▼ 少し特別
暗闇の中、俺は走る。
鬼ごっこをするように楽しく、実際鬼ごっこの要領で逃げているウサギを追っているのだが…。
まぁ、そのウサギが今回これまた楽しみがいのないやつで、実を言うと面倒事を押し付けられているのだ。
本当ならもう少しましな相手と手合わせできるところだったのに、邪魔したのは悲しきかな…最愛であるはずの恋人であった。
「まったく、自分ばっかり楽しんじゃってさぁ…」
だが、あの人…というか、死神にかかれば楽しむもないだろう。
今頃こま切れか、背中にJの文字を刻まれていることだろう。
俺の方もそろそろ疲れてきたし、片づけるとしようかと掌に集中した。
するとそこに水滴が集まり野球のボールほどの大きさのものができる。
「じゃあ、そろそろおやすみといこうか」
走るのも耐久力のない俺には結構辛いこと。
水玉をぎゅっと握って指先から溢れたそれを針のように飛ばした。
「ぐあぁあぁっ!!?」
「力使うとすぐだよね、うん」
「使い過ぎも、あまりよくありませんよ名前クン?」
「うあ…もう終わったんだ?」
「クスッ、造作もないことです」
自己満足に浸っていたら独り言に返事が。
まさかと振り返れば、結構な距離を走ったと思うのにすぐそこに恋人の姿が。
あいかわらずの神出鬼没さだなとチートぶりにため息をつきつつも返事を聞けばなら帰ろうと手を出す。
「なんです?」
「繋いでくれないんですか?」
「さっき力を使っておいてそれを言いますか」
「あ…そっか……」
俺の力というのは生まれ持ったもので、近くにある水分を集めて色々できるというもの。
未だにそれの制御が上手くいかなくて、こうして力を使ったあとは大抵近くの水分を引き寄せてしまう。
水分、ということは血液もだ。
水気のあるものならなんだって俺は操れる。
だが、トレーニングをしてはいるがなかなかうまくいかないものだ。
「蔵人なら、別に平気でしょうに…」
「照れ隠しです」
「うそ」
「冗談です」
はっとして振り向けばいつもの笑顔。
チッと舌打ちして自分の両手をポケットに。
寒くなったから、繋ぐよりいいやと自分に言い聞かせる。
強がりだなんて言うな、強がりなんだから。
馬車の所まで行ってトラックに乗り込む、これだけ邪魔者を殺したのだから次はないだろうと思ったとおり依頼人のところまで運び終えた。
「今日の仕事終わり〜」
「おつかれさん、名前」
「馬車さんも」
武骨な手で頭を撫でられ仕事を終えて走り去る馬車を見送った。
残された俺たちも帰ろうと歩き出した。
帰ってくれば、今日は良い夫婦の日だと言うことに気づく。
生憎あと数分で今日が終わってしまうのだが…。
「良い夫婦…」
「なにか?」
「今日」
「…ああ、別に夫婦なんてものじゃありませんしね」
黒いコートと帽子を脱ぎながら俺の言葉を拾った蔵人は悠々とバスルームに向かう。
今日はこのまま寝る気なのかと、納得できずに俺もバスルームに向かった。
服を自分で脱ぎ裸体を露わにする蔵人に魅入る。
あのすらりとした立ち姿では想像できないほど綺麗な曲線、なのにしっかりと筋肉が付き見ているこっちが照れてしまいそうだ。
俺は背中にある切れた痣を指先でなぞった。
「名前クン、あまり触るとくすぐったいのですが…そして、なぜあなたも裸なんですか?」
「蔵人でもくすぐったいって感覚あるんだね。お背中流しますよ」
俺を振り向いた蔵人が怪訝な顔をする。
恋人に対してその反応はないよな。
「いいだろ?」
「…どうせ、否を言おうともするのでしょう?」
「うん、今日は蔵人と風呂に入りたい気分」
背中の痕にチュッとキスをすると、余計なことをするなと腕を掴まれた。
そのまま浴室へと入って俺はシャワーを手に取る。
出して温かくなったところで蔵人の身体にかけてやる。
血の匂いが湯気で立ち上りつつ流されていき手のひらで身体を撫でればほぅっとため息を吐き、逞しい身体にキスしたくなる。
恋人の身体を見て、されるがままになってくれている状況でどうして我慢できよう。
「名前クン、何をお考えで?」
「ん、触りたいなぁって…なぁ、お預けはなしだって」
「別に取り上げたつもりはありませんが…今日は、私が上ですよ」
「ん、ん、いいよ…もう、どっちでもいい」
シャワーノズルを壁にかけて、許可をもらった身体に抱きつく。
俺でも背はあるほうだが、蔵人の方が高い。
首に腕を巻き付けると俺は背伸びをしなくてはならなくて、キスを強請るとさりげなく腰に腕が回ってくるのが堪らない。
自分から舌を差し入れて舌を絡ませる。
甘い蜜を舐めるような舌使いに、もっとと伸び上がるようにした。
唾液を飲み下し、はぁっと唇を離せば蔵人を見つめる。
「蔵人、もっと…くれよ」
「いつも言う雰囲気、とやらはどこに?」
「そんなのいらない、舌もっと食べさせて」
「クスッ…これしきで理性をなくしてどうするんです?」
背伸びをするのもしつづけているのも辛くなってくれば今度は座れるところに行きたくなる。
これでは、好きに動けない。
大体、蔵人は俺で遊んでるし…。
「いいじゃんっ、俺が欲しいって言ってるんだからくれよ」
「名前は下になるといつもわがままですね」
「我儘言わせてるのは蔵人だ」
名前だけで呼ばれて完璧に欲情した瞳を見た。
俺に誘われてくれるのが嬉しくて手を引く。浴槽に入ってしまえばいいんだ。
冷たくなってるし、お湯を溜めながらなら寒くない。
「蔵人、入って」
「これではどっちが下なのか…」
「だって…」
俺がやらないと蔵人はいつまでもまともにシようという気にならない癖に…。
いいから、といってシャワーを止めてお湯を溜めながら蔵人を浴槽に入れた。
その上に乗り上げるように俺が入る。
これで好きにキスできる。
身動きも取れないし、一石二鳥。
「本当に、とんでもない物を私は拾ってしまったようだ」
「いまさら、何言ってんですか」
それももう一年以上前のことだ、と言葉はいらないとばかりに蔵人の唇を塞いだ。
髪に指を差し入れてかき抱くようにする。
歯列を舌でなぞり、唇を甘噛んだ。
それだけで自分の身体が感じていく。
腰を蔵人の腹に擦りつけた、するとすぐに蔵人の指が伸びてきて自身を根元から先端に向けて筋を撫でるように扱いてくる。
いやらしい繊細な手つきに腰が抜けそうになった。
足から力が抜けて腹にへたり込む。
「ふぅ…あっ…」
「キスは、もういいのですか?」
「やっ、くろうどが…してる…」
その手に弄られるだけで俺はどうにかなりそうで首筋に顔を埋めた。
感じるたびにびくびくと身体が揺れて、それをなんとか抑えるために鎖骨に噛みついた。
「噛みちぎらないで、くださいね?」
「んぅ…ふっぅぅ…」
「無理そうですか」
クスッと笑う気配がする。
すっかりその気になってくれたようで嬉しいのだが、俺が上になってるのに動けない…。
どうしよう。
困っていたが蔵人のもう片方の手が後ろへと回ってくる。
尻を揉んだかと思えば指先が秘部へと触れた。
「ひっ、あぁ…」
「今日は、入れさせてくれるんでしょう?私の誕生日ですから」
「ん、いい…しっかり、慣らして」
「わかりました」
最初こそ違和感があってゆっくりと侵入してくる指に変な感覚しか覚えなかったのが、だんだんと抜き差しされるたびに擦れる刺激に敏感になってくる。
俺は感じるたびに背中に爪を立てた、皮膚が破れて血がでても気にしない。
蔵人も咎めることなくそれを受け止めているし。
中の指が二本に増えてかき回すような動きに変わった。
時々広げるようにして、中が開いていく。
「はぁ…あぁっ…くろうど、もう…」
「いいですか?」
腰を揺らすと俺の自身に蔵人のモノが触れた。
同じような熱さをもって硬くなるそれに手をかけた。
はやくほしい、なかに…これをいれたい。
待ち切れず腰を上げると蔵人のモノを秘部にあてがった。
「指が抜けてませんよ?」
「どうでも、いい…これ…いれて…ぁっ…いれてぇ」
うまく入れれなくてなんでだと思ったら泣けてきた。
ぼろぼろと泣きながら腰を揺らしながら入る位置を探す。
すると蔵人の指が入口を広げてとうとう先端を飲み込んだ。
「あっぁっ、あぁぁっ…あつ、ぃ…はぁはぁ…」
ずるりと苦しいけれど確かに中へと入って、力が抜けてしまえば重力に従って奥までぴったりとはまった。
しばらく動けずに呼吸を繰り返していると、蔵人の手が俺の胸に伸びた。
なにも触ら照れていないのに尖ったそこを両手で同時に摘まんでくる。
「ひぁぁっ…あっあぁっ…くろうどぉっ」
「感じてるじゃないですか、きもちいいのでしょう?」
「やだぁ、やぁあっ…」
気持ちいけれど、これはどこを感じて良いかわからなくてダメだ。
やめてくれと首を振るのに蔵人は笑みを深くするだけ。
そして、満足したのか次はと腰を掴んでくる。
嫌な予感がして蔵人を見ればにっこりを微笑んでくる。
「やめっ、やめっぇっ…」
「そんなに感じてるのに、誰がやめますか…ほら、名前…こちらに」
「やぁぁっ、ふあぁっ、くろうど…くろ、どっ…ぁああぅ」
手をと言われるもこれ以上感じさせられたくなくて首を振った。
これ以上は拷問だ、こんなに感じさせられたらどうにかなる。
それなのに、中を蔵人が擦るたび締めつける。
蔵人が感じているのがわかって、ますますどうにもならなくなる。
しまいには腰が勝手に揺れ始めて、蔵人がそれを指摘してきてどうにかなりそうだった。
「もぉ、もっ…イく…だすっ」
「だしてください、私も…中に出しますよ」
「うあ…あぁっ…やあぁああぁっ」
耳たぶを甘噛み囁かれた言葉に俺は自分でも信じられない位の声をあげて果てた。
とてつもないほどの解放感に身体から力が抜ける。
どこにも力が入らない、中にはどくどくと注がれてため息交じりに蔵人に口付けた。
「名前クン…満足しましたか?」
「した…だから、ベッドまで…おねがします…」
「クスッ…しかたありませんね」
言葉はとても面倒そうなのに、口調としては楽しそうだ。
満足してくれたようでよかったと、蔵人の髪を撫でる。
身体はだるいし…結局俺は運ばれるし…なんかすごく不本意だけど…蔵人が喜んでくれたから、俺も満足。
「あいしてる、あいしてる…蔵人、ずっと…そばにいる」
「そんなモノ好きは名前だけですよ」
俺だけでいいと言ったら、そうですねと言われた。
そっけないけれど、俺だけにそうやって構ってくれたらうれしい。
これからも、このさきも…ずっと…。
END
H23.11.23