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 近づけば遠い

綱吉と過ごし始めて一週間が経つ。そろそろ、綱吉の服がなくなってきた頃で、部屋にとりに行きたいと言い始めた。
ばれないように行けばいいのに、綱吉はぐずぐずとして結局服を着まわすという事態に陥っている。
俺としてはこれを機に話しをしてくればいいと思うのに、それもできないようだった。
そして、そんな俺は綱吉がバイトに行っている時にリボーンのバイト先であるバーにきているわけだ。
クリスマスが近づき、イルミネーションが目に痛い。

「街はこんなにも幸せリア充ムード一色なのになぁ」

おかげでこっちもおちおち相手探しもできやしない。
そんなことを思いつつ、リボーンに会えばなにかわかるかもしれないと一縷の望みをかけてやってきた。
店の前まで来たところで、綺麗な女性がこちらに歩いてくるのが見えた。

「…あ、リボーンの彼女」
「へ?」
「っと」

思わず口にしてしまった言葉に自分で口を塞いだ。だが、それは聞こえてしまっていたらしくその女性は足を止め俺を見ていた。
いってしまった言葉は返ってこない、仕方なく苦笑いをする。

「もしかして、綱吉くんの…?」
「え?」

その女性の口から飛び出した名前に驚いて俺達は数秒視線を合わせた後、何かを確信した。

「あの、もしよろしければ…ここじゃなく、他の店でどうですか?」
「そうね、ちょっと話しをしてみたくなったわ」

これは何かある、確信したのは同時だったようだ。
そのまま別の店に入って、個室に入った。

「俺は悠斗です」
「私は逸美よ」
「早速ですが、あなたとリボーンの関係は?」
「幼なじみ、それ以上でもそれ以下でもないわ。まぁ、部屋にあがることもあるけれど、友達感覚よ。あなたと綱吉くんの関係は?」
「友達ですよ、趣向の合った…ね」

こちらも関係はないと説明するとしっくりきた。
逸美がリボーンと付き合っているなんて、綱吉は言っていたがあれを見た時雰囲気が違うと思ったのだ。
恋人ならもっと親密なものがあるはず、けれどそれがなかった。

「それにしても、リボーンも綱吉も勘違いだったなんてな」
「ホントね、よかった。このままじゃリボーンが干からびちゃいそうで」
「干からびるって、あんなにイケメンなのに?」
「外面だけね、しようのない男なの」
「ふぅん、それにしても逸美さん俺の性癖とか平気なんだ?」
「え?…ああ、男が好きって言う奴?」
「そう、男が好きって言う奴」

だんだんと話しが進むにつれ意気投合とまではいかないが話せるまでになった。
何より、綱吉とリボーンが俺達に迷惑をかけ過ぎているのも悪いのだ。
そして、ふっと思ったことを口にしてみる。
俺と綱吉がそういう関係かもしれないと勘ぐったのはおそらくリボーンが男が好きという性癖を知ったから。
女性はよく知らないが、そういうものに抵抗はないのかと疑問に思ったのだ。

「別に、その人の性癖だし…そういうものってなにか理由があるんでしょ?」
「…そーね、そういうものだ」
「だったら、私は受け入れるだけよ。それに、私の身の危険も少ないでしょ?」
「まぁ、おねーさん美人だからね」

いろいろ言えないようなことも多そうだと笑えば、ホントにねと笑った。
お互いに傷のなめ合いに発展しそうな雰囲気に、終止符を打つように俺は身を乗り出した。

「此処で俺は一つ、逸美さんにお願いがあるんですよ」
「はぁ?なにか?」
「クリスマス、空いてない?」



びっくりした顔を思い出して俺はふっと笑みを深めた。
ケータイにはクリスマスの予定をいれて、よし、と呟いた。
逸美とは先程別れた、なかなか最近にない面白い女性だ。
こちらの計画に乗ってくれる気前のよさもいい、男だったらもれなく俺の恋人にしていたところだろう。

「ああ、こんなにも性別の壁って厚かったか…?」

むしろ、男女であるべきだというのに俺は何をやっているのだろうかと深いため息を吐いた。
こんな性癖であるのも理由があるが、それはもう昔のことだ。
逸美の言葉に昔を思い出しそうになって慌てて止めた。
これ以上、俺をとらえ続けるあの男にはほとほと呆れた念しかない。

「そろそろ歩みださなきゃね、いけないけど…」

どうにもそれも難しいと立ち止まって空を見あげれば、ふらりと舞い落ちる白。
今日は一番冷え込みが予想されるなんてニュースで言ってたなと思い出して、ふるりと身体を震わせて部屋に戻ったのだった。
俺の代わりに幸せになれ、なんて言えない…けれど、少しぐらいのおせっかいは焼かせてくれよ。




そっとマンションをあがった。
リボーンのシフトを思い出して、今日はちょうどバイトが入っている日だと気付いた。
いつも俺はリボーンより終わるのが早い、ならば今がチャンスだと帰りの電車の中で思い立ちその足で部屋の前にきていた。
鍵をとりだし中へと入る、俺の部屋に入って箪笥を漁った。
上着がないのと、普通に服がないのと…。
考えながら鞄に服を詰め込んでいく。

「掃除、しないとな…」

部屋を見れば少しばかり埃が見えた。
俺がいるときはなかったそれ、リボーンは俺の部屋に入ることはしていないのかと思って、そう言えば廊下とかも埃があったなと気付く。
自分の部屋ぐらいは綺麗にしているのだろうなと不安になった。
あんなにずぼらなリボーン、俺がいなくなってうまくやっているのか気になる。
鞄に必要なものをつめ終えれば、共有スペースの方に足を運んだ。

「っ……」

そこにはソファの背もたれにかかった女性の上着があった。
俺は息を飲み、詰めていた息を吐き出す。
こんなあからさまに見せつけられるなんて…。
泣きそうだと口に手を押し当てた。
俺がいなくなったからと言って、リボーンが一人で居続ける理由はない。
恋人が出入りしていても、不思議はないのだ。

「悠斗のところに…」

へたり込みそうになりながら俺は部屋を出ようと鞄を掴んで玄関まで行った。
が、俺がノブを回す前にそのノブは回された。
俺は一瞬にして動きを止めてしまった。
だって、この部屋に来るって言ったら一人しかいないじゃないか。

「あ?なんで開いてんだ」
「あっ…」

開かれたドア。目の前には何日ぶりかの顔があった。
ばっちりと目があって、俺は小さく声をあげた。

「つな、よし…」
「どいて…」
「……」

放心しているらしいリボーンに俺は強気に言い放った。
けれど、リボーンは俺の前を塞ぐようにして立っている。

「退けってばっ」
「どこに行ってんだ?」
「…いわない」
「言え」
「やだ、くるな」

リボーンがようやく我を取り戻して俺に詰め寄ってくる。
俺は逃げるように数歩後退さり、首を振った。
これ以上苦しい思いはしたくない、俺は忘れるんだ…忘れて、新しい人をみつけて…。

「なに、泣きそうになってんだ」
「なって、ない…」

焦ったようなリボーンの声に、伸ばしてきた手を振り払った。
俺は少し揺れて開いた隙間から部屋の外へと飛び出した。
リボーンの声が背中に聞こえた。
けれど、それを振り切るように走り、エレベーターに滑り込むと急いでドアを閉め下のボタンを押した。
ぽつぽつと落ちてくる滴、あの部屋は俺とリボーンのものだと思ってたのに…なんで、あんなものがあるんだ。
もうリボーンは俺が必要じゃないのか…。
やっぱり、俺は家政婦かなんかと一緒で…今は、ちゃんと面倒見てくれる人がいるんだ…。

「ふっ…ぅ…」

泣きながら、悠斗の部屋へと向かった。
外の風が冷たくて、赤く染まった頬を冷ましてくれるだろうかと思いながら部屋に戻れば悠斗が出迎えてくれた。

「冷たくなってる、どうした?」
「服、とりにいってきた」
「リボーンに会ったのか?」
「部屋に、女の服あったぁ」

こらえようと思った涙がまた溢れて止まらない、悠斗はぬれタオルを用意してきて俺に渡してくれた。
一定の距離を保ってくれる友人はとてもありがたく、身体を重ねたのもあの時一回だけだった。
どうせしても虚しくなるだけで、どうしようもなく…リボーンが欲しくなった。
どうしてこんなにも、遠いんだろう。
優しく頭を撫でてくれる、悠斗にこの人が好きになれたらよかったのに…と、ぽつりと思ったのだった。



綱吉が来た、いきなりで驚いたが霞めるように触れた肌にどうしようもなく恋しさが募る。
服をとりに来たのだろう、部屋のドアは閉じられていて、残された俺ははぁとため息をついた。
中に入って、今に入るとソファに逸美の服が置いてあるのが目に入った。

「チッ…あのばか、なんで服なんて置いて行きやがったんだ」

一度だけ行ってみたいと言われたので、連れてきた。
確認しなかった俺も悪いが、逸美も悪い。これは、今度会ったときに怒鳴り散らすこと決定だなと思いつつ、綱吉に怯えられたことに頭を抱える。

「軽くトラウマだぞ、あのばか」

今度罵ったのは逸美ではない。
恋しくてやまない、あの男にだ。
どうしてこんなにも避けられるのか、もう合コンへも行かない。
女遊びも止めた、それなのに一番欲しいものが手に入らない。
俺はソファに座って頭を抱えた、連絡をとるなんてプライドが許さなかった。
どれだけ寂しくても、この部屋で待つと決めていた。
二人だけの、この部屋で…。







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