◎ 愛したい君と、愛を知らない君
暗い道を歩く。
駅をでて公園を通り過ぎ、一番近いマンションが俺の帰る場所だ。
けれど、今日ばかりはその独りきりの部屋に帰りたくなかった。
俺は公園へとはいる。
誰もいないのがわかっていて常夜灯の下のベンチに座った。
「また…振られた」
小さく呟く。
別にモテるというわけではないが、彼女はできる。
俺はその子のことを自分の持てる精一杯で愛そうと思っていたのだ。
けれど、そうしていると時間がたつにつれて重いと言われて別れを切り出されてしまうのだ。
俺としては必死なのにそれが嫌だと言われる。
最初はそれがいいと言われてつきあい始めたのに酷いことだ。
ため息をついて、木製のベンチへと視線を落とした。
すると、そこに可愛らしい字で良かったらメールください、と書かれたメモが。
ついでのようにアドレスまで書かれていてどうせデタラメなアドレスだろうと自嘲気味に笑いながらケータイを開いた。
普段ならこんなことしない。
けど、今日はなんだか人恋しい。
なんでもよかったといえばよかったのだ。
俺はアドレスを打ち込むと、内容に恋人になってくれますか?と本心を打ち込んだ。
戻ってきて、ますます虚しくなるんだと思いながらそれを送信した。
………。
「えっ、嘘!?返ってこないじゃん」
メールを送信したきり返事のないケータイに俺は慌てた。
だってあんな文章送ってどうするんだよ。
大体、不審がられて終わりだと思うが…電話とちがい非通知設定できない。
ということは、下手したらこのアドレスを悪用されかねないのだ。
「どうしよう…まさか、本当にあるアドレスだったなんて」
俺は怖くなってアドレス変えようかなと思い立ったとき、メールがきた。
恐る恐るメールボックスを開けば、先ほどのアドレスでゴクリと唾を飲む。
中身を見ると、なってもいい。と一言だけ。
「あれ?なんて打ったんだっけ?」
送った文章を忘れてしまい、送信ボックスを開いた。
読み直す…恋人になりませんか?…で、なってもいい。
「って、え!?なにこれ、は!?趣味の悪い悪戯か?」
自分もそんな内容のメールを送っていることを棚に上げて混乱する。
ちょっと待て、何かある。
…けど、会ってみてもいいか…とか。
こんなことを考えるなんて相当参ってるんだなと感じつつも、知らぬ間に週末会う約束を取り付けていた。
「クククッ、ばかな奴」
突然きたメール。
俺は考えるまえに返信していた。
それにのってきて、とんとん拍子に会う約束が決まった。
文面をみるに男だ。
少し遊べるなと笑みを浮かべてケータイを閉じたのだった。
恋人なんてバカらしい、そんなものお互いに嘘をついて折り合いをつけて理由を並べて一緒にいないといけないと自分に言い聞かせるようなものの何が良いというのだろうか。
…それを思い知らせてやる。
約束の日。
俺は待ち合わせた場所に行った。
そこには男が一人だけ、時間通りにきたよな?と、時計を確認した。
間違えるはずもなく約束の時間。
「間違えちゃったかな?」
心配になってメールをすると、隣から着信音が聞こえた。
そこには男しかいないのにと視線を向けると見られていて、その整った顔にドキリとする。
いかにも、女受けしそうな顔だ。
すると男がケータイを閉じたと同時に俺のケータイが鳴った。
嫌な予感がする。
案の定、メールを見れば目の前にいると素っ気ないもの。
「騙したのか?」
「騙されたのはお前だ、第一名乗ってもいない」
「……」
「男でいいなら、コイビトになってやるぞ?」
男の言うことに間違いはなかった。
名乗られてもいないし、俺が思い込んだだけ。
ニヤリと笑って印象は最悪。
けど、意地っ張りな俺が最悪のタイミングで顔を出した。
「こ、恋人になってくれるなら、なってよ」
弾みというのは恐い、後戻りできなくなった雰囲気に泣きそうになる。
どうかここでバカじゃないのか気持ち悪いと言ってくれと願った。
が、人生そんなに都合よくいかない。
「おもしれぇ、まぁコイビトなんてすぐになれるもんじゃないしな、俺を惚れさせてみろよ」
「や、やってろーじゃん。あんたから好きって言わせてやる」
そうして、俺達の最悪の関係が幕を開けたのだ。
俺はこのときの言葉をしばらくの間後悔する羽目になる。
それにしても、物好きな男がいたものだと俺はため息を吐いたのだった。
END