◎ 優しいと冷たい
仕事をしていれば胸ポケットでバイブ音が聞こえた。
この音はリボーンだと小さくため息を吐いてメールを開かないまま仕事を終えるとようやく内容を確認した。
それは今日の予定で、俺の会社から近場のホテルの名前が書かれていて、俺は時間を確認する。
「やばっ、もう時間じゃん」
放置しすぎたと焦って会社を出る。
服は着替えない。
着替えている時間もないし、遅れたら遅れたでいろんな理由をつけられるのだ。
まぁ、それなら変に急ぐより一度帰った方が良いかもしれないが誰かを待たせるのが嫌な俺はそのままホテルに向かった。
指定された部屋に着くなり入り口で呼吸を整える。
走ってきたと思われたくないのだ。
時間にはぎりぎり間に合わなかったが、仕方ない。
謝ろうとドアノブに手をかけた時にいきなり開いた。
「えっ…」
「きゃっ、ちょっとなに?…部屋間違えてんじゃないの?」
いきなり女が出てきたと思えばジロジロと見ながらそのまま出て行ってしまった。
一体何なんだと思えば、そこから香ったリボーンの匂いにまさかと中に入る。
すると、ベッドは少し乱れリボーンはというとシャワーを浴びたのかバスローブ姿だった。
俺はぎゅっと拳を握った。
これまでに何度あっただろう、リボーンのこれは癖の様なものなのだろうか。
「あの女なんだよ?」
「遅かったからな、暇つぶしだ」
「遅れたの五分だけだろ!?」
他の女をつれこんで、というのは女だからあり得ることだと思ったが、男同士でも有り得る光景なんだなと感じた。
第一、五分遅れずに来た時のことを想像してぞっとした。
もし遅れていなかったら、俺は二人が抱きあっているのを見ていたのかもしれないのだ。
俺は鼻がつんっと痛くなるのを感じて俯く。
必死に落とすなと思って瞬きしないでいたのに、ひたりひたりと滴が落ちて行く。俺が悔しく思うことなんてないのに、なんでこんなにも感情を揺さぶられるのだろう。
好きでもない、ただ同情で付き合っていると言うだけなのに。
リボーンから隙って言わせるためにしているただの遊びなのに。
なんで、こんなにも俺は乱されないといけないんだろう。
「それだけは…やめてよ」
「泣いてんのか?」
聞かれて首を振った。
どうせ、泣いてるとわかった時点で楽しそうな顔をするのだ。
こっちはつまらないことでこんなにも傷ついていると言うのに、リボーンはそれを見て笑うんだ。
「綱吉…」
「なんだよ…」
リボーンの声が聞こえて腕が伸びる、それでも動かずにいればいきなり引き寄せられてベッドへと乱暴に転がされた。
目の前にリボーンの顔があって、案の定楽しそうに笑っている。
笑ってる顔は綺麗だと思うのに、その理由が最悪だ
指先で頬を撫でられて温かいなと感じる。
確かに人の体温なのに、こんなにも冷たい。
「ねぇ、好きだよ」
「こんなにされてるのにか?」
「うん、好きだよ」
リボーンの頬に手を伸ばして触れる。
何も感じないはず、ないのになぁ…。
こんなにも言ってるのに、揺らがないのだろうか。
どんな人生を送ってきたのだろうこうして、半年も一緒にいるのにリボーンの気持ちが未だにどこにあるのかもわかっていない。
…あれ?
なんで俺、こんなにリボーンのこと考えてるんだ…?
「お前、何考えてんだ?」
「へ?別に、何も考えてない…とにかく、もう…あれはしないで」
「あれ?」
「浮気みたいなの…っていうか、俺がいるんだから女に手を出すとかするな。お願いだから、最低限のルール」
自分の考えてることがバレないようにと話しを逸らした。
逸らしたついでに注意も忘れない。
ここにいたるまで、あんな出歯亀のようなことはもう二、三度あったがさすがに今回はきつかった。
精々キスを見せられる程度だったが、今回は…。
「悲しくなるから…自分の価値を下げるのだけはやめろよ」
こんなにかっこいいのに、そんなことで身体を安売りするというか、なんというか。
俺の気持ちを確認したいだけなら、他の方法でも可能なはずだ。
好きでもない、ましてやそこらへんの女とか女性の身体も心配だがリボーンだって困るじゃないか。
真剣に見つめて言うとリボーンは口元から笑みを失くして俺の唇を撫でた。
「お前は、なんで俺のことばかりなんだ?」
「ん?どういうこと?」
「普通だったら、女の身体が…とか言うんじゃねぇのか?」
「だって、俺リボーンの恋人だろ?」
ここにきて何を言うかと思えば。
ふっと笑って言えば意外そうに目をぱちくりさせた。
そんな顔も結構可愛いのか、なんて場違いなことを考えつつぎゅっと抱きしめる。
「遅れてごめん」
「仕置きだな」
「……はぁ、なんなりと」
にやりと笑ってすっかりいつもの調子になったリボーンに俺はため息を吐いた。
まぁ、遅れたのは俺だし。
仕置きでもなんでもやってやろうではないか。
「なら、自慰でもしてもらおうか」
「えっ…なにそれ、リボーンって見て楽しむタイプ?」
「そんな趣味はないが、楽しそうだ」
つくづく思うのだが、こいつの考えは楽しい楽しくないの二択しかないのだと最近気づいた。
まぁ、簡単と言えばそうなのだが楽しくないと認定されたらすぐにぽいなので、ある意味怖い。
俺と一緒にいるということはリボーンにとって俺はまだ楽しい対象なのだろう。
どうしようかと迷ったあと俺はそのままの状態で服を脱ぎ始める。
スーツだし、皺になってしまっては困るのだ。
リボーンはじっと俺の様子を見ている。
「あんまり見るなよ」
「恥ずかしいのか?」
「…まぁ……」
男に見られて恥ずかしいのかと言葉に聞こえない部分を察してしまえば頬が熱くなって視線を逸らした。
これ、恥ずかしくない人なんかいないだろ。
大体自慰をみるなんて、趣味悪い。
そう思いながらも俺はベルトを緩めて自身をとりだすと扱き始める。
なんというか、人に見れられながらするのってすごく気になって感じるどころじゃない。
「っ…こんな、で…いいの?」
「そっちじゃないだろ?」
「へっ!?…まさか…」
「当たり前じゃねぇか」
嫌な笑みに嫌な予感しかしなかった。
もう、やだこいつ。
リボーンは無理やり俺のズボンを下着ごと足から抜き取り足を開かせた。
間にリボーンの身体を挟みこまれて逃げることもできなくなる。
そして、リボーンはご丁寧に俺の掌にローションを溢してきた。
当初はローションもなしで切れた血がその変わりをしていたこともあり、この関係に慣れてきた証しなのかと妙な感心を覚えてしまえば慌ててそんなの違うと思いなおす。
知識もなしで男抱くとか本当はあり得ないのだ。
まぁ、俺も何もしらなかったけど。
「これしたら、満足するのか?」
「する」
「そのあと、俺を満足させてくれるのかよ?」
「ああ、させてやる」
そこまでしっかりと断言してくれるなら仕方ない。
俺は腹を括りローションで塗るつく指を秘部へと宛がった。
正直言えば自分の指をここに入れることなんて慣れてしまった。
けれど、今回はその指を入れる用途が違う。
「っ…うぅ…」
「もう一本入るだろ」
言われるままにもう一本入れて一気に圧迫が強くなる。
けれどもこの前会った時より開いた期間は一週間程度なので三週間開いた時ほど辛くはない。
そのまま慣らすように中を掻きまわして自分の感じる場所を探す。
俺の指ではなんか見つけにくいのだ。
リボーンはいつも的確についてくるのに、と考えているとリボーンがじっと俺の顔を相変わらず見つめてくる。
だから、恥ずかしいって…。
「見てるなら、手伝ってよ」
「お前の仕置きに手伝うってなんだよ」
図星だ。
まぁ、そうだろう。
でも、どうせ気持ち良くなるならリボーンの指が良いに決まっているじゃないか。
リボーンの指やモノに慣らされた身体。
こんな細い物より、リボーンのが良い。
「んんっ…ね、おねがい…」
入れてない方の手を伸ばしてリボーンの腕を撫でた。
俺だけこんなみじめな思いをするのはいやだ。
「それじゃ仕置きにならないだろ」
「だって、届かないんだよっ」
俺は恥ずかしい気持ちを押し殺して叫んだ。
何が嬉しくて自分の指が届かないからリボーンの指で感じさせてくれと懇願しなきゃならないのだろうか。
恥ずかしくて近くにあった枕を引き寄せると自分の顔を隠した。
「ちっ…だったら、お前が入れろ」
なら、指をやると言われて今俺の入れている指の傍にリボーンの指がやってくる。
俺は顔を隠したままそろりと自分の指を抜いた。
そして、リボーンの指を秘部に宛がう。
リボーンは決して動こうとしないで俺が自分で入れるのを待っているようだ。
俺はとにかく感じさせてほしくてそのまま自分のと一緒に押し込んだ。
「ふぅ…んんっ…」
いつもの指だとわかったとたん俺の中がきゅぅっと締まったのがわかる。
声も出たが、枕がそれを吸収した。
そのままゆっくりと抜き差ししてリボーンの指をいつもの場所へと導いた。
「んっ…ふっ…あぁっ、やぁっ」
「枕はいらねぇだろ」
すぐさま見つけたそこを擦るように動かす。
すると喘ぎ声が漏れて、それを聞いたリボーンは枕をとり上げた。
声が出てしまって恥ずかしいのに指が止まらなくなってる。
もう、イきたくてどうしようもなく気持ちが良い。
自分でして感じるなんて変なのに…。
うっすらを目を開ければ相変わらず俺を見ているリボーン。
けれど、さっきより目に熱が籠っているのがわかる。
これは、強請っても大丈夫かな…?
「すき、ちょうだい…」
「もう限界か?」
「んっ、げんかい…だって、わかるだろ」
こんなにも中があからさまなほど締めつけているのに、わからない、はないだろう。
はやく、と急かすように腰を揺らした。
「すき、すき…す、き…」
俺は自棄のように言いながらリボーンの指を揺らした。
でも、もっと確かなものがほしい。
すると、ゆっくりと中から指が抜けていく。
そして、宛がわれたモノに俺は自然と力を抜いた。
「ひっあぁぁあっ…」
「俺よりさきにイくなよっ…?」
「はっ、むり…むりぃ…あぁあっ、ひぁ…」
リボーンの理不尽な言葉に無理だと言いながらも我慢してしまうのはもう癖なのだろうか。
マゾなつもりはないんだけどなと思いながらリボーンがするのはやっぱり気持ちが良い。
女が惚れこむのもしかたないよな、と考えながらリボーンに抱きつく。
すると、いきなり中のものが大きくなったような気がして俺はイきそうになりながら締めつける。
早くイってくれ、俺はこんなにも待ってるのに。
「イくぞ…?」
「きて、きてぇっ…あっああぁっ」
がつがつと腰を押し付けられて最奥に熱いものをかけられる。
そして、俺もようやく解放することを許された。
なんというか、今日は結構優しかったような気がするのはさっき泣いた効果なのだろうか。
でも、少しずつわかってくれればいい。
恋人というものがなんというものなのか…リボーンは最低限もわかっていないんだ。
少しぐらいは修正させてくれてもいい気がする。
俺と一緒にいる期間ぐらいは…。
…あれ?期間っていつまで?
なんで俺はこの関係を続けているんだろう…。
考えたらきりがないことを考え始めてしまって、さっきまで高ぶった気持ちが一気に冷めて行くようだ。
なんだろう、こんなに好きっていっても嫌いとは言わないリボーン。
絶対俺を突き離したりしないんだ。
それに甘えているんだ…それが、心地いい。
近すぎても、遠すぎても駄目なんだ。
俺とリボーンの距離が、だんだん近づくのを感じた。
でも、それは俺だけなのかもしれないけれど…。