パロ | ナノ

 甘い嘘


「綱吉ってこっちの方に家があるんだ」
「うん…ごめんね、付き合ってもらっちゃって」
「いいよ、いいよ、ストーカーとか出てきたら俺が捕まえてやるからさ」

あれから俺の話をよく聞いてくれる功と仲良くなるのはあっという間だった。
色々話していくうちにストーカーのことも相談してしまっていて、今日から帰り道を送ってくれると申し出てくれたのだ。
それだけはさすがに申し訳なかったのだが、行く行くと強引についてきたのだ。
でも、そういう強引なところは嫌いではない自分がいる。
(リボーンみたいだ…)
もう関係もなくなってしまったリボーンを思い出して慌てて首を振る。

「どうかした?」
「いや、なんでもないっ」
「そか」

長身で、頼りがいのありそうな功に時々リボーンが重なって見える。
結局あれ以来、会うこともなければケーキを買いに行くこともなくなってもう忘れてもいいと思っているのに、どうしてか頭から離れない。
高校であったこともなければ、このまえの同窓会からの付き合いしかない。
でも、リボーンはなんだか知っていたようだった。
きっと、部活関係だ。全国大会まで進出した経験をもっていたのだから。
稽古は勿論厳しくて、俺はいつまでも上達しないからつまはじきにされていた。
あれ…でも、なんか一度だけ……
おぼろげに記憶をたどっていけば、前にケーキを貰ったことをうっすらと思いだした。

「綱吉?さっきからなに上の空?」
「あ…ごめん、なんでもないよ」
「もう、俺がいるのに誰のこと考えてたんだよ。もしかして彼女か?」
「いるわけないじゃん、こんな俺を好きになってくれる女の子がいると思う?」

ケーキを渡してくれた人物をもっと思い出せないかと思考を巡らせていれば功が俺の顔を覗き込んできて、半分驚きながらも全部が吹っ飛んでしまった。
もう少しで思い出せそうだったのに…。

「えー居るんじゃないのかぁ…でも、綱吉みたいの好きな子とかいるだろ」
「モテたためしないからわからないよ」
「……じゃあ、俺なんか…どう?」
「は……え?」

いきなり言われた言葉に一瞬本当に頭が真っ白になって言葉が紡げなくなった。
ついでに足も止まってしまって、功を凝視する。

「冗談、嘘に決まってるだろ…もしかして、女の子から告白されたことないのに、男からのそういうのはあったり?」
「なっ…ないに決まってるじゃんっ」

嘘と言われてからかわれたのだとわかり、慌てて先を歩く。
リボーンも、冗談だったのかな…。
そう思ったらなんだか悲しくなって、功にはわからないように小さくため息をついた。




「ほう、ここが綱吉のマンションか」
「うん、ありがと。送ってくれて」
「いえいえ、なんかあったら連絡くれよ?夜でもいいからさ」
「そんな迷惑なことしないよ。じゃ、また明日」
「綱吉なら特別に許す。じゃ、またな」

功はあれから話し続けてくれて、話題の途切れない奴なんだと再認識させられた。
自然と入り込んでくるのを許してしまい、気づいた時には思ったより近くに居て驚いた。
でも、なんだか緊張が解けない…なんか、功にはなにかある気がしてならなかった。
だから、自分の部屋には入れたくなかった。
そして、その日も相変わらず部屋を叩くノック音は途切れることはなかった。
この音に反応してでてみたら誰かがいるのだろうか…。
俺にはそんなこと怖くてとてもじゃないが、できそうにない。
リボーンなら、してくれるだろうか…。

「って…なんで、リボーンのことばっか」

あんなことをされたのに、嫌だと感じたはずなのに…。
どうして俺の思考回路は全部リボーンに直結してしまっているのだろう。
おかしい、こんなのは…へんなんだ。

「まず最初に、初対面みたいなもんだろ」

ただ甘い匂いにつられただけ。
あんなこと、されて、何にも嬉しくなかった。
でも、どうしてリボーンはキスなんかしたんだろう。
もしかしてホモだったり?いや、でもあんな女性のくる店やっててそんなことはないと思う。
ただの気紛れ…?

「そうかもしれない。いや、絶対そうだ…やっぱりからかわれてたんだ」

一人百面相しながらたどり着いた答えに妙に納得した。
そしたら、なんだか気分が沈んだ。
功に言われた時はそれが当然と思ってしまったのに、なんでリボーンは違うんだろう。

「なんで……俺の頭を占領してるの」

短い間しか、話さなかった。会わなかった。
それなのに…。
俺のもやもやは晴れることのないまま、その日は過ぎていった。




「綱吉、昨日どうだった?」
「昨日も、なんかノックしかしてこないのに煩かったよ」
「大丈夫だったのか?」
「もうなんか、慣れちゃった」

昼ご飯を一緒にとりながら昨日の様子を聞かれて素直に答える。
慣れたというのは正直本当だ。
だって、ノックしかしてこないのは気味悪いけど、それしかしてこないわけだし…。

「まぁ、よかったのか?」
「うん、よくなってきたよ」
「そか…このままエスカレートしないといいけどな」

そもそも、何の目的があって俺にこんなことをしているのかわからないし、エスカレートと言っても嫌がらせしたいだけならこれ以上の何があると言うのだろう。

「何されるんだろう」
「うーん、やっぱ身体目当てでいきなり路地裏に連れ込まれて…とか?」
「功と一緒なのにそんなことできるわけないだろ?」
「そこを上手く隙をついてだな…いや、俺はお前から目を離さないけどな」

功の言葉に笑いながら流して、ご飯を食べると部署に戻る。
これからまだまとめなきゃいけない資料がある。
仕事の方はというと相変わらず、優遇はされていない。
むしろ劣っている俺は、いつも怒られる側の人間だ。
好きでこんなのろのろやっているわけじゃないのに…。
世のなか理不尽になったものだと小さくため息をついた。



その日の夜、突然自体は急転した。
今日もノックの音がしていて、煩いなとそんなことを思いながらテレビを見ていた。
が、いきなりガチャガチャガチャッと音がしたかとドアを見るとドアノブを乱暴に回してきて、幸い鍵はちゃんと締めていたので入ってくることはなかったのだが、俺は恐怖で震えあがった。

「なんで…面白がってるだけじゃないのかよっ」

もうテレビを見る気にもなれなくて急いで電気を消すと布団にもぐりこんだ。
無理やり目を閉じて、夢へと沈みこもうとするが、結局寝れたのは朝方になってからだった。
さすがに、もう辛くて俺はリボーンの店の前を通った。
ガラスから見えるケーキを作っているリボーンの背中が見えた。
こっちを向いてくれと思うが、目があったところで何を言えばいいのだろう。
俺が一方的に避けているのだし、きっとリボーンは冗談が通じない奴だとがっかりしているに違いない。

「ごめんね…」

今は、やっぱり正面から見ることはできなくて小さく呟くと俺は駅に向かって歩き出そうとした時だ、目の前に人影が現れて誰だと顔を上げるとそこには店の店員がいた。

「沢田さん、おはようございます」
「お、おはようございます」
「元気ですか?ケーキ、また買って下さいね?」
「はい、今ちょっと忙しくて…また、寄ります」

店員の女性は深くは突っ込まないまま、笑顔を向けてきて俺もぎこちないそれで返すとそそくさとその場を後にした。
あの人はとても気策で話しやすい人だ。
常連さんの顔はすぐに覚えるのか、三回目に来店した時名前を尋ねられた。
でも、今は会いたくなかった。
きっとリボーンの耳にも入ってしまうだろう。
ああ、いろんなことがあり過ぎて頭がパンクしてしまいそうだ…。



END






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