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 流れ星

服の素材を選ぶのもデザイナーの仕事だ。
リボーンの仕事を見学にいってからと言うもの、やっぱり本人を目の前にしたからかアイディアが浮かんだ。
あの人ならこんな服を着せてみたい。ああいうのもよさそうだ。
そんなことを思いながら一気に描き上げた。
そうして、俺の仕事は着々と片付いてき服が出来上がていく。流れ作業のようにそれを現場へと納品した。
これがどんな風に見れるのか、それを確かめるのも俺の仕事だ。
だから、俺は再びスタジオへと向かっていたのだ。
この前はコロネロと風がいたが今度は限られたスタッフとモデルのリボーンのみ。

「緊張する…」

あのとき弾みとはいえ、泣いてしまったことが今でも思い出せるぐらいには記憶に新しい。
なんというか、あのあと逃げるようにして出てきてしまったから今回どんな顔をして会えばいいのかわからない。
そう思いながらも、俺の作った服を着てほしくて結局はきてしまっているのだ。
隼人は俺が作った奴をまだ仕上げている途中だったりする。
また俺一人なのかと言ったら、一回言ったから大丈夫でしょうとすっぱり切られた。
最近隼人が俺を突き放すようにしているなぁ、と遠い目をしながらもスタジオのドアを開けた。

「おはようございます」
「おはようございますー」

まだリボーンは準備しているらしくセットとスタッフだけがいた。
忙しなく動いているのの邪魔にならないように部屋の隅に移動する。
セットを眺めて今日は何もない背景で撮影するようだ。
撮影はいろんなところで行われるらしい。今日はたまたまこの前使った場所だが、実際に建物を貸し切っての撮影もあるらしい。
どんな風にされるのかは、とりあえずこちらはイメージでしか伝えられていない。
わくわくとした気持ちを味わっているのも確かなのだ。

「今日はお願いします」
「おねがいします」

声がしてそちらを見ればリボーンが入ってきた。
俺の作った服を着ていて一瞬息をのんだ。俺のデザインした服を本当にきている。
実感はあまりなかったのだ。
リボーンが着てくれる、なんて夢のようだと思っていて。実際そのものを目の当たりにしたらあまりの衝撃にどうしていいかわからなくなった。
リボーンは忙しそうにカメラマンと撮影の準備に取り掛かっていた。
俺には気付いてないみたいで、挨拶はあとでいいかなとそっと壁に寄りかかった。

「すごく…かっこいい」

今日のリボーンは堅い服だからか髪をワックスで固めていて、ぴしっとした男だ。
そうして、じゃあ撮影に移りますとの声に俺はリボーンを観察しようと見つめていた。

「っ…」

すっと細められた瞳が、まっすぐに俺を見つけていた。
今まで何も見なかったのに。どうしてと戸惑いながらも慌てて頭を下げることで何とか挨拶らしきものをした。
そして、自分の作った服を着てもらっているのだからもう少し言うことがあっただろうと思いなおして後悔する。
焦るあまり何もできない時も、もう少し何か言えば良かったと思うこともある。
そういうのはいつも隼人がさりげなくフォローしてくれていたりしたのだが、それも今はできない。
何と言っても、今俺は一人なのだから。
困り果てていると、顔をあげたらリボーンは俺に近づいてきた。
あまりの態度に怒られてしまうのかと身構えたが、リボーンは俺に服が見えるようにして腕を広げて見せた。

「似合ってんだろ?」
「う、うん」
「ありがとな」

ぽんっと頭に手を置かれて俺は一瞬のできごとに何が起こったのか理解するのに時間を要した。
褒められたのか?と思った時にはリボーンはセットの中に言ってしまって二の句が次げずに撮影が開始された。
スタジオにシャッター音が鳴り響く、そうして時々カメラマンからは指示が飛び交った。
その指示に的確に応えていくリボーンはなんだか生き生きとして見える。
あんなにも楽しそうに仕事をしているんだと感じて、少し羨ましく感じてしまう。
いや、この仕事が不満と言うわけではなくて俺はあんな風に人目に映るものにはなることはないと思っているのだから。
俺だったらあんなことをするなんて、軽くノイローゼになりそうだと感じて、そんなことだったらまずモデルになることはないんだろうなと思ってしまった。
だから、この仕事についたんだろうと苦笑を浮かべつつ馬鹿な考えに呆れたため息をついた。

「ああ、それいいね。視線こっちお願いしまーす」

カメラマンの声に俺は思わず顔をあげた。
すると、カメラマンは至近距離でリボーンの顔をアップで撮っていた。
その流し目はとても扇情的で思わずどきりと胸が高鳴った。
男の人にそんな感情を持つなんておかしいと思いつつ、一度暴れ出した心臓はなかなか止むことはなかった。
ぎゅっと心臓を掴んでそれを収めようとするのに、その動悸は収まることなくてそのうち息が切れてしまいそうだとリボーンから視線を離した。
あんなにも人を引き付けるものを持っているなんて、俺は驚きながらも当然の結果に、自分の服がそんな人にきてもらっているのかと思うと、感動した。

「すごい、信じられない…」
「何がだ?」
「ひわっ!?」

いきなり声をかけられて顔をあげたらリボーンが立っていた。
少し額に汗を浮かべているのは撮影のライトのせいだろうか。

「お疲れ様です」
「まだあるぞ、着替えてくる。お前も来るか」
「いい」

タオルを片手に軽く言われて、俺は首を振った。
これ以上近くに居たらまた変なことをしてしまいそうで怖かった。
自分が何をするかわからないなんて、いつもあったこと。
けれど、それをうまくわからなく回避してきた。
が、リボーンの前だとそれが上手くいかない。
俺の調子が変になってしまっているのがわかるのにそれを悟られないようにすることもできなかった。

「さっきから俺のこと見てたくせに」
「え…」
「いっただろ、俺はわかるんだ」

他人がどう思って自分を見ているのか。
そう言って笑ったリボーンに俺はどうしたらいいのかわからなくなった。
どう思っているって、それは俺が一番知りたいことだった。
なんでこんなにもリボーンから目が離せないのか。
どうして、こんなにリボーンばかりになってしまうのか。
あの日、コロネロも風もいて…リボーンより会話した。
リボーンは俺と気まずくなってしまってから会話を避けるようにしていたけれど、風やコロネロと話していてもいつもリボーンを目の端に見ていた。
モデルをしてくれるから、それだけじゃないのかもしれないって思っていた。
でも、この思いに名前をつけていいものなのか俺はずっとわからなくて、戸惑って、答えが出せていなかったのに、この男はそれすらも見抜いているのだろうか。
俺のこの心中を知っているのは自分だけだと思っているのに。

「来るだろ?」
「……うん」

それはただの想いあがりだ、そこまで知られているなんてことはない。
深く考えすぎるのは駄目だ。
俺は思考を振り切るように首を振ると、思わず頷いてしまった勢いのままにリボーンと二人でスタジオを出てリボーンの控室までつれてきてもらった。

「はいれ」
「おじゃまします」

中に入ると、今日の撮影につかわれるのだろう服が並んでいた。
リボーンは慣れた仕草でかけてある服をとるなり、ついたての奥へと入っていく。
俺は近くに会ったソファに座り、少し物珍しさに周りをみわたした。
よく芸能人とかが使っているような場所で、初めて来たと少し心が湧き立つのを知る。

「綱吉」
「は、はいっ」
「良い服作るな、あんた」
「…へ?」

衣擦れの音を聞きながら始まった会話に少しドギマギとしてしまう。
作る側からしてみればきる側の意見も聞いておきたいところだが、俺はこの会話を覚えて入れるのかそれが一番心配だった。

「着心地いいし、デザインも少し地味だが…それがいい」
「はぁ…」
「褒めてんだぞ、少しは喜べよ」
「そう言われても…」

スタジオにいた時とはうって変わって饒舌になるリボーンに俺は少しついていけない。
というか、褒められ慣れてもいないというか…。
そんな風に言われたのは初めてだった。
これまででも、地味だと言って仕事を断られたことは何度かあっても地味だから良いなんて…そんなことを言われたのは初めてだった。

「自分に自信ないタイプか?」
「え…まぁ、そうかも」

着替え終わったリボーンが出てきて、今度はネクタイを大きく解いて前を三つぐらい開け、少し動けば肌蹴てしまいそうなそれを鏡越しに見てしまえばびくっと反応してしまった。

「俺はこの服気に入った、よかったら専属になるか?」
「せ、専属!?」
「ああ…といっても、俺が写真集をまた出すことになったりした時だが」

どうだ?と自信が満ちている眼差しが俺をまっすぐに見つめてくる。
どこにそんな自信をもてるのだろうか。
俺なんて、人とまともに話すのも難しいというのに。

「俺で、よかったら」
「俺は、お前が良い」

まっすぐに見据えて言われた言葉、驚きながらも頷いていた。
そうして、スタジオに戻ればまた同じ要領で撮影が再開される。
リボーンは最後まで疲れを見せずカメラに笑顔を向け続けた。
それが、俺にはキラキラと光って見えて星の様だと思った。
いつまでも輝き続ける星、俺に何でも願い事を叶えてくれるという流れ星のように魅力的なものに見えたのだった。



続く





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