◎ 甘い体温
「…あのー」
「なんだ」
「店長と沢田さんはちゃんとくっついたんですよね?」
綱吉がここで正式に勤め始めてから五日ほど経とうとした時のことだ。
買い物で綱吉がいない時を見計らって久実は俺に問いかけてきた。
久実は何もかもを知っているようなので俺はコクリと頷く。
「じゃあ、なんでシないんですか?」
「っ!?な、なんで知ってんだ」
「見てればわかります。ちなみに今の反応で確信しました。なんでシないんですか?」
「……お前に言うことじゃないだろ」
ずいっと顔を近づけてくるのを手で押し返しながら顔を逸らす。
また誤解されたらどうするつもりだ。
だが、久実は納得いかないらしく頬を掴んで無理やり目を合わせてくる。
正直目が怖い。
「男同士でどうやるかわからない…とかじゃないですね?」
「それぐらい、調べた」
「タイミングがつかめない…夜一緒に寝てますよね?」
「一緒のベッドだ」
「………まさか、恥ずかしいとか…照れくさいとか…ないですよね?」
「…………」
「いや、やめてくださいよ。そんなキャラじゃないでしょ?」
繊細な指先が廃るっと俺の指をまじまじと見ている久実を振り払って、クリームを握った。
こんなときは集中だ。
もう何も聞こえねぇ。
「恥ずかしいだけで抱けないなんて、どこのヘタレですか」
「……うるせぇ」
外の話しはシャットアウトしたはずなのに久実の声が矢となって背中に突きささってくる。
「本当は、沢田さんのこと嫌いなんだ?」
「違う」
「ならなんですか?あれだけ一緒にいて抱かないなんて、男としてどうなんですか?」
久実の問い詰めるような言葉に手に持っていた生クリームをテーブルに戻した。
「どうって言われたってなぁっ、あんなに嫌がられたら手もだしづらくなるもんだろうが!!」
「ということですが、どうなんですか?沢田さん?」
ケーキに集中していたせいで気づかなかったが、久実が名前を呼んで俺ははっと顔をあげれば買い出しから戻った綱吉が、そこには立っていた。
大声で言ってしまったので、今の言葉が聞こえていないなんてことはない。
聞こえなければよかったと思うも、これはこれでよかったのかもしれないと、思った。
現に綱吉は、顔を赤くして困っているのだ。
それは、期待していて何もしてこない俺に焦れていたってことだからだろ?
久実は綱吉が買ってきた袋を受け取れば、レジの方へと出ていってしまう。
「店長、なんか…今日はお客さん少なそうですね?」
「お前に任せていいのか?」
「……三時間は、大丈夫そうですね」
久実の言葉を聞くなり俺は綱吉の手を引いた。
自宅である二階へと足早に階段を上って行く。
そのあいだ、綱吉は嫌がることもしなければ何を言うことなく大人しく俺の後を登ってきた。
「っ…ふっ……」
ドアが閉まったとたん、綱吉を引き寄せ抱きしめながら唇を奪った。
それにも抵抗することなく、俺の背中へとおずおずと腕を回してくる。
角度を変えて、舌を舐め合って、その間にも服を脱がせながら尻を揉んだ。
我慢に我慢を重ねていたため歯止めがきかない。
「つな…」
「…リボーン、嫌じゃないから…」
やっとの思いで唇を離せばお互いに荒い呼吸を繰り返して、俺が開きかけた言葉を綱吉はさえぎるように言った。
恥ずかしい思いをしているのだろう。
耳まで赤くなって、それがなぜかとても愛しく見えた。
昼間というのがなんともやりたがりに見えて俺は部屋のカーテンを引き、綱吉をベッドに押し倒した。
「好きだ…」
「ん…俺も、おれも…すき」
服を脱ぎながら見つめて言うとギュッと抱きついてくる。
ちゅっ、ちゅっ、とキスの音を立てながら綱吉の服を脱がしていき素肌に触れるとぴくっと震える。
だが、嫌じゃないと言うように抱きつく腕に力が入るから俺は笑みを浮かべると鎖骨を舐めて胸への愛撫を始めた。
初めて触られるところなのか最初は何なのかわからないと言うような顔をしていたが、指先で根気よくコリコリと弄って、舌で押しつぶすとくぅんっと犬の様な鳴き声で啼いた。
「ゆっくり感じていけばいい…」
「んっ…りぼーん、もっと…触って…」
たくさん、撫でて…拙い言葉で誘ってくる綱吉に苦笑を浮かべた。
なんでこんなにもいじらしいのだろう。
綱吉に言われたとおり、身体の隅々まで指先で撫でいやらしいところも足の指先から髪の一本一本まで余すところなく撫でる。
そのたびに幸せそうに笑うから、自然と緊張が解けていく。
「あ……っ…」
「辛かったら、息吐け」
「ん…んっ、う…」
指をローションまみれにしながら解したそこは、やっぱり初めてでうまくいかずに少し入っただけで先を阻まれてしまった。
辛そうにする綱吉をなんとかしようと自身に手を伸ばして感覚をやり過ごそうとする。
「は…あっ、んんっ…ふぁあっ」
「気持ちいい方、感じろ」
二人して汗だくになって繋がることに必死だった。
なんとか少しずつ侵入していって、ようやく三分の二あたりまで入れた時だった。
少し抜こうと腰をひいたら、ビクッと痙攣して綱吉の手がとっさに俺の腕を握った。
「ひっ…ああっ、だめっ…そこ、へん…」
それ以上しないで、と訴えてくる瞳が潤んでいた。
俺は大丈夫だと囁いて、途端そこばかりをこすりあげた。
「ぁああっ、やぁっぁっ…りぼ、りぼーんっ…はぁっ、イ…く…あっ、でるぅ」
泣きだしそうな顔をして、それなのに口からは俺を煽る喘ぎしか出てこない。
あまり激しくしないうちに綱吉は下腹を震わせて限界を訴えてきた。
きっと頭も許容範囲を超えてしまっているだろう。
ぼろぼろと泣いて、イかせてイかせてと突き上げるたび呟いている。
「わかった…大丈夫だ、ちゃんとイかせてやる…綱吉、つな…」
「んっ…あっあっ、感じる…そこ、きもちい…あっぁああぁあっ!!」
「っ……くっ…」
後ろだけでは到底イけるわけがないので自身を扱いて、揺さぶりながら綱吉と同じタイミングで俺も中に吐き出した。
朦朧とする意識の中、俺はリボーンに身体を丁寧に洗われているところまでは覚えていた。
けど、そのあと意識を手放してしまい目覚めるとカーテンの隙間から月明かりが差し込んでいた。
この部屋に入ったのが昼過ぎぐらいだから……。
「っ……寝すぎた」
この頃、すっかり寝不足で一気に心の重みが取れた途端眠りこんでしまったらしい。
リボーンが俺に手を出してくれなくて、悩んでいたのは確かだが…あんな風に昼間から致してしまうとは思わず、恥ずかしくて顔が熱い。
久実に恋愛話を持ちかけてしまったのは自分の失態だと思った。
けれど、案外というかさらりと彼女は気持ち悪がりもせずそれはいけないと今回の鉢合わせのタイミングをはかってくれたのだ。
彼女の協力がなければこうして至福の時を噛みしめるのはもう少し遅くなっていただろう。
「けど…妬けるなぁ…」
怒らせるタイミング、リボーンの思考、気さくな性格、久実がリボーンを好きだったら太刀打ちできないだろうと感じる。
あんなにわかりあえているのに、それ以上にならない。
それは、決して離れない距離を保っているように見えて、自分の方が確実に愛されているとわかっていても羨ましく思ってしまう。
「うっ…いたい…」
起き上がろうとして腰に痛みが襲い、これ明日立っていれるか心配になりながら起きるのを断念した。
下の様子が知りたかったが、時間から考えるともうそろそろ店終いだ。
というか、流れで受け入れてしまったが下に久実がいた状態だったことに今更ながら気づいた。
なんなんだ、もう…ホントに…。
明日、どんな風に接していけばいいのだろうか…。
「おい、起きたか?」
「…ん、起きた」
「もうひとつベッド買うか?」
「なんで?…ん」
リボーンが入ってきて突然言いだしたことに首を傾げる。
ここまでベッドを買うなんて一言も言ったことがないからすこし驚きながら見つめると、リボーンが俺の上に覆いかぶさってきて口づけられた。
「これを空き部屋に置いて、キングサイズを買うんだぞ」
「…ベッドが勿体ないっ!!」
もとから一人用のベッドだから、狭いには狭いが、そこまであからさまなのはいらないっと喚いた。
俺は呆れているのにリボーンは嬉しそうで、少し前のあの関係にようやく戻れた気がした。
いや、あれ以上に仲良くなっているのだ。
あのときは、友達で…今は、恋人だ。
まだ実感するには、時間がかかりそうだけど久実のようにリボーンの隣が見合うようになりたい。
「わかった、これが壊れるまで我慢するか」
案外壊れるのが早いかもしれないがな、と続く言葉にはつい手が出てしまった。
だが、それはやんわりと抑え込まれてベッドに縫い止められた。
「ちょっ…」
「お前が誘ったんだろ?」
「どこでっ、俺はふつうにっ…リボーンッ」
「誘ったら最後まで責任とる。常識だ」
腰はもうとっくに限界を訴えているのに、受け入れてしまいそうになっている自分に呆れた。
もう、きっとこれからこのペースでリボーンに呑まれてしまうのだろう。
それも、いい。
この先の人生も、預けてしまったから。
END