黒バス夢 | ナノ


▽ 青峰くんと友達になろう。

人生、何があるかわからないものだ。


二年にあがり、クラスメイトが変わった。俺はとくに友達みたいなのはいなくて、中学校生活をただ流し見ていた。
帝光中学、俺の通う学校。
バスケ部が一番人気でスタメンの倍率も半端じゃない。
百以上もの部員がいるらしく、野球部は毎年勧誘が大変みたいだ。
帰宅部の俺にはまったく関係ないことだけども。気になることと言えば、俺のお気に入りの席がとられてしまったということ。
早い者勝ちで窓側の一番後ろを取ろうと思ったんだけど青髪の無愛想なガングロにとられた。
そいつが、今噂したバスケ部のスタメンの一人青峰大輝。エースらしい。
それって結構すごいみたいだが、授業は真面目に受けないわサボるわ、問題児の括りにはいるんじゃないだろうか。
まぁ、サボリなら俺もたまにやるが。
ちなみに俺の席は青峰の斜め前。窓際に固執したかった奴の末路だ。
俺のクラスにはもう一人いる、紫原敦だ。紫髪でいつも眠そうな上に、休み時間はいつもお菓子を食べている。
他にも三人いて、そいつらは類い希なる天才的な才能をもっているからキセキの世代なんて呼ばれている。バスケは楽しいと思うが、そんなに群がったらつまらなくなるんじゃないだろうか。
ほら、下に行けば行くほど扱いも雑になったり…。部活は楽しんでこそだろう。
楽しめないなら、行く価値もないと俺は思う。上の奴らはバスケが楽しくて仕方ないんだろうな。
うらやましい限りだ。
帰りのホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

「しゃァ、授業終わりっ」
「青峰、まだ終わってないだろ!!」
「元気なことで…」

サヨナラの挨拶の前にいきなり青峰は立ち上がって教室を出て行ってしまった。
担任が呆れたようにため息を吐いて、挨拶をして終わると俺も教室をでた。そして、俺はそのままバイトに向かうのではなく第四体育館に足を進めていた。
別に部活に入ろうと思ったのではなくて、あんなにも不真面目な奴がどんな風に取り組んでいるのかと疑問に思ったから。

「覗くだけ覗くだけ」

チャイムと同時に終わる教室は少ないため体育館までくると人気はない。
中からボールの音が聞こえて俺はドアの所から覗き込んだ。すると、いきなり視界の目の前を落ちていくボールに驚く。
上を見れば丁度ゴール下だった。

「ヘイ、パス」
「は?」
「早くしろって」

声をかけられて前を見れば青峰がいて、手招きしている。俺は慌ててボールを探せば投げてやり、ワンバウンドして青峰の手に収まった。そして、その場から直ぐに放ち再びゴールリングをくぐった。

「すげ…」
「ナイスパス、お前同じクラスだろ」
「ああ、名前だ」
「みんな来てねぇから、ちょっと付き合えよ」

ニカッと笑った顔は、教室にいたときの無愛想なそれとはひどくかけ離れていて、ああこいつの本当の顔ってこれなのかな、と思った。
つい、見とれそうになったが俺はバスケの経験がない。
やったとすれば、体育の授業と球技大会ぐらいだ。シュートはあまりはずしたことはないが、ドリブルが苦手だった。
どうしてボールをつきながら走れるのかと疑問に思ったことだ。

「誘ってくれんのは嬉しいんだけど、俺バスケやったことないんだ」
「じゃあ、教えてやる」
「…お前、ホント暇なんだな」

一向に食い下がらない青峰に笑って靴を脱いだ。シューズはないからな裸足でいいだろうか。
上がり込めば、まずはシュートだと立つ位置を指示してきた。

「教えるって言っても、別にバスケ部入るとかじゃないからな」
「今からでも入りゃいいじゃねぇか」
「部活は入らない、それにバスケは見てるだけでも楽しいし…まぁ、自分でやるのも楽しいけど、なっ」

3Pから放ったボールはリングに引っかかりつつもリングをくぐった。
青峰は何かを考えるようにしたが、ボールを持ってくると今度は違う位置からと言われる。

「俺、これでもシュート入るんだぜ?」
「みたいだな、形も悪くない」

二本目も危なげなくリングをくぐって青峰が拾いに行く。
なんというか、バスケ部のエースだからもっと威張っているのかと思えばそうじゃないみたいだ。まぁ、暇つぶしなんだろうけど…。

「青峰くん、相変わらず早いですね。ちゃんと授業受けてるんですか?」
「え!?」
「うおっ、テツ。いきなりでてくんじゃねぇよ」

びっくりしたぁ、いきなり背後は心臓止まる。
つか、いつきたんだ?
声がした方を振り返れば、一年かと思われる子がいた。
あれ?でも、どっかでみたような…。

「苗字くんはいつも直帰なのに珍しいですね」
「俺のこと知ってんの?」
「はい、同じクラスだったので…」
「同じクラス!?…タメ!?」
「あははっ、お前年下に見られてやんの」
「うるさいですよ、大体君たちが規格外なんです。僕はこれでも標準です」

一年…ダメだ、まったく覚えがない。物覚えは結構得意なのにな。

「ごめん、名前教えて」
「黒子テツヤです」
「ああっ、黒子!!覚えてる、小さくて影薄い」
「かはっ、お前の印象そのまんまだな」
「うるさいですよ」
「あっ、やばっ…もうこんな時間だ。俺帰らなきゃだから、じゃぁな」

時間を見ればバイトの時間が近づいているのに気づいた。
のろのろしてられないと、俺は手を振って体育館を後にしようとしたが腕を掴まれた。
掴んだのは、青峰だ。

「また来い」
「うーん、俺部活はいらないよ?」
「いーから、中途半端は嫌いだ」
「はいはい、気が向いたらな」

青峰は完璧主義者なのか、首を傾げながらも頷いた。
バイトがあるので頻繁に体育館に出入りすることはできないが、スポーツを不慣れながらも出来るのは楽しいし誘ってくれるなら行かない手はないだろう。
俺はもう一度手を振ると、バイトの為に体育館をでたのだった。




中学生でバイトは禁止だ。
だから、俺の場合少し誤魔化している。
…仕方ないだろ、高校に行ったら一人暮らしするつもりなんだから。
学校に見つからないように町外れのマジバに行って密かに貯金を貯めているのだ。
でも、部活は正直やりたかった。バスケ限定じゃなく、何でもいいけど友達作って遊んで、普通に中学生活を楽しみたかった。

「ま、仕方ないけど」

小さく呟きながらポテトに塩を振る。レジを見れば誰も立っていなかった。
もうすぐで交代だ、でもレジに誰もいないのは困るだろう。
俺はため息をついて、レジに立つとちょうど客が入ってきた。

「いらっしゃいませー…っ」

笑顔を浮かべた顔が引きつった。だって、目の前に紫原がいたんだ。

「えっと、期間限定のピーチパイとバニラシェイク」
「っ…はい、以上で360円になります」
「はい」

俺には気付いていないようでホッと胸を撫で下ろした。
お金を受け取り、注文のものを用意し、渡す。
紫原は嬉しそうに受け取り、歩き出す。と、後ろに隠れるようにして立つ人を見つけた。

「赤ちん、早くいこー」
「ああ、紫原零すなよ」
「わかってるよー、俺そんなに子供じゃねーし」

赤ちんと呼ばれたそいつは、赤司征十郎だ。バスケ部の主将を務める男。
しかも、上級生がいるにも関わらず…だ。
紫原と仲がいいのか、赤司は紫原の手を眺めながらこちらを一瞬見つつ出て行った。
俺をみたのか、それとも何か欲しかったのか感情は読み取れない。

「つか…これバレたらやばくね!?」

どーしよ、実感が沸かないにしても明日告げ口されたらアウトだ。
早々にバイト変えようかな、と放心状態のまま思ったのだった。




印象的には面白いものを見つけた、だ。
ついでに俺の直感が、良い駒が見つかったと反応した。

「ねぇ、赤ちん…またなにか企んでるっしょ?」
「紫原にもわかるんだな」
「うんっ、黄瀬ちんのことでしょー?」
「半分あたりだ」

えー?と首を傾げながらピーチパイを食べる紫原に笑みを浮かべた。
今日途中入部したいとやってきた黄瀬涼太、あれも可能性を感じる。ただ、灰崎の方を先に手を打っておいた方がいいだろう。
環境を変えることも必要だ。

「楽しくなりそうだ」
「赤ちんが楽しいなら、俺も楽しいしー」

シェイク飲む?と差し出されたそれに口を付けながら、たまの寄り道も悪くないと思った。





次の日になり、教室へと入った。
心配ごとのせいであまり眠れなかった。疲れと寝不足に陥りながら椅子に座る。

「はよ」

声を掛けられ振り返ると青峰がこちらを向いていた。
どうやら俺に挨拶してくれたようだ。

「おはよ、青峰」

友達らしい友達がいない俺は初めて声をかけてもらえたことに嬉しくて笑顔を浮かべた。
すると、青峰は一瞬虚を突かれた顔をして、視線を逸らしながらもごもごと何かを言っていた。

「ん、何?」
「何でもねぇよ。今日もくるだろ、体育館」
「…少しなら時間ある」
「よし、帰り終わったらソッコーな」
「わかったよ」

今日も昨日と同じ時間からだとシフトを思い出しつつ答えてやれば、ニカッと邪気ない笑顔を浮かべるのだ。
俺はこの顔に弱いのだと思う。
いつも無愛想なくせに、好きなことになると途端に輝く顔。
かっこいいなぁ、と思うのだ。
なんか思考が女じみてないか?と一瞬首を傾げるが、気にしないことにする。
男でもかっこいいと思ってしまうのだ。

「そうだ、そう言うことだ」

ざわざわとざわつき始めたホームルーム前の教室で、俺は小さく口にしていた。
だが、そんな簡単なことではないと同時に思ってしまう。
昨日赤司に見られた、だったら今日なにかしらの行動を起こしてくるはずだ。
脅されるのか…いや、理由がない。やはり、バラされると言うのが線としては色濃い、この頃規制が厳しいので中学生がそうそう仕事できる環境にないから、バイトを止めるのだけはやっぱりできない。

「…穏便に済まないかなぁ」

はぁとため息をつきつつ、憂鬱な1日を過ごすことになった。
休み時間、昼休み、帰りのホームルームが終わり、覚悟していた先生の呼び出しはないまま俺は首を傾げた。

「あれ?っかしーな」

俺、このまま帰っちゃうよと思っても担任と視線が合うことすらなかった。

「なにしてんだよ、名前。早くいくぞ」
「あ、おう…」

先をいく青峰に急かされて俺は体育館までを走らされた。結局シューズがないため今日も裸足だ。
青峰はさっそく、とボールを持ってくるとそのまま走りレイアップを決めた。

「ナイッシュー」
「次名前の番」

鞄を隅に置いたところでバウンドパスを受け取った。
そんなホイホイ入ってたまるかよ。
そんな思いのまま投げたせいか、案の定リングに弾かれ青峰の方向へと飛んでいった。

「っと、ナイスパス」
「パスじゃねーよ」

嫌味かと笑って、青峰は華麗にシュートを決める。やっぱたくさん練習してるやつは、すごいんだ。

「相変わらず、バカバカ入りますね」
「うおっ!?」
「よぉ、テツ」
「君も相変わらず、突然だ」
「こんにちは、苗字くん」

シュートにみとれていたらいきなり声を掛けられ、振り返れば黒子がいた。
呆れた声に青峰はいつものように挨拶した。俺は、ドキドキとなる心臓を押さえる。
なんつうか、ホント影薄い。

「そういうテツは、相変わらず…入らねーだろ」
「……」

ボールを拾った青峰は、黒子にパスを繋げ投げて見ろと視線で言う。
黒子は面倒臭そうにしながらもレイアップをしたが、ボールは見事に弾かれた。

「僕は、別に入らなくてもいいんです」
「そーだな」

少し拗ねている様子の黒子の頭をくしゃくしゃと撫でている。二人は結構仲が良いようだ。
いや、でもバスケで得点をとれないと困るんじゃないんだろうか…。
首を傾げそうになるも、後ろからつんと服を引かれて振り返ったら、赤が目に飛び込んできた。

「ひっ…!?」
「名前苗字、だろう?」

それは紛れもなく赤司だった。今日はとことん驚かされる日なのかとまた心臓を押さえる。
そして、伸びてきた手は俺の顎を掴みマジマジと見つめた後、納得したようにうん、と頷いた。

「な、なにか?」
「昨日マジバーガーでバイトしてたね。帝光中は生徒のバイトを禁止している」
「……それは」

直接勝負を仕掛けてくるとは思ってなくて焦る。
わからなくてやっているのではない。必要だからやるのである。
一人暮らしの費用だと言って信じてもらえるか、わからない。どうしようかと言い淀んでいると、目の前に俺と赤司を遮るように腕が割り込んできた。

「なんかわかんねーけど、別に俺らがどうこう言うもんじゃなくねぇか?」
「青峰、庇うのか?」
「庇うとかじゃねぇよ、わかんないようにやってんならいーだろ」

俺らには関係ない話だ、と青峰は赤司を見据える。
これって一触即発ってやつ?と焦りながらも部内で仲間割れはやばいだろと青峰の腕を掴もうとしたら、赤司がふっと笑ったのがわかった。

「そうだな、関係ない。でも、俺はそれをちょうど良い交渉材料にするつもりだ」
「は?」
「苗字、バスケ部に入らないか?」

いや、いやいやいや。なにそれこわい。

「ちょっと待って、俺バイトしてるって知ってるよな?」
「もちろん」
「そしたら、当然バスケの時間なんてとれない」
「週3でとれたらいいよ」

いきなりの交渉に俺はあたふたする。
なにを考えているのかと感情を探ろうとするが、赤司の表情からは読み取れない。

「無理だって…部員以外が体育館使うなって言うならもうこないし」
「おい」
「俺が言いたいのは、使う使わないじゃなくて。部活に入れ、だ」

真っ直ぐに見つめる赤を見返す。
拒否でもなければ、命令だと、そういいたいのか。
逃げ道はないと言われたような感覚に困り果てる。
まさか、こんなことになるなんて…。

「まぁ、仮入部期間があるから。一週間…それで決めてもらおうか」
「…よく性格悪いっていわれねぇ?」
「ほめ言葉として受け取っておくよ」

そういうなり赤司は一度青峰に視線を移してから、部室へと入っていった。

「嫌ならやらなくていいぜ?」
「…納得いかない」

まるで自分は悪く思われてもいいような口振り。
俺は赤司を追いかけ部室のドアを開けた。

「どうしたんだ?」
「俺が、ここに入ってメリットはあるのか?」
「…直にわかる」

俺の行動に特に驚くこともなく、俺をみるなり小さく笑みを浮かべたのだ。
直にわかるメリットってどういうことだよ、と言い返したかったがそれを聞いても赤司は答える気などないことはその眼が言っていた。
俺は、そう、と答えるしかなく。ドアを閉め青峰のところに戻る。

「まぁ、やってみなきゃわかんないしな」
「いーのかよ」
「いーよ、俺青峰といるの楽しーから」

物事は臨機応変に、人生何があるかわからないものだ。
まずは、バイト先にシフトの変更を相談して見ないとなとため息を一つ吐いた。
全ては、安心したような笑顔を浮かべる青峰をがっかりさせたくなかった。

それだけだ。




END



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