◎ 安定した暮らし
季節は秋に入り、過ごすにも丁度よくなってきた。
それと同時に食べ物がおいしくてつい食べたいものを買い過ぎてしまったりして、無駄な出費も増えている原因だ。
でも、食べると言ったらもうひとつ増えたものがある。
「ふぁっ…あぁっ…」
這いつくばってシーツを握りしめた。
リボーンの熱はいつ迎え入れても熱くて、硬くて、欲しいと思ったときにもらえるモノとしては最高級の部類に入るんじゃないのだろうか。
形も硬さもいいかんじで、しかも最近はこうして後ろからやるのがお気に入りらしい。
体勢的にも俺は楽だし、気持ちいいしで結構満足していたりする。
「はっ、いく…いくっ、りぼーんっ」
「っ…ほら、いいぞ…いけ」
腰を掴まれてぐっと奥へと入り込み、ぐりぐりと腰を回されると頭の中が真っ白になって一気に脱力する。
中へと脈打つそれを感じて、力を失くしたそれが抜けていく。
そうして、いそいそとゴムを処理するのだ。
荒れた呼吸を整えながら、俺もゴムを外してゴミ箱へと捨てた。
これも最近では当たり前の光景になっている。
きっかけは明らかに夏のあの出来事だ。
リボーンは俺と二人きりになれば身体を求めた。俺が嫌がる時もあるが、気持ちいいことはお互い好きなようで、許すとずるずるとやってしまっていた。
次の日のことを勿論考えての行動だ。
「ふぁ…」
「お前、自分の部屋行けよ」
「リボーンがこっちでするって言ったんじゃん」
俺は自分の部屋でやろうと言ったのに、ゴムがこっちにおいてあるからとそんな簡単な理由でリボーンの部屋で致した。
眠いと欠伸をしたところで、押しやられて、力も入らないのにそんなことを喚くなと睨みつけてやれば乳首をひっぱられた。
「ひっ…」
「感じやすいな、自分で開発したのか?」
「いや、俺がいいたいのその話しじゃないんだけど」
「開発したのか?」
「あくまでそれな…自分でするわけないだろ、触られてたら勝手に感じるようになったんだよ」
一つのことに夢中になると抜けだせなくなるらしい。
思考にしても、何にしても集中力があることはいいことだが、こんなことにそれを使ってほしくない。
俺は隠すようにシャツを引き寄せた。
急いで腕を通すと袖が長いことに気づき、リボーンのものだと知ったとたんリボーンがニヤリと笑うのが見えた。
「彼シャツなんて、どこで覚えたんだ?」
「ちょっ…今のは偶然だ。もうしないっ」
覆いかぶさってくるリボーンのわき腹を膝で押し、これ以上何かされる前にとベッドを抜け出した。
ふらふらとした足取りで立ち上がり俺はドアに手をかける。
「おやすみ」
「ん…おやすみ」
背中にかけられた声に返しながら俺は自分の部屋に戻ったのだった。
ベッドに寝転んで天井を見上げた。
性癖がばれるどころか身体の関係まで持ってしまった…自分としたことが、これではのめり込み過ぎだと額を押さえた。
「こんなの、どうせどこかで止めることになるんだから…」
自分を追い詰めるだけだなと感じて、それなのに止められないことも同時に思う。
身体を重ねた回数はずるずると伸び、今では両手以上のことになってしまっている。
このままではいけない。
何とかして、俺は彼氏を作ることにしよう。
リボーンとこの関係を続けていたら、きっと痛い目を見るのだ。
それだけは、嫌だった。
早くは慣れなくては…俺はケータイを掴むとメール画面を開いた。
そこには、同じ趣向の友人、明日会えるかととりあえずこの状況についての意見を聞きたかった。
明日は、友達と飲みに言ってくるとリボーンに言ってから学校に行かなくては…と眠りの淵をふわふわとしながら思っていた。
「…というわけで」
「なんつうか、綱吉ってホント美味しいよな」
「美味しい…のかな?」
学校が終わり、バーへと来ていた。
もちろん、リボーンのバイト先の、ではない。
二人してカクテルを飲みつつ俺は今までの経緯を説明した。
かっこいい残念イケメンとルームシェアをしているとは言ったことがあるが、身体の関係まで持っていると明かしたのは今が初めてだ。
それを聞いていた、悠斗はしみじみと呟いた。
美味しいというのは、この環境のことだろう。食事は自分でやらなきゃいけないという状況下でよくそんなことが言えたものだ。
洗濯以外は結局俺がする羽目になっているこれで、なにが美味しいのだろうか。
そりゃ、欲求が溜まる前に解消させてもらえるのは嬉しいが…。
「セックスしてもらって、ご飯は美味しいって言ってもらえるし…それって、もう彼氏じゃん」
「違うから、そういうのは嫌なんだって」
「あーはいはい、その同居拒否癖なんなんだよ」
「一緒にいたら何もかも許しそうだし、そういうのって嫌だなって」
実際もう強請られたら断れないところまで来てしまっているのだ。
これはおかしい、俺達は付き合っていない。
ただちに俺には彼氏が必要なのかもしれない。
「あのさ、彼氏って作りたくて作るもんか?」
「…だって、ここにいたら話しかけてくるし」
「それって、単なるセフレだから。大体、ホテル以外でやるとこないだろ」
「…あ」
呆れた、と悠斗が額を押さえていて俺は、自分の馬鹿さ加減に恥ずかしくなる。
自分の部屋に呼ぶのはダメで、相手の部屋に行くのも嫌だ。
ホテルは金がかかるし…そうなったら、青姦ぐらいか…。
「ちょっと、寒いか」
「あのな、そんなこと考える前に、その男のナニで満足しとけよ」
「満足だよ、硬さ形大きさどれをとっても理想的すぎて本当に嫌になる」
「それ、自慢だろ。どう見てもそうとしか思えない」
そんなことないって、むしろ俺は真剣に悩んでいるのに…。
リボーンの身体が気持ちよすぎてどうにも離れる気にならない…これはいけない。
リボーンはノンケだ…リボーンは、ただ遊びで俺を抱いているだけなのだから。
「俺、この生活にいつまで耐えられるかわからない」
「耐えられなくなったら俺んちくれば?少しは気がまぎれるだろ」
「ホント!?」
「まぁ、たまにはお泊まりも楽しそうだと思うし。いつでも」
悠斗の喜ばしい申し出に、俺は心の荷が軽くなった感じがした。
何もかも硬く考えすぎなのだと思うのだが、ほらなにがあるかわからないし…心の準備だけはしておいても損はないと思うのだ。
それに、リボーンは遊びに行く回数は減ったが、なくなったわけではない。
「すきって思っちゃったら、終わりだと思う」
「そうかなぁ?意外と、向こうも好きだったりして」
「ないから、それは絶対あり得ない」
悠斗の言葉に首を振って、話しを聞いてもらった気分のままに飲み続けた。
そして、アルコールに強くない俺は…酔いが回ってタクシーでマンションまで送ってもらうことになってしまったのだ。
「ほら、綱吉しっかりしろって」
「ん…はきそう…」
「部屋どこだよ」
「303…」
口を手で押さえながらふらふらとした足取りで悠斗に運ばれていた。
エレベーターの揺れでも恐ろしくなりながら、部屋まで来るとドアを開けた。
「ただいま…」
「遅い、いつまで飲んでんだ。明日一限からだったんじゃ…」
「ども」
「…ども」
リボーンの声と悠斗の戸惑った声に俺は顔をあげた。
二人は気まずそうな顔をしていて、なんでか俺はリボーンに身体を支えられる。
「へ?…え?」
「いや、俺綱吉の友達で…飲ませすぎたのは悪いと思ってるから」
「飲んだのはこいつが悪いんだろ、わざわざすまねぇな」
「じゃ、俺はこれで」
またな、綱吉…と言って悠斗は帰っていったが、なんだか様子がおかしかった。
ぼんやりとした頭で考えるが答えは出なかった。
俺はリボーンの腕をぎゅっと握った。
悠斗の身体より、リボーンの方が少し引き締まっているようだ。
「おい、くっつくな酔っ払い」
「はきそう…」
「ばっ、こんなところで吐くなよっ!?」
微妙なあたたかさは嘔吐感を増して、だらりと凭れかかれば慌ててリボーンは俺をトイレに連れて行ってくれた。
便器にはこうとするが、なかなかうまくできない。
「かはっ…ぅ…ぅうっ…」
「なにやってんだ」
「はけない…」
「お前なぁ、指突っ込め」
「やってるけど、無理」
傍にいてくれたリボーンが声をかけてきてくれるがうまくできない。
自分ではどうしても加減してしまうのだ。
泣きそうになっていれば、仕方ないなとリボーンの長い腕が俺の身体を支えて、もう片方の手が俺の口に添えられた。
やられるまま口を開かれて、そのまま容赦なく奥へと入ってきた。
胃からせり上がるモノを感じればそれを便器へと吐き出していた。
「はっはっ…げほっ…」
「まだやるか?」
「ん…も、いい」
冷静なリボーンの声を聞いて俺は首を振った。
水を流されて、どうしてリボーンはこんなものをみても平気なんだろうかと…頭の片隅で思っていた。
リボーンが離れて、俺はよろよろと立ち上がる。
ソファまでたどり着くなり身体を預けた。
「ほら、飲んどけ」
「ありがと…」
水が運ばれてきて、俺は嬉しくなる。
飲みほして気持ち悪さが払拭された。
風呂は長風呂せずさっさとはいって寝ろ、と頭を撫でられて不覚にもときめいてしまった。
…どうしよう、リボーンが優しすぎて…やばい。
どきどきと高鳴る胸は、緊張とかそんなものじゃない。
あきらかに、ある念を持っていて俺は恐ろしくなった。