黒バスBL | ナノ

揺らがない


赤司征十朗は、王になるにふさわしい男だった。
目を引く赤、何物も寄せつけない威厳。
私たちを無冠の五将とまで言わせるに至った世代の、トップ。
まさか、ここで会うとは思ってなかった。
こんな風に対面することになるのを、私も葉山も根武谷も予想してなかった。

「赤司征十朗だ、よろしく」

一年生なのに、そんなことおくびにも出さない。
でも、これがこの男なのだ。
ただでさえ、レベルの高い洛山高校のレギュラー陣をものの一カ月足らずでわからせ、キャプテンへと君臨した。
ただただ、驚くしかできなかったと同時に、これなら…とも思った。
中学時代果たされることのなかった頂点。
今ならできる、怖いものなどこれでなくなった、とそう思ってしまった。




「征ちゃん」
「玲央か、どうかしたのか?」
「いや、まだ練習してるのね、と思って」

鍵を閉めて回っていたら体育館からボールの音がして覗いてみたら、赤髪が見えた。
一人練習をする彼を知らないものなどいない。
そして、彼以上に残って練習する者もいない。
彼は皆がいるとき皆の動きをみている、いろんな動きを想定しその時その状況で必要な人物を判断するためだと聞いた。
もちろん、私の練習も見ていた。
そうして、誰もいなくなった後彼はひっそりと自分の技に磨きをかけるのだ。
天才が、まだ腕をあげる。
そんなことをしても意味がないんじゃないかと思ったことがあるがそんなことはないのだ。
キセキの世代はまだいる。
バラバラに割れたと言ったが、一人でも居ることが脅威だろう。
そして、彼はそのもしものために日々練習を重ねているのだ。

「鍵当番だったのか、ならそろそろ切り上げよう」
「いいわ、見ていてあげるからしていなさいよ」
「見られるのは得意じゃない」
「だったら、他を閉めてくることにするわ」

見られるのが苦手なんて珍しいことを聞いたものだ。
彼は人目など気にせず練習するタイプに見えたがそうでもないらしい。
残りの場所を回って鍵を閉め、再び戻るころには彼はきっちり片づけをしてしまっていた。

「あら、本当にやめちゃうの?」
「ああ、もう自分が満足するまで出来たからな」
「そう…ならいいんだけど」

もう少し練習を見ていたかったなと思ったが、片づけてしまったのならしかたない。
少し落胆した気分で片づけを手伝えば彼が柔らかく笑っているのに気付く。

「どうしたの?なんだかご機嫌ね」
「んー?誰かがいてくれるのもたまにはいいなと思っただけさ」
「たまに、じゃなくて征ちゃんが言ってくれれば毎日でも残るわよ?」
「そんなことをすれば玲央の睡眠時間がなくなる。それだけはダメだ」

どこまでも真剣に返事をする彼は、冗談なんか滅多に言わない。
だからこそ、こうして信頼できるわけで。
例え年下と言っても、これほど信頼できる主将もいない。
皆だってそう思っている、これは嘘でもなんでもない。
事実だ。

「大事にしてくれるのね」
「当たり前だろう、僕はお前たちを信頼している」

まっすぐ向けられるその微笑。
私は思わず彼の腕を引き、口付けた。

「以外だな、こっちの趣味があるなんて」
「なくても、きっと征ちゃんにならクラッといっちゃうのよ」
「それは、光栄だな」

今度は彼に腕を引かれて口づけられた。
体育館、もしかしたらまだ残っている者に見られる可能性だってある。
それでも、止めないのは…お互いに特別な感情があるから…と思っていいのか。

「征ちゃんもそっちの趣味があるのかしら?」
「さぁ、どうだろうな。試してみるか玲央?」





END






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