パロ | ナノ

 脳みそを掻きまわすような

居酒屋で、出逢った変な奴。
なにが気に入ったのか俺の部屋に住みついている。
だが、奴には自分の家があるようで寝るときになればそっと部屋を出ていくのだ。
俺と目を合わせたことは片手で足りるほど。
好きという感情を伝えてきたことは、ない。
あれでも偽っているつもりなのか、騙されてやるが良い気分ではない。
何の目的で、俺に近づいているのか…最初はそんな不信感からだった。


「ただいま」
「おかえりー」

帰れば大抵奴はいる。
居ない時は大体バイトのシフトがどうしても変えられなくて、という時だ。
本人が言っていたのだから間違いはない。

「今日さぁ、店にきたおやじが頭つるピカで一緒にいた子と笑いこられるのに必死だったよ」
「そうか」

奴はいろんな話しを頼んでもないのにべらべらと話す。
二人きりなのに妙にうるさくて、最初はいらいらとしていたが、最近では慣れたものだ。
寝るときは出ていくのだから、当然と言えば当然だが寝るときは静かでありがたい。

「リボーンは何か楽しい話しないの?俺ばっか喋ってるよ」
「特にないな、お前みたいに日々代わり映えのある仕事についているわけじゃねぇから」
「そう…だね。学校の先生、楽しくてやってるんじゃ…ないの?」
「…なんだろうな、よくわからないが…なりたかったんだ」

なりたくてなってみたら、そう悪いものじゃなかったと言ったら、そっかと泣きそうな顔で笑う。
奴には学校とか先生という言葉は禁句ならしい。
だが、奴から会話を振ってきたのだからそういう返事になるのも仕方ないだろう。
自分で自分の首を締めるなんてどういうことなのだろうか。
だから、最近では馬鹿なんだと思うことにしている。
なにか背負っているのに、やたら口は回るのに、自分のこと、過去のことは一切口にしない。
どうしてか、聞くことはできなかった。
これっきりの関係だと一度だけ身体を重ねたことはあったが、正直気持ち良くてまた抱きたいという衝動を抱えている。
今日の夕食はハンバーグなようだ。一人暮らしが長いのか手慣れた形をしていた。
奴の作る飯は、俺のものよりも美味しい気がした。
それも少しだけだ。

「いただきます」
「いただきます」

礼儀正しく手を合わせて食べ始める。
何のために俺とで会い、俺につき待というのか未だによくわからない。
好きなのか…いや、そういじゃないだろう。
けれど、なんだろうかふいに見せる瞬間は悪くないなと思わせるのだ。
嫌悪だけを向けてくるのなら、俺だってこうして一緒にいたくもなかっただろう。
だが、それとは少し違うような…それも、少しだけ。
この判断を信じてもいいのか、どうなのか。
是とも否とも決められずずるずると時間だけを重ねていく。

「今日はデザート作ってみたんだ」
「甘いもんはいらねぇ」
「いいじゃん、疲れとれるよ。いつも少し疲れた顔してるから、甘いもの食べて、ね」

どうしてそこまで甲斐甲斐しくできるのか。
勧められるまま奴から出されたプリンを食べてみる。
市販のものよりも味が違うと思うのは、なんでろうか。
少し硬いが、美味しい。
甘いものはたくさん食べれないが、これは普通に美味しいと言えるものだろう。

「どう?」
「まぁ、うまいんじゃねぇのか?」
「よかった」

ふわりと笑った、その顔は奴の心からの笑顔だったのかもしれない。
自分で食べても美味しくできたと笑って、今日は機嫌が良いらしい。

「ねぇ、今日リボーンの部屋泊ってきたいな…?」
「お前、家に帰れって言ってるだろうが」
「だって…一回だけじゃ、身体の相性良しあしもわからないよ」
「わからなくて結構だ。俺はそんな気ない」
「どこがわるいんだよ。顔?性格?それとももっとムキムキマッチョの方がいい?」
「なんでそうなる」

奴の極論にため息が漏れる。
どうして、俺が男専門みたいに言われなくてはならないのだろうか。
確かに、ゲイのDVDはあったことがあるが…アレは、借り物だ。
もうこの部屋にはないはず…どちらにしろ、奴を一回抱いた時点で両刀だということは知られてしまったのだろう。
にがい気持ちを覚えながら詰め寄る奴の頭を掴んだ。

「やらねぇっていってんろうが」
「リボーンの意地悪、インポ」
「お前、悪愚痴にも限度があるだろうが…中坊か」
「ちぇ、いいよ…今日は帰るから」

ぷぅっとわざとらしく頬を膨らませてみせる奴は不覚にも少し可愛いと思ってしまった。
けれど、男だ。絆されることなどどこにもない。
結局居座ろうとする奴をしっしっと動物を追い出すように手を振り部屋の外へと放り出した。

「リボーンのケチッ」
「ケチで結構、一度きりと言ったら一度きりだ。これ以上はない」

本当に俺のことを気にいってもいない癖によくそんなことが言えるものだな。
人間、否定されることには敏感なんだ。
それは身をもって知っていた。
奴は暫くそこに立っていが、諦めて帰っていったようだった。
それでいい、これ以上俺の傍にいない方がいいのはお互いにわかっているだろう。
閉所恐怖症、対人恐怖症、社会に馴染むのにも時間がかかっただろう。
こんなところで会うなんて俺こそ思ってもなかったことだった。
奴にはなりたかったからなった、なんてどうでもいいような返事を返したが、俺が教師という職種を選んだのにはちゃんとした理由があった。
忘れもしない、小学校の思い出。
与えられた方が記憶に残りやすいというのはよく聞く、が俺もある意味では被害者だったのだ。

「俺の、ものだった…」

アイツの身体、あいつの感情…全部が俺に向けばいいと思った。
それは今になって思えば、独占欲の一種だともいえよう。
やつの何もかもを支配したくて、独占したく堪らなかった。
小学生で、感情のコントロールもできなかった俺は、簡単に奴を傷つけることに至った。
切り傷とかそういう簡単なものではなく、心に残る大きな傷だ。
あれよあれよという間に奴は学校をやめて、転校したとかしないとか、そんな噂が流れた。
そして、俺は激しく後悔した。
気持ちの伝え方はあんな方法を使わなくても、もっとわかりやすく簡単にできてじゃないか、と。
ただただ子供だった俺は後悔して、どうにか連絡が取れないものかと思ったのだがそれも苛めていた本人ならありえないことだった。
罪滅ぼしとして教師になった。奴が知らなくても、俺はこうしてずっと自分を戒めていようと思った。

「風呂入るか」

疲れた身体を癒すには、ゆっくりと風呂に浸かるのが良い。
欠伸を一つして、風呂に入った。
苛めていた張本人がここにくるだなんて、誰が想像した…?
忘れているのか…いや、そうじゃないだろう。
だったら、なにが目的なのか。
俺を探していたということだったなら、俺は喜ぶべきことなのだと思う。
この会わなかった十年ほど、俺のことで頭をいっぱいにしてくれていたということなのだろう…?
まさに理想通りだ。
綱吉には悪いが、後は落ちてくるだけだ。

「早く、こい…あの時の償いになんでもしてやる。優しくだってしよう、甘やかすのも厳しくしかるのも、なんでもしてやる」

奴の好きという感情がこちらに向いた時が、頃合いだ。
今はまだその時じゃない。
少しずつ、毎日のように俺の元に足を運ぶ綱吉の変化にいち早く気付いて、優しく絆してやる。
もう、俺から逃げられないようにしてやるから。

「アイツはしらない、俺の近くが…鬼門だってことに」

幸せにしてやるから、と呟いた声はシャワーにかき消されて深々と降りつもる雪のように心に堆積していたものをゆっくりと溶かし始めていた。




END





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