◎ 開かれるドアは前触れなく
外からは熱気がやってくる。
クーラーは自室にない、けれど俺は部屋にこもっていた。
それには理由がある。
夏休みに入りリボーンは頻繁に出かけることが多くなった。
それは当然と言っていいだろう、なにしろこの部屋よりは外の店の方が断然涼しいのだから。
そして、俺は欲求不満を引きずっていて、しかも今日は朝からリボーンがいない。
いつもの時間に起きてこないし、靴もなかった。
俺は隠しておいたバイブをとりだした。
これは、俺が一人のときによく使うアナルバイブというものだ。
あと、ローションとゴム。
ゴムは自分のモノに被せるのだ。ゴミは自分で行くときにそっといれる。
「夜にならないと気分でないけど…しかたないよな」
一人身というのはこういうときに虚しくなってくる。
だが、特定の相手を作る気にならないのだから仕方ない。
リボーンいるし…。
アイツはいろんな意味で手のかかる男だと思う。
外見だけはいいくせに何もできない…いや、できるのだけど適当だったり、俺任せ打ったり。
だから、俺は一人で出歩くこともできない。
今日はバイトもなく、一人きりなので寂しく欲求解消に努めることにしたのだ。
「っ…」
掌にローションを出してそのまま後ろへと塗りたくった。
少し冷たいそれに身震いしながらも、だんだん慣れていく。
ベッドの下に膝をつき、後ろ手に指をいれる。
くちゅくちゅと自分で弄るのに夢中になり、少し硬くなっていたそこも開いていく。
「はっ…はぁ…んんっ…」
なるべく声を出さないようにして三本入れ丁度よくなったところでバイブにもローションを塗りつける。
テラテラと光る男性器を模したそれを、指を抜いた秘部へと宛がった。
「ひっ…あっ、ふぁっ」
なるべく息を吐き、それを押し込んでいく。
つるつるとしたそれが中へと入っていく感覚に感じてぎゅっとシーツを握りしめた。
スイッチをいれてうねうねと動き出すそれに声を抑えるのが難しくなって枕を引き寄せ噛んだ。
「んふっ、んんっ…」
自分からぐちゅぐちゅと抜き差しして気持ちいいところを擦りあげる。
やばい、きもちい…さいこう、もうイく…イく…
動かすたびに背筋をぞわぞわとした感覚が走り抜け、腰が揺れる。
「おい、綱吉飯…」
「え…?」
もう限界というところで、突如として開けられたドア。
誰もいないはずだったのにそこにはリボーンが立っている。
俺とリボーンはお互いに現状を飲み込めず固まり、バイブだけが虚しくぶるぶると音を立てていた。
「って、いつまで見てんだよ…閉めろ、閉めてくれ」
「あ、ああ」
ぱたりと閉じられたそれに、俺はとりあえず安堵してバイブを抜いた。
イき損ねた上にリボーンがいたなんて…。
確かに靴はなかったはずなのに。
俺は疑問に思いながら、バイブを出して、見つかったとたんに萎えてしまった自身からゴムを取り外した。
ついでに、これで自分がゲイであるということもばれてしまったのだろう。
「はぁ…」
居づらくなるなぁと考えているとドアの向こうから物音がした。
「もういいのか?」
「まだいたんだ」
「閉めただけだからな、お前ゲイだったのか?」
「そーだよ、お前を食べたりしないから大丈夫。嫌なら出てくけど?」
片づけながらなぜか冷静になる自分に少し呆れながらリボーンの返事を待つ。
これで嫌だと言われたら、行く先もないので路頭に迷うことになってしまうのだが…。
「いや、入っていいか?」
「は?なんでそうなる」
「勃った」
「は?」
「勃った」
「………はぁ?」
「勃起した」
「うるさいっ」
からかいのようなドア越しの会話になんだと俺は立ち上がりドアを開けた。
そして、後悔する。
リボーンは本当に勃たせていたのだから。
「ちょっ…え…まって」
「お前があんな恰好でいるからだろ」
「いやいや、そういうの関係ないじゃん。男だろ俺、どうみたって男にしか見えないんだよ、わかる!?」
「わかってる」
そう言いながら俺の肩を押して、俺の部屋に入ってくる。
俺は押されながら後ろ歩きを余儀なくされ、足が何かに当たったかと思えばベッドに尻を突いた。
「なに…なに、なにっ!?」
「うるせぇ、少し黙れ」
「んんっ…んーっ」
リボーンに理不尽なことを言われ、顔が覆いかぶさってきて容赦なく唇を塞がれた。
しかも、上手い。
ねっとりと舌に絡み、咥内を舐めまわしている。
ぐっとまだ身体を押されるので押し倒されまいと俺はリボーンの腕をぎゅっと握った。
が、巧みなキスに忘れていた快楽を思い出してか身体が反応しだしまずいと首を振る。
「っ…お前、なにするんだよ」
「何って、ナニだろ」
「リボーン、ノンケじゃなかったの?」
「俺は男でも女でも気持ち良けりゃなんでもいい」
「……さいてー」
なんだその言い草はと睨みつけるが、リボーンの手が俺の自身へと触れた。
「その最低なやつのキスで勃起させてんのは、誰だ?」
「うっ…」
「どうせ、相手いねぇンだろ。だったら、俺でもいいだろうが」
悪魔の様な誘い文句だった。
付き合うわけじゃない、身体だけの誘い。
付き合わなければ、いい…。
欲求の発散なんてこんな空間では無理、ならば二人でしてしまえばいい…。
リボーンの手が伸びてきて、俺の服の中へと手をいれる。
「あっ…」
「感じやすいな」
「いうな…」
「なら、どうすればお前をヤる気にさせられるんだ?」
甘くひずんだ声に俺は、煽られた。
俺の求めていた人肌。気持ちはなくても、肉塊を奥へと迎えることができる。
「女の、後にやられるのは…ごめんだ」
「なら、女を抱いた後は避ける」
最低限のルールを言えば、頷く。
しかもその目は真剣だ。
そんなにも夢中になるものは俺にはないというのに、どこが気に入ったんだか…。
混乱して冷静になってくる頭で考えるも、まったく見当がつかない。
その間にもリボーンは俺の服を脱がしてくる。
せっかく着直したのになにをするんだと思いつつ、抱いてもらえるならいいかと楽観的に考えている俺もいるのだ。
まぁ、欲求はどうしても溜まってしまうもので…しかたないこと、それを処理してくれるというのならこの上ない申し出…。
「痛くしたら、殴る」
「さっきしてたんだから大丈夫だろ」
そもそも男のやり方も知らない男に身体を委ねようとしていることに気づいて、それでも今日はさっきならしていたのもあるし今からいれられても、苦しいだけで耐えられるだろう。
しかも、さっきからあちこち触られているせいでだんだんと息が上がってくる。
抵抗していた手はいつの間にか引き寄せるように力を入れていた。
「ゴムはあるのか?」
「そこ…」
「…きついな」
「自分の持ってこいばか」
俺のサイズできついとかなんだ、自慢か。
いらっとしながらもそれを嵌めたらしいリボーンは俺の足を抱えるなり秘部へと宛がってくる。
さっきとは違う、温もりに俺はとっさに身構える。
すると、リボーンの手が伸びてきて頬を撫でた。
「力むな」
「わか、ってる…はぁ…ん」
息を吐きだして、力を抜いた傍からぬぐっと入ってくる自身。
久々の機械じゃないモノに俺は唇を噛んだ。
「声出せ」
「は?」
いきなりの注文に何を言い出すんだと見返すと無理やり俺の口にリボーンの指が入ってきて無理やり開かされる。
そのまま、ぐっと中を侵食されて、開かされた口からはあられもない喘ぎ声が漏れた。
「ああぁっ、やぁっ…んぐ、はぁあっ」
「あ、いいな…くせに、なりそうだ」
リボーンの熱っぽ声に俺は涙で滲んだ目を開けた。
すると、俺みたいに息を吐いて俺の中を突き上げているそいつがさっきみたいに生意気に見えなくて少し、可愛く映ってしまったんだ。
だめだ…と思ったのは一瞬。
俺は伸ばした手をリボーンの背中にまわしてもっとと密着した。
「あぁっ、そこ…もっとっ」
「ここか?」
「んっ、んあんっ…あぁっあーっ」
こくこくと頷くとそのままそこを硬いそれで擦られた。
堪らないと身悶えて中を締めつけたらリボーンも苦しそうにして、最奥を突き上げて身体を震わせた。
中で震えるそれに誘発されるようにして、俺も果て一気に弛緩した。
だんだんと思考が戻ってくれば、どうしてあんなことをしたんだろうかというなんとも言えない後悔がまた襲ってくる。
流されたのは明白だし、リボーンはいそいそとゴムを片づけていて、出ていったかと思うと冷たい水で濡らしたタオルを持ってきてくれた。
「意外と他人の世話焼けるんだな」
「お前俺を誰だと思ってるんだ」
あー、女もほっとかない俺様リボーンだった。
どんな風にしてたらしこんでいるのかと思えば、こういうことなのだろうか。
身体を拭きながらそんなことを思っていた。
「これ、気持ちいいのか?」
「わぁっ、やめろよ」
いきなり言われて顔をあげればリボーンは俺の玩具で遊んでいて、慌ててとり上げる。
まさかこんなことになるとは思ってなかったからベッドの放置したままだったことに今更ながら気付いた。
「これからは、俺が手伝ってやる」
「なにを?」
「オナニーだ」
「…まぁ、いいけど」
一人じゃなかったらもうオナニーではないのだが、これ以上言及するのは止めた。
それに、ばれてしまった以上気まずくなるよりずっといい。
試しに始めてみてからでも遅くはないだろうと、そのときは軽く感じていたのだ。
そんな、夏の日の出来事…。
「何で部屋にいたんだよ」
「あ?普通に課題やってただけだぞ?」
「靴なかっただろ」
「そこにある」
示されたベランダには、洗いたての綺麗な靴がそこにあった。