◎ 犬と猫
多くは望まないものだって思ってたんだ
こんなに何もかも欲しくなる何て思ってなかったんだ
こんなにも自分が制御できなくなるなんて…
日曜日、会社が休みで、リボーンも休みならしくデートの誘いがあった。
デートと言っても本棚が欲しいとかでホームセンターをみて、適当に時間を潰していつものようにホテルと言うルートだったりする。
男女のデートコースとはいかないのは最初からわかっていたことだし、それはそれで気持ちの悪いものだと思うので、そんな軽いノリがいいなと思った。
俺は楽しみで、うきうきとしながら待ち合わせた場所へと向かう。
「駅前の銅像だったよな」
駅前と言うだけあって他にも人と待ち合わせをしているような人がたくさんいて、私服と言うこともあってかリボーンを探すのに手間取った。
人を避けるようにして立っていたリボーンを見つけると駆け寄ろうとして、その横からリボーンに話しかけている女の人が目に入った。
何を話しているのかわからないが逆ナンだということはわかった。
リボーンはかっこいいから、しかたないことなのかもしれない。
けれど、リボーンはその女の人に笑顔を向けてやんわりと断っているようだった。
他人にはとりあえず優しい性格をしているのだと思う。
俺との出会いは最悪だったからあんな印象だったけれど、普通に会っていたらあんな風に笑ってくれたりしたのだろうか。
そう思うと、あの女の人がたまらなく憎く見えた。
だって、ナンパって普通きっぱりと断るようなものなのに、あんな風に話してそれでその女の人は大人しく引き下がっちゃうんだ。
説得上手なんだと思うけれど…なんだか、俺の知らないリボーンみたいで嫌だ。
「綱吉、どうした?そんなところに突っ立って」
「あ、リボーン…ううん、なんでもない」
俺に気づいたリボーンは俺に近づいてきて首を傾げているが俺は緩く首を振って笑顔を浮かべた。
そんなことを言って嫌な気分にさせたくない。
せっかくのデートなんだから楽しまなくては…。
「行こう、最初はホームセンターだったっけ?」
「そうだな」
リボーンはさっきのことなんかなかったみたいに俺に笑顔を向けると先に歩きだした。
手を繋いでいいのか一瞬だけ迷って、伸ばしかけた手をひっこめた。
大の大人が二人きりで手を繋ぐなんて、それはそれで変な図だ。
「で、何を探すの?」
「入らなくなってきたからな、もうひとつ大きめの奴だな」
「ふぅん、また行きたいな…リボーンの部屋」
俺はあれ以来、リボーンの部屋に入ってない。
もちろん、リボーンも俺の部屋に来たことはない。
なんでかしらないが、俺達が会うのは決まってホテルで、それ以外でとなると居酒屋が多い。
仕事帰りと言うシチュエーションが多いからか、自然とそうなってしまっていた。
でも、自分の部屋に相手をいれてしまったらまともに過ごすことができなくなりそうだ。
リボーンが触った場所、リボーンが見ていたところ、リボーンが寝ていたベッド。
きっと俺はおかしくなるぐらい、リボーンが好きなんだ。
時々自分が怖いと思うぐらいに好きが強くて、だからこそ…なおさら、リボーンを俺の部屋に招くなんて考えられない。
これは一種の境界線なのかもしれない。
侵してしまったら、どうなるかわからない。
「暇があるときな、まずは本棚を整理するところからだ」
「俺が手伝うのに」
そう言いながら近くのホームセンターへと入った。
家具のコーナーへと向かうと、本棚は結構いろんな種類があった。
天井から床までの突っ張り式のものだとか、インテリア風のしゃれたものまで、実用性があるものから様々なものが置かれていた。
「お前じゃ、いろんな本漁って逆に片付かなくなる」
「そんなことないよっ。俺だって、片づけぐらい…」
「できるのか?」
「……ちょっと、寄せるだけになるかもしれないけれど…」
「だったら、ダメだな」
リボーンは本棚を眺めながら笑った。
ちょっと片づけベタなのは認めるが、そんなにすぐ却下しなくてもいいじゃないか。
それでも、リボーンは楽しそうに話をするので、俺まで楽しくなっていた。
「これなんかよさそうだな」
「思いきってこういうのにしないの?」
リボーンは小さめの三段本棚を気に入ったように見ていた。
一度きりしかいったことのないリボーンの部屋を思い出せば、殺風景だったことを考えて俺は突っ張り型の本棚を指さした。
これならたくさん入る。
「あのなぁ、べつにそれにしてもいいが。そんなに収納する本がないだろうが。それにこんなのがあっても邪魔なだけだ。必要なスペース取れりゃいいんだよ」
「ふぅん?」
「それに、余計なものがあっても意味ないからな」
時間がかかるかと思っていた買い物があっさりと解決してしまい、購入しようとしたら在庫取り寄せになっていたため後日引き取りだと言われて、時間が余ったからと店内を見ることになった。
「ここってペットもいるんだったよな、見に行こう」
「そうだな、見るだけなら自由だからな」
家具コーナーを出るとペットコーナーへと向かう。
元気のいい犬や、猫がこちらを向いて自分を買ってとアピールしている。
それだけでも可愛いなと俺はガラスにくっついて眺めていると、リボーンに肩を叩かれた。
「なに?」
「恥ずかしいから止めろ」
「…あはは、ごめん」
近くの子供がこちらをじっとみていると指さされて、俺は慌てて離れた。
子供に示しがつかないなと苦笑するがリボーンは、なんだか熱心に犬を見つめていた。
「リボーンは犬好き?」
「猫も面倒がかからなくていいと思うが、このなんでも言うこと聞きますと見つめられるとどうもな…」
「それ怖いよ」
でも、リボーンにならなんでも言うこと聞いてあげたいと思ってしまう俺も結構ヤバいのかもしれない。
「綱吉は猫か?」
「うーん、どちらかと言ったら猫かな。ほら、ご飯とか寝る場所とかなんでもしてやりたい。俺だけなんだって思わせてずっと往生するまで一緒に居てやりたい」
「……まぁ、お前はそういう奴だよな」
「ん?」
他の人も見えない位俺に依存してくれたらいいなんて、のんびりと寝ながらも頭を俺でいっぱいにする猫を想像して、それはたまらなくいいかもしれないと言ったらリボーンはため息をつきつつも頷いてた。
なにがそういう奴なんだと首を傾げたら何でもないと言われて、ますますよくわからなくなる。
そのあとも、亀や鳥、フェレットなんかも見て一通り楽しむと意外と広い店内を見て回って外に出れば、少しお腹が空いていた。
ちょっと早いが、ここでどこか店でも入ってゆっくりしてからホテルでもいいかなと考える。
「そろそろ飯にするか?」
「そうだね、考えてること一緒だ」
今自分が考えていたことだと笑えば、タイミングもわかるんだろと不器用な言葉が返ってくる。
そうして、二人で近くのレストランへと入れば食事をして、少しゆっくりとした後予約しているホテルに向かった。
リボーンがいつものように案内してくれて、フロントで鍵を受け取るとエレベータに乗り込んだ。
「んー、今週は疲れちゃった」
「最近残業続きだな、お前は」
「うん、なんかいろいろあってさ…」
大きく伸びをしながら力を抜けば、リボーンは笑いながら言ってきた。
不況のせいで人は減り、その分の仕事がこちらに回ってきているのだ。
あれもこれもと増える仕事に手が追いつかなくなり、どんどん後れを取っていく。
俺だけじゃなく、周りもそうなのだ。
それをまた来週もと思うとそれだけで気が滅入る。
「なら、今日は大人しく風呂に入って寝るか?」
「リボーンがそうしたいならしてもいいよ。でも、ずっと抱きしめていて」
「なんなりと」
エレベーターが止まれば降りて部屋に向かう。
ドアを開ければ自然な仕草でちゅっとキスをした。
でも、今日はしないと言っただけあってそれ以上踏み込んでくることなく俺はそのまま中に入ると風呂をチェックする。
「うん、広い。これなら二人ではいれるかな!?」
「まぁ、いけなくもないかもな」
「じゃあ入ろう、今すぐ入ろう」
一緒に風呂を覗きこんでリボーンが言うのを聞けばそのまま服に手をかける。
いきなりだなとリボーンも入る準備をしてくれて、裸になると中に入りシャワーを手に取った。
浴槽に湯を溜めながら洗えばいいと考えて、身体を洗い始めようとすればすっとリボーンの手が俺の手の中のスポンジをとり上げていった。
「あっ」
「俺が洗う」
「余計なことしたらダメだからな」
「俺は言ったことは守る男だぞ」
偉そうに言いながら、リボーンは身体を洗ってくれた。
だが、言った通り身体には何もされなかったがキスだけはたっぷりとされた。
お陰で身体中を洗われ終わったときには唇が腫れぼったくなってしまったのだ。
「も…きす、しすぎ」
「いやか?」
「すき…だけど、あとからでもできるじゃん」
「こうやって紛らわしておかないと手だしそうだったからな」
さらりと言われて理解する前に俺は先に浴槽へと入れられた。
そのあとリボーンが身体を洗って俺を抱くようにして後ろへと入ってきた。
「…なんか、硬いものがあるんだけど」
「我慢しろ、反応するもんは仕方ないだろ」
「…我慢とか、しなくてもいいじゃん」
「したくない奴相手に無理やりやってもたのしくないからな」
前は結構そういうのあった気がするのは気のせいだったか…。
俺は付き合う前のことを考えて思わず出てしまった笑いをこらえるのに苦労した。
そこまでして大事にされているのはイイ気分だ。
待ち合わせから嫌な気分になったけれど、リボーンのその言葉でチャラに出来てしまう。
暖かい湯が俺達をつつんで、ゆったりとした空気が流れる。
いつも気が急いていたり、なんだか落ち着かなかったりしていたせいかこの雰囲気がすごく心地いい。
俺はリボーンの胸に身体を預けると抱きしめる腕に力が込められる。
こうしてずっと入れたらいいのに。
さすがにそんなことをしたら逆上せてしまうなと笑って、俺は振り向きリボーンにキスを強請った。
欲しがるだけ与えられるそれにキリがないと唇を舐める。
「ねぇ、好きって言って」
「好きだ」
「もっと、もっと言って」
「愛してる、綱吉…好きだ」
いつもは俺が言う言葉を今日はリボーンが言う。
俺が強請るままに言葉を返してくれる。
前は俺が言えるだけで良いと思っていた。
リボーンの言葉なんかなくてもちゃんと俺は全部愛してあげるって思ってた。
けど、なんでだろう。
なんでこんなにもリボーンの言葉が必要なんだろうか。
心地よく流れ込んでくるリボーンの言葉が俺には意外なほど沁み込んできて、おかしいと気付き始める。
俺が俺じゃなくなるって…そう思うのだけれど、何がどう違うのかわからずにいた。
もしかしたら、その言葉はぜんぶ飾り物かもしれないのに。
俺はそれが嬉しくてしかたなくて
ずっとそうやって言ってくれていたらいいのにと思った。