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帝光中学三年、赤司くんの誕生日


赤司征十郎、俺の恋人。
でも、一週間ほど前に告げられた高校は京都に行くという言葉で別れた。
いや、それは言い過ぎ。俺が逃げ出した。
俺は秋田の高校推薦を受けることにしていた。ご飯美味しいし、そこのバスケ部は長身の俺を唯一欲しいと言ってきたところで、俺はあまりよく考えず行くことに決めていた。
当然、赤ちんもくると思っていたんだ。
けど、それは思い違い。
赤ちんは俺のコトなんて考えてくれなかった。
俺は、残りわずかとなった学校生活を赤ちんを避けながら過ごしていた。

「あ、マフラー」

お菓子を買いに向かったデパート。そこには色んな限定お菓子が豊富でよく来る場所だった。
その中の店舗に飾られていたマネキン。
服ではなくマフラーに視線が向いたのは、それが俺のと色違いのモノだったからだ。
俺がしているのは俺の誕生日に赤ちんがそろそろ寒くなるからなとプレゼントしてくれたもの。
紫と赤と白のチェック。色違いのそれは赤と黒と黄のチェック。
俺のは全体的に紫っぽくてシックだけど、色違いのそれは赤っぽい。
赤ちんに巻いたら似合いそう…。
思い出して、泣きそうになった。
赤ちんの誕生日、用意をするなら今だと思う。
けれど、俺たちは遠のいてしまって、ここでこれを買っても意味はないというのに、自然と俺の足は店内へと入り、せっかくもらったお小遣い…いつもはお菓子に消えていく。

「……」

俺はマネキンのしていたマフラーを手にとり、レジへ。

「誕生日のラッピングお願いします」
「かしこまりました、リボンは赤でよろしいですか?」

店員は慣れた動作で袋を取り出し、それにつけるリボンの色を見せてきた。
マフラーが赤だったから、赤を示してきたんだろう。
他の色も見せてきたが、赤、青、黄、緑、桃…メンバーを彷彿とさせる色合いに俺は迷わず赤を選択した。
綺麗にラッピングされたそれは渡されるかもわからず、俺の手に収まった。

「お菓子…買えなくなっちゃったなぁ」

小さく呟いて、せめて口寂しくないようにと飴を買っただけで財布が空っぽになった。
俺は大人しく家に帰り、衝動的に買ってしまったマフラーをそっと目に付かないように隠した。

「意味ないのに…」

赤ちんに会えば逃げたくなる。
もう終わりにしようと言われるのが怖くて…寂しくて。
赤ちんで埋まっていた時間が空いていく。
君がいないことを、俺に思い知らせてくる…。




相変わらず赤ちんを避け続けていたが、とうとう赤ちんの誕生日がきてしまった。
俺の鞄の底には例のものが入っている。
一縷の望みという奴だ。
でも、自分からはなかなか会いに行けなくて午前中が過ぎていった。

「紫原っち、今日赤司っちの誕生日なの知ってるっスか?」
「黄瀬ちん、それがなに?」

昼休み、俺は一人で食べようと教室から出ようとするのを黄瀬ちんに呼び止められた。
今一番話題にしたくないものだった。
鬱陶しそうに言うのに、まったく気にした風もなく口を開いた。

「去年は何にしようかって悩んでたみたいっスけど、今日は大丈夫なんスね」
「…別に、俺今年あげるつもりねーし」
「えっ!?なんで?来年もあげるって言ってたじゃないっスか」
「…別に、関係ないし」

驚く黄瀬ちんの声を耳にいれたくなくて俺は無理やり振り切って教室を出た。
あげるつもりだ、けど…あげれない可能性が高い。
俺は臆病者だし、図体だけ大きくてあとは意気地なし。
それでいい、このまま離れてしまえばそれが一番俺の傷を抉らないのだとそう思っていた。




放課後、これで今日は終わり。
これで帰ってしまえば、もう冬休みで残すはやることのない新学期のみ。
赤ちんに本格的に顔を合わせなくなってしまうとわかっても、俺は踏み出せないでいた。

「紫原」

昇降口で、凛と通る声が聞こえた。
俺は手を止め、その声を無視しようとしてできなかった。
ゆっくり振り返ると、そこにはやっぱり赤ちんがいた。
人がいなくなってからそっと帰るつもりだったのに、どうして赤ちんが残っていたのだろう。
てっきり帰ったとばかり思ったのに…。

「赤ちん…」
「すまない、すぐに済むからそのままでいてくれ」

苦笑を浮かべて、歩み寄ってきた赤ちんに俺は動けなかった。
手を伸ばされて、何をするのかとその手を追っていれば俺のマフラーを掴んでいた。

「っ…だめ」

赤ちんにもらった唯一のプレゼント、これまでもとり上げられてしまうのは嫌で思わず手首を掴んでいた。

「ぁ…紫原もう俺とは会わないつもりだろう?」
「……」
「だったら、そのマフラー俺にくれないか?」
「え?」

赤ちんの言葉に俺は訳がわからなくて首を傾げた。
だって、赤ちんがくれたものをくれないかって…変だ。

「今日は俺の誕生日だ」
「……」
「俺が一番欲しいものを、もらいたい…けど、それは無理だから代わりにそれが欲しい」
「一番欲しいもの…?」

聞き返すと赤ちんは一瞬辛そうに顔を歪めた。
けれど、すぐにいつもの顔に戻ってやっぱりいい、と手を引くのを俺は許さなかった。
今の飲み込んだ言葉を俺は聞かないといけない気がして、こんな顔をした赤ちんを放っておくことができなくて。

「ねぇ、教えて」
「言っても仕方ないことだ」
「俺、知りたいよ」
「お前は、もう俺と別れるつもりでいるんだろう…?」

まっすぐに見つめて言われた台詞に息がつまりそうになった。
つもりっていうか、もうそういう状態になってしまっている。
一緒に高校に行くつもりでいた俺には衝撃的で信じられなかったから。

「だから、俺は紫原の一部が欲しいんだ」
「なんで?」
「俺は、別れたくないからさ。でも、紫原がそうだと決めるなら、俺は未練たらしく誕生日にマフラーでももらっておこうかと思ってね」

泣きそうな顔、こんなに弱々しい赤ちんは誰も知らない。
俺にだけ見せたことのある姿。
俺は思わず赤ちんを抱きしめていた。

「あ、つし…?」
「別れねーしっ、俺だって赤ちんのこと好きだ。でも、高校秋田と京都じゃ遠すぎんじゃんっ」
「すまない…」
「俺、赤ちんがいないと嫌だ」

赤ちん、赤ちん…と泣きそうになりながら呼び続けていれば背中に縋るように伸ばされた手がぎゅっと握りしめられた。
その指先が震えているのが伝わってきて、俺はますます辛くなってとうとう泣いてしまった。

「赤ちん…赤ちんも、辛い?」
「ああ、平気なわけがないだろう?」
「ごめんなさい…俺、勝手に勘違いしてた。離れたら終わりだって思って、俺…」
「俺は、敦のことが好きだ。離れても、変わらないよ」

絶対に、と強く言って鼻をすする音が聞こえた。
抱きしめた腕を少し解いて顔を覗き込めば、まつ毛に涙をためた赤ちんが俺を見あげて自然と差し出された唇、そっと触れてそこから暖かさが伝わった。
そして、俺は赤ちんの求めている物をあげれるのに思い当たる。

「赤ちん、これ…今日誕生日だから」
「これは?」
「開けてみて」

鞄の中を漁りくしゃくしゃになったプレゼント。
手渡すと不思議そうにそれと見つめている。
促されて、がさりとそれを開けた。そこから出てきたのは俺のと色違いのそれ。
見ないふりをしてきたそれは、赤ちんが持ってみて初めて似合うなと思った。
俺はそれをとって赤ちんの首に巻いてあげる。

「これで、俺達おそろいだよ」
「これ、買ってきたのか?」
「うん…誕生日、ホントは祝いたかった…から」

誰よりも大切な人の誕生日だ。
祝いたかったけど、突き放されるのが怖くてできなかった。
今のタイミングで赤ちんがきてくれなかったら俺は後悔していただろう。
こんな想いのまま離れていたら、本当になかったことになっていた。
俺とは色違いの赤いマフラーはやっぱりとても似合っている。

「赤ちん、似合ってる」
「そうか、嬉しいよ」

二人して目元を赤くして、なんだかおかしいなと思いながら俺が伸ばした手をいつものように握ってくれる赤ちん。
抱きしめたい衝動は家に帰ってからと抑え込んだ。

「仲直り、できてる?」
「何言ってるんだ、そもそも俺達は喧嘩もしれなかったじゃないか」
「赤ちん、もういっかいキスしたい」
「だめだ、敦の家に行ってからな」

当然のように言われて、俺はまた泣きたくなるのをこらえた。
残りの時間は少ないけれど、大切にしよう。
これからは赤ちんと一緒にいるために。時間を費やそう。
それが、俺に出来る最大の君への贈り物だと思うから…。


「ねぇ、赤ちん」
「なんだ?」
「高校卒業したら、一緒に住もう?」
「ふっ、気が早いぞ」





END




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