パロ | ナノ

 嫉妬と抱擁

リボーンとそう言う関係になって一カ月経とうとしていた。
外は段々と寒くなり、飲みに行く頻度もあがる。
そして、今日も俺は会社の同僚と飲みに来ていたのだが、その中にちゃっかりとリボーンが居座っている。

「リボーンさんって結構モテますよね?」
「どうだろうな、モテるの基準がどうかはわからないからな…」
「絶対モテてるって…女の子なんかとっかえひっかえなんでしょう?」
「そんなこと、今はありません」
「なら昔はあったんだぁ、私もリボーンさんに抱かれてみたぁい」

三人の女性に囲まれて酒を飲むリボーンの姿。
俺はそこから少し離れた場所でビールを煽っていた。

「ったく、女の子独り占めなんて…なんだよ、リボーンって人」
「あはは、うーん…妬けるよねぇ」
「まったくだ、花が全部持ってかれちまった」

こちらはこちらで花がなくなった席でリボーンを睨んでいた。
俺はというと、リボーンを囲む女の子たちに、だが。
なんでこんな状況が出来上がったのかというと、俺はあの再び出逢うと言う衝撃的な日。
俺は次の店に行くことなくリボーンの部屋に行っていた。
偶然にもリボーンの姿を見た女子は大喜びで、リボーンを連れて来いとせがまれたのだ。
そんなの俺が嫌で最初断り続けていたのだが、次の飲み会でリボーンを連れてこないと俺のおごりだと無理やり脅されて、結局この状態だ。
リボーン一人に数人の女性が群がると言うおまけのように連れてこられた俺達はというともう帰りたい。
リボーンもなんであんなに親しそうに話すんだよ。
俺との初対面なんて…いや、あのときもこんな笑顔を向けていたか。
ふっと思い出した初対面の光景に、同じ笑顔をみつけてしまえばあれがリボーンの他人に対しての処世術なのだとわかった。

「理解するのと受け入れるのでは大きな違いが…」
「なに一人でぶつぶついってるんだ?大丈夫か」
「大丈夫っ、まったく…こんなことになるなら連れて来なきゃよかった」
「そうだよなぁ、いつもならしかたなくでも付き合ってくれるのに、これはないよなぁ」

俺が頬づえをつけばまぁ落ち着けと背中を撫でてくる。
多分俺が女の子をとられて嫌な気分をしていると勘違いしたのだろう。
俺は立派に女の子にヤキモチ妬いていると言うのに。
連れて来たくなかったのにはこれも理由に挙げられる。
リボーンは女性を切らしたことがないと言っていた。
あんなに女泣かせでよく切れ目がなかったなと感心したものだったのだが、これなら納得が行く。
あんなに顔がよくて、外面は愛想が良い。
もてないわけがない。
俺はぐいっとビールを一気飲みしてもやもやする気持ちをやり過ごそうとしたが隣の同僚から心配そうな声をかけられてしまった。

「やけ酒すんなよ。胃に負担掛けるぞ?」
「いいよ、もう…俺早く帰りたい…」

こんな場面を見せつけられるのはこりごりだ。
浮気されてるわけではないけれど、それをまじまじと見せつけられるのが拷問だ。
リボーン、こっちむけぇ…。
じろりとリボーンに視線を向ける。
けれど、リボーンは右左と視線を向けていて俺に気づかない。
俺は恋人なのに、苦し過ぎるじゃないか。
恋人になったとはいえ、特に俺達を変えたものはなかった。
リボーンは相変わらず愛を囁かないし、俺が泣かされることもしばしば。
俺が気にし過ぎているのだろうか、でも独占したいと思うのは誰だって一緒だと思う。
リボーンは俺を大事にしてくれないのかな?
大事にすると言うこともわかっていないのだろうか。
愛情につながることはほとんど無知と言っていいほどのリボーン。
自分でもわからないまま俺に接してくるからリボーンの気があるのかもわからないときがある。
けれど、少しずつわかっていけばいいと思ったのも事実。
俺だってそんなに気の短い人間ではない。l
待つつもりで、リボーンと一緒にいる。
けれど、あんな風に女性に囲まれているのをみると…しかもすごく様になってたりして…悲しくなるじゃないか。
俺だけだっていってもらいたくなる時だってあるけれど、それすらも叶わない。
言ってと言ったら言ってくれるだろう、だけどそれじゃあ足りないのだ。

「ああ、俺どんどん欲張りになってる」
「つなー?」
「ん?」
「ほら、もっと飲め…落ち込むなって、今度はリボーンさんなしで飲もうな?」
「そうだね」

同僚の用意してくれて水割りを手に取るとそれを傾けた、
すると、リボーンが俺を見た。
ばちっと目があって俺はつい…逸らしてしまった。
あ、と思った時にはもう遅く、再びリボーンは女性に目を向けていた。
欲しいだけ強請って、もらったって何も嬉しくない。
リボーンの意思で、リボーンの想いを伝えてほしいと言うのはやっぱり無理なことなのだろうか。
俺の囁き続けたあの日々は無駄に終わっていくのだろうか。
少しは、伝わっているとおもってたのになぁ。
こくりこくりと水割りを飲みほした時、さすがに飲み過ぎて頭がくらっとした、

「帰りたい…」
「あ、やば…気分悪くしたか?」
「ん…少し酔ったかも…先に帰って良い?」
「そうだな、今日はこっちにこなさそうだし、帰るか」

確認をとるように言えば俺達は立ち上がった。
それにリボーンの視線がこちらを向いたが、構わなかった。
俺はヤキモチとか妬いてほしかったのだ。
でも、こんなことではどうせ無理だ。
今日は大人しく帰ろう。
リボーンとこの後会う約束をしていたがとてもじゃないけど会う気分じゃない。
こんな気持ちであってもまたリボーンを困らせるだけだ。
自分の気持ちを押しつけるだけではリボーンを困らせると気づいた。
自分勝手に言うのはいいけれど、リボーンはその気持ちがわからないことに苛立ちを覚える。
なんで自分はわからないのかわからなくて、悩んだ末にその気持ちを説明しろと言いよってくるから面倒なんだ。
こんな風に思うのは自分だけなのだと言われているようで、悲しくなった。
リボーンを置いて男性陣はそのまま店を出た。

「綱吉、一人で帰れるか?」
「うん、大丈夫ありがとう」
「じゃあな、また明日」
「また明日」
「ばいばい」

店の入り口で手を振って別れた。
でも、やっぱり約束したので帰るに帰れず、俺はしかたなく店の隣の路地に入って近くに置いてあったドラム缶に寄りかかる。
待っていてもどうせ出てこないとわかっているのに、足がそこから動き出すことを拒んだ。

「酔い覚ましには心地いいな」

飲み過ぎて火照った頬を冷たい風が撫ぜていく。
だんだんともやのかかった頭が覚醒してきて、なんでこんなことしてるんだろうと疑問に思った。
リボーンなんか来るわけないのに…。
あんなに女の子に囲まれて、きっとアドレス交換とかしてるんだ。

「浮気だ…浮気」

俺はとても心の狭い人間だ。
リボーンが誰かと話しているのを見るのが嫌、一緒にいるのも嫌、俺だけみていてほしい。

「ああ、欲張りだ」

そんなに欲張ったって十分の一も返ってこないのもわかりきったことで、付き合っていろいろ許されている中で俺はどんどん心の狭い奴になっていっている気がする。
これでも結構博愛主義者だったのになぁ、なんて考えてみる。
自分がこんなにも心の狭い奴だったなんて初めて知った。

「リボーン、会うって…約束したじゃん」

なんで俺が店出るときに声かけなかったんだよ。
あれじゃ俺が帰るかもしれないだろ、普通心配するだろ。
じわりと視界が歪む、アルコールはすぐに抜けてくれないらしい。
とことん涙腺が緩んでしまってほろほろと泣いた。
俺ばっかだ…俺ばかりが、リボーンを好きだ。
大切にしたい、もっとわかってもらいたい。
まだ、始まったばかりだ…。

するといきなりメールが来た。
俺は慌てて鞄からケータイをとりだすと、リボーンからで今から会うから俺の部屋で待ってろとそれだけ。
けれど、そんな言葉だけで嬉しくなる、俺が出てから三十分も経ってない。
急いで来てくれたのかな、とか浮上しはじめる気持ち。
リボーンの一言一言が俺の原動力だ、生かすも枯らすもリボーン次第。

「わかった」

口に出してそれを打ち込むと路地を出てリボーンの家へと向かおうとした。
けれど、見てしまった。
店からでてきたリボーンが女性と腕を組んでる姿。
自然に絡まった腕に、俺は胸を突き刺す痛みを覚えた。
胸をぎゅっと握って、握った痛みで奥の痛みをやりすごす。

「大丈夫、ただのスキンシップだ」

女性に腕を絡ませられたことなんて俺だってある、それを考えたら納得できた気がした。
とにかく、リボーンの部屋に行こうと一足先に向かったのだった。




「なんだ、いきなり」
「リボーン、ここ触られてたね」

リボーンが帰ってくるなり俺は玄関先でリボーンを壁に押し付けてキスをした。
自分から舌を絡ませて吸うとそのまま蹂躙された。
唇が離れたところで不機嫌な声。
俺だって怒ってるんだからな、とそう言う気持ちを込めた眼差しで俺はリボーンの腕を撫でた。

「どうした、綱吉?」
「ここも、ここも…触らせてた」

女の子がなぞった手を辿るように撫でた。
思い出す度、じわっと涙がせり上がってくる。
止められないと思ったと同時に涙が落ちた。
隠そうと顔を俯けたのにリボーンの手が俺の顎に指をあてがわれて顔を上げさせられた。

「み、ないで」
「何で泣く?俺はお前の言ったとおりにしただろ?」
「そうだけど……うん、そうだね。これは、俺の気持ちの問題だから大丈夫だよ」

リボーンの言葉に頷く、
けれど、悔しさで涙は溢れ続けた。
いつもは涙を見て嬉しそうにしたのに、最近はそれがない。
こんなにもお前が求めた涙だと言うのになんだというのだろう。

「教えろ、何で泣く?」
「いいってばっ…離せよっ」
「綱吉、教えろ」
「やだって、やだっ…やっんんっ…」

逃げようとリボーンから離れようとしたが、手を掴まれて封じられた。
そうして、無理やり口づけられた、
優しく触れ合わせて、そのあと何度か啄んだ後宥めるように頬を指が撫でてきた。

「んぅ…ふっ……」
「綱吉…教えてくれるか?」
「……」

唇を離されて促される。
そんな唇一つで満足できるほど、俺は都合よくできていないと思うのに、必死なリボーンの目を見てしまったらひとたまりもなかった。

「リボーンがみんなにちやほやされてて、むかついた」
「お前が今日の予定を組んだんだろ」
「けどっ、リボーンは俺の恋人だから他に愛想振りまいたらだめっ」

リボーンのスーツを掴んで訴えるとリボーンは複雑そうな顔をして、次の瞬間温かい身体に抱きしめられていた。
身体全てを包み込むようなそれに、俺は背中に手を回して縋るように抱きついた。
俺のものだって、主張できたらいいのに。

「わかった、お前がそう言うなら愛想を振りまくのは止めてやる」
「ん……すき、すきだよ…リボーン」

いくら苦しくったって、もう俺の気持ちは染められてしまっているから。
どうにもならない、このもどかしい気持ちはずっとついてまわるんだ。
でも、少しずつわかって。
ちょっとずつ、俺に独り占めされていって。

「我儘でごめん…」
「お前が笑うなら、俺はそれぐらいの我儘聞いてやる」

泣くのはもう、いらないんだと言われて嬉しかった。
目を閉じて唇を差し出せばまた触れあわせられて甘い水の中に泳がされているようだ。
リボーンなりの甘やかし方なんだろう。
今はまだ、これでいい…。
多くは望まないから。









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