◎ 渇望と溺愛
飢えた獣のようにただ欲しい。
アイツの愛とか情とか、なにもかもが欲しくなる。
少し与えられればそれを根こそぎ奪ってしまいたくなる。
それはダメだと思うのに抑止がきかない。
少し前まではそんなこと思いもしなかったのに。
どうしたというのだろうか、自分には誰も愛することなどできないと思っていたのに。
俺の目の前にはケータイの画面。
さっき綱吉に送ったメールには会えないかと言う内容のものだ。
木曜日に会って、土日はゆっくりしたいと言われて火曜日に約束を取り付けた。
本当なら木曜日まで待つのが俺達のリズムと言うものだ。
これまでもそうしてきたし、これからもそうなっていくだろう。
なのに、どうしてか自制がきかない。
言葉が欲しい、身体も欲しい。
いくらもらっても、追いつかなくて喉が渇くように欲する。
『ごめん、今日はまだ残業で…木曜日まで待てない?』
「チッ…」
返ってきたメールは綱吉の忙しさを物語っていた。
けれど、自分のいうことを聞かないのは許せないと思っていた。
仕事を大事にするのは当たり前だと思う、自分でもそうだからだ。
けれど、綱吉が俺の言葉に逆らうことが許せないと思う。
「いけない思考だ…」
その想いは綱吉が俺を甘やかすたびに増えていく。
どうしたらいいというのだろうか。
こんな気持ちを抱くのは初めてで、それでも抑えなくてはいけない。
俺は綱吉にだったら、いいとそっけないメールを返して、背もたれに身体を預けた。
俺の仕事はもうケリがついている。
いつ帰ってもいいのに、帰る気にならない。
一人きりの部屋は気楽だと思っていたのに。
今はそれすらも…。
大きなため息が零れる。
心も何もかも…染まっていく、そういう気がした。
リボーンからの唐突な誘いがあった。
けれど、俺はさいきんずっと残業ばかりで辛うじて時間をとれているのは木曜日だけだった。
でも、さっきのメールには何故か断れないような雰囲気があって断ったあとだというのに俺は悶々としていた。
リボーンがこうして言ってきてくれるのは結構珍しいことだった。
休日誘うのは俺からだったりとかもするし。
俺はパソコンから顔をあげた。
「あの、今日…どうしても用事があって…」
「えー、君に抜けられると困るんだけどなぁ…」
「すみませんっ、今日だけでいいんでっ」
無理を承知でお願いするけれど、上司の表情は渋いものだった。
俺が抜ければ他の皆にしわ寄せが行く…けれど、どうしてもいまリボーンに会っておかないといけないと…思った。
「じゃあ、あの九時まで…とか、ダメですか…?」
「うーん、しかたない…最近ずっと君にはがんばってもらってたしなぁ」
今日だけだと上司は言ってくれて俺はありがとうございますっと頭を下げた。
これで、少しはリボーンと会える時間ができる。
すぐに俺はメールした。
今日遅くなるけれど会える、そう言ったらなら部屋はとっておくとそれだけの返事。
リボーンが少しでも喜んでくれたらいい。
そう思って、俺はその時間まで必死で仕事をしていた。
綱吉からの返事は意外なものだった。
俺はてっきり今日はダメになるかと思っていたのに。
無理をしてくれたのだとわかる。
自然と俺は顔が綻ぶのがわかった。
こんな小さなことなのに、嬉しくなる。
ほっと安らぐ瞬間に俺はため息をついた。
パソコンを操作しながら今日のホテルを決めていく。
疲れているだろうから、あまり派手過ぎない方がいいと大人しめのレストランがついている場所を選んだ。
そうして、綱吉に終わったらメールをくれと言っておいた。
その間何をするわけでもなく帰ってきた部屋でその時間を待っていた。
それから一通のメールが来て俺は立ち上がった。
忙しいだろうに、こうまでして俺に時間をくれる。
ああ、どうしてそんなにいじらしいんだ。
コートを羽織り指定したホテルへと向かった。
「先に仕事終わってたんだ」
「ああ、お疲れ様だな」
「ん…」
くしゃりと頭を撫でると綱吉は少し照れたように笑みを浮かべた。
この仕草が好きらしいのはすぐにわかった。
綱吉の好きなことを俺は少しずつ覚えていく。
それはまるで何もないノートを文字で埋めていく感覚と一緒。
そうして、俺はホテルに入りレストランへと入った。
「何が食べたい?」
「これから動くなら、肉が良い」
「じゃあハンバーグだな」
「チーズがのってるやつ」
「わかってる」
席に着けば綱吉の好きなものを注文する、俺は俺でパスタを頼んで運ばれてきたものを早速食べている。
美味しそうに食べている綱吉を見ていたが、ふっと顔をあげて俺が見ていたのに気付く綱吉。
「なにみてんだよ。リボーンも食べろって」
「ああ、うまそうに食ってるなって思ってな」
「食べたいなら一口あげるけど?」
こいつのこれは天然なのか。
一切れフォークにさしてこちらにむけてくる綱吉の申し出を俺は苦笑しながら却下した。
大の大人があーんする体勢になるのは少しためらわれたのだ。
しかたなく俺も食べ始めれば綱吉も安心して食べていた。
そうして食べ終わったら満足げに美味しかったと笑顔を向けてくるのだ。
「綱吉…俺が好きか?」
「なっ…こんなとこでっ……あとで、たくさん言ってやるって」
つい口を出た強請る言葉は真っ赤になった綱吉に断られた。
こんなところで返事を聞かされたらそれはそれで自制がきかなくなる。
はやく部屋に行こうと二人で席を立っていた。
エレベータに乗り、二人きりなのを確認して綱吉の腰を引き寄せた。
「ちょっ、リボーンッ…監視カメラっ」
「…わかった」
「もう、なんなんだよ。今日はなんか焦ってる…?」
綱吉は慌てて俺の胸を突っ張ってきて監視カメラを指さしている。
仕方なく離れればきゅっと手を握られた。
少しの接触なのに酷く安心する。
止まったエレベーターを降りて部屋にむかう。
入ったとたんに俺は引き寄せて口付けた。
ここなら文句もないのか綱吉は抵抗することなく俺の好きにさせている。
「んんっ…ふぅ、はっ…りぼ、くるしい…」
「もっと、だ…綱吉」
息継ぎするのも面倒だと綱吉の咥内を貪っていればギブアップを告げてくる。
けれど、綱吉の身体を手に入れた俺は際限なく綱吉のきている服に手をかけてボタンを外した。
さっき食べたせいで少しきつくなっているベルトを緩めるとさすがに綱吉が抵抗してきた。
だが、もうキスで力も入らなくなってきていたのだろう碌な動きもできず俺は下着まで脱がすと自身を掴み扱きあげる。
「ふぁっ…りぼーん、やめっ…あっ…たって、られないっ」
がくがくと足が震えているのが目に入り俺は股に足を挟ませ綱吉はそれにより立ったままを維持させられた。
扱く度に綱吉の腰が揺れて俺にもっとと愛撫を強請ってくる。
快楽に慣れた身体が、俺を誘う。
「りぼーん、ねぇ…お願いだから…べっどっ」
「もうここは我慢できなくなってるじゃねぇか」
「でもぉっ…感じちゃって、へんになるっ」
先端を爪で刺激すると一層厭らしい声が部屋に響いて、俺の手に白濁を放っていた。
呼吸も荒く、俺を掴む手から力が抜ける。
俺は仕方なく綱吉を抱きあげて、ベッドまで運んだ。
ついでに備え付けの冷蔵庫からペットボトルを出すと綱吉に手渡す。
「飲めるか…?」
「ん…もうちょっと、まって…いい子だから」
綱吉はふっと笑って俺に手を伸ばすとくしゃりと髪を撫でてきた。
力のない手はそのまますとんとベッドに落ちて、水を飲みながら呼吸を整えている。
「今日はどうしたんだよ?いつもこんな風に呼ぶことなんてないのに」
「なんでもない」
「本当に?」
「…ああ」
じっと見つめられて、その綱吉の瞳を見返すことができず視線を逸らした。
綱吉はそれで納得したのかそれならいいけどと水を飲みながら答えた。
「さっきの返事…好きだよ、愛してる…リボーン」
ペットボトルをおいて綱吉は俺に手を伸ばしてきた。
俺も綱吉に近づけばぎゅっと抱きついてきて、耳元で好きだと囁く。
ずっと、この声を聞いていた。
この関係が始まった時から…ずっとだ。
飽きることなく、綱吉は愛情をこめて俺に囁く。
「俺も、好きだ」
俺の気持ちはどこまで伝わっているのだろうか。
俺のこの、愛情を知らなかった男が呟く言霊を綱吉はどこまで信じる…?
「もっとぼしい…リボーン、せっかく仕事抜けてきたのに…楽しまないのは損だ」
ふふっと笑って俺を誘う綱吉。
ゆっくりと綱吉の手は俺の服を脱がしていて、これからどんなことを望んでいるのかを知らせてくる。
「だったら、たっぷり乱れろ」
「んっ、いっぱい感じさせて」
シャツを開け突起を抓れば息を詰める。
それでも、綱吉は俺の服を脱がすのを止めず、ベルトに手をかけて俺のものを取り出すと拙い動きで扱いてきた。
「あっ、すっごい…かたい、あつくて…舐めたい」
「なら、しろ」
ぺろりと唇を舐めて催促され、俺は頷いた。
俺がベッドに座ると綱吉は俺のそこに顔を埋めて舐めはじめた。
俺のものを間近に見てうわぁと声をあげたかと思えば恐る恐ると舌をつけてくる。
そうして、感じればもっと感じてと言わんばかりにそこを咥えて俺がしたのを思い出しているのだろう。
綱吉の舌は俺がするのと同じように動いて、必死で感じさせようとしてくる。
そして、咥えている綱吉も感じるのだろう、目の前にある尻が厭らしく揺れていたのだ。
俺はニヤリと笑って突起に手を伸ばした。
びくっと震えてじろりと邪魔をするなとばかりに見あげてくる。
「尻が揺れてるからな、誘われた」
「なっ…りぼーんっ」
もっとこっちによこせと腰を引き寄せる。
綱吉の身体がに覆いかぶさるようにして秘部へと手を伸ばした。
途端に息が乱れ口淫の動きがとまる。
それを楽しく思って、俺は指を二本に増やした。
けれど、この体勢では無理動きづらい。
「もういい、こっちに尻向けろ」
「もうっ、勝手!!」
「いいだろ?お前も感じてたんだから」
口を離して喚く綱吉に俺はちゅっとキスをしてやりながらこちらに尻を向けるように注文した。
ぶつぶつ文句を言いながらも綱吉は言った通りにして、目の前に現れた尻に俺は噛みついた。
痛いっと声があがるが構うことなく俺は舌で優しく舐め、だんだん秘部へと近づく。
それを予想してかひくひくとそこが震えるのだ。
「やらしい尻だな」
「りぼーんが…したんじゃんっ…あぁっ、ああっ」
秘部を舐めて中に舌をいれると切なげな声をあげて啼く。
ギュッとシーツを握りしめて、綱吉は俺の愛撫を受け入れる。
身体を重ねればそれこそ心まで一体になったような気分になって俺に充足を与えてくる。
泣き喚くのも構わず突き上げ、綱吉は白濁を放って意識も飛ばしていた。
「つなよし……?」
頬を撫でて、反応がないことに俺は一瞬ひやっとする。
けれど、寝息が聞こえてくれば安心して胸をなでおろした。
そうまで心配するなら無理をしなければいい…誰かが俺に言ってくる。
それができたら、楽なんだけどな。
いつか、俺は綱吉を壊してしまう気がする。
それは、とても怖いことだ。
いつか自分の手で…俺は…。