◎ 慰める方法
悠々自適な生活が実現できる一人暮らし。
だが、そこには恐ろしい罠がしかけられていた。
「きちゃった」
「…どうしてそうなった?」
一人暮らしということはいつ誰がきても易々と断れないことだ。
それに、先日なんだか恋に悩んでそうな友達が真っ赤に腫らした目を隠しつつ笑顔で荷物を持ってやってくれば、事情がわからなくもない。
そして、そこで追い返すことがどうしてできようか。
「どうぞ」
「ありがとう、悠斗」
苦笑を浮かべてあがってくる綱吉はきっとこんな突然やってきてしまった迷惑もわかっているのだろう。
そして、それを断れない情に厚い友達だということも…。
まぁ、数少ない同族だ。追い返して路頭に迷われても困る。
中に入ると周りをまじまじと見ている綱吉、そんな知らないところに来た猫みたいにされてもねぇ。
可愛いだけだろ、と笑いをこらえながらソファに案内してみた。
「で、突然押し掛けてきた理由を話してみようか」
「えっと…ですね…」
「うんうん」
「昨日、リボーンが女の人と一緒にいるのを目撃したんだ」
「うんうん」
「すごく仲よさそうで、付き合ってるような感じで…」
「うんうん…ん?」
「もし告白して、付き合ってる奴いるからそれはできないって言われるの怖くて…逃げてきました」
しょんぼりとしょげている綱吉。
それって、確認してないってことだよな…。
「付き合ってるかとか、聞いたのか?」
「いや…」
「好きって言って断られたのか?」
「いってない」
「出てくる理由なかったんじゃないか?」
「俺、好きな人いるって言って出てきちゃった」
泣きそうになっていう綱吉に俺ははぁーと深いため息を吐いた。
早とちりか本当のことなのかわからないが、綱吉が先に言って出てきてしまったせいでそれも確かめることができなくなった。
俺としては、綱吉の勘違いだと予想できるが…。
「で、誰が誰を好きだって?」
「ごめん」
「まったく、俺は別に綱吉の恋人になりたいわけじゃないんだけどな」
「そんなこと言わないでくれよ」
今回のこれは綱吉が悪い。
これで俺になり済ませとか言うんだろうなぁ…。
巻き込まれることは目に見えている。
それなのに、気になってしまうというこのお人好しの性…。
「俺になにしろって言うんだ?」
「恋人の…ふりを」
「それして、綱吉辛くないのか?」
「リボーンが本当に付き合ってるのかわかるまででいいから」
「……墓穴掘ってるってわかってんのかな」
これはもう取り返しがつかないんじゃないのかと俺は絶望的になった。
綱吉に聞こえないように小さく呟いてみるがもうどうしようもないだろう。
どうやったって、これは俺と綱吉が付き合ってますと言わんばかりだ。
いや、付き合う感じになっちゃってるけども。
それって、リボーンは他の女の子に靡いたりとかしちゃうんじゃないか?
「で、悪いと思って酒買ってきた」
「よくできた子だ、綱吉」
前言撤回。ちょっとぐらいやっかいでもこいつのためなら付き合いますか。
やってしまったものは仕方ない。
きっと、どうにかなって二人は円満になるだろう。
どうして俺がこんなにも暢気に構えてるかって?
だって、いつもの綱吉の惚気みたいな同棲話を聞いていれば両想いじゃない方がおかしい。
どう聞いたって付き合っているとしか思えない。
それに、俺が綱吉のマンションへといった時のあの不機嫌具合。
普通の同居相手ってだけだったらあんな独占欲丸出しな顔しないだろう。
よって、二人は両想い。いつかどこかでほつれた糸が解けて想いを通じ合えるだろう。
「ということで、酒飲むか」
「なんかわかんないけど、うんっ」
二人して綱吉の買ってきた酒を開ける。
やけ酒の様な気分で綱吉はどんどん飲んでいき、二時間経つ頃には五、六本の空き缶が転がっていた。
もちろん、それは綱吉の領域で、だ。
俺はというと、四本ぐらいか…。
さすがに酔いが回ってきたとひとまずため息をついた。
「もぉさぁ、あんな幸せそうな顔見せられたら、無理に決まってんじゃん」
「ほうほう?」
「でも…ちょっと電話来るかもとか期待した…」
綱吉は飲むにつれリボーンの話題だけになっていった。
そして、少しずつ沈んでいく。
ケータイを眺めるが、それは今日一回も鳴ることはなかった。
「やっぱり、俺がいなくてもリボーンは平気なんだ」
「平気だろ、普通…誰かがいないとダメなやつなんていない」
「……」
「俺がいないとだめだとか思ったって言うなら、きっとそれはリボーンが綱吉のこと必要としてたってことだろ」
「でも、それは俺のこと家政婦かなんかだと思ってたからだ」
「だったらセックスしないだろ」
「俺は、悠斗とだってできる」
ただの性欲処理なら同じだと綱吉は言い張る。
全然違うだろう、と言いたかったがいっても綱吉はわからないだろう。
そういえば俺も此処のところ恋人がいなくてご無沙汰だった。
「性欲処理なら、俺としても一緒だろ?」
「…悠斗と?」
「ああ、俺と…別に恋人になろうって言うんじゃない。俺達の間じゃ普通だろ、身体だけなんて」
「慰めてくれんの?」
「綱吉が望むなら、それもいいかもな」
こっちはこっちで目的果てさせてもらうだけだけど、と笑えばこくりと頷く。
綱吉のもっている缶をとり上げて、ソファへと押し倒す。
特に抵抗もなく綱吉はされるがままに俺を見上げていた。
服を脱がしていく、ただ綱吉が本気で嫌だと言えば止まるつもりで…・
「きもちいいことしてやろーか?」
「…うん、して…いっぱいして」
忘れるぐらいに、と泣きそうな声を出されて俺は苦笑する。
そんな顔をしていって本気で忘れる気なんてないくせに、と思う。
でも、快楽には従順で気持ちよさだけを知ってしまった身体は感じるところを刺激してやると反応を返す。
乳首を撫で、自身を握った。
綱吉は思った通り敏感で、触るたびに声をあげ身体を震わせる。
声も嫌じゃない。
他の男のものじゃなければ申し分ない身体だ。
俺は浮気を好まない。だから、本当なら綱吉のこれも抵抗ある。
キスはしないつもりだ。それにペッティングも。
綱吉にはただ、気持ちよさだけを与えるセックスをしてやろうと思う。
今必要なのは、愚痴吐き場と泣く場所だろう。
「あぅ…はっ…ゆうとぉ…」
「すげ、中柔らかい。もしかしてヤリ収めしてきた?」
「だって、感覚だけは…欲しいじゃん」
「そーね、綱吉はリボーンのこと大好きだもんな」
「ん…すき、すきぃ…ふっ…」
優しく頭を撫でて慰める声を出せばくしゃりと顔を歪めて泣きだした。
感じているのに変だなと笑って、揺すり動かした。
途中までは俺の名前を呼んでいたが快楽に埋もれてくるとリボーンとうわ言のようにくりかえした。
仕方ないので、目を掌で覆ってやる。
「どうしてたのかいってみ?」
「そ、そこ…かきまわし、て…もっと、つよく…ふぁぁあぁっ、りぼーん…りぼーん」
「よしよし」
違うと、わかっている。
けれど、幻想を追いかけてしまうものなのだ。
こんな報われない慰め役を買って出たのは実は二人目。
俺はつくづくこういう役回りに縁があるらしい。
「ほーんと、似てるなぁ」
これは、俺にとっての過去のことなのであまり思考をとられないように綱吉に合わせる方へと専念した。
最後はあっけなく綱吉が先に果てて俺も追うようにゴムへと吐き出した。
そりゃもう、セーフティーセックス普通でショ?
ゴミを片づけてまだ泣きやまない綱吉にぬれタオルを差し出した。
「明日も大学だろ、ちゃんと腫れないようにしとけ」
「ん…」
同じところに通う身としては、心配だ。
そうして、その日は綱吉を布団に寝かせ、俺は自室のベッドで寝る。
一緒に寝ないのは配慮のつもりだ。
綱吉はまだ泣き続けるだろう。
まだ一年足らず、それにこき使われてばかりで女遊びが激しい同居人に恋したらこんな風に切なく泣けるのだろうか…。
「青春だ」
こんな風に恋焦がれる時代が俺にも昔ありました。
今はもう身体だけどうにかなれば良いという体たらく。
きっと、俺はもう生きるのに疲れ始めているのだ。そんな中綱吉の存在は新鮮で、ついその恋を応援してしまいたくなる。
どうか、幸せになればいい。
夢にみ過ぎか、と笑って目を閉じた。
隣の部屋から少しの物音が聞こえてくるのを感じつつ俺にできるはあそこまでだと線引きを忘れない。
そして、綱吉の傷が冷めやらぬとき、追い打ちをかけるように大学への道のりで出くわした女の人をみた。
それは綱吉いわく、リボーンの恋人(仮)なそうな。
ちらりと見ただけだが目を引く容姿だ。
また落ち込みかけている綱吉を慰めつつも、俺はあの顔をしっかりと記憶したのだった。