、俺と逸美がリボーンと綱吉を誘い出す。
待ち合わせ場所は近くだ。
リボーンと綱吉が途中で鉢合わないように液の出口にも気を使う。
時計を確認、そろそろだ。
俺は綱吉を、逸美はリボーンを連れて、お互い偶然を装い鉢合う。
そして、二人はお互いを見て何かしら思う…はず。
で、俺達がお互いに引導を渡してあげれば、このまどろっこしい関係もすっきりするんじゃないのだろうか。
「まぁ、何か言い訳しようと思っても二人を無理やりホテルに押し込んでやるだけだけどな」
強硬手段はそれしかないと笑みを浮かべた。
そのうち、逸美からメールが来て到着したとの連絡だ。
綱吉はまだきていないが、遅れるなら遅れるとメールが入るので向かっている最中だろう。
こっちもそろそろ、と返事をすれば綱吉が早く来ないかと周りを見渡した。
このタイミングでリボーンがきているということは綱吉とは鉢合っていない。
計画通りに進んでいるなと安堵のため息をついて、チカチカと光っているイルミネーションを眺めた。
「遅くなってごめん」
「ホントだよ、行くぞ綱吉」
遅れてきた綱吉に、まったくと言ってやりながらも乱れた服を整えてやり、手を引く。
綱吉は逃げられる場合がある。
ここで手綱を握っておかないといけない。
そうして歩きだし、イルミネーションをみる振りをしながらリボーンと逸美の待ち合わせているところへと向かう。
そして、逸美が見えた。
隣にしっかりとリボーンを連れてきている。
俺達はアイコンタクトをすると、近づいた。
「ぁ…」
最初に気づいたのは、綱吉だった。
二人で歩いているのをみると、逃げようと足を踏み出した時、リボーンも綱吉に気づいた。
綱吉は気付かれたのに、本格的に逃げようと俺の手を振り払おうとするが、少し視線を逸らした隙にリボーンの手が伸びてきて、綱吉の腕をとり俺を睨みつけるように見てきた。
「こいつを返してもらう」
リボーンの気持ちはもう疑いようのないほどに決まっていたらしい。
俺はにんまりと笑うとその手を離して綱吉を引き寄せ、リボーンの方へと押しやった。
「なら、二人でクリスマス堪能してくれ」
「そうよぉ、こうでもしないと素直にならないんだから」
「え、なに、なに!?」
「騙したんだな?」
「騙すなんてとんでもない、ただ二人してうざいから」
ねーとふざけて逸美と視線を交わせば、呆れたようなリボーンのため息が聞こえた。
ちなみに、綱吉は混乱しているらしくまだ状況が飲み込めていないようだった。
それもそうだろうな、まさかリボーンがあんなこと言ってとり返してくるとは思ってなかったのだから。
それに、しっかりと掴まれた手を離す気はなさそうだ。
「いつのまに二人は仲良しこ良しになったんだ?」
「いつっていっても、ねぇ?」
「そうだなぁ、強いて言えばお前らの強い愛情によってって感じか?」
「良いこと言う」
「だろ?」
俺と逸美は目配せし合って、頷いて見せた。
逸美とは会うことはなかったが、メールは頻繁に繰り返していた。
男女間での友情はないというが、俺達のはまさにそれ。
恋愛感情こそ湧かないが、二人で意気投合したのは確かなのだ。
「お前ら付き合ってるのか?」
「「まっさかぁ。これから男漁りよ」」
「は、ははっ」
綱吉は乾いた笑いを浮かべて、俺達は二人を置いてイルミネーションの道を歩く。
「計画成功だな」
「そうね、クリスマス…何の予定もないなんて…」
「それ俺もだからな」
二人で揃ってため息を吐きだしながら、傍から見ればカップルに見えるだろう俺達は無駄な言い争いをして二人、別れた。
俺達は付き合っていない。今からはお互いの夜を埋めてくれる最高の相手を探しに行くのだった。
クリスマス、友達に呼ばれたかと思えばリボーンにあった。
しかも、なんでか俺の手を離そうとしない。
変だと思えば、それは友達が仕掛けた計画だった…らしい。
あれ?うん…まだよくわかっていない。
なんだろうか、この状況は…とりあえず一週間ぶりぐらいにやってきたマンション。
手にはコンビニのケーキが握られていた。
「やすっぽいな」
「お前がいいって言ったんじゃん」
「言ってねぇよ、欲しいともいってねぇぞ」
リボーンが食べたいと言っていたのにそんなことも無視してくるいつものそれに呆れた声しか出ない。
こんなのが言いたいんじゃないのに…ただ、俺を掴んでいる手はしっかりとしたまま離そうとしない。
「手、もういいだろ」
「…ああ」
完璧に忘れていたらしい、思い出したように手を離せばケーキを袋から取り出し黙々と開け、食べ始めながら俺はリボーンの言葉が気になっていた。
ちらちらと伺う視線を向ける。
それでも、リボーンは気にしないようにしている。
もう少しで食べ終わるというところで俺は口を開いた。
「俺はモノじゃないんだけど…」
「モノでいいだろ、俺のもんだ」
少し拗ねた声になってしまうのは仕方ないものだと思う。
けれど、リボーンの声はまっすぐではっきりと響き、俺は息が止まった。
当たり前のように発せられて、今までの溝がなくなったようだ。
「横暴、暴君、俺様…っ……でも、好きだ」
勇気を振り絞った、告白。
泣きそうになって慌てて俯こうとしたら、顎をすくわれ一気に顔が近づいた。
触れあわせた唇、甘い生クリームの味。
角度を変えて何度も繰り返されるそれに、俺は縋りつくように手を伸ばした。
「俺も好きだ」
「なっ…女遊びばかりしてたくせに」
「好きだ」
「俺のこと、家政婦かなんだと一緒の扱いにしたくせに」
「好きだ」
「俺、もう…捨てられるのかって…」
クシャリと顔を歪めれば両手で包みこまれるようにして頬を撫でられた。
リボーンはバカみたいに好きだしか言わないし、何もかもいい加減だと思う。
俺もだけど、リボーンの方が酷い。
「ったく、俺ばっか悪く言いやがって…先に勘違いしたのはお前だろ。捨てるのはお前の方だろうが」
「…だって…」
見事に言いあてられて、俺は二の句がつげられなくなる。
もごもごと次をどう返せばいいのか考えているとそのままソファに押し倒された。
「あっ、ちょっ…リボーン」
「両想いなら、抵抗もいらねぇだろ」
リボーンの一言になんだその態度の変わりようはと、思うのにその目が真剣だから抵抗できない。
リボーンの接触を求めていたとばかりに俺の身体が喜ぶ。
服を脱がされていき、ちゅっちゅっと肌に唇が落とされてびくびくと震えてしまう。
どうしよう、と戸惑うのにその間に行為が進んでいく。
「ぁっ…りぼーん、やだ…あぁっ」
「ヤダじゃねぇだろ」
「はずかしい…」
指をいれられて、それを逐一俺の顔を確認するように見つめている。
そんな風に見られていたら落ちつかないと首を振るのにリボーンはじっと見ている。
見ながら、中の指を的確に動かしてくるから感じて堪らなくて、ぎゅっとリボーンの腕を握った。
「あっぁぁっ…やめ、もう…いく、いくっ…」
「いけ、綱吉」
耳元で囁かれた言葉、俺は促されるようにして身体を震わせて白濁を放っていた。
きゅうきゅうと締めつける動きを繰り返してしまい、恥ずかしさで消えてしまいたくなりながらも次に宛がわれるものの熱さにリボーンを見返した。
「俺は、お前にしか勃たねぇ」
「え…?」
「もう、俺はお前でしか満足できねぇんだよ」
リボーンの意外な言葉に嘘だろと思うのに一気に突き上げられて唇を噛んで耐えた。
身体を繋げたのはあのときの一回きり、それからなにもしていない身体は際限なく求めてしまうようで俺はどうにかなりそうな感覚に陥りながら自分で動き出す腰の動きに羞恥で消えたくなった。
「もう、だめっ…うごいたら、だめ…」
「綱吉、ツナ…つな…」
「りぼーん、りぼーん…」
泣きそうになぎながら俺は必死で縋って、キスを強請った。
求めれば求めただけ優しくなるような気がして、陶酔するようにこの状況に溺れていった。
「クリスマス…越えてる」
「もう良いだろ、そんなの」
「寒い…」
結局ソファでなし崩しにして、シャワーを浴びてベッドで何回かした後ようやく落ちついた。
時計を見れば、もうすでに日付をこえていて何の気なしに呟いた。
リボーンは関係なさそうに俺の身体を抱きしめて、俺はリボーンの身体に密着していた。
あんなに避け続けたのに、今は離れたくないとか本当に現金だなと感じながら悠斗と逸美という女の子には感謝しなくてはならないらしい。
「服、ないや」
「とりに行くのは明日でいいだろ」
「ん…」
今はまだこのゆっくりとした時間に身を委ねて、ただ二人一緒にいれることに幸せを噛みしめていたかった。