◎ センスを笑う
花粉舞うそんな日のこと。俺は自分のタンスを見て違和感を覚えた。
「あれ?あの上着どこにしまったんだったっけ?」
気に入っていた上着がない、タンスを見て放置しておいてある服を見てそれでもないことに首を傾げた。
選択当番はリボーンだ、俺はリボーンが行方を知っていると思って部屋に顔をのぞかせた。
「リボーン、俺の上着知らない?」
「んぁ?上着?…ああ、これか?」
ひょこっと顔をのぞかせれば課題をしていたのだろう顔をあげて、選択の山から引き出されたそれは俺の上着。
最近着てなかったのに、どうして洗濯ものの山に…っていうか、それリボーンの選択の山だろ。
「お前、勝手に着てたのか!?」
「…お前、上着だけワンサイズ大きいの着るよな」
「っ…悪かったなっ」
俺とリボーンは服のサイズが違う。
体格が違うから当たり前だ。でも、上着は見栄でワンサイズ上のモノを俺は持っている。
全部そうじゃないけれど、最近のものはそういうのが多い。
よく見れば、まだ俺の服がまぎれてる。
「何で俺の服勝手に着るんだよ」
「お前気付かなかっただろ」
「気付いてないけど、俺のものだろ」
「着てく服がなかったんだ。お前も俺の服着ればいいだろ」
「……お前の服着方がわからないし…」
勝手にされるのが嫌なら、こっちのも使えばいいと言われて俺はリボーンの服を見た。
俺の着る服とは圧倒的に違う。
リボーンは着こなしとかすごくかっこよくするのだが、俺のはただ着ているだけ。
リボーンの服を着てもいいと言われたところで、どういう風に着こなしたらいいのかわからないのだ。
それに、リボーンの服を借りるとなれば一式になってしまう、そしたら身体のサイズが合わないことはわかりきっているのだから、無理だ。
そう思って言えば、ぷっと笑われた。
「センスないな」
「悪かったな、センスなくてっ」
どうせ、俺はただ服着てるだけだよ。
拗ねた気分でリボーンのところから自分の服を引っ張りだしていく。
意外にもたくさんとられていたことに、呆れていれば怒ったのかと声をかけられた。
「別にっ」
「おい」
声をかけてくるのを無視して部屋を出、自分の部屋にと戻るとタンスに服をしまっていく。
そりゃ、リボーンの方が遊びに行く回数が多いって言ったって、人の服を何の断りもなく持っていくのは違うだろ。
まったく、とため息をついて自分も課題をやろうかと机に向かった。
部屋の外から物音が聞こえ始め、リボーンが何かやっているのかと思った。
課題に一区切りつけたくてそれを無視して取り組んでいた。
暫くして、外からいいにおいが漂ってきた。
外を見れば丁度夕日が沈んでいくところで、空がオレンジに染まっていた。
「綺麗だな」
俺の部屋から見えるこの景色は一等級だなと笑って、俺は椅子を立ち上がる。
外で何をしているのか、そろそろ突き止めないといけないようだ。
ドアを開ければ、じゅわっと音がして匂いが強くなる。
「料理してるのか?」
キッチンに立っているリボーンを見つけ、手元を見ればフライパンを握っているようだ。
「綱吉、お前好き嫌いないな?」
「好き嫌いするのは、リボーンだろ」
突然振りかえって聞かれたことに答えれば、ならいいと笑顔を浮かべた。
さわやか過ぎるそんな顔に、つい絆されそうになった。
あれがリボーンの外面というものだろう。
俺にとっては結構珍しい部類に入るその顔を外では惜しげもなく晒してくるのだろう。
まぁ、そのおかげで俺は早い段階でリボーンに対する遠慮というものを取っ払ったのだが…。
「ほら、できたぞ」
「オムライスだ…美味しそう」
皿に移されたそれが目の前に突きつけられて、綺麗な形のオムライスに感嘆の声をあげた。
…が、いつも俺が食事を作っているわけで。
「お前、作れるなら俺が担当しなくてもいいじゃないか」
「面倒臭いだろ、美味く食べてやるから作れよ」
なんだ、美味く食べるって。
俺様な言葉に勘弁してくれといって、オムライスを渡されテーブルへと運んだ。
「これ食べたら機嫌直せよ」
「…謝ってるつもり、なんだ」
「いやなら食べなくていい」
「ごめんごめん。怒ってないから、いただきます」
これが謝罪のつもりならありがたく受け取ろう。
俺は嬉しくなって手を合わせるなり一口含んだ。
手慣れた美味しさが口の中を広がり、俺はにっこりと笑った。
「美味しい、ありがとうリボーン」
「オムライスで機嫌を直すなんて、子供だな」
「もっとややこしい性格の方が良かったのかよ?」
「いや、簡単で丁度いい」
まぁ、簡単だからこそこの面倒臭い二人暮らしが実現しているんであって…あまり深くは突っ込まない。
それが、いいんじゃないのだろうか。
よくわからん同居人と暮らして約二ヵ月。
馬鹿な男だということが分かった。
そして、簡単だ。
当番は自分に合ってそうなのを選択。そして、あとはほぼノリで。
こっそり借りた服は、案が簡単に見つかり…こっそり返そうと思っていたのが失敗した。
怒って機嫌を損ねたため、機嫌取りにオムライスを作ってやったら喜んだ。
俺は、料理は得意じゃない。
唯一得意なものと言ったら、これだったのだ。
それで満足したような顔をしてもらえるのなら、とても簡単だと思った。
「窮屈じゃないのは、いいな」
ルームシェアと聞いて、身がまえなかったわけではない。
どんな奴がいるのかというのは、気になったし…同じ男なのは関係なかったが、俺の生活に口を出されるのだけは嫌だったからだ。
最初は猫を被って接しようと思ったが、とっつきやすい性格だと判断して取り繕うのは止めた。
俺が想った通り、綱吉はとても気さくで物怖じしなくて、ばかだった。
この場合、ばかというのはいい意味でのばかだ。
そのおかげで俺の毎日は居心地のいいものになっている。
交代で風呂に入ると、最後に入った俺が掃除をして就寝するために部屋へと戻った。
お互いバイトがあるので、関係はイーブン。
「リボーン、明日は?」
「作っておいてくれ」
「りょうかい〜」
食事担当を引きうけてくれた綱吉が部屋に顔をのぞかせた。
朝食の有無をきくなり、欠伸をしてドアが閉まる。
何気なく溶け込んでくる綱吉の存在は俺にとってなかなかぴったりとはまるんじゃないのかと思っていた。
「…男だけどな」
もし、異性だったら構わず恋人にしていただろう。
いや、したな。
俺が猫を被って接すれば落ちない女なんていない。
それぐらい、自分の顔にも身体にも自信がある。
こんなことを聞けば世のもてない男は怒り散らすのだろうがまったく構わなかった。
ただ、今は丁度彼女がいない…。
忙しいし、特に不自由していないからだ。
それに、夏になれば女あさりができる…夏休みというのは長くて、遊ぶのにちょうどいいのだ。
それも考えて、遊びたそうな女を選ぶのだ。
本気で付き合いを考えてくるような女は選ばない。
それこそ、面倒臭い。俺は、面倒なことが嫌いだ。
今は、綱吉という男がいるのでそれ以上は何もいらない。
「なんか、ホモにでもなった気分だな」
俺は全くその気はないが…綱吉もないだろう。
おしゃれをしようとしてからまわってはいるが、ああいう人間を好きな女もいるだろう。
他人のことに口を出さない、が俺のモットーだ。
ベッドに入り、電気を消した。
そして、次の日。
「行ってきまーす」
「…おー」
翌日綱吉が先に大学へと向かい、俺は見送っていた。
が、俺は気付いた。
「アイツ、俺の下着つけてきやがった!!」
昨日山にしておいた洗濯ものの中からお気に入りだった下着がどこにもないことを確認して、やられたと舌打ちをした。
「俺だってそれは借りねぇぞ」
綱吉の仕返しはいろんな意味で、俺をふっきれさせるものになった…。