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▼ 骸夢詰め合わせ

揺れる髪が愛しくて


「むーくろっ」
「っ…痛いじゃないですか名前」

ある昼下がり、俺は骸の背中を見つけて名前を呼びながら引っ張ってくれと言わんばかりの髪を呼び鈴のように引っ張った。
案の定、不機嫌そうな顔をして振り返る骸に笑みを向けた。
俺にとって、そんな怒る顔も綺麗に見えて、正直くどくどと続けられる文句なんて耳にも入らない。

「聞いてるんですか?名前」
「ん?ああ、聞いてる聞いてる」
「君が適当に頷く時ほど言葉に信用できないものはありません」
「そんな一刀両断すんなって、骸の言葉はちゃんと聞いてるからさ」

どうだか、と飽きれる骸の腰にそっと腕を回すと手の甲を抓られてしまった。

「いっ…〜〜〜〜っ!!」
「馬鹿なことを…僕に手を出そうとするなんて10年早いですよ」
「そんなこと言って、最近は…」
「それ以上言ったらあの蛙のように刺しますよ?」

笑顔で三叉槍を構えられてしまえばこっちも笑顔で両手をあげる。
逆らえば首を一突きだが、幻覚を使えば関係ない。
でも、それをするとますます怒りに拍車をかけるので遠慮したいところだ。

「わかった、もう言わねぇって」
「なら、良いんです。では、僕はこれから出掛けますのであとはよろしくお願いしますよ」
「は?また任務か?」

三叉槍をしまって歩きだそうとする骸を追って問いかける。
確かこの前長期任務から帰ってきたばかりのはずだ。
そんな急ピッチで仕事を押しつけるほど今は忙しくない。

「ええ、今回は個人的な潜入調査です」
「…また綱吉かよ」
「名前、君もそれを言うのは何度目ですか?」
「まだ何も言ってないだろうが」

呆れたようにため息をついている骸に突っ込みをいれつつ、少し睨む。
綱吉のことになるといつもこうだ。
彼の安全の為ですとかなんとかいっていっつも綱吉の為に何かしようとする。
自分の安全は確保できてるのかよ。
現にミルフィオーレに捕まった癖に。
そのせいで俺と出逢えたのはよかったとしても、そんな危険と隣り合わせだと思うだけで心配なのだ。

「とにかく、心配は無用です。何かあったら…電話するのでご安心を」
「絶対だな?」
「絶対ですよ」

念を入れれば間髪いれずに頷く。
それなら、少しは安心できるな…とそのまま今度は呼びとめることはせずその背中を見送った。





「そろそろ寝るか……と、思ったけど。早かったな骸」
「くふふふっ、僕の手にかかればあれくらい簡単ですよ」

自室で大きく伸びをして、独り言をつぶやいたが骸の気配がして振り返ればもうそこにいた。
簡単と言いつつ疲れがにじむ顔をしていて手を伸ばして頬を撫でる。

「なんか食うか?なんも食べてないんだろ?」
「いえ、向こうの部下になりすましていたので食事はもう済ませています」
「そっか、なら…寝る?」

俺も寝るところだった、と言いながら骸の髪を手に取りさらりと零れていくのを見れば留め具に手を掛けてするりと抜いてしまえば綺麗に散っていく。

「何するんですか、かえしなさい」
「勿論、返す…けど、これが終わったらな」

留め具はそこらへんに放って骸の手をひいて近くのソファに押し倒した。
綺麗な紺色が流れてなんとも扇情的だ。

「っ…何を盛っているんですか」
「そりゃ、お前もだろ?わざわざ自分の部屋じゃなくて俺の部屋に来るんだから」
「それは、たまたま歩いていたら近くに君の部屋があったからですよ」
「…ほう、ここ角部屋だけどな」

もう反論は聞かないと口付けた。
無遠慮に咥内へと舌を捻じ込み骸の舌に絡ませて味を堪能する。
ついでに顔もここぞとばかりに撫でまくる。
こいつの顔はとても綺麗だ。
同じ男にしておくのがもったいないくらいに。
そのうち瞳がとろけて、うっとうしいと俺の手が振り払われる。
それを合図に服の中へと手を入れて突起を摘まめばビクリと身体を震わせる。

「っは…ん……」
「骸、腕」

気持ちよさそうに喘ぎを漏らす骸に笑みを浮かべながら腕を背中に回すように呼ぶとキュッとしがみつく。
近くなった唇に口づけながらベルトを抜いてズボンを太もも辺りまで脱がせば性急に自身を握って扱き始める。
口を塞いでいるからかくぐもった声が聞こえてしがみつく腕に力が入る。
ここで素直に声を出させると後で痛い目を見るんだ、俺が。

「ん…ふぅ…はっ、あ…もっ、そっちじゃなくて…」
「わかったから、ちょっと俺に掴まってろ」

今日は先にイくのが嫌らしい唇を解いて、むず痒そうに腰をゆする骸を宥めるように頬にキスをして骸を掴まらせたまま身体を起こす。
膝立ちの状態になればズボンが下着と一緒に下に落ちそのまま寝室へと移動する。
何分、ここじゃ準備するものがない状態だ。

「面倒な部屋ですね」
「そんなこと言うなら、お前がローション常備してりゃいいじぇねぇか」
「そしたら、ところ構わずするでしょう?」
「当たり前だ。それだけ許されてんだからな」

ベッドに移動するまでの間、恥ずかしいのか文句を垂れる骸に笑って答えてやると言い返されて何も言えなくなって口を閉ざしてしまった。
こういう時は勝てるんだけどな、いつもは負けてばかりだ。
ふかふかのベッドに一緒に乗れば少しきしむ音がする。
手を伸ばしていつもの場所にしまってあるローションを手に出す。

「っ…名前、君にはデリカシーというものはないんですかっ」
「今更恥ずかしがるなよ。どこの処女だっつの」
「しょっ……早くしなさいっ」
「しますよ、します…キモチーことしてやるから、気持ち良くなっとけ」

目の前でされたのが嫌だったのだろう。
顔を赤くして言うもんだからつい楽しくなった。
…今度もしてやろう。
骸に言われるまま少し掌でローションを温めた後秘部へと一本指を挿入した。
入口にローションを塗りながら何度か出し入れして一番感じる前立腺をコリコリと擦ってやると堪らないと言った表情で口を片手で押さえている。

「イきたかったらイってもいいからなー?」
「そ、なの…ふぁあっ…くっ…」
「そんな目で見るなよ…壊したくなる」

声を出すように誘導したのが気に入らなかったのだろう、ものすごく嫌な顔をされた。
素直に喘いどきゃいいのに…。
まったく強情だと苦笑を浮かべながら二本を入れてほぐれ具合を確かめつつ自分も自身を取り出して少し扱く。
まぁこの頃禁欲してたせいでもう待ちきれないんだけどな。

「もう入れるぜ?」
「っ…んっ……」

頷いたのを確認して指を抜けば、ゆっくりと中に自身を埋めていく。
一気に入れると骸が先にイってしまうからだ。
前にそんなことをしたらイったから終わりだと言われてしまって放置された。
それは嫌なので慎重に挿入するのだ。
俺ってなんて健気なんだろうか…っ。

「んあっ…ああっ…名前っ…ひらがな」
「ん?腕回せばいいだろ?おいで…」

なんとも可愛くなる骸に俺もつい優しい声をだしてしまう。
はっきり言おう、こんな風になるのは骸の前でだけだ。
素直に腕を回して抱きついてくる骸を抱きしめて動きを再開する。
これでも俺は待った方だ。
こんな可愛いのを前にしての忍耐力など皆無に等しいのだから。

「骸…はっ…」
「んっ…キスを…はぁっ…はやくっ…」
「はいはい…」

声を出すのがそんなに嫌か、と苦笑しながら唇を寄せるといきなり深く重ねられて驚くがすぐに自分を取り戻し思いっきり腰を使う。
骸の腰を掴んで深くまで重ね合わせ回してやると感じて堪らない顔をする。
俺はそれを堪能しながらラストスパートをかけて抜き差しを激しくするとビクビクッと身体を揺らして思いっきり締めつけてくる。
俺は耐えられず中に吐き出すと骸も俺の腹に白濁を放っていた。

「はっはっ…はぁっ…はぁっ…」
「お疲れ様……風呂はいる?」
「…疲れました、寝ます。明日はいつもの時間に起こしてください」
「はいはい、わかりました」

自身を抜いてティッシュで秘部を綺麗にしながら問いかけるとなんとも面倒くさそうな声が聞こえた。
いや、本当に面倒臭がっているのだ。
俺は頷くと骸の隣へ寝転ぶ、もう反撃する気力もないのだろう、呆れたような目をしてすぐに目を閉じる。
すると、言葉通り疲れていたのだ、すぐに規則正しい寝息が聞こえて眠ってしまった。

「好きだって、言えるのは…いつになるんだろうな」

身体だけの関係、とはちょっと違うが俺は告白していない。
というか言おうとするといつも骸に遮られるのだ。
あきらかにわかっててやっている。
いつまでも隙を見せないこいつを、いつか自分のものにしたい。

「まぁ、気長にやっていくさ」

もう、身体は手の内に落ちているのだから。
俺は細く長い紺色の髪を梳きながら一人呟いた。



END





ちょこれーとな気分




肌寒くなってきた今日この頃。
もう半月もすれば雪が降りだしてしまうんではないかと思えるようで、長期任務が終わった僕は一人の部屋でマグカップを片手にミルクを温めていた。

「こういう日には、つい飲みたくなってしまいますね」

フランは実家(ヴァリアー)に、名前は行方知らずだ。
行方知らずというのは、行き先がわからないというだけでいなくなったわけではない。
よく出かけているが、何をしているのかは謎だ。
ボンゴレの仕事を手伝っている時もあれば、街をぶらついていると言うだけの時もある。
この前は、ベルとどちらがナンパされるかで対決をして昼間暇を潰していたといった時もあった。

「まったく、何をやっているかと思えば…ろくでもない」

ミルクが温まったと感じると火からおろしてマグカップに注いだ。
そして、綱吉からもらったチョコレートを開けると三粒とってミルクに落とす。
しばらくすると香るカカオに笑みを深くしてスプーンでかき混ぜる。
湯煎で最初に溶かしてからとか、刻んでからの方がいいと思うが、だんだん色を変えていくさまが飲みごろを示しているようで楽しみが増えるのだ。
まぁ、個人的な趣味だが。
出来上がるとソファに移動して、静かな時間を堪能するようにため息をつくと一口を口に含む。
上等なチョコレートの味に舌鼓を打つ。

「まさに、至福の時ですね」
「なーにが、至福だって?」
「…今まさにそれがぶち壊された瞬間ですね」
「酷くねぇ?暖炉の薪を調達しにいった人間に対して」
「そんなの僕は知りませんから」
「何飲んでんの?俺にも一口」

突然後ろに現れた男にも特別驚くことはない。
いつものことだ。
僕の手元に顔を近づけてくるのをそっと遠ざける。
こんな美味しいもの、易々と飲ませることはしない。

「嫌です。自分で作りなさい」

僕は置いてあったままのチョコレートを指さすとくれないのかよとつまらなそうにする名前。

「俺は、骸のが飲みたいんだけど…」
「何ですか、誰かが飲んでるものを欲しがるなんて子供みたいですよ」
「子供でいい、くれよ」

一向にひく気配のない名前に仕方なしにため息を吐けば、コップを差し出してやる。
だが、名前はコップを受け取ろうとしない。なんだと名前を見ると、不満そうな顔をしていて、本能的に嫌な予感が頭をよぎった。
一緒に居る時間こそそんなにないと言うのに、こいつの思考回路が時々筒抜けになる。

「口うつ」
「しません」
「いいじゃんー、してよ。骸〜」
「甘えた声を出さないでください、気持ち悪い」
「気持ち悪いってっ…」

自分で飲めとコップを押し付けるが一向に飲もうとしない。
いや、もうこの際自分で飲んでしまえばいい。
あげるのをやめて自分で飲むことにした。
するとすかさず顎をとられてまずいと思った瞬間口づけられた。

「んっ…んんっ…」

舌が容赦なく差し込まれて咥内を舐めつくされる。
二人の咥内をチョコレートの味がして、そのせいか嫌な気はしなかった。
まぁ、最初から名前のキスは嫌いではなかった。
乱暴なのに、柔らかく優しいキス。

「はっ……ん…」
「やらしい顔……」
「っ…殺しますよ」
「ごめんて、怒るなよ。満足したからさ」
「まったく、油断も隙もない」

優しくしたいと、思ったりもする。
けれど、名前はそう思わせる前に一言多い。
たまには、僕のことも惚れさせてくれないのですか?

「また、飲ませて」
「……もう、懲りない人ですね」



END







魂が堕ちる時


「っ……」

カップを持った手が震える。
指先が痙攣する。
この空気には、まだ慣れるには早くて…つい、長居をしてしまう。
恐れていたはずなのに…こうなってしまうのが、嫌でしかたないのに…

「どうしようもねぇなぁ…」
「どうしたんです?名前」
「…あ、いや…なんでもねぇよ?骸帰ってたんだな」
「はい、いましがた…」

俺はつい、骸の傍から離れたくて距離をとった。
すると途端に不機嫌そうに眉が寄せられる。
俺はそれを知らないふり…今は自分を守りたい。
誰だって、自分が一番…自分が傷つけられるのが一番きつい…。

「そか、おつかれさん…それじゃ、俺部屋に戻るわ」

早々に離れたくて歩き出すが、骸はそれを許さなかった。
とっさに俺の手首を掴むと離さないとばかりに強く握ってきた。

「なんだ?一人で任務して寂しくなっちまってきたか?」
「からかわないでくださいっ」
「だって、そうじゃねぇの?」
「違いますよっ」

だからっ、と一喝する声にまずいと頭の中で警報が鳴り響いている。
俺が一番苦手なこと…。

「なんでそんなに思い詰めた顔をしているんですか、僕を避けて…何を隠しているんです?」
「隠してるものなんてねぇよ」
「では、なぜ僕と目を合わせてくれないんですか」
「合わせられない…」

駄目なんだ。
そんなに俺を気にしないでくれ…。
これは病気みたいなものだ。
こうなってしまったら、普通の人間でさえも俺はこうなってしまう。
もう…駄目なんだ…俺を見ないでくれ…。
怖い……小さいころうえつけられた恐怖。
何をきっかけにしてか、ふっと湧き上がっては俺を苦しめる。

「名前?」
「ごめん、ほんとに…マジで…ヤバいから…」

目頭が熱くなる。
こんな姿誰にだって見られたくはないのに…。
骸だったらなおさら、きっと幻滅するだろう…俺は強くなければいけないのだから。
お前を護るために俺はここにきた。
その目的も忘れて甘えるなんて俺にはできない…。

「名前…」
「………おねがいだ」

優しい声で呼ばれた。
狂ってしまいそう…。
どうすれば俺を突き離してくれるのだろうか。いつもだったら俺が頼んでも来てくれないのに、こんなに簡単に俺の腕の収まらないでくれ。
すると、骸の手がそっと緩んで安心したのもつかの間、次の瞬間には視界を遮るようにして骸に抱きしめられた。
一気に骸の匂いがする。
心地いい…そう思った瞬間決壊した。

「っ……ふっ……」
「お願いだと言われて誰が離しますか」
「はっ…ばか…だろ…」

勝ち誇ったような骸の声が聞こえてつい噴き出しながらも俺は目の前の視界を遮るものに縋った。
こんなことはもう、これっきりだ…。
けれど、今は…もう少しだけ…このままで…。
この温かな温もりを抱きしめていれば、何もかも救われる気がした…。


END





うたた寝



コクリ、コクリ…一定のリズムで揺れる頭が愛しいと思う。
綺麗な紺色の髪が揺らめいて早くベッドに横になればいいのにと見つめていた。

「骸?」
「……ぅはい、なんですか名前」
「寝たいなら寝てもいいんだけど?」
「いえ、別に眠くなんてないです」

強がりを言っていることは明白だった。
骸は先程任務から帰ってきて疲れているはずで、俺はというと書類整理が終わらず徹夜だ。
もう夜も更けてきていて、寝ても不思議ではない。
俺は仕事が終わらないだけだが骸は完全に俺を待っているだけだった。

「そうか?眠くないならいいけど、寝たくなったら言えよ」
「言ったら何かあるんですか?」
「膝枕、してやる」
「………」

なかなか素直にならない骸だ。
こんなことを言ったところで、大人しく寝てくれるとは思っていないが、この状況のままでは何もならないし何より、膝枕をしてやりたかった。
きっと疲れている。
うたた寝を適当なところでするより、俺の膝の上の方が寝心地は良いと思うのだ。

「まぁ、眠くないなら要らないと思うけどな」
「眠いです」
「へ?」
「眠いので、膝枕…してください」
「……ああ、おいで骸」

意外な言葉に驚いたが、骸は至って真面目な顔で眠そうに目を擦っている。
ああ、なんだこいつ甘え方を知らないだけなんだな。
骸の昔の話しを聞けば、決して良い生活だったとは言えない。
大人も信じられないような環境で、ただひたすら地獄が終わるのを待つ。
俺が受けた印象だった。
だからだろう、すごく骸を甘やかせたくなるのは。
俺は自分の太もも辺りを叩いて頭を乗せるように促した。
すると、思っていたよりもあっさり骸は移動してきて膝に頭を乗せたのだ。
書類を眺めながら足の重みを確かめるように髪に指を差し込んで梳いた。

「サラサラだな」
「僕は毛並みの良いネコじゃないですよ?」
「そんなつもりじゃない」
「だったら、早く仕事を終わらせなさい。僕は先に寝てしまいますよ」
「わかった、もう少しだから待てよ」

暗に触ってる暇があるのならしっかりやれといわれて急いで最終チェックをする。
わがままな猫っていうのも悪くない。
というか、俺が寝るのを待っていてくれるという事実だけでも嬉しくてたまらない事態だどうする。
こんな可愛い奴を放っておいて寝れねぇなぁと感じながらも、静かな寝息が聞こえてきて下を確認すれば安らかな寝顔を見せてくれていた。
無防備なそれが愛おしいと思う。

「しかたねぇか、今日は大人しく寝てやる」

ここまで疲れていたのによく保ったなと苦笑を浮かべて、片付いた書類をまとめて封筒に入れた後、起こさないように骸を抱きあげた。
そのままベッドに寝かせると。俺も風呂に入る気力がなくて、骸を抱きしめるようにして横に寝転んだ。
硬いはずの身体は柔らかくしなやかで、いつでも俺を魅了して堪らない。

愛しい存在を手放したくはない。
どうしたらお前はここに居続けてくれるのか。
どうしたら、俺はお前の心を手に入れることができるのか。
問題は山積みだ。

END
H23.1.30




隠し事は許しません



「ふぁ…まだあいつは帰ってこねぇのか」

仕事がひと段落し骸の部屋を覗くも帰って来た様子はない。
欠伸を噛み殺してどうしようかと自分の部屋へと意識を向けようとした時気配がした。
それは俺の部屋へと向かっていて自然と笑みが浮かぶ。
俺は気配を消してその人物を追った。
背中を捕えて少しずつ距離を縮める。
だが、もう少しで手が届くと言う時その手をパシリと掴まれた。

「おかえり、骸」
「まったく、何をしてるんですか名前」
「驚かせようと思って」
「そうじゃなく、なんで後ろから来たのか…ということですよ」

背後に立つなと暗にいわれてそれでも俺は笑った。
気配を消しても普通の奴らなら気づいた。
それなのに、俺だから気づかなかった。
そう思うと、やっぱり優越感。
ほら、俺にだけ許してるのかなって思うだろ?

「俺が骸の部屋に行ってたから、今のお前のように」
「っ…僕はっ、そんなことないですよ…自惚れるのも大概にしてください」
「ほう?まぁ、いいけど」
「では、僕はこれで」

そう言って俺の脇を通り抜けて自室へと向かう骸を後ろから抱きしめた。
一瞬動きを止めて、ほっとしたような息を吐き出すがすぐに手の甲を抓られる。

「いてぇってっ」
「なら、離しなさい」
「離さない、これ…どうしたんだ?」

骸が俺から離れようとした理由はこれだろうと骸のわき腹を撫でる。
すると途端痛みに息が乱れる。
折れてるか…ヒビか。
あまり強くは触れないので詳しくはわからないが、熱をもっているので痛いのはわかる。
動きが変なことぐらい見ればわかると耳元で囁いてやると観念したように力を抜いた。

「折れてはないと、思いますよ」
「本当に?」
「ええ、とりあえず触って確かめました」
「そっか、ならよかった」

俺は安心したように息を吐いてそのまま骸を抱き抱えた。
途端に抵抗されるがそんなの構わない。
慣れているし、それに俺の部屋まで来たのだから大人しく入ればいい。
変なところで意地を張るんだからと苦笑しながら骸をベッドに下ろせば大人しくなる。

「ほら、寝るぞ」
「シャワーも浴びてません」
「その身体で浴びるのか?気になるなら俺が拭いてやる」
「いいですっ、触らないでくださいっ」
「そこまで拒否するなよ」

にやにやと笑いながら近づいて行けば明らかに引かれて、抱き寄せれば腕に閉じ込めた。
そこまですることはさすがにない。
骸が必要以上に触られるのを嫌がるのを知っているからだ。
好きなりに、色々考えてるんです。

「もう、寝ようぜ?俺今日任務で疲れてるんだ」
「…知ってますよ」
「じゃあ、ねて…俺が抱きしめててやるから」
「まったく、君は強引だ…」

そう言いながら、ぶつぶつという声は少しずつ小さくなっていく。
骸がこうやって身体を預けてくれるのは俺だけだと思いたい。
俺は、骸が一番好きだから…。




END





覗き見たのは…



『っ…ひっ……く…ふっ…』

子供が泣いている。
大粒の涙を流していて、俺は手を伸ばした。
ふっとこちらを向いたのは幼い骸で俺は驚いた。
あたりを見回せば薄暗い牢獄の中で、骸は俺を見るなり怯えた顔で後退った。

『また、僕を凌辱する気ですか…つくづく大人と言うのは身勝手だ…』
「え…?」
『それとも、あなたもここにいれられたんですか?そんなに大きいなりして…』

腕や足が震えているのに、強気にも涙を引っ込めこちらを威嚇してくる。
というか、なんで俺は骸の幼少期の夢なんか見てるんだろう。
別に、これといって変化もなかったような気はしていたが…。
いつものように隣で就寝した。
でも、こんなに怯えて可哀想だとも思う。
骸はいつも、こんな風に恐怖と闘っていたのだろうか。
そう思うと、俺はつい手を伸ばした。
所詮は夢で、触れるなんて思っていなかったが…骸の肩をしっかりと掴めた。

『何をするんですかっ』
「いいから、おいで」

逃げようとする骸を引き寄せて抱きあげた。
ポンポンと背中を撫でて、敵ではないことを教える。

『うっ…ふぅっ…うわあぁあぁっ』
「苦しかったなぁ、辛かったなぁ…お前は、もう一人じゃないよ」

大声で泣き出した骸を好きにさせてやりながら髪に口づけ、あやしているとフッと景色がゆがみ…いつの間にか、抱きしめていた身体がいつもの骸だ。
あれは骸の怖い夢だったのだろう。
助けてほしくて、横にいる俺を夢に誘い込んだのだ。
無意識でそんなことをするなんて…なんていじらしいのだろう。

「骸…大丈夫だ、俺がいるから…ずっと、傍にいるから」
「…名前じゃ、頼りないと言ったら…どうするつもりなんですか」
「それは…まぁ、頼りがいのある男になりますとも」

骸のためなら、俺はなんでもしよう。
怖い夢を見て泣いてしまうほど純粋さを持っているお前だから。
俺はずっと大事にしたい。
温かく丸めこんで、この腕の中でいつまでも泣けるように。
いつまでも、俺を呼んでくれるように。
夢の中で何度でも誓おう。

「骸…好きだから…いつでも、これからも」
「そんなくさいセリフ…目が覚めたら言わないでくださいね」
「そんなこというなら言ってやる…目が覚めたら開口一番に」
「っ…あなたって人はっ…本当に…」

その先のセリフを聞こうにもだんだん意識は途切れていく。
朝が来たのだ。
いつも骸より早く俺が起きるからだろう。




目を開ければ、いつもと変わらない寝顔の骸。
とても怖い夢を見て怯えていた姿とは思えない。
俺はついクスクスと笑ってしまうが、約束通り俺は骸の耳元で、開口一番囁いた。

「あいしてる…骸」

ボッと一気に耳が赤くなって、骸が実は寝た振りだと判明した。
ますます面白くなれば、それでも続けようとしていて…俺はちゅっと唇を奪って、次の瞬間飛んできた拳をパチリと受け止めて、恥ずかしそうに目を開けた骸にとぴっきりの笑顔を向ける。

「おはよう」




END



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