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 違うと自分に言い聞かせた

思えば、初めての恋なんだと後になってわかった。
別に特別なにがよかったわけでもない、むしろ一人浮いている存在だった。
俺は、綱吉を構いたくて構いたくて毎日のようにちょっかいを出した。
それがだんだんとエスカレートしてしまったのは自分としても感情のコントロールができなかったからだと自負している。
でも、もう時間も十分経った…少しずつ、奴といる時間も増えていっている。
綱吉としても何で一緒に居るのかわからなくなってきているころだろう。
今日も甲斐甲斐しく夕食を作って待っていたようだ。
アイツの望むことは何だ…?
それは、今になってもわからないことだった。
だったら、いっそ簡単にぶつけてしまおうかと思った。

「ツナ、お前はなんで此処にいるんだ?」
「へ?」
「お前は、別に俺に惚れてるわけじゃないだろ?」

俺はご飯を食べながら世間話のように切り出した。
タイミングは此処しかないのだ。
綱吉の中の何かを目覚めさせるのは、たぶん今あたりのタイミングが一番有効だ。

「酒屋で偶然会って、酔った勢いでヤッて…一度きりだと言ったのにお前はここに通い続けている」
「…そう、だね」
「お前に何かない限り、此処にいるだけじゃなにも変わらない。ただヤりたいだけなら他を当たればいい、ああ俺のナニが欲しいって言うなら、毎日咥えてくれるだけで結構だぞ…それでいいのか?帰る場所がないわけじゃない。毎日のようにここに通い詰める理由が他に見当たらない」
「え…と…」
「好きって感じじゃないのは、目を見ればわかる」

一気にまくし立て、綱吉を追い詰めた。
人間追い詰められると本性を現すものだ。
いや、このまま偽りの姿を演じるでも構わないが、嘘でもここにいる理由の一つ位提示してみろ。
そう、綱吉を見つめた。
すると、綱吉は視線を逸らして俯き、何かを考えるように固まってしまった。
思考回路が追い付いていないのだろう、仕方ないやつだとため息をついてその様子を眺めた。
しばらくすると、顔を上げて…それは、あまりにも見たことのない顔だったからつい、驚いた。

「ちょっと、いい?」
「あ?」

綱吉は何かを決して椅子から立ち上がると、そのまま洗面台の方へと言ってしまった。
何をする気だと思いつつ夕食を口に運ぶ。
戻ってきた綱吉は眼鏡の姿だった、あのころより成長した面影を残したその姿はまぎれもなく俺が惚れたものだった。
そうして、綱吉は歪な笑みを浮かべたのだ。

「この顔…覚えてる?」
「……」
「俺は沢田綱吉、お前に苛められた綱吉だ」
「ああそうだな、そっくりだ…あの頃と変わらない」
「そう、変わらない。お前に苛められて、俺はこんなにも何もできなくなってた、仕返ししてやろうと思って近づいたんだよ。計画はばれたけど、いつかお前に地獄を見せてやる」

俺の心にすとんと何かが落ちてくる音が聞こえた。
これまで綱吉がなにをしようとしていたのか理解できなかったが、これでわかった。
あの時の仕返しをする、なんて可愛いことをする。
そんなことを言葉にすれば即刻心の底から嫌な顔をされることはわかっていたのでいうことはなかったが、それは告白にも似たような意味を持っていることを知っているのか。
俺はつい、その綱吉の言葉に笑ってしまって綱吉に頬を殴られた。

「俺は、苦しんでいるんだ…何で笑うんだよ」
「綱吉…すまん」
「謝られて、許すわけないだろっ」
「でも、あの時のことに後悔はない」
「っ…最低だっ」

そう、あのとき俺が取った行動はきっと人間にとっては最低なことであっても。こうして綱吉の心を掴んでおくためだと思えば、少しの痛みぐらいは仕方ない。
綱吉は泣きそうな顔で部屋から出て行こうとするから俺は慌てて立ちあがり綱吉の腕を掴んだ。

「帰るのか」
「当たり前だろ、もう此処にいる意味はなくなった」

投げやりのように言う、綱吉にそれはダメだと内心焦る。

「ここにいればいいじゃねぇか、どうせ一人で計画練るなら…ここにいても変わらない」
「は…?」
「地獄を見せるんだろ…?」

綱吉を誘うように言ってやれば、ゆっくりと腕から力が抜けていく。
自分から制裁を待つ奴なんかいないだろう。
ばかだな、綱吉。
計画も何も、全く駄目だ。
もう少し頭が良くなっているかと思えばそうではないようで、また苛めたくなる衝動を抑えるのに必死だった。

「お前、正気?」
「ああ、正気だ。お前がやりやすいように近くに居て良いって言ってんだから、いればいいだろ」
「なにそれ、変じゃない?」
「変じゃないだろ、それにお前自身俺に慣れたみたいで、最近じゃ一緒に居ても窮屈さも感じてないんだろ」

言い当てればびっくりした顔をする。
適当に言ったことだが、見事にあてはまっていたようだ。
このままいっていけば居座らせることも可能かと考えた。

「俺の近くにいれば、有力な情報が得られるかもしれない」
「……」
「俺を殺したっていいんだぞ、その機会をみるつもりで此処にいればいい」
「…それも、そうか」
「そうだ」

まんまと落ちてきた綱吉に笑ってしまうのをこらえた。
俺の計画が丸つぶれになってしまいそうになり、それだけは避けなければと何とか耐えた。

「一緒に住んでもいいって…本気?」
「ああ、俺の寝首をかくために一緒に寝てもいいぞ」
「…わかった。此処にいる」
「なら、夕食を食べるか」

納得した綱吉に笑みを浮かべて、再び綱吉は席へと座った。
二人きりに食事は一人の時よりも断然美味しいのだと知った。
それを教えてくれたのは綱吉だ。
例え、俺のことを殺そうとしていたとしても、俺はどんなになろうとこの男を愛すると誓おう。
それは、あのときからの自分の思いだった。




変なことになった。
俺の計画がばれたはずなのに、リボーンは俺を引きとめたのだ。
どうしてそうなったのかと疑問に思うが、答えはわからないまま。
自分を不幸にするかもしれない人間を近くに置くなんて、正気の沙汰ではない。
けれど、俺はリボーンの傍から離れることなくどうやって不幸にしてやろうかと考える時間が増えることに結局は居座ることに決めた。
二人で夕食を食べた後、入れ替わりで風呂に入って寝る時には寝室に呼んだ。
ちゃんとドアは少し開けて、密室にしないようにしてくれている。

「リボーンは、何を考えてるんだ?」
「何も考えちゃいねぇぞ。考えるのはお前だろ」

眠そうに目を擦って、しばらくすると寝てしまった。
寝付きは良い方なんだなと妙に相手の特徴を覚えようとしてしまう。
ここまできても未だにリボーンのことは知らないことだらけだ。
隣でリボーンが寝ている状況で俺は考えた。
リボーンはどうされるのが一番嫌なのか、なにが一番リボーンの弱点なのか…。

「こんなにもなにも思いつかないんだなぁ…」

何のために近くに居たのかわからなくなるぐらいに俺は悩んだ。
悩む必要なんてこれっぽっちもないはずなのに。
リボーンの隣から抜けだして包丁を持ってきて、頸動脈を切れば一発だと思うのに、身体が動かない。
それは、疲れているからなのか…それとも…?

「違う、俺はこいつが憎いんだ…俺は、嫌いだ」

こんな男、嫌いだ、とうわ言のように呟きながら布団を頭から被る。
もう何も見たくなかった、こんなよくわからないところに来てしまって…やっぱり失敗だったんじゃないかと思う。
苦しくて息が詰まってすぐに頭を出して、柔らかなドアの外から差し込む光に安心する。
嫌いで嫌いで仕方ないはずなのに、それ以外の感情に埋められてしまいそうで怖くなる。
リボーンの近くは害でしかない、と思うのに。
それは麻薬のように離れられなくなって、病気のように縛られていくようだ。
怖いのに、傍を離れることは許さないと言われたみたいで…殺そうとしているのは、どっちだ…。



END






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