君が映すのは俺だけでいい
秀徳と洛山の試合が終わった。
挨拶をして、両チームとも控室へと入っていった。
その後から誠凛と海常のチームが入ってきたが、俺は無視をして赤ちんのはいっていったところへと向かった。
「アツシどこにいくんだ?」
「室ちんは、そっち見てていいよ」
背中に声をかけてきた室ちんに適当に答えて俺は階段を下りた。
控室のある場所はもっと奥だった。
昨日の自分が歩いた場所を思い出しつつ向かっていく。
小さいあの背中にはたくさんのことを背負っているのを知っている。
俺がいなくちゃと思うのは、昔からのこと。
今も俺を必要としてくれているのかは、正直わからない。
けど、俺には赤ちんが必要で、赤ちんも俺を必要だったらいいって勝手に思ってるだけ。
わぁっと湧きたつ会場を後にする。
控室に向かうその前に僕は足を止めた。
「みんな、先に行っててくれ。僕もすぐに行くから」
「どうかしたの、征ちゃん?」
「大丈夫だよ、少し疲れただけだ」
「え、疲れたんなら控室で休めばいーじゃ…」
「ほら葉山、さっさと行くわよ。早く戻ってきてね、征ちゃん」
「うん、ありがとう玲央」
喚く小太郎の口を押さえてあるて行くチームメイトを見送ると僕は人気のすくないベンチに座った。
隣には自動販売機、少し身を隠せるかと寄りかかり額を押さえた。
眼を使うと酷く体力を消耗するのだ。
自分が弱っている姿は誰にも見せたくない、ただ一人以外には。
「そういえば、今日の試合来てたな…」
バスケには興味がない、嫌いだとまで言ったあいつは今回の試合で負けたがたくさんの経験を積んだことだろう。
疲れているのに、良くきたものだと感心しつつ笑みを浮かべる。
ここには、くることはないだろうけれど…元気な姿が見れただけでもいいかとため息を一つ吐いた。
「いた、赤ちん」
「…敦?」
「俺だよ」
顔をあげればよく知った顔があった。
昨日の泣き顔の跡はなく、僕は手を伸ばして頬を撫でる。
優しい触り心地になんともなさそうで少し安心する。
そしたら、敦の手が伸びてきて僕の頬を撫でていた。
「どうした?」
「赤ちん、ミドチン相手だったからちょっと疲れたかなって思って」
「それできてくれたんだな」
「うん、これは…俺の仕事だし」
敦の長い腕が伸びてきて僕の身体をすっぽりと埋めてしまった。
胸に顔を埋めて、温かいそこに少しだけ身体を預ける。
「誰にもあげちゃだめ」
「大丈夫、今でもこれは敦だけだ」
僕の心を見せるのは、今も昔も一人だけ。
「敦…もう少しだけ」
END