美味しいもの
正直、中学の時とか特別ほしいものはなかった。
欲しいと言えばお菓子で、お菓子があればそれ以上なんてものはなかった気がする。
「紫原、今日は誕生日だろう?何かほしいものがあれば帰りに買ってあげるよ」
「うーん、お菓子が欲しいからコンビニ寄ろ〜?」
「それでいいのか?」
「うんっ」
俺は赤ちんと付き合っていて、始終くっついていた。
赤ちんの傍は居心地いーし、練習はキチーけど、赤ちんがいるから頑張れるし。
依存ってやつなんだと思う。
そして、赤ちんは俺の要望通りその日コンビニに行ってくれて、お菓子を一緒に選んだ。
赤ちんと食べるお菓子はなんだか特別で、ただでさえ甘いお菓子がそのときはいつもより少し甘く思えた。
「美味しいか?」
「うんっ、すっげー美味い」
ギュッと抱きしめたら宥めるように背中を撫でてくる。
その手の心地が気持ちよくて、赤ちんはすごいなーなんて漠然と思った。
「毎年、俺が祝ってやるからな」
「なら、俺も赤ちんの誕生日忘れずに祝うね」
頬を撫でてのぞき込んだ先のオッドアイが優しく細められて優しくキスをしていた。唇を舐めれば、さっき食べたお菓子の味がして、もっとと言ったらその日は特別に身体を繋げることを許されたのだ。
俺にとって誕生日は特別になった。
三年になっても同じことをして、祝ってもらって当たり前になったと思ったんだ。
******
そして、高校生になった。
高校はみんなバラバラになって、俺と赤ちんもバラバラになった。
しかも、俺と赤ちんだけは一番遠い。
まさか、こんなことになるなんて知らなかったし。
離れても東京と秋田の距離だと思ったのだ。
なかなか会えない日々を余儀なくされて、会ったと言えばインターハイのとき。
お互い時間の合間に顔を合わせた程度、もちろん毎日メールするし、できれば電話もする。
「でも、顔がみたいし」
声だけ、言葉だけでは高校生男子は我慢できないのだ。
赤ちんはどうなのかかいもくけんとーもつかないケド。
むしろ、あんな中途半端に顔を合わせて話した程度では、満足のまの字もない。
日々俺の欲求は溜まる一方。
そんなとき、メールが届いた。
大体いつもの時間に鳴るケータイ。メールを開けば、俺を悩ませている赤ちんからのメールだった。
【敦、もうそろそろ誕生日だろう?何か欲しいものはあるか?】
「…あるよ。赤ちんが欲しい」
言葉にしてみるが、それを文面にする気にはなれなかった。
だって、どうせ会えない。
この距離はどうしても埋められないし、俺の誕生日は平日だし。
いつもはすぐに返すメール、そのときはすごく悩んだ。
【赤ちんのオススメがいい】
どうせなら、赤ちんが美味しいと思うものを。
そしたら、一緒に食べてる気分になるかな。
【わかった。なら、敦が美味しいと言ってたものを贈るからな。楽しみにしてるといい】
簡潔なメールが返ってきて俺はケータイをベッドに投げた。
俺が美味しいと思うものなんて、たくさんある。
赤ちんは何をくれるんだろう。中身も気になるが、でもやっぱり俺の欲求は満たされないんだろうなぁ。
「赤ちんでも通じない時があるんだ」
今年ばかりは素直に喜べないかもしれない…。
でも、もらったらありがとうってちゃんと言わなきゃ。
*****
心にもやっとしたものを抱えながら過ごした数日。
明日は、俺の誕生日。
赤ちんからの贈り物はいつ届くのだろう…。
前日に届くからねと言っていたのを思い出せば、祝日である今日届く予定なのだ。
もう日も暮れた。
赤ちんの言ったことが外れる事など早々ない。
「ていうか、もうこんな時間だし…」
テレビから視線を外して時計をみれば、もう十時を回っていた。
宅配もこんな時間までまわってるはずがない。
俺は何気なく確認しようと窓を開けた。
「え、あれ?」
寮の外の道を見知った赤髪があった。
キョロキョロとして、何かを探しているみたいに…。
「赤ちん」
「あ、敦…驚かせるつもりが、先に見つかった」
声をかければ少し安心した顔がこちらを見上げてきた。
俺はそこで待っててと声をかけるなり部屋を飛び出した。
途中廊下は走るなとかなんとか言われたけど、気にしなかった。
夢じゃないことを確かめなくちゃ、いけない。
靴を適当に引っ掛けて、俺の窓のところに行けば待っていてと言った通りそこで待っている赤ちんがいた。
俺は両手を伸ばして、赤ちんの頬に触れる。
温かくて、それで柔らかい…そのままぎゅっと抱きしめたら敦、外だぞと咎める声が聞こえた。
「かんけーないし、なんでいんの。なんで、赤ちん」
「自分で言ってたことも忘れたのか?」
赤ちんは俺の背中を撫でながらクスクスと笑って言った。
忘れた…?
どういうことだと赤ちんを見つめると、オススメを持ってきたんだといった。
「オススメ…」
「敦は僕を抱く時、いつも美味しいというだろう?これが、僕のオススメだ」
赤ちんの手が俺の頬を撫でて見つめてくる。
泣きそうになってますますぎゅっと抱きしめると中には入れてくれないのか?とまだ笑っている気配がする。
…機嫌、いい。
こんなに楽しそうな赤ちん中学以来かもしれない。
電話とかメールとかも楽しそうだけれど、でもどこか寂しそうな雰囲気があった気がした。
「赤ちん、会いたかった?」
「敦だけだと思うな。僕だって、お前のことが好きなんだからな」
会いたかったに決まっているだろう、耳元で囁かれた途端俺は赤ちんを抱きあげていた。
こんなところじゃ何もできない。
抱きしめてるだけじゃ、足りない。
もっと、もっと…欲しい。
「食べてもいい?」
「ああ、そのために来たんだからな」
部屋に運ぶまでの間、赤ちんは嫌がらなかった。
いつも理不尽なことをすれば何かしら報復があったのに、それすらもない。
ベッドに降ろして、貪るようにキスをした。唾液を絡ませたらお茶の匂いがしてそれでも舐め続けていたら甘くなってきた。
だんだんと実が熟すような甘さで、全部を舐めるようにしたら赤ちんの身体が揺れた。
口を離すと濡れた目が俺を見つめてきて、赤ちんの手が俺の服に手をかける。
「脱げ…」
「わかってっし、赤ちんも」
お互いに我慢ができていないのがわかるけれど、止めなかった。
服を脱いで俺は赤ちんの身体を舐めた。
どこも甘くて、赤ちんの匂いしかしない。
「あつ…し、敦…」
息を乱して俺の名前を呼ぶ赤ちん。
涙が目尻に溜まってて、それすらも舐めとる。
しょっぱいのに、美味しい…やっぱり俺には赤ちんが必要だよ。
「なんで、赤ちん近くにいねーの?なんで、離れんの?」
「敦…?」
「俺、我慢ならどれだけだってできるし…でも、赤ちんがいねーの…耐えられない」
どんなに求めたって簡単に会えないもどかしさ、こうしてきてくれなければ今回のことだってなかった。
どうしてこんなに我慢ばかりしなくちゃいけないのか。
赤ちんは俺に手を伸ばしていきなり頬を摘まんだ。
思いっきり引っ張るせいですごく痛い。
俺は、思わず赤ちんの腕をとって離させた。
「なにすんの!?痛いんだけど」
「これは決められたことなんだ、もう変えることはできない」
「わかってるし…」
「その代わり、ちゃんと三年間我慢できたら…そのあとはまた考えてやろう」
赤ちんがにやりと笑って俺を見つめてくる。
その顔は自信に満ちていて、言葉に嘘なんかないって思わせてくる。
今の俺にはその言葉に縋るしかできなくて、この先どうなるのかわからないけど…赤ちんは言ったことは実行してくれるから信じる。
「なら…がまん、する」
「よし、いい子だ」
くしゃくしゃと頭を撫でてくるその手が心地よかった。
途中で止めていた手を動かして小さく声をあげる赤ちんをもっと感じさせようとがんばった。
「赤ちん、ちょっと痩せた?ちゃんと食べてんのー?」
「たべて、る…うごくから、じゃないのか?」
わき腹に手を滑らせれば骨があの頃より浮いていることに気づいた。
余分な肉が落ちたような感じがするが、赤ちんの場合もっと食べなければそのうち骨と皮だけになってしまう気がする。
俺は別にいいけど、抱きしめたら折れちゃいそうだ。
「あまり無理しないでね?」
「してない、よ…敦、もっと…確かめなくていいのか?」
赤ちんの言葉に促されるように奥へ唾液で濡らした指を挿入した。
一本少し苦しそうにして、少し慣れたところで二本。半年近く触っていないからすっかり固くなってしまって、俺のものが入るか心配になってきた。
けれど、俺の考えを知ってか赤ちんの目は途中で止めることを許さないとでも言いたそうに強く光っていた。
「痛いの嫌なんだけど…」
「あつしが?」
「赤ちんが」
「僕は、大丈夫だ…安心して、おいで…」
三本入ったところで中を掻きまわしてたしかめた。
感じてくれているみたいだけど、でもまだ残る心配。
赤ちんは俺の背中を抱きしめて引き寄せた。
俺のそれはもう我慢なんかとっくに通り越しているから、そんなことをされればダメなのに。
「赤ちんが悪いんだかんね」
「ん…あつし…はやく」
焦れたような声に、俺は思いきって指を抜いて口をあけているそこに先端を含ませた。
途端、苦しそうに歪む赤ちんの顔。
大丈夫かと顔を覗き込むようにしたのに、赤ちんの掌が俺の視界を塞いだ。
「あつし、アッ…しんぱい、しなくていい…ぅっく…」
辛そうにしてるくせに俺はきつく締めつける中に腰を引き寄せて全部入れた。
いきなりのことに驚いたみたいだったけど、全部入れてしまえばいくらかましになって慣れるまではと動かないでいる。
その間にも赤ちんの口からは忙しない呼吸が聞こえるし、中はずっと締めつけたままだし…最初に戻ったみたいだ。
「うごいて、いーい?」
「いい、敦…はやく」
必死に絞り出す声に怯みそうになるけど、赤ちんが掌を退けることはなかった。
俺は最初こそ様子をみていたけど、だんだん余裕がなくなってきて中を掻きまわすように腰を動かし、突き上げているうちに赤ちんの掌が離れた。
そこに現れた扇情的なほどの光景に、俺の理性が切れた。
「っ…だめ、とまんない…」
「ふっ、すきに…していい」
「おいしいよ、赤ちん…あかちんが、いちばん」
言いながら赤ちんの頬を涙が伝った。
引き寄せられるように頬を舐めて、キスをした。
そのうち慣れてきた中は俺の気持ちいいように締めつけてきて、赤ちんの名前を呼びながら無我夢中で抱いていた。
*****
すっきりと満足した時にはいつの間にか日付を越えていて、赤ちんは瞼を腫らしていた。
風呂に入った俺達は今ベッドの上。
俺は赤ちんが持ってきていた鞄の中に入っていた八つ橋を食べている。
「この新味すっげーうまい、赤ちんも食べて」
「夜食べると虫歯になるぞ?」
「ちゃんと歯磨くし」
寝ている赤ちんの口元へと運べば一緒に食べている。
寝ながら食べるのも行儀が悪いと言おうかと思ったけど、その原因を作ったのは俺だからそれ以上なにも言えない、言わない。
近くに赤ちんがいて、一緒にお菓子食べてるからか何を食べてもおいしく感じる。
俺は嬉しくて赤ちんに笑いかければ上機嫌だなと笑った。
「赤ちんが居てくれるからだし」
「そうか、僕も喜んでもらえて嬉しいよ」
「また来年も、俺のほしいもの…くれる?」
「そうだな、敦の一番美味しいと言ってものを…贈るよ」
赤ちんの言葉に俺はそれは一つしかない、と笑みを浮かべた。
俺が一番美味しいと思うのは…。
END