パロ | ナノ

 白昼夢

「ごほっ…ごほっ…っ」
「大丈夫か?リボーン」
「ああ、なんとかな…」

洗面台から顔を上げると鏡越しにラルの顔が見えた。
呆れた顔だ。
と言っても、俺に向けられたのではないことはわかっている。
今日も問題の木村嬢が来店したのだ。
そして、俺が飲まされた。
ドンペリでは無理だとわかったのか今回はウィスキーのロックを飲ませて来たのだ。
さすがに耐えられるはずもなかったが、話を長引かせたり少しずつ飲んだりとなるべく飲む量を減らしながらようやく帰ったあとトイレに駆け込み胃に入ったアルコールを出していた。
長時間に渡って飲んでいたせいかアルコールが回っていて吐いてもすっきりしなかった。
ラルの渡してきた水を飲みながら深いため息をついた。

「限界なら、今度は控えさせるように言うが…」
「いい、俺が駄目なら他の奴を出せと言ってくるだろ?この店じゃ俺以外は下戸だからな」
「よく言う、強がりもほどほどにしておけよ」

今度こそは俺に呆れた顔を向けながらもラルはそのまま控室へといってしまった。
要はもう帰っていいということなので、頭に回るアルコールでよろけながらも店を出て帰路につく。
もうすでに睡魔で視界もおぼつかないのだが、誰かに送ってもらって気持ち悪くなっても嫌なので歩くことにした。
帰れば綱吉が眠っている。
この前俺の職場に忍び込んできたことがあったが、よく聞けばあれは綱吉が俺についている女に嫉妬していたからだとマスターから聞きだした。
可愛いことをする、と思う反面、俺だって嫉妬ぐらいいつもしているのにと思う。
綱吉が職場に来た時どれだけ視線を集めていたか。
あのときいた新人だって、綱吉に釘づけだった。
あれで、どうして嫉妬しないでいろって言うんだ。
しかも、綱吉は俺が嫉妬していることに全く気付いていない。
もっといえば、俺が告白したのもかかわらず自分が俺を好きになってしまったと思い込んでいるんじゃないかとも思っている。
俺が惚れこんでるのなんか、周りから見ればわかりやす過ぎるくらいだというのに…。

「…どこまで、勘違いすれば気が済むんだ」

いけないと思うのに考えが後ろ向きになってしまう。
いつもは考えない些細なことを思い出しては自己嫌悪に陥り、逆に目が覚めてきてしまった。

「あいつの全部を、俺は欲しいんだ」

全部、泣き笑い俺が好きだというあいつが。
そういえば…綱吉はキスすらも俺が初めてだと言っていた。
ということは、セックスも当然俺が初めてということか。
それはそれで気分が良いと笑みを浮かべる。
だが、綱吉が抱きたいのは女なのかもしれない。
頭で悪魔のように囁いてくるやつがいる。
女、そうだ結局は綱吉も男で入れたいと思う人間が現れるのだろう。
そしたら……俺はどうなるんだ?
こんなに、こんなに好きでいるのに…。

そんなことを考えていたらもう部屋の前で、鍵を開けると壁に手をつきながら部屋に入る。
静まり返った部屋は寂しさを覚える。

「綱吉…」

いつもはさっさとシャワーを浴びて寝てしまうのだが今日はそんな気分になれず、そのまま寝室に入った。
一緒に住むにあたって変えた家具のダブルベッドの上には安らかに眠る綱吉の姿があった。
愛しい…。

「お前は、俺が要らなくなったらどうするんだろうな…」

なぁ、答えてくれよと眠っているのに呼びかける。
絡み酒なんて質が悪いと思うが止められない。
綱吉の顔を覗き込んで抱きしめる。

「綱吉、俺だけを好きでいろ…」
「ん、りぼーん…どうしたの?お酒臭い、またたくさん飲まされたの?」

俺の言葉が聞こえたからか異常なくらいのアルコールに目が覚めてしまったのか、綱吉は目を覚まして…怒ってもいいはずなのに、俺の心配をする。
そんな綱吉に今日は甘えたくなる。
俺も大概酔っているんだなと感じつつも抱きしめる腕を緩めることができない。

「綱吉、綱吉…つな…」
「ん?…いやなことでもあった?」
「そうじゃない…」

首を振ると綱吉はそれ以上何も言うことなく俺の髪を指で遊んでいた。
心地よい暖かさに頭がぼーっとしてきた。

「眠い?」
「まだ、撫でろ…」
「はいはい」

俺が言うままに頭を撫でる手が気持ちいい。
目を閉じればさっきまで考えていたことが蘇る。
こんなこと、言えるわけがない…。
いつから俺はこんなに女々しくなったのか。

「リボーン、今日だけは…わがまま言ってもいいんだよ?きっと、お前がこんなになることも早々ないだろうし…」

これはこれで新鮮だと瞼にキスをされる。
変だな、いつもは俺がしてやる側なのに。

「変だね、今日はとってもリボーンを甘やかしてやりたい」
「だったら、すればいい」
「本当?いつもこんなこというと怒るくせに」

今は許してやる。言葉にすることなく綱吉に体重をかける。
すると、優しく口付けられて唇をそっと舐められた。
拙い、俺のキスを真似したそれは激情を誘うものではないが自然と身体の力が緩む。

「ねぇ、俺もわがままひとつ言ってもいい?」
「なんだよ」
「リボーンを抱きたい…」

その言葉に俺は目を見開いた。
軽蔑じゃなく、そういう対象として見ているのかとの驚きで、だ。

「お前は女じゃなくてもいいのかよ」
「リボーン以外、こんな関係になろうと思っている人がいないんだから…それでいいんじゃないの?」
「ばかだな…女の方が絶対良いに決まってる」
「本当はそう思ってないだろ…自分に嘘つくのはやめろって」

ばかだねと言い返されて答える前に今度は深く口づけられる。
咥内に忍び込んできた舌に俺からも絡ませると、感じるのかびくびくと反応しながら負けじと舌を甘噛んで吸ってくる。
小さく息を吐き出せば綱吉が起き上がって俺は隣に仰向けになった。
スーツも脱いでいないと頭の隅で考えながら、二人して止まらない。
止まるすべを失くしたまま坂の上の石のように転がり落ちていく。
キスを繰り返しつつ綱吉の手は俺のスーツを脱がしてきて、俺はそれに逆らおうも自分の意志では力が入らずどうにもできない。

「はっ…ごめんね、リボーン」
「なんだよ…今頃怖気づいたか」
「違うよ…抱くから」

もう止まれない、と真剣な目をして言う。
本気だとわかった、止まるなら今…それなのに、止まらない。
どうしようもない。
俺は綱吉に手を伸ばしていた。



怖いと思った。
それは、本当に俺のあそこに綱吉の指を入れることがだ。
拙い愛撫なのに、それに感じた。
けれど、いざあの場所に指が触れれば身体が竦む。
いつも入れる立場で逆になったとたん怖がるなんてどういうことだといわれるかもしれないが、未知の感覚に俺はどうしたらいいかわからない。

「リボーン、リラックスして…無理に力は抜かなくてもいいから深呼吸して」
「っ…はっ…はぁっ…」
「大丈夫だよ、痛くないようにするから…」

多少は違和感があるかもしれないけど、大丈夫だからと言われてゆっくり呼吸していればタイミングを見計らってローションを滴るぐらいにした指が一本挿入された。
途端息をつめるが、すぐに自身を握って扱かれる。
自身を触られるとそっちに意識が集中してあそこの力が抜ける。
抜けたらちょっと進んで内壁を押す。
それを暫くくりかえして、中の圧迫に慣れて来たころ唐突にそれはやってきた。

「はっ…うっ…ううっ」
「ここ、リボーンの気持ちいとこ…見つけたよ」
「んんっ…よわみ、にぎられた…みてぇだ」
「弱みだからね…慣らすから、かんじてて」

言うなりそこを擦り上げてきて声をだしそうになりこれだけはと口を押さえた。
綱吉はそれを見るなり笑みを浮かべるが手を退かそうとは思わなかったらしい。
そのまま作業を続けて長い時間をかけ、指が三本はいるようになった。

「りぼーん…んっ…いれてもい?」
「はっ…こいよ…お前の童貞もらってやる」

お互いまだ春先と言うのに汗だくになりながら求めていた。
綱吉は俺に入れる側だというのにしっかり勃っていて少し見直したのは秘密だ。
ちゃんとこいつも男だったのだと今更ながらに思った。
受け身の立場になってみるとしみじみ思うのだ、こいつはこんなにもいい男でそれなのに俺が好きなんて変だと。
最初が最初なだけにこの想いはいつまで経とうと拭えない。

「余計なこと考えてると痛くするよ?リボーン…俺だけ、感じててよ」
「はっ…俺は、ずっと…お前しか…ぅっ…はぁっ、うあっ」

言っちゃ悪いが俺より小さいモノだからマシかと思えば思いもよらず痛みに声が耐えられなかった。
こんな痛みをこいつは覚えていたのかと綱吉を見つめた。
すると、綱吉は俺に笑いかけてそっと唇を吸う。
抱かれる立場なのに、抱きしめたいと思った。

「つな、つなよしっ…うっ…はっあっ…」
「りぼーん、大丈夫だよ?もう少しすれば、よくなるから…」

それを知ってか綱吉は俺を抱きしめて、もう止められないと腰を押し進めて来た。
中を擦る感覚に慣れなくて、結局全部入れて馴染むまで微動だにすることができなかった。
でも、これでお前の初めて全部もらったことになる。
全部、俺のものだ。

「リボーンッ、ごめん…もうっ…んあっ…はっ、やっ」
「感じるか?気持ちいいだろ?お前の中もこんななんだ」
「でも、やっぱり…俺は、リボーンに抱かれる方がいい」
「俺も、お前を抱いてた方が良いな…これじゃ、思うように抱きしめられねぇ」

お互い思っていたことは同じようで苦笑いを浮かべると、綱吉は耐えられず先に放って俺の腹を濡らし、その刺激で俺も達してベッドへと沈みこんだ。
そして、俺は疲労とアルコールによる睡魔に襲われ事後のことも忘れてそのまま眠ってしまった。

「おやすみ、リボーン」

小さく、綱吉が囁く言葉を頭の片隅に聞きながら俺は出勤時間ぎりぎりまで眠り続けたのだった。



「……いてぇ…」

携帯のアラームで目が覚めると、頭痛と腰痛、ついでにあらぬところの痛みを覚えて眉を寄せた。
きのう何があったのかと記憶をたどれば、とぎれとぎれに思い出されて腕で顔を隠すとあーと声をだす。
無理に声を耐えていたから、喉の辺りもなんか変だった。

「これ、どうすりゃいいんだ」

一日だけの過ちとは言え、こんな事態になると思わず途方に暮れた。
そのまま寝たのに身体が綺麗になっているのを見れば綱吉が綺麗にしてくれたのだろう。
まぁ、これじゃシャワーどころか立てるかも怪しいところだ。
だが、そんなことに甘えてもいられないためなんとかベッドから立ちあがってシャワーを流すだけであがってスーツに着替えながらリビングにいけばサンドイッチとメモが置かれていた。

「用意のいいことだな”ちゃんと食べろ”か」

この腰の痛みではどこかで買い食いも面倒だと思うことが想定されたのだろう。
頭痛薬と一緒に置かれたサンドイッチを口に運んだ。
マスターの作るものより薄味のそれはいつも濃い味のものを食べる俺への配慮だろう。
ちゃんと味わいながら綺麗に食べて、薬を飲めば仕事に向かうため玄関にいくと偶然綱吉が帰ってきた。

「ただいま、リボーン」
「ああ…」
「ちゃんと食べたね、いってらっしゃい」

少し気まずかったが、綱吉はそんなこと思っていないようで俺の顔を見ると口の端についた卵の黄身を見れば舐めとって笑顔を浮かべた。
そんな姿がやっぱりかわいいと思う。

「ああ、行ってくる」
「あっ、ちょっと…」

なんだと声をだそうと思ったが綱吉に抱きつかれてとりあえず動きを止めてしまった。
それがいけなかった、綱吉は俺の首筋を吸って痕が残ってるのを見れば満足そうに笑みを浮かべて離れた。

「前の仕返し、お前も精々女の人に冷やかされてくればいいんだ」
「おまっ、こんなのつけたらどんなことされるか…」
「俺だってマスターに散々笑われたんだからな」

思い知れと笑う綱吉に結局は強く出れなくて、俺は最後の抵抗に綱吉の胸倉を掴んで引き寄せると噛みつくようにキスをする。

「んっ…あっ、ふぅ…」
「はっ、これで我慢してろ。自分で抜くなよ」
「馬鹿リボーン」

からかうように言えば俺は部屋を出た。
二日酔いで頭痛はまだするし、身体もあちこち痛い、それなのに今日はなんだか心がすごく軽くなった気がした。
帰ったらどうやって今日のことを後悔させてやろうかと考えながら、綱吉に付けられた痕を指でなぞった。



END






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