◎ それは、とても甘い…
「リボーン…視線が、視線が痛いよ」
「知るか、気にするな…この店はずっとこのスタイルでやってきたんだからな」
これ以上何を変えるつもりもないと言われて俺は必死にこちらを見つめてくる客達から視線を合わせないでいることを続けた。
あのリボーンが綱吉は俺物宣言をした日を境に穴場の様な美味しいケーキ屋さんで知られていた噂が、今毎日全種類のケーキが完売するほどの人気で美形と可愛い子がカップルのお店として名が広まっていた。
そのせいで二人で立ってケーキを作っていると女性が集まってジロジロと見られる状況になるのだ。
俺はそろそろそんな生活に耐えられなくなってきていた。
リボーンが蒔いた種だろと事態の収拾を仄めかすもこれで良いだろと本人は全く気にした様子もない。
まぁ、たしかにここで作っているところが外から見えれば美味しそうだと思うし俺はここからリボーンと交流をもったのだ。
このスタンスは失くさなくてもいいと思うが…なぜだろ、すごく納得できない。
「リボーン…」
「泣きそうな声出すな、キスされたいか?」
「それは止めて」
せめてもの救いはこの会話はこの厚いガラス越しだと聞こえないということだけだった。
そろそろ自分の仕事が終わるとチョコレートをケーキの周りに塗りたくり、上にイチゴを乗せて生クリームを添えた。
「俺の仕事終わり、リボーン後はよろしく」
「ったく、一丁前になりやがって。ムラがある」
「あ…嘘…?」
リボーンの言葉にしっかりやったはずなのになと、レジの方へと向かおうとした身体を再び戻してリボーンの方へと動かされたケーキを覗きこみ、どこだとムラを探そうとしたらいきなりリボーンに顎に手を添えられて顔を上げさせられるとしまったと思う間もなくチュッとキスをされていた。
その瞬間、外から黄色い声が聞こえてきそうなほどの盛り上がり具合だった。
レジの方から久実があんたらまた何かやらかしたかと怪訝なまなざしで見つめてくるが俺はもう何もできずに両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
もう、こんな生活耐えられない。
いつからか、リボーンは照れることがなくなった。
少し前まで頑固おやじのように素直に言わないことがあったのだが、何をきっかけにしてかリボーンはこういうことにオープンになった。
それは久実も驚くぐらいで、最近は恥ずかしいから私の前ではしないでくださいこのリア充どもめ、と俺まで巻き添えを食らっているところだ。
横目でリボーンを見上げれば満足げな笑みを浮かべている。
「この、サドッ、鬼畜っ、変態っ」
「ァア?本気でチョコレートプレイするぞ?」
「っ………脅しだぁ」
その間にもリボーンはケーキを綺麗に切り分けて整えるとそれをレジの方へと運んで行った。
俺をからかいながらもしっかりと仕事をこなす。
すごいとは思うが、これはどうなのだろう。
俺だって、最近は盛りつけだけではなく焼くのも混ぜるのもやらせてもらっていて自分でも成長したと思うのだ。
それなの、リボーンのせいで俺自身があまりすごく感じれない。
いや、ここはリボーンの店なのだからこれで良いのかもしれないが、なんだか納得いかない。
俺だって、やればできるのに…。
その日の夜。
夕飯を用意していた時、店の方の片づけが終わって上がってきたリボーンを迎えてテーブルに並べながら俺は少し緊張しながらも口をひらいた。
「なぁ、なんであんなことするんだよ」
「あんなことってなんだ?」
「…いきなり、キスしたり…」
「ああ、自慢だろ?」
「それだけじゃないだろ?」
問い詰めると少し驚いたように目を見開いた。
なんだ、俺が気づいてないとでも思ったのか、失礼だな。
向かい側に座ると話しを逸らそうと箸を持とうとしたとき俺はリボーンの箸をとりあげた。
「言うまで食べちゃだめ」
「てめ…」
「なんでここだと恥ずかしがるんだよ」
「恥ずかしがってねぇ」
「恥ずかしがってる…ねぇ、なんで?」
答えを聞くまでは食べさせないと笑顔で小首を傾げてやれば、何かを耐えるように視線を逸らす。
そんなことしても今日は逃がさないからな。
俺がリボーンに甘いことを知っていてやってる時もあるから、気が抜けない。
早く言えと、じっと見つめていればはぁとため息をはいて口を開いた。
「お前、このごろケーキ作り上手くなってるだろ」
「ん?そりゃ、結構経つしね」
「この前、お前は告白されてたじゃねぇか」
「でも、俺にはリボーンがいるよ?」
なんだろうこの流れは、リボーンの言葉に一つ一つ答えてやり安心するような言葉を言ってやるがリボーンの眉間のしわは消えなくてどうかしたのかと本気でわからなくなった。
「いつ、俺よりいい男が現れるかもわからないだろ」
「……は?」
「そしたら、俺はまたお前のいない生活に逆戻りで…」
「ちょっ、ちょっとストップ」
「は?」
いや、は?とか不思議そうな顔しないで。
っていうか、何それいつ俺がリボーンから乗り換えるとか言っちゃったよ?
何も言ってないよ、なにこの可愛い人。
とりあえず、俺は箸を戻すことにした。
「えーと、俺はリボーン一筋だよ?」
「……そうか」
「疑ってるだろ」
「別に…」
俺の作ったご飯を食べ始めるのを眺めながら仕方ない人だな、と苦笑した。
リボーンが感じて俺にしていたことは目に見えない嫉妬からで、思いこみだ。
どうして、俺が二日おきぐらいのペースで抱かれていると思っているのだろうか。
「好きなの、わかってる?」
「知ってる」
「俺の気持ちは、変わらないよ。もし、そうだとしたら俺はここで一緒に暮らしてないよ」
全部もうあげれるものはあげてしまった。
俺の部屋にあるものも、身体も、心も。
それなのに、何を不安に思うことがあるというのだろうか。
こんな話しを久実が聞いたらまた惚気ですか二人でやってくださいと一蹴されそうだ。
「ねぇ、リボーンは…どうしたら信じてくれるんだよ」
「仕方ないだろ…俺は、これしかなかったんだ」
食べる手を止めて自分の手を見つめる。
それは、ただ菓子を作ることでしかないと言っていた。
ああ、どうしてこんなにも純粋な男が俺なんかを好きになってくれたのだろう。
その事実だけで嬉しくて幸せを噛みしめてしまう。
俺は、リボーンに手を伸ばして頬を優しく撫でる。
「愛してるよ、リボーン。俺は、ちゃんと好きでいるから」
「…お前も少し変わったな」
「へ?」
「強くなった」
あれだけ泣いていた奴とは思えない位だと笑みを見せられれば赤面するしかない。
あの時は本当に弱くて、ただそこに立ちつくすしかなくてそれをリボーンは拾ってくれたんだ。
だから、今の俺を作ったのはリボーンでリボーンにぴったりとはまってしまった俺は、もうリボーン以外一緒にいることなど許されはしないんだ。
「強くなったよ…リボーンの、おかげなんだ」
「俺の?」
「そうだよ、だからもっと、俺を好きになっていいよ。ちゃんと俺だけを見てくれなきゃ嫌だ」
「……綱吉…」
だからもう、他の目なんて気にしないで。
そう、口にすると同時に俺から口付けた。
「ねぇ、俺をもっと愛して?」
「誘ってんのか…」
「今日だけ、ね」
俺は笑みを浮かべながらいつもの調子に戻ったリボーンにもう一度口付けた。
今日はまだ休むことは許されない。
お前にたくさん“愛してる”を刻んでもらうまでは…。
END
旦那様へ
パティシエパロ、できましたっ。
今回は果てしなく甘く、甘く甘くなっているといいな…とか。
ちょっとツナを強めにしてみました。
そしたら、なんかリボーンが女々しくなった気がしないでもないけどあまり気にしたら負けだよ。(笑)
あ、書きなおし受付ます。
ここまでお待たせしてしまってすみませんでした。少しでも喜んでもらえたら良いのですけど…。
素敵なリクエストありがとうございましたっ。