パロ | ナノ

 甘い疲れ


俺がここで働き始めて二度目のクリスマスが訪れようとしていた。
色とりどりのケーキに目移りする子供を微笑ましげな瞳で眺める。
この季節になると店にやってくる子供の数も極端に増える。
そして、売り上げも伸びるのだ。

「綱吉、こっちクリーム」
「はいっ」

リボーンの声が厨房に響く。
俺は視線を戻して手を動かした。
ここを指揮しているのはリボーンで、リボーンと俺しかいない。
忙しいというのに、俺とリボーンだけだ。
久実もいるのだが、レジも当然忙しくてとてもじゃないがこっちに手を回している暇などない。
こんなのを毎年繰り返しているのかと聞いたら当たり前だと返ってきた。
いくらなんでも、これでは過労死するレベルだろ…うん。
俺はふらふらとしながらクリームを塗りたくる。
朝泡立てたのがもうなくなってきている、焼いている間にまた泡立てなければと思うと気が遠くなる。
俺がこんなではリボーンもヤバいんじゃないかと見たら、まだ集中力を途切れさせていなかった。
あんな風に乱暴に言っても指だけは狂わない。綺麗になぞる曲線を美しいと思う。
俺がスポンジの周りに塗ったものに、フルーツやイチゴが乗っていく。
あっという間にできたのはフルーツケーキだ。

「これ切っとけ」
「わかった」

綺麗に切る方法も叩きこまれた、俺は慎重に切るとそれにビニールを巻いていく。
店頭に出ているケーキを完成させるとそれをお盆に移動させた。
それを持って少なくなった場所へと並べていく。

「久実さん大丈夫ですか?」
「なんとかぁ…」

そっと声をかけると今にも倒れそうな声が聞こえてくる。
もう、これはバイトの一人でも雇った方がいいんじゃないんだろうか。
俺は厨房へと戻ると、リボーンは次のケーキに取り掛かっていた。

「リボーン、あのさ…相談なんだけど…」
「なんだ、気が散る」
「バイト…雇わない?」
「……はぁ!?」




怒涛の一日が終わってシャワーを浴びた俺はため息を吐きつつベッドに座った。
そして、重いため息。
あのあとリボーンに猛反対された。

『バイトだぁ?んなのに頼る暇があったら手を動かせ』
『だって、このままじゃ確実に倒れるよっ』
『倒れないように体力つけろ』

俺が何を言っても聞き入れることはなく、話合いは言い合いになって久実の働けばかども、の一言で我に返った。
結局その話しは流れて、一緒に食事している時もなにも話題にあがることはなかった。
なんでバイトがダメなんだろう。
こんなに疲れているのに、この日も俺はベッドに沈みこんで起き上がることはできなかった。
ここ最近はずっとそうだ。
リボーンとの身体の関係も、まったくない。
いや、つい二週間ぐらい前まではあったのだが、こうなってからというものいつも俺が先に寝てしまってそう言うことに至っていない。

「あの堅物店長…」
「なんだって?」
「ひっ…リボーン」

珍しくシャワーだけで済ませたのか、寝ている俺を覗き込んでくるリボーンは不機嫌な顔をしていた。
でも、間違ったことは言ってない。…と思う。

「こんなんじゃ、俺疲れてリボーンの身体に触れる前に寝ちゃいそうだよ」
「もう少しの辛抱だろ」

ベッドの縁に腰かけたかと思えば手を伸ばして俺の髪に触れる。
優しい手の感触に俺は目を閉じる。
そして、香るのはケーキの匂い。
甘い、食べたくなるようなバニラビーンズの匂いだ。
俺はリボーンの手をとってすんすんと鼻を寄せた。

「犬か」
「リボーンの手は良い匂いがする」
「お前もだろ?」

ここで働けば意図せずとも甘い匂いは付くだろうと笑われてそれだけじゃないんだと首を振る。
違うと思う、初めて会った時から変わらない匂い。
特別なにかをやっているわけでもなく、その手でリボーンは優しく触れてくる。

「リボーンだけの特別な匂いだよ」
「そうか」

甘くてつい、舐めたくなれば舌を差し出す。
リボーンから舌先に触れてきてしょっぱい。
やっぱり食べても甘い味はしないなと苦笑すれば、俺の感情を読み取ったのか指が離れていってしまう。

「あ…」
「普通の味だっただろ」
「でも、舐めてたいよ」
「明日も忙しいだろうが」

すぐ疲れる癖に何言ってるんだと咎める声が聞こえる。
そうだけど、ちょっとの触れあいぐらいってもいいだろ。
こっちは心も身体も疲弊しているのに…。

「リボーン、もっと、甘くして」
「甘いだろ、充分すぎるくらいだ」
「ん…もっと」

甘える声でリボーンの手を引いた。
何のためにこんなに大きなベッドに寝ていると思っているのか。
二人で寝るようにと大きなベッドを買ったのに、意味がない。
腰に抱きついて、俺は離れない主張。
意地でも離れるものかとギュッと抱きつく腕に力を込めるとしかたねぇなと小さな声が聞こえた。
そのあと俺の脇に手を入れられてベッドの真ん中に移動する。
ちゅっちゅっと唇が俺の唇を慰撫する。
甘く食んで、舌を差し入れてきた。
唇を薄く開けて受け入れるとリボーンの手が俺の身体に這わされる。
ああ、今日は抱いてくれるのかな…なんて、思いながら目を閉じた。




外から鳥の鳴き声が聞こえる。
朝の気配がすれば目を開けた。
気だるい頭を起こして、ぼーっとカーテンの隙間から差し込むまだ弱い光に今一状況が飲み込めなかった。

「あっ…」

昨日俺、寝た。
嘘だろ、と自分を見てみれば何のことはなくパジャマを着ている。
隣を見ればリボーンは俺に腕枕をしながら寝ていたようで腕を差し出したまま良く眠っている。
昨日、抱かれる気配に俺は嬉しくなった、それなのに俺は目を閉じた瞬間意識を飛ばしたのだ。
朝までしっかりと眠ってしまった、何で無理やりにでも起こしてくれなかったのか、と理不尽な怒りをリボーンにぶつけたくなる。
俺は、いつも欲しいと思っているのに、リボーンは俺を抱きたいと思わないのか。
俺はそんなに魅力がないのだろうか…。
そしたら、ぽつりぽつりとシーツを濡らした。
それが自分の涙と気付くまで少し時間がかかって、体育座りで自分の足に顔を埋めた。
涙が止まらない、一度溢れたそれは止めることはできなくて鼻まで出てきてしまえばずるっと吸った。
泣いているのがバレたら心配させてしまう、俺はそっとベッドを抜け出そうと身体を動かしたら隣でもぞもぞと動き出して俺は動きを止めた。
リボーの手は俺を探しているみたいで、ベッドを探し、俺のパジャマをみつけてぺたぺたと触られた。

「ん?…」

起きているのがわかったのだろう、リボーンは不思議そうな声をあげながら顔をあげた気配がする。
俺は足に顔を埋めているためここからではリボーンの顔が見れない。

「どうした、綱吉?」
「なんでもない」

俺が答えたのに、リボーンは起き上がって俺の背中をさすってくる。
なんでこんなに優しくするんだろう、俺は途中で寝ちゃったのに。
やっぱり俺のことべつになんとも思ってないのか…。
そしたら、ますます涙が布団に沁みを作る。
濡れてしまって、どうしようもなくなって、俺は手を出すと近くをぱたぱたとしてリボーンのもう片方を探した。
そしたら、リボーンの手がぎゅっと握ってきて、俺の名前を耳元で囁いた。

「しごと…しなくちゃ、だろ?」
「お前を放っておけるわけねぇだろ?」
「俺なんかどうでもいいじゃん…ケーキ作る方が今は最重要だ」
「どうでもいいわけあるか、こんなに大事にしてんのに」

俺の手をぎゅぅぎゅぅと握って背中を撫でていた手が俺の頬を撫でる。
そして、ゆっくりと顔を持ち上げてくるから仕方なく俺はそれにしたがった。
きっと酷い顔をしているだろう。
到底、朝から店には出れない顔だ。

「綱吉、どうした?何か嫌だったのか?」

泣きぬれた顔を見られたくなかったけれど、焦った声がなんだか嬉しい。
困らせて喜ぶなんて最低だなと感じつつも俺はリボーンを見つめて握られた手を引いた。

「リボーンが欲しかったのに…朝になっちゃったよ」
「仕方ないだろ、疲れてたんだ…お前は」
「やだよ、俺…欲しくて、どうしようもなかったのに」

もう朝が来てしまったと感情の高ぶりのままにまた泣きだしてしまえばあやすようにキスをされる。
そんなに沢山されたら止まらなくなるから止めてくれと手を出せばその手をとられて指を絡ませて握られた。
両手をリボーンの手で掴まれてしまった。

「なに?…仕事、しないと…」
「ここまで、我慢させてたとはな」
「もっ…いいから、離して」

こんな風に欲情を誘わないでほしいと言えばそのままベッドに倒された。
そして、俺に熱い口づけを送ってくる。
散々口の中を荒された後唇を離されれば、リボーンが小さく休業だと囁いた。

「え…?」
「今週は結構忙しかったからな、特別休暇だ」
「なん、なにそれ…だって、久実さんとか…」
「体調がすぐれないから休業だって電話して来い。そしたら、俺はお前のもんだ」
「ばっ…もうっ」

終いには従業員は少ない方がいいだろと笑われて何も言えなかった。
たしかに、こんなことになった日には皆に電話しなくてはならないことを考えると、従業員は少ない方が良いのかもしれない…けれどそれは違うと思う。
少なければ少ないほど大変だし、疲れるし…でも、こういう休暇もたまには良いかなとか…。
俺はベッドを抜け出すと電話を手に取ったのだった。




END
菜緒さまへ
パティシエパロのその後の話しでした。
どのぐらいがいいかなと考えて、丁度この連載やってたのが一年前なので一年後にしてみました。
俺様は変わらず、でも少し譲歩を覚えて甘くなったかなぁ、みたいなリボーンを書いてみました。
なんとなぁくですけれど…←
気に入ってくれたら嬉しいです、気に入らなかったら書き直し受け付けてますので。
改めて、リクエスト有難うございましたっ。






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