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 嫌い嫌い

子供というのは従順なほど集団行動に敏感だ。
少し乱れた子供がいると途端につまはじきにする。
それは小学生の時に始まった。

『いやだよ、やめてよっ』
『ははっ、おもしれぇ…コイツ泣いてるぞ』

四年生になってすぐのころのことだった。
俺は小さいころから目が悪く黒縁眼鏡で一人の時間が好きだからいつも一人でいたため髪も伸ばしっ放しの前髪で視界が塞がれていて、見るからに貧相な格好をしていた。
そんな俺を苛めてきたのはクラスの人気者だったリボーンだ。
リボーンが俺に砂を投げれば皆もそれに従って、俺はリボーンを中心にクラス全員からの苛めを受けていた。
その時から俺は暫く対人恐怖症になり病院に通う羽目になった。
母はやつれて、そのあといくらも経たないうちに離婚、名字が変わった。
もうこの世に俺の味方なんていないんだって思っていた、だれも助けてくれない。
誰も、俺を見てくれない。
けれど、大人になるにつれてその想いは段々と払拭されてきた。
だが、俺に友達らしい友達ができることはなかった。
いつ裏切られて俺の精神を傷つけていくのかと、想像しただけで発狂してしまいそうだった。
その時の記憶は十年以上経っても忘れられなくて、むしろその時の恨みを晴らしてやろうという怨念ばかりが募っていく始末。
そんな中、俺はある情報を手にすることになる。
丁度俺の働いている店の近くの飲み屋に、美形の男が訪れるらしいと学生の子たちから聞いた。
気まぐれだった、顔が良いって言うので性格もいいわけじゃないだろうし、でも見てみたいかなという好奇心。
俺は男に安らぎを求めるようになっていた、同じ男なのに昔と外見の変わった俺にはみんな優しく接してきた。
眼鏡をコンタクトに、髪をもっとさっぱりとしたものに、色も少し明るくした。
もともと童顔なのもあって、結構好評だ。
優しい男に抱かれたい、そんな邪な感情が現れ過ぎていたのかもしれない。
飲み屋の暖簾をくぐり、中を見た。
いつもカウンターで飲んでるとかなんとか言ってたなと何となくカウンターへと足を運んだ。
適当にビールを頼んで見回して、そこに居た人物に俺は心臓をわし掴まれたような感覚に陥った。

「っ…」

リボーンだった。
俺をこの十年以上もの間苦しめてきた、張本人が…目の前に居た。

「ん?」

顔を上げたタイミングで素早く顔を逸らす。
あの時から何もかも変っているというのに、リボーンにはばれるんじゃないかと緊張した。
出されたビールを二、三口飲んだだけでもそこにいたくなくて落ちつかない。
まさか、こんなところでリボーンに会うなんて思わず、その日はビール一杯を飲んで早々に店から立ち去った。
でも、俺は思ったのだ。
これで、俺の恨みが晴らせる…と。




それから俺は入念に計画を練った。
どうやってリボーンに絶望を味あわせるのか、どうすれば傷つくのか。
そうして、俺は再びあの飲み屋に向かったのだ。
リボーンのことを調べた結果、リボーンは週末に来ることが多い。だから、金曜日の今日を狙って足を運んでみた。
中に入ると、まだリボーンはきていないようで俺はカウンターへと座った。
ここで、ビールを一本注文する。
待ちながらアルコールを摂取する。
そして、俺が飲み始めて一時間後、リボーンがやってきた。
いつもと同じ席に座るようで、この前と同じところに座ってさっそく注文しているらしい。
まだ、動かない。
俺はタイミングを見計らうようにビールを飲み、その後酎ハイを頼んで飲んだ。
酒の周りの早い俺の身体はあっという間に熱くなり、リボーンの方もビールを三本開けたところだった。
俺はそろりと会計をするために伝票を持ち、ふらふらとした足取りでレジに向かおうとして、わざとリボーンにしなだれかかった。

「おい、酔ってんのか?」
「ん…おにーさん、送ってくれない?」

にっこりと笑って、リボーンの腕を掴んだ。
男が嫌いならそのまま振り払われるのが落ちだ、けれど、リボーンは何回か男を連れてこの店を出たのを確認していた。
しかも、そのたび相手が違うところを見ると特定の人物もいないと思われる。

「チッ…しかたねぇな」

ほらやっぱり。
俺の予想通りリボーンは俺の腕を引いて立ちあがった。
酒を飲んで満足だったのかもしれない。
リボーンはいつもビール三本ぐらいが目安のようだった。
俺は酔った振りでお金を出し、そのままリボーンに連れられて店を出た。

「家どこだ?」
「んー…わかんない」

リボーンの問いかけに知らぬふりをして、体重を預けるように寄りかかった。
すろと、ますます不機嫌そうな舌打ちが聞こえて腕をひかれた。
俺が大人しくれていかれた場所は、リボーンの部屋らしい。
殺風景でなにもない、俺はそこにいれられると水を飲むかと聞かれて、とりあえず頷いた。
すると、俺は寝室に通されて寝ていろと一言。
リボーンは水を取りに行ってしまったようだ。
少し周りを見回して、入りこめたことを確かめると寝てるふりでベッドに顔を埋めた。
こんなに、満たされた生活をしているのか…。
俺はあんなに不幸な目に会ってきたのに。どうして、こいつはこんなにものうのうと暮らしているのだろう。
何で、俺ばかりこんな風にみじめな気持にならないといけないのだろう。

「おい、どうした?」
「ん…」
「寝るな、起きろ水飲め」

泣きそうになっているとコップに水をいれてリボーンが現れた。
ベッドに座ると身体を起こされて口元にコップをつけられる。
ゆっくり傾いて唇に触れる冷たい感触に俺はそれを飲んだ。
位に入りこんでくる冷たい飲み物に、熱くなった身体が冷えていくようだ。
なにをやっているのかと思うが、もう止められない。

「ねぇ、家賃代わりに…俺なんてどう?」
「俺はそんな趣味はない」
「うそだね。男が嫌ならあのとき振り払えたのにそれをしなかった」

リボーンを見上げると、分が悪そうな顔をしていて、内心で高笑いを浮かべる。
このまま一夜を過ごそう、そう手を伸ばしてコップをとり上げて誘うように唇を舐める。

「酔っ払いの相手をする気にならねぇ」
「よってないよ」
「酔ってるやつは皆それを言うんだ」
「…いじわる」

甘えるような声を出してリボーンを見つめる。
まだ、名前も知らない相手。
酒のノリでここまで入りこめてしまうのはいろんなお身で気分が良い。
今日しようとしまいと俺には関係ない、俺はただ此処にいる口実が欲しいだけなのだ。

「ねぇ…だめ?」
「仕方ねぇな…これっきりだぞ」

一度きりの関係だとリボーンは前置きした。
そうして、伸ばされた手を俺は振り払うことなく受け入れて、その日心の底から嫌いなやつと俺は、セックスをした。




身体を揺すられた。
俺は目を開けて、見知らぬ部屋に一瞬何が起こったのか理解できなくて、危うく忘れかけた。
変なことを口走る前に正気づいて、リボーンを見上げた。

「俺は仕事にいく、お前は適当になにか食べるかなんかして出ていけ、鍵はポストにいれておけ。わかったな」
「……」
「わかったな」
「はぁい」

覚醒しきれない頭で無理やり考えて俺はなんとか返事を絞り出した。
ばたんと音がして、しんと静まりかえった。
リボーンの置いて行った鍵は、俺の頭辺りにあって、のそのそと起き上がると腰の痛みに呻きそうになる。
始めて受け入れたそこをいっそ褒めてやりたいぐらいだ。
俺はゆっくりと立ち上がると部屋を物色しはじめた。
何かを盗む目的はないが、恋人の様なものがないか確認する。
付き合っているとなれば、別れさせるし…何もなければ俺がそこまでのぼりつめてふってやりたい。
とにかく弱みを握りたくて、粗方探した。
何もなかったが、ゲイのDVDを見つけた。もしリボーンのものならば、リボーンは確定的にそっちの人間だということになる。
昨日俺は、リボーンに自己紹介をされた。
といっても、リボーンという名前だけ聞かされたのみだ。
俺もツナだと伝えた。
リボーンは何も気付いた様子はなかった。

「本当に…嫌いだ」

優しい仕草もなにもかも、全部が疎ましく感じる。
きっと俺は、一生リボーンを許すことはできないし、許せないし、自分の計画を遂行するために手は抜かないだろう。
それでも、リボーンは俺を傍に居させてくれるというのだろうか。
本当に、滑稽な光景だ。
嫌い過ぎて、吐き気がする…。




END





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