パロ | ナノ

 強欲と無欲

「それじゃあね」

シャワーを浴び終えた綱吉は服を着て苦笑いを浮かべた。
でていくつもりだ、考えたとき俺の手が自然と伸びていた。

「え…」
「…あ」

綱吉の目が驚きに見開かれた。
どうして、俺の手は伸びたのだろう。
俺は慌ててその手を離した。

「行くんだろ?」
「…うん、楽しかったよ」

綱吉はそれだけを言い置いて部屋を出て行った。
終わる時なんてそんなものだ、何度も俺は経験してきたではないか。
後ろ姿なんて何度も見てきたではないか。
なのに、どうして心臓が痛いのだろう。
こんな痛みは初めて経験するものだ。

「はっはははっ…あぁやっぱり駄目だったじゃないか。何を期待したんだ」

顔に手を当ててベッドに上半身を倒した。
こみ上げてきた笑いに声を出して、今回は違うかもしれないなんて思った自分が馬鹿らしい。
愛なんてそんなものだ、なにもない。
何も楽しくないじゃないか。
なにも…。
無意味に笑える理由も、頬を伝う水の正体も…なにも…。
目を閉じても見えないはずの姿が瞼に浮かぶ。
どれだけ擦っても消えないその姿は…俺に何を言いたいのだろう。
わからない…それではいけないのだといった。
この気持ちに名前をつけてやらなければならないらしい…俺にはもう遅いのかもしれない。
けれど、多分あいつが俺にくれていたものはきっとこんな風に笑ってはいけないものだと…それだけは理解できた。

「人間と関わるのは、難しいな…ただの玩具だと思っていたはずなのに」

この世はすべて遊んで遊ばれるものだと思っていた。
それは決して正解の答えでないことも重々承知していた。
それをわかっていて俺は、遊んでいたのだ。
何もかも見て見ぬふり、何もかも感じないふり。
これではいけないと、教えてくれていたのは…自分自身ではなく綱吉の存在だったのかもしれない。
終わってわかるものも確かにあるのだ。
俺はここまで何も考えてこなかっただけで本当はいろんなところにいろんな欠片が転がっていたのかもしれない。

「馬鹿なのは、俺か」

もう、取り返しのつかない過去だ。
人生にもう一度なんてそんな奇跡は存在しない。
ただ、俺にこの気持ちを教えてくれた人間がいたことだけは…覚えていようと思う。
名前どころか、顔も忘れることはできなさそうだけれど。




元に戻った生活に俺はため息の毎日だ。
仕事をしている間は充実感を得ていた。前は楽しくて仕方なかったものも何も興味がなくなった。
人の不幸を笑うのも遊んで楽しむのも、何もかもに花がなく面白味なんてものは一切ない。
つまらない、ただ綱吉に会っているあの日常が欲しかった。
あのときはいらないと切り捨てた一片。
それがこんなにも愛おしくてかけがえのないものだったなんて、なんで誰も教えてくれなかったのか。
俺が間違う前に、俺がアイツを突き離す前に、どうして俺はわからなかったのか。
ケータイにはアドレスと番号が入っていたが…繋がるかも確認するのに怯えた。
こんなに臆病になるものなのか。
こんなにも、勇気のいるものだったのか。
はぁっと吐き出せば白い吐息が空中で解けて消えた。
今日も帰るかと歩きだした、自宅への道。
居酒屋通りを通り抜けて行くが、今日は人が多い。
金曜日だからかと短絡的に思って、酔っ払った人間を掻きわけた。

「あははっ、もう次いこう、つぎぃ〜」
「綱吉、前見て歩けって…まったく、たまに誘うとこれだもんなぁ」
「いいじゃない、最近落ち込み気味だったし」

唐突に聞こえてきた声に俺は歩いていた足を止めた。
後ろから聞こえたと振り向けば、そこには綱吉の姿があった。
酷く酔っ払っているのか、女性の肩に腕を回して支えているのか支えられているのかわからない状態だ。
その女性があのとき、綱吉と一緒にいた女だとわかれば俺は驚いてそのまま無視をしようと歩こうとするが金縛りにあったように動かない。

「ちくしょう、こんなことしたって…何もならないだろ」

きっと綱吉にとってはもう俺のことなんか忘れてもいい人間なのだ、これ以上あいつを苦しめたって何も、ない。
あいつはこのほうが一番幸せなのだ、そう言い聞かせてやっと動いた足に俺は安堵したが次の瞬間には俺は動けなかった。
腕を掴まれていたから。

「リボーン…」
「…綱吉」

最悪の状況だと振り返れば案の定、驚いた綱吉がいた。

「何掴んでんだ」
「あ、ごめん…でも、なんで」
「別に通りかかっただけだろ」
「そ、か…そうだよね、ごめん……ごめん」

綱吉から後ろを見ればこちらを不思議そうな眼差しがあった。
待たせているのだろう。
突き放す言葉を言い放てば、綱吉は手を離した。
久しぶりの感触に俺の腕がほうっと温かくなるようだ。
綱吉は俯いて、何を耐えるように手を握りしめた。
そんな風にするな、まだ俺に気があるのかと勘違いするだろ。
これから何もなかったように動け、と足に命令した。
鉛が入ったかのように重くて、もつれそうになる。

「…忘れないから、な」
「……」
「リボーン、俺……無理だよ」

再び足が止まる。
動けなかった、あんな未練たらたらな声で言われたら…つけ込みたくなる。

「綱吉―、どうしたー?」
「あっ…ご、ごめん…あの、気分悪くなったから…俺抜ける」

綱吉の背中にかかった声に戸惑いながら答えた。
なんだそれ、と言われているのにごめんねと謝っていきなり俺の手を掴んで走り出した。

「はっ!?」
「……」

どうして俺が巻き込まれているのか、まったくわからない。
なんでこんなことになっているのだろう。
諦めたんじゃないのか。
俺に我慢できなくなったのだろう。
忘れたはずの胸の痛みを覚えて、居酒屋通りを抜け人気のない通りまで来ると俺は綱吉の手を振り払った。

「巻き込んで、ごめん」
「まったくだ、なんだよ…お前、飲んでたんだろ」
「うん…でも、ずっとリボーンのこと考えてた…」

話の流れがわからずため息をつけば、綱吉が息を詰める気配がしてそれでも深くは突っ込まないままその場に任せる。

「振られて、俺は誰を好きになっても仕方ないんだって…思ってた、でも…リボーンはそんな俺に優しくしてくれた…酷い時もあったけど、でも…誰よりも、優しかったよ」
「そんなの、俺は…何も分かってなかったんだろ?」
「けど、俺は好きになったよ…こんなに、好きになった。好きだから、焦ってリボーンに気持ちを押しつけた。リボーンも同じ気持ちを返してくれたらいいのにって思ってた。ずっと…思ってた。でも、それは我儘だったんだって今ならわかる」

これまでの出会いと付き合い方を思い返したら、俺達には欠点だけしか見つからなかった。
俺はどうしようもなく無関心だし、綱吉はどうしようもなく囁き魔だった。
押し付け過ぎても、無関心過ぎても駄目だった。
その関係でも…確かに育まれている物はあったんだ。
小さくて、俺は気づかないものだったけれど…ちゃんと、育っていたものはあった。

「リボーンの気持ちは、わからなくてもいい…でも、俺は…リボーンを嫌いになんてならないよ…嫌いになれるわけないじゃないかっ」

首を振って俯いて、言いきった綱吉の手を俺は握った。
どうしようもない男だと思う。
こんな俺に惚れてしまうのだから。

「俺が、好きか…綱吉」

俺の言葉に顔をあげて、ぼろぼろと涙を溢した。
こくこくと頷いて、ぎゅっと手を握り返してくる。
嫌いになるだろうとは、もう聞けない。
俺はもう、嫌いになってほしいわけではないから。

「口で言え」
「すき…っ…すき、すきぃ…」

くしゃくしゃにしてその場に立ったままの綱吉の手を引いて腕の中へと抱きしめた。
そのあとますます泣きだして取り返しのつかないことになった。
スーツは握った跡がついてくしゃくしゃだし、シャツも涙でぬれた。
それなのに離す気になれないのは、あのとき引き留められなかった俺への戒めだ。
こいつをどこまで悲しませていたのか、どれだけこいつの愛情を踏みにじったのか。
それでも、諦めずに好きでいてくれただけで俺はこんなにも救われているんだ。

「すまん、お前を傷つけた」

たくさん言われた言葉。
一つ一つを思い返すたび、苦しくなって、綱吉が好きなんだと思い知らされた。
人はこうやって誰かを好きになっていくのかと、自覚して…過ぎたことだからと諦めたと自分に言い聞かせた。
それなのに、綱吉を探している自分に嫌気がさして、けれど…諦めなくてよかったと思った。
あんなに酷いことをしたのに、こいつは俺を諦めていなかった。
優しくしたいと、感じた。
のに、俺は優しくすることを知らない。
大切にしたいのに、その反面では愛情を確かめるために傷つけようとしている自分がいる。

「俺は、またお前を傷つけるかもしれない」
「…離れないでいてくれるなら、いい」

涙を拭ってやれば赤くはれた目で笑みを浮かべた。
初めてみる、笑顔だ。
自然の、綱吉本来の笑顔なのだろう。

「離したくない、と言ったらお前はどうする」
「ついてく」
「なら、こっちだ」

即物的と笑われるかと思ったが、綱吉は黙って手を引かれるままついてきた。
このまま俺についてきたらどうされるのか、わかっているのだろうか。

「今日はホテルじゃないぞ」
「じゃあ、どこに…?」
「俺の部屋だ」

初めて人を招くな、と感じてそれでも綱吉の手を離したくなかった。
この手を離してしまったら、今度こそもう掴めなくなるような気がして、これが夢じゃないと確かめたかった。
マンションにつけばエレベーターに乗り込む。

「うわ、ごめん…なんか、すごいことになってる」
「構わない」

二人きりの空間で、明るいところに出たせいか綱吉が俺の服へと手を伸ばしてきた。
俺は短く返すと止まった階で降りる。
指紋認証式の鍵に指先を触れさせて鍵を開けると中に入った。
綱吉が入るなり鍵を締める。
そうしてようやく安心した。
これで逃げない、なんて幼稚だとわかればすぐに何事もなかったかのように俺は中に入った。

「はいれ」
「う、ん…」

上着を脱いでハンガーにかける。
恐る恐る入ってきて中を見回すのを見れば苦笑する。

「そんなに物珍しいか?」
「俺はこんなに豪華な部屋住んでないのっ」
「ふぅん、別に何もないつまらない部屋だろ」

綱吉も服を脱げと指で示すといつもの調子で渡してきた。
それをハンガーにかけておけば気まずい雰囲気が流れる前に綱吉に覆いかぶさってキスをした。

「ふぅん…んんっ……ぅ…」

目を開けて確かめていれば必死に目を閉じて、俺の舌を受け入れる。
甘く絡めると閉じた瞳から涙が溢れた。
一筋、頬を伝っていったかと思えば綱吉の腕が俺の首に巻きついてもっと深く重ねあわされた。
それをじっと見つめていたら綱吉の瞳が開かれて俺を見るなり驚きに目を見開いた。
大きい目がますます大きくなって面白いなと見ていれば腕の中でもがく。

「ぷっ、なにみてるんだよっ」
「見てちゃ悪いのかよ」
「…わ、わるいとか…そういうのじゃない…」

お互いの唇を銀糸が繋いで、途切れた。
その卑猥な光景に綱吉は慌てて唇を拭いながら俺を問い詰めてくる。
多分恥ずかしかったのだろう、と推測をつけたが、そんなのどうでもよかった。
久しぶりに触れた唇、掌、身体…歯止めが利かなそうだ。
俺は綱吉の頬に触れた。

「好きだ、俺は…お前が…好きなんだと思う。でも、これははっきりわかったわけじゃない…きっと、お前をまた苦しめるかもしれない、俺には…わからないことがたくさんある」
「リボーン…?」
「でも、お前の言葉はちゃんと聞くようにしよう。それは、好きだからだ…少しずつ、俺にお前の愛し方を教えてくれ」

こんな俺でもいいだろうかと言ったら、そんなこというなんて、リボーンらしくないと泣きながら笑った。
二つを同時にやるなんてすごいなとまじまじと観察しようとすれば止めろと突っぱねられて、それでも涙をあふれさせたままどうにもならなくなった綱吉に笑って寝室へと手を引いたのだ。





綱吉をベッドに押し倒せば緊張に身体を固めている。
これでは何もできないじゃないかと顔をあげた。

「力抜け」
「む、むり…なんか……」

ふるふると首を振って両手で顔を隠す。
何をそんなに恥ずかしがっているんだと思えば俺の足辺りに違和感を感じた。
そっと顔をそちらに向けれると、ズボンを隔てても主張している自身がわかるぐらいに勃ちあがっている。

「キスだけで、これか」
「ひっあ…だってぇ…」

つーっとなぞれば背を逸らしてびくびくと腰を震わせる。
これは直接触らなくてもイってしまうんじゃないかというぐらい危うい。
こんなに感じている綱吉は初めてで、どうしたものかととりあえず手を離した。

「うぅ…こんな、なるなんて…」
「今日は止めておくか?」
「ばかっ、そんなことしたら怒るからなっ」

離れようとしたら足を腰に巻き付けてきた。
とにかく感じさせてやるのが一番かと俺はベルトに手をかけた。

「俺も、する」
「力入ってないのに、どうやってするつもりだ?」
「う…」

されるだけじゃ嫌だといいたいのだろうか?
でも、力の入らない綱吉の手でもたもたされるよりはと自分で服を脱いだ。
綱吉もつるりと剥いてしまうと裸で抱きしめる。
そうして、キスをして唇を擦り合わせ、舌を絡ませた。
そのたび、俺の太ももを綱吉自身が擦りつけられて理性を保っていられない。

「煽るな」
「あおって、な…あぁっ、やぁぁあっ」

違うのにという綱吉の言葉を聞き流しながら自身を握って下から上へとミルクを絞るように扱いてやる。
すると、先端から先走りを滲ませて俺の腕を掴んでくる。

「綱吉…」
「やっ、だめ…でる、でるからぁっ」

促すように先端を指で撫でてやれば身体を硬直させて、一気に弛緩する。
手には白濁を放っていて、忙しない呼吸を繰り返していた。

「こんなに、誰かを欲しいと思ったのは初めてだ」
「ほ、んと…?俺は…リボーンに好かれてるって、自惚れてもいい…?」
「好きだって、言っただろ?」

何回言わせればいいんだと言えば安心したように笑みを浮かべる。
そうして、身体の力を抜いて全部を預けてくる。
足を開かせてローションを垂らした。
冷たさに身体を震わせたのは一瞬で、塗り広げるように撫でているとだんだん入口が綻んでくる。

「んぁっ…ふ、んんっ…」
「開いてきたな」
「いわな、で…あっ、ねぇ…」
「ん?」
「…俺の、欲しい言葉……言ってくれる?」

イくときに言ってほしいんだけど、と遠慮がちに聞いてくる綱吉に首を傾げた。

「あの、おれ…よくわからなくなっちゃうかもしれないから…」

感じるとどうしようもなくなるから今言わせてと耳元に唇を寄せてくる。
そっと囁かれた言葉に俺は一瞬にして顔が熱くなるのを感じた。

「あはは、顔真っ赤だ」
「わらうな、んなのお前が言えばいいだろ」
「だから、俺じゃわけわかんなくなっちゃってだめだから…言ってって言ってるんだ」
「それで、なんで俺に言わせることになってるんだ。筋違いだろ」
「俺…リボーンにたくさん傷つけられたんだけどなぁ…」

俺の首に腕を絡めて耳たぶを甘噛んでくる綱吉に傷つけたかもしれないがそこまで言う義理もないだろうと思う。
それなのに、俺は秘部に指を入れて解きつつどういうタイミングで言ってやろうかと悩んでいるのだ。
俺も大概、良い性格になったな…と自己嫌悪しつつ指を二本に増やした。

「あぁっんああっ…そこ、こすっちゃ…やだぁ」
「気持ち居場所だろ?」
「んあぁっ、ああっきもちい…きもちいー」

腰が揺れて自分で感じる場所を指先に押し付けているのがわかっているのかなんなのか。
奔放に乱れる綱吉の中から指をぬいて、自身を宛がった。
綱吉の顔に嫌悪の色が見えないことを確かめると、ゆっくりと押し込んだ。
この前ほとんど無理やり繋がったそこはすっかり良くなったらしく柔らかく自身に絡みついてくる。

「大丈夫みたいだな」
「りぼーんだもん…きもちいいのは、知ってるよ」

だから、動いてと言われるままに腰を揺らした。
最初はゆっくりと全体を馴染ませるように。
それが、粘液を混ぜ合わせながらだんだん早くする。
ぱちんっぱちんっと肌がぶつかる音がして、俺はだんだん理性を手放していく。
こんなに気持ちいいものは初めてだ。
この前までのも気持ち良かったのだが、気持ちの問題というのは素晴らしい。
自覚するだけでこんなにも気持ち良くなれるのだ。

「ひあぁぅ…もっ、イく…ぅ…あぁっ」
「はっ…つな、つな…」
「ん、ん…りぼー、ん…りぼ…ひぃ…うあ」

ますます激しく腰を押しつけ、綱吉の身体を抱きしめた。
甘い喘ぎ声が鼓膜を震わせて、中の絞めつけが一層強くなる。
頃合いかと耳朶を甘噛んでイく瞬間そっと囁く。

「あいしてる」
「っ…あぁああぁっ!!」

ぎゅぅっと絞るようにして締めつけられて俺はその中へと白濁を放って、綱吉は二度目の放埓を迎えた。
けれど、身体を痙攣させつつ抱きつく腕を緩めない。

「綱吉?」
「や、だ…はなさないで、もっと…ぉ…」

ひくっとしゃくりあげながら中は締めつけて俺自身はすぐに硬さを取り戻す。
強請られるままに腰を揺らせば腰を痺れさせるほどの声を漏らす。
そういえば酒を飲んでいたんだと気づいたのはすっかり綱吉に乗せられて貪ってる最中のこと。
だが、今日ぐらいは好きなだけ抱いても許されるかと楽観的に考えて二人で甘い欲へと溺れて行った。





最悪だ。
腰は痛いし、だるいし、目は腫れぼったいし。
幸いなのは今日が休みだってことぐらい。
でも、今言ったのには別に本気で嫌というわけではない。
俺が一番嫌だと思っているのは…。

「綱吉、水飲めるか?」
「…ごめん」
「別に、無理したからだろ?まぁ、飲み過ぎには注意しろ」
「はい…」

あのあとたっぷりリボーンに抱かれるはずだった。
なのに俺はというと、酔っていたからか揺らされて気持ち悪くなったのだ。
せっかく繋がっているのに、吐きそうという一言で中断…トイレに駆け込むと言う事態に陥った。
ほんと、死にたい…なんでこうなるの。
せっかく、せっっっっかく想いが通じてこれからというときに…。
リボーンが持ってきてくれた水を飲みながら謝るのにリボーンは優しい。
俺を苦しめるとか言って、こういう風にさりげないところがいいよなぁと見つめる。
昨日散々泣いたからか目は赤いし、吐いたのにリボーンの態度は変わらない。
普通引くだろ…。
ちょっとずれている考え、けれどそう言う小さな違いもいいとおもう。
あのとき、諦めなくてよかった…あんなに人ばかりの場所だったのに…リボーンだけが見えたんだ。
それはきっと運命と呼んでもいいぐらいに感動的で、離したくないと思っていた。
この手を、この人を…この心を。
全部俺のものに、俺の良いように染めてもいい?

「なんだ、気持ち悪いぞ?」
「あのとき、リボーンが言った言葉思い出してた」
「っ…記憶から抹消しろっ」
「やだ、もう俺の記憶にしっかり刻みこまれたし」
「記憶飛ばすか…?」

ふっと手を振り上げるリボーンから逃げるようにベッドから出ようとした途端足に力が入らず、転びかけたら腰を支えられた。

「危ないだろうが」
「あはは…わすれてた」

さっきもそれをやったのに忘れていてごめんとベッドに逆戻りだ。
今日のは俺が言わせたようなものだから、次はリボーンの意思で聞けたらいいなぁなんて思うのは欲張りだろうか。
でも、それぐらいは許してくれるかなぁ。

「俺も、リボーンのこと大切にするから」

ぎゅっと抱きついて腹の辺りに顔を埋めた。
思い通りにならないことも、通じ合えないこともこれから沢山あるだろう。
けれど、これだけ苦しい思いをした俺達はそれぐらい乗り越えていけるんじゃないかと勝手に思ってる。

「ああ、俺もだ」

優しく撫でる温かい掌のぬくもりを感じながら俺は小さく笑みを浮かべたのだった。









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