パロ | ナノ

 終わりの合図

季節は冬、外は風が強く頬を撫でるそれは刺すように冷たい。
リボーンが好きなのかもしれないと考えて、ずいぶん経つ。
いや、時間的には経っていないが気持ち的には充分な時間だった。
好きと思ったらだめだと言い聞かせたのに、結局俺はリボーンが好きだ、までこぎ着いてしまった。
なにせ、リボーンが逐一俺に優しいのだ。
ちょっと前まではそんなこと微塵も感じなかったのに、意識した途端リボーンの行動が全部俺を好きだから、という前提で動いていると錯覚してしまいそうになるほどに。
あの夜介抱されたのだって、今でも髪を乾かすのはやってくれるし、ご飯はいつも全部食べてくれる。
夜だって、俺の身体に飽きるどころか最近は頻度を増している気がする。
ローションの消費量もゴムの消費量も共に多くなっているし、それでも決して生でやらないのはきっと遊びだからなのだろう。
いつでも跡腐れないように、未練もなにも残らないように。
それが少し心苦しく思えてきて、リボーンの本当の熱を想像して身体を熱くすることもしばしばある。

「もう、なんか意識したらいくとこまでいっちゃった気分…」
「想像だけで?」
「うるさいなぁ…」
「のろけ話に付き合わされてるこっちの身ににもなってくれよ」

いつものバー、隣にいるのはもちろん悠斗だ。
俺を介抱してマンションまで連れて行ってくれたときにリボーンと顔を合わせて以来アレはモテ男だと明言して止めない。
そして、俺の心境の変化も逐一悠斗に話しをしているので最近ではまたリボーンの話しかといわれてしまうよことがよくある。
そんなことを言っても大学でだってリボーンのことが頭から離れなくてどうにかなりそうなのだ。
誰かに聞いてもらえば少しは収まりを見せるかと思えばそうでもない。
こっちだって困っているのだとため息をつけば惚気は勘弁してくれと呆れられる。

「誰にも話せないし…」
「…まぁな」
「悠斗のせいで好きになっちゃったようなもんだし」
「俺のせいかっ!?」

そういう悠斗もあの顔はいい、上玉だと言っている。
ただ、悠斗の場合タチなのでどんなにいい男でも同じ人種には靡かないのだ。
そうは言いつつ、この前タチな男をネコに調教してやったと笑っていたのだが、そこは目を瞑っておくことにしよう。

「なら、告白すればどうよ?」
「告白…断られたら嫌だし、気まずいし…」

そう、俺がためらうのはここなのだ。
同居人として、好きになるのは一番控えたかった人物。
これで断られたら一緒にいれない。
できることなら、円満に…むしろ、この身体だけの関係で満足している。

「でも、あの顔なら周りが放っておかないだろ。そのうちとられるぞ?」
「…そうなんだよね、なんか最近リボーン出かける回数多くなってる気がする」
「ほう?」
「合コンとか、普通に遊びに行ったりだとか…」

リボーンは最近よく出かける。
だからこそ、こうして家事をしなくてもいい日があるしそれでここにこれるのだ。
まぁ、リボーンに合わせる必要なんてものはないけれどなんとなくご飯は一緒が良いと思う。
だから、そのため俺は悠斗と会うことが可能になっている。
リボーンが部屋にいるのなら、こうしてここにきたりしない。
一人の部屋ほどつまらないものはないのだ。

「もしかして…彼女できたんじゃ?」
「合コンだって言ったけど」
「そこはみんなと遊ぶと見せかけてってやつで…」
「……」

悠斗の言葉に俺は納得するしかない。
だって、有り得る。
リボーンが誰かのモノになるなんて…。

「そうか、それが当たり前だもんな」
「ん?」
「だって、リボーンノンケだもん。俺なんかじゃなくて普通に女の子と付き合える」
「あー、ごめんて…そんな落ち込ませるようなこと言うつもりじゃなかった」
「いいよ、本当のことだし…きっと、そうなる」
「綱吉―、そんなに拗ねるなって」

よしよーし、なんて言いながら頭を撫でられた。
男じゃなきゃダメな俺よりも、女の方が良いに決まっている。
将来性もあるし、一度落ち込んだ気持ちは酒を飲んでいることで増大し、しばらく悠斗を困らせたのだった。

「あー、明日買い出し行かなきゃだった」
「ん?ああ、今日はさすがにどこも開いてないな」

帰り道、思い出したように呟けば悠斗が苦笑を浮かべる。
リボーンがいないと知って、すっかり忘れていたのだ。
悠斗途中まで一緒に帰り、別れた。
部屋に帰ればまだ、リボーンは帰っていないようで先に風呂を済ませる。
でも、いつ帰ってくるとかは聞かされていないので早々に寝ることにする。
こんなこと、最初のころはよくあったことだ。
ただ、俺がリボーンのちょっとしたことで動揺してしまっているだけで。
この気持ちは、忘れた方が良いのだろうか…いや、その方が良い。
自覚しつつも、想いを押し込める。
苦しくないし、このほうが楽だと思えばどうってことない。
感情が伴わないセックスなんて何回も経験してきたことだ。
やり過ごすことなんて簡単だ。
ベッドにもぐりこみながらそうやって自分を納得させ、目を閉じたのだった。




合コンも一度遊んでしまえば、二度目から断りにくくなるものだ。
最近綱吉の料理に慣れていたせいか、ほとんどのモノを美味しく食べられていない気がする。
けれど、アルコールを煽れば問題なかった。
店でひとしきり騒いでの帰り道、鳴ったケータイを開けば逸美からのメールだった。
その内容は彼氏と別れたから明日、買い物付き合えとそれだけ。
アレだけ執着していた彼氏と別れたというのはどういうことだったのか。
傷ばかりを負わされて一方的に突き放されたのだろうか。
理由を問い詰めようとして時間が時間なだけに、簡潔にわかったとだけ返した。
これ以上は明日会ったときにでも聞きだすことにしよう。
ぱたりと閉じたケータイをポケットにいれ、マンションにつけば自分の部屋を見る。
電気が消えているのを見れば、綱吉はもう寝てしまったのだろう。
最近落ちつかなくて、アイツの顔もまともに見ていないなとため息をついた。
前は、一緒にいる事も楽しくて、あんな気持ちに気づかなければこんな風に不自然に距離をとることもなかったのに…。

「チッ…」

自分はこんなにも不器用だっただろうか…。
よくわからない、そもそも俺はどんな人間だったのか…それすらも曖昧だ。
適当に誰かと付き合って適当にその場に流されてきた節もある。
好きなところだけとって、面倒なことはどうでもよくなっていた。
今回のこともどうでもいいことに分類したかったが、そうもいかないようだ。
そろそろ、お金も尽きてきた、
遊ぶお金なんぞ、最初からあってないようなものだったのだ。

「綱吉の顔でも見て寝るか」

あいつの間抜けな寝顔は癒し効果がある。疲れたときとか、部屋を覗くと少し安らぐのだ。
まぁ、これは本人は知らないことだ。
寝ている間にするので知らないのは当たり前。
俺は鍵を開けて中に入ると、そっと綱吉の部屋に入り込んだ。
案の定寝ていて、けれど顔を見て首を傾げた。

「眉間にしわ」

珍しいこいつでも悩むことがあるんだな。
つか、悪夢でもみてるわけじゃねぇよな?
いつもの間抜けな顔はどこにいったと優しく頬を撫でてやる。

「ん…」

すると、くすぐったかったのか、綱吉は小さく身じろぎ眉間のしわがなくなった。
俺は安堵して、そっと離れると綱吉の部屋をでた。
詰めていた息を吐き出してシャワーを浴びると明日のために早々に眠ったのだった。




「リボーン…」
「ひでぇ顔だな」
「女の子にそういうのってどうかと思う」

次の日、大学帰りに待ち合わせをして逸美と会っていた。
綱吉にはちょっと遅くなるけど、帰ると言ってきたので大丈夫だろう。
姿を現した逸美は化粧で隠しているものの昨日すごく泣いたのがはっきりわかる。
これから暗くなるため一見ではわからないだろうからいいのだろう。
ぷっと頬を膨らませた逸美に笑って、どこにいくんだと切り出した。

「えっと、服。服買う」
「わかった、好きにしろ」
「よっし、かっうぞぉ〜」

逸美は何かを振り切るように俺の手を引いて歩きだした。
俺は仕方ないなとため息を一つ吐いて、歩き出そうとして視線を感じ振り返る。
けれど、そこにはなにもなく街の福引のベルが鳴り響いていた。
逸美は財布に大金を詰めてきており、気が済むまで買い物を楽しんだ。
服を買った後は靴も、アクセも…と荷物が増えてきて俺は荷物持ちと化していた。
そうして、やってきた喫茶店。ようやく落ちつけると、思ったが次はケーキをほおばり始めた。

「こんなことなら一人でやってりゃよかったじゃねぇか」
「嫌よ、一人で広いテーブルを陣取るなんてできないもの」

荷物に視線を送りながら言う逸美に、広いテーブルには所狭しとケーキやパスタが並んでいるのをみれば確かに、これで一人は虚しいかと苦笑した。
ちなみに、金欠の俺は珈琲だけだ。

「で、いい加減別れた理由を聞かせろ」
「…別に、単に二股されたってだけよ」

なんでもないとでも言うように吐き捨てられた言葉に、俺はじっと逸美を見つめた。
すると、観念したように口を開く。

「私は、二番目だったの。どんなに、愛されてたって二番目なんてごめん。だから、別れたの」
「それでよかったのか?」
「良いも悪いも、そうするしかないじゃない。彼は私のこと玩具としかみてないし…」

これ以上付き合ってられなかったと逸美の口から語られたものは、その彼氏が最低な野郎だったという話しだ。

「あんな男いらない。私は一人でじゅーぶん」
「そうか」
「そうよ、こんな良い男が目の前にいるし。目の保養ぐらいにはなるわ」
「それ以上はごめんだけどな」
「私もよ」

にっこりとお互いに笑いあって、逸美のストレス解消に付き合ってやればようやく解放された。

「綱吉君によろしく、っていうかいつか会わせてよね」
「誰が、会わせるかよ」

逸美を家まで送り届けてマンションに帰れば、綱吉の様子がおかしかった。
俺はそこで気付くべきだったのだ。
どうして、そんなに思いつめたような顔をしているのか…とか。
機嫌が悪いと思ってキスをしてやれば、きもいと突っぱねられた。
そして、抱いた後綱吉はこういった。

「あのさ、俺だって好きな人ぐらいできるよ」
「……」
「だから、これで最後」

じゃあね、と呟かれた後閉まったドアを俺は呆然と見つめていた。
何の変化もないと思っていた日常。
俺が知らないうちに、いつの間にか崩れていて後はもう俺の足場しか残っていなかった。
そして次の日から、綱吉は帰ってこなくなった…。







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