◎ 思うところ…
夏になった。
外からは蝉の声が聞こえ、部屋ではクーラーをつけている。
が、学生がそんなにクーラーを乱用していいはずもなく、設定温度は27度と高めの設定だ。
正直暑い、でも外の方が暑いのでここは我慢するしかないのだ。
「暑いよー…暑いよー…」
「うるせぇ、静かにしろもっと暑くなるだろうが」
そんなことを言われたって静かにできるわけがない。
暑いと口にしないとそれはそれでストレスがたまるような気がしてくる。
少しでも涼しさを味わうためにソファを少しずれて、暑くなったらその場所へと戻るというちまちましたことをしている始末。
でも、そうしなければダレてしまってどうしようもないのだ。
バイト先が一番涼しいのだが、今日は休日…嬉しい休みのはずなのに、どうしてこんな我慢を強いられなきゃならないんだ。
「うちわ…」
「ほらよ」
リボーンは涼しげな顔をしてノートパソコンのキーを打っている。
クーラーがこの部屋しかないので、今の時季は仕方ないと思っている。
そもそも、課題が見られたところでお互いに理解できないのだ。
うちわで自分に風を送りながら静まりかえる室内。
なにもすることがない休日ほどつまらないものはない。
「夏休みいつから?」
「一週間後だ」
「じゃあ、結構課題詰まってるんじゃない?」
「…まぁ、それなりにな」
ふぅんと適当に相槌を打ちながら、終わったら天国だろうなと結構できているっぽい画面を眺めながら羨ましく思った。
俺はもう少し後だから、課題の期限ももう少し先だ。
のんびりやろうかと思っていたのだが、リボーンがやっていると自分もやらないといけない気分になってくる。
「俺は別に時間あるのに…」
「やりたきゃやればいいだろ?」
「えー…」
「俺はお前が課題やろうが放置しようがどうでもいいがな」
リボーンはそれだけ言うとカタカタとキーを打っている。
その軽快な音がまたなんともいえなくて、俺は一つ溜め息を吐くとノートパソコンを持ってきてテーブルに置いた。
結局二人で課題に取り組んでしまって、リボーンは終わったが俺は終わらずそのまま夕食時になったので切り上げた。
「腹減った」
「わかったから、片せ」
俺は先にノートパソコンをしまって、リボーンに言いながら今日は冷やし中華にするかと野菜をとりだしていく。
最初は覚束なかった包丁も今では手慣れたものだ。
トントンとリズムよく刻んで揃え、ゆで上がった麺を皿に盛りつける。
野菜もしっかりといれて、はこんでやると嫌な顔をした。
なんだ、嫌いなもんでもいれたか…?
「お前、トマトいれるんだな」
「…ああ、嫌いなら移せば?」
「別に」
気になったのかリボーンが言うのに、自分の皿をだすが、いいと言ったきり自分で食べ始めていた。
トマトもこれまでで出したことはあるが、言われたことはない。
冷やし中華に入っているのが嫌だったのかと結論付けて今度はいれないように気をつけようと注意することにした。
食事を担当して、リボーンの好き嫌いがわかってきたような気がする。
女の子は男の胃袋を握ればいい、なんてよく聞くが…リボーンの場合胃袋を握れる人間はいないんじゃないのかと思う。
煮物は味が濃いのはあまりすきじゃないし、野菜もこの料理はよくてこれはだめというのがある。
この男はきっと難攻不落だと思う…。
「なんだ?」
じっと見つめていたのが知られて俺はなんでもない、と慌てて首を振った。
リボーンと暮らす毎日は、怒ることもあるし怒られることもあるし…俺達二人とも遠慮ないし。
喧嘩する時は本気で嫌いだし、気が合う時は一緒にいたりする。
馴染んできたという意味ではいいかもしれないが…ちょっとこれは、距離が近いんじゃないのだろうかと時々思う。
リボーン自体が一緒にいるのが好きらしい。
よく友達と遊ぶし、彼女でもないのに夜中出歩いて朝方帰ってくる時もある。
身体だけの繋がりがある人だっているだろう。
別にいいけれど、リボーンが人肌恋しいタイプだというのは新しい発見だと思った。
「ごちそうさま」
「んー」
しっかり食べて席を立つリボーンに返事をしながら俺も食べ終えれば食器を片づけた。
今日の家事を終えると肩を回して風呂にでも入ろうかなと考える。
「リボーン、風呂はー?」
「後でいい」
「なら、俺が先に入ろう」
リボーンの返事を聞くなり俺はうきうきと浴槽に湯をためた。
俺は夏だろうと冬だろうと湯船につからないとすっきりしない。
リボーンは逆にシャワーだけだ。
だって、いつもカラスの行水…。
それでは身体の芯まで暖まらないじゃないかと思うが、他人にことなので口は出さない。
スウェットをもって入り、頭を洗ってから湯船につかる。
「すっかりなじんだな…」
他人との生活なんて大丈夫だろうかと思ったが、こんなに楽なら自分の家にいるよりいいかもしれない。
まぁ、食事を作らなければならないのはちょっと面倒だと思うのだが食事の時間は決められてるし…遅くまで起きてたら早く寝ろと急かされるし…そう思えばこんなに自由なことはないと思うのだ。
俺は天井を見ながらぼんやりとそんなことを思った。
リボーンはああみえて、世話焼きだったりするし…不満はあまりない。
大学の友達でもルームシェアしている奴らがいるが、そっちは性格が合わなかったりでストレスがたまる毎日を送っているらしい。
それに比べたら、こっちは全然楽だ。
「部屋にいても苦じゃないって、最高かも」
ふぅと息を吐きだして俺は湯船を立った。
逆上せないうちに出ようと浴室を出るとドライヤーを持って下だけ穿いてでた。
「リボーン、やって」
「お前なぁ…子供じゃねぇんだぞ」
「自分でやるの面倒臭い」
ソファに座っているリボーンの前に座るとドライヤーをコンセントに刺した。
スイッチが入りリボーンの指が俺の髪を撫でていく。
この感覚がちょっと癖になってしまったのだ。
リボーンがいるときはやってもらいたくなるぐらいに、俺はハマっているのだと思う。
くしゃくしゃと撫でられて髪を梳く、その動作が自分でやるより気持ちいい。
首にかかればくすぐったくて首をすくめる。
「じっとしてろ」
「くすぐったい」
リボーンは面倒臭そうにしながら満更でもない。
なんだかこうしていると恋人みたいだなと考えてしまって、俺は慌てて考えを改める。
そんなこと考えるのは止めよう。
俺は女の子がダメな口だ。
可愛いと思えるが、付き合うとなると話は別だったりする。
オナニーもしっかり後ろを慣らすぐらいには、もう男しか受け入れられない身体になってしまっているのだろう。
付き合う対象が男というだけで、別に変化はない。
けれど、ルームシェアしている相手に対してはそういう風に思うのは止めようと思っていたのだ。
きっと、親しくなることはわかっていた。
でも、絶対揺らいではいけないのだ。
そうなったとき、両想いならばいいが気持ち悪がられたり、付き合って別れた場合行く先がないのだから。
そう思っていたら、背中をつーっと指がなぞった。
「ひぁっ…!?」
「はっ、お前敏感だな」
「リボーンッ」
「裸でいるのが悪い。早く服を着ろ」
悪戯した奴を睨めば注意された。
まぁ、暑くて裸でいた俺も悪いがいきなりそんなことしないでほしい。
思わず女みたいな声が出てしまって、自分でもびっくりした。
顔が赤くなるのを誤魔化すように俺は服を着てドライヤーを片づける。
「髪、ありがと」
「ああ、いつものばさばさ髪だな」
「うっさいよ」
ぼさぼさは余計だと喚いて自分の部屋へと戻った。
心臓が高鳴ってなかなか鳴りやまない。
いきなりあんなことをされるとは思ってなくて、落ちつかなかった。
「っくりしたぁ…」
次からはしっかりと服を着てからリボーンのところに行こうと決めて、深呼吸を繰り返した。
節操無い身体はそのうち疼きだすから性質が悪い。
そのうち相手でも探しに行くかとため息を吐いて、その日は誤魔化すように早々就寝したのだった…。