パロ | ナノ

 星の欠片

「はぁ…」

控室、服を着替え終わってセットの準備ができるまでの待ち時間俺は知らずため息をついていた。
それを笑った風が隣に座る。

「どうしました、いつも自信満々の嫌味なくらいの笑顔がありませんよ?」
「それこそ、嫌味だろ」
「そうですか?」

失礼と、いつもと変わらぬ口調で謝りながら水を飲んでいる。
今日は月刊雑誌の撮影だ。
この前と同じく、風とコロネロもいるが、コロネロはいつもぎりぎりに入ってくるためもう少し後だろう。

「まぁ、お前のそれは今に始まったことじゃねぇからな」
「で、何をそんなに憂いを含んだ顔でため息ついてたんですか?」
「…鮮明な例えだな。んー、男相手だとあんなに難しいもんかと思ってな」

風には隠し事をしても無駄だとわかっているため、素直に話す。
どうせ、こいつの場合他人には興味ないのだ。
優しい顔して、誰にも靡かない…それは、こいつ自体に他人への興味なんてものないからだ。
だから、これを話したところでどうということはないだろう。

「ああ、あの綱吉とかいう子ですか」
「相変わらずよく見てるな」
「リボーンのアレは誰が見てもそうでしたよ」

コロネロはどう思っていたかわかりませんが、と笑って風は三つ編みを解いて髪を結う。
風の長い髪はいつまで伸ばすのだろうと思うほどの長いが、奴は切る気がないらしい。
ただ、三つ編みだと服に合わせづらいのでいつも解いている。

「聞かせてくれませんか、まだ時間もありますから」
「単なる一目惚れだ」
「リボーンが?しかも男とは、あんなに美女をはべらせていた男がどうして?」
「はべらせてたってそれは撮影のときだろうが、俺はそういうことはしてねぇ。しかも、この業界に入ってからそっちはなにもないからな」
「…ほう、週刊誌をにぎわせてたあれは全部嘘だと?」
「当たり前だろうが、あんなの単なる賑やかしだろ」

俺は簡単に答えて、そのあとの追求の言葉にも踊らされてるんじゃねぇよと笑った。
風の場合、週刊誌を本気にしているのではなくてただ俺をからかいたいだけだろう。
女優と交際だ、歌手との熱愛発覚、それは全部あちらさんが用意したネタだ。
第一一緒に一夜を過ごすと言われていたが、そんな記憶はないしその女優とも一回撮影で一緒になっただけだ。
業界も面倒になったものだとため息を吐くが風はただ笑みを浮かべる。

「そして、リボーンはあの人に夢中になった…と」
「向こうは何も脈も、それどころか泣かれたしな」
「泣かれた?」
「突然泣いたんだ」

話していくうちにあの初めて綱吉が撮影にきた日のことを思い出した。
俺をじっとみつめて、そして思わすといった形で涙を流していた。
さすがに、泣かれるとは思ってなかったので驚いたが向こうもパニックになっていたようだしそれ以上の追及は止めたのだ。

「ほぉ、でも動揺していたなら泣きたくて泣いたわけじゃないんでしょう?気にすることではないと思いますが」
「…そうか」
「気長にいけばいいじゃないですか、何を焦っているんですか」

風の口調は優しく、焦ったらばれますよと笑われた。
むしろ、ばれた方が話が早いとは思うのだ。
この際、こちらから好きと言ってみる方が早いか…いや、何の脈もない状態でそれをいうのはリスクが高い。
やっとこの前専属になるかと誘ったのに、それが無きものにされてしまうのは惜しい。
こんなやましい感情を抱いている時点で、綱吉は近づかない方が良いのだろうがそんなことをされてしまっては、困る。
俺は本気で惚れているのだ。
遊びなんかじゃない。
あのコレクションで会って、なんだこいつと思ったのは確かだった。
けれど、俺を追う視線が強かった。
他のモデルもいた、いろんな客たちは俺も見るが他もみた。
けれど、綱吉だけは俺が出て、戻ってくるまでをじっと見ていたのだ。
同じ男で、服装を見ていたというには不自然だった。
そして、コレクションが終わってから俺は綱吉を調べたのだ。
あの中にいるのは関係者しかいない、忍びこめるような生易しいものじゃないのだ。
そしたら、デザイナーなのをつきとめ写真集の話が来ていたのを思い出し、綱吉に頼むことにした。
俺と綱吉が近づくきっかけはそんなところだ。
綱吉が俺に近づく機会も増えた、写真集の撮影も順調。
けれど、なぜか綱吉との距離が縮まっている気がしないのだ。
すると、俺の思考を切り裂くように廊下からあわただしい足音が聞こえた。

「時間はっ!?…ぎりぎりセーフだコラ」
「何がぎりぎりセーフだ、もう始まるぞ。早くしたくしろ」
「なんだ、お前もいたのかリボーン」
「メンバーの確認もしてないのか、仕事の管理くらいまともにできねぇのか」
「なんだと?」

撮影開始の十分前になってコロネロが滑りこんできた。
いつものことだが、いつものように突っかかってしまうのは仕方ないことだろう。

「リボーン時間です」
「…チッ」
「コロネロも、早く支度してくるんですよ」
「わかってる」

風に言われるまま廊下に出ればスタジオに向かう。
犬猿の仲と言うほどではないのだが、俺とコロネロは仲があまり良くない。
それをいうのは、コロネロが異様に俺に付きまとってくるからだ。
それに特別な感情などはないと思う。
ただ、俺に張り合いたいだけなのだとか。
前に風に愚痴ったら俺が偶然にも奴が受けているオーディションをことごとく奪ってしまったらしくそれをずっと根に持っているらしかった。
そして、それを隠そうとしないので俺とコロネロは因縁があるとかで仕事を一緒にさせられている。
全部自分のせいでそうなっていることにいつ気づくのか。
言ってやりたいと言ったら、風は楽しいのでそのままでお願いしますと釘をさしてきた。
こいつも、大概変な性格だと俺は思うのだ。
そもそも、この芸能界と言う業界自体一癖も二癖もある奴らばかりだ。
ここで俺がホモとかで誰が驚くのだろうか、と思うほどに。
スタジオに入るなり、今日の撮影順序を説明された。
いつものように、俺は仕事をこなしていく。これが俺の魅力だというのなら、残さず魅せてやろうと思う。

「ああ、そうだ。リボーン、綱吉さんがここに来るのなら今度はあなたから行ってみては?こちらばかり見られるのは癪に障ると理由をつければ、簡単だと思いますが」
「…お前、悪知恵だけは上等だな」
「それって、悪口ですか?」
「いや、褒めてんだ」

風の助言を聞いて、俺は早速その日にでもいってやろうと思った。
突然行くと驚かれるだろうから、事務所から連絡をいれた。
仕事中にそれを終わらせると、撮影が終わるなり俺はいち早くスタジオをでたのだ。






「普通の家だろ…どう見たって」

綱吉の仕事場だときかされて住所を頼りにやってきたそこは、少し綺麗な作りの二階建ての家。
普通デザイナー事務所と言うのはもっと大きくて人もいるものなんじゃないのだろうか。
俺はよくわからずに首をかしげつつも。表札にはしっかりと沢田と書かれていたため間違いがないことを確認し、インターホンを押した。

「はい、どちらさまでしょうか?」
「モデルのリボーンだ、今日見学に行くと伝えてたが」
「ああ、どうぞ」

対応したのは男だった。
手慣れた風な感じで、いつも接客をしているのはこの男なのだろうとつい即することができた。
そして、ガチャリと玄関のドアが開き俺は中へと招かれた。

「こんにちは、俺は綱吉さんのアシスタントをしているものです」
「よろしく」

そうして中へと案内されて、仕事部屋だと思われるところに入ればそこに綱吉がいた。
綱吉は俺を見るなりがたっと椅子を立って、近づいてきた。

「リボーンさん、こんにちは。突然、びっくりしました。散らかっちゃっててすみません」
「すまねぇ、思い立ったら吉日って言うだろ。それに、俺ばかり見られるのは癪だからな」
「ああ、そうですよね」
「リボーンさん、では気が済むまで見てって下さい」

綱吉は苦笑を浮かべながら言った。
俺は風に言われたことを理由にして、中を見回した。
俺を案内してきた男は珈琲淹れますからと別の部屋に行ってしまう。
二人きりの空間になって、心もとなくなる。
そう言えば、いつもはスタジオで二人きりいといってもスタッフがいたりして本当に二人きりになるのはあの控室での時以来だ。
あの時も、俺は着替えていたから何となく電話で話しているようなそんな感じだった。
ここまで、緊張する空間と言うのは初めてかもしれない。

「そうだ、これ見てください」
「ん?」
「リボーンさんに着てほしくて、描いたものなんです。アイディアだけなんですが」

けれど、綱吉は緊張した様子はない。
それは、ここが綱吉の居場所だからだろう。
スケッチの状態のそれを見せられて俺は目を奪われた。
写真集に使う服のものも入っていて、それがそのまま出てきたような感じなのだ。
ここまで思い描けるのはすごいことなんじゃないのだろうか。

「あ、これいいな」
「どれも似合うと思います…あ、でも俺の想像だからわからないですけど…」
「敬語、止めて良いぞ」
「え?」

少し照れたように言う綱吉の言葉に引っ掛かりを覚えて、俺は一歩踏み込むためにさらっと言った。
こちらは敬語のない口調だというのに、綱吉はいつまでも敬語を使う。
そのくせ、慣れていないから時々普通の口調の時もある。
面倒だろうと指摘してやれば、そっかと普通の口調に戻した。

「名前も呼び捨てろよ、俺だって綱吉って呼ぶ」
「う、うん…わかった」

年もそんなに変わらないとプロフィールをみて感じた。
これからもっと近づくのに。敬語なんかいらないと思った。
そうして、スケッチを眺めていれば顔を赤くするのだ。

「どうした?」
「いや、なんでも…ないよ」

今一どこに反応しているのかわからないまま、アシスタントの男が入ってきて珈琲を出してくれた。
綱吉は慌ててスケッチを隠すと、仕事に取り掛かるのだろう。
椅子に座ったのを眺めつつ、近くの椅子へと俺も座る。
今日はこのゆるやかに流れる部屋で、綱吉の仕事ぶりを見ることに決めたと、胸の内で笑みを浮かべた。




続く





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