黒バス夢 | ナノ


▽ それは、偶然を装った必然

俺には嫌ってる奴がいる。
一緒のクラスで前の席に座る男、緑間真太郎。
中学の時にこてんぱんにされた恨みをもってる。
どうやらそいつには男の恋人がいるらしいことは風の噂で聞いた。
つか、入学早々男と付き合うってどうなのよ、それともなにか中学のころから付き合ってましたーっていうリア充?
それはそれで楽しそうだけど、目の前でいちゃつかれるのは少しばかり目障りな気がする。
いや、これはこれで弱点とかわかっていいかもしんね…なんて。
まぁ、まず最初にあまり興味もないってやつ。
部活は楽しい、レギュラー争いがすごいけど残れる自信はある。
先輩も厳しいだけかと思ってたけど、そうでもないらしいことは一緒に部室で着替えていた時にちらっと耳にした話で気が付いた。
ここに来てよかったことといえば、そういう風に後輩を気にかけてくれる先輩がいたってことかもしれない。
中学の時、俺のバスケ部では先輩が後輩をパシリのように扱っていたという苦い記憶がある。
平気で後輩の顔をなぐるし見えないところにあざが残ったことなど結構ある。
それに比べたら、ここは本当に良心的でいいところだと確信した。

「あれ?あいつ、今日いるじゃん珍しー」

昼休み友達と購買でご飯を買って戻れば、いつもはいない背中を見つけた。
噂の緑間の恋人(仮)だ。
いつもは緑間といなくなることが多くて話をすることもあまりない。
けど、今日はいた。
すると、そいつはいきなり振り返り俺と目があった。おもむろに立ち上がり、俺の方に来たため俺は少し友達と距離を置く。

「高尾、ちょっといい?」
「へ?…まぁ、いいけど」

友達はなんだと首をかしげたが何でもない風にそいつが促す俺の席に座った。

「なに?」
「バスケ部だろ?」
「ああ」
「緑間真太郎について、一言」

ぐいっと握ったこぶしをマイクを持つようなしぐさで俺に近づけてくる。
いきなりのことになんだと思ったが、何だかこいつ楽しそうだなと思いにっと口角が自然と上がった。

「俺の一番倒したい相手だよ」
「そうか……」

嘘もなく言ってやれば、そいつは少し悩んだそぶりを見せて考えているようだった。

「なんだよ、緑間を売り込みにきたのか?どうせあの天才様を理解できるやつなんて俺たちには無理無理、レギュラー確実なあいつのことなんて誰も味方になるやつはいないだろ」
「まぁ、そうだよねぇ…でもさ、気にはなってる、だろ?今から体育館行ってきてくれるか?」
「はぁ!?なんでそんな面倒なこと…それに、体育館なんて体育ない限り開いてないだろ」

そう思って窓の外の体育館を確認すると入口が開いていた。
ほかの扉も風を通すためか開いている。

「開いてるんだ、だからお願い」

ちょっとだけでいいから、と頼みこまれ俺はしぶしぶ席を立った。

「高尾―、どうしたー?」
「ごめん、ちょっとジュース買いに行ってくるわ」

友達にそれとなく理由をつけてクラスを出る。
あいつはついてこなかった。なんだよ、俺だけいかせるってどういうことだ。
なんか罠とかじゃねぇよな…俺誰かに恨まれるようなことはしてない気がするんだけど…。
早くしないと昼休みが終わってしまうと足早に階段を駆け下り、体育館近くの自動販売機に向かう。

「ん?」

ドアが開いているところから漏れ聞こえたのは生徒の楽しそうな声とかじゃなく、バッシュのスキール音。
聞き知った音に俺が気づかないはずがない。
俺はジュースを買うことをやめ体育館を覗いた。そこにいたのは緑間だった。
天才だと思っていたやつが汗を流してシュートを放るその瞬間、高い弾道に俺は目を奪われた。
俺と試合した時よりもさらに高く、さらに遠くから投げられるようになっている。
部活ではわがまま放題で、先輩からもいい加減にしろと言われ、時には今日の運勢が悪いと自主練だけして帰るときもある。
そんなやつが、どうして今あんな真剣な顔をして練習をしているのか。
部活が終わった後残ったこともなかったのに。
ほかの部員や先輩が練習をする中一人帰ることが多かった緑間が、どうして誰もいない体育館でシュート練習なんかしているのか。

「わけわかんねぇ」

さっさと戻ろうとそのまま踵を返し、ジュースを買い忘れた時にはクラスに戻った後だった。
その日の部活はいつものように行われ、緑間は当然のように先に帰って行った。

「天才はいいよなぁ、練習なんかしなくてもレギュラー確実ってか」
「ほんとだな、うらやましい限りだ」

練習の合間、緑間の陰口をきいた。
いや、陰口というより普通に悪口に値するぐらいに隠す気はなかったが、緑間がいないから陰口だ。
いつもなら、俺はそれに無言で内心同意するが同意できなかった。
緑間は天才だとしても、練習なしにレギュラーをとれたとしても、自分の努力は怠らない人間なんじゃないのかと思ったから。
そう、そうやって自分の練習もまじめにやらないような奴らとは違って、あいつは結構真面目なんだと気付いた。

「まぁ、ああやって誰ともかかわらねぇのが悪いんだろうけど…」

理解者が近くにいてやれば少しは違うんじゃないんだろうか、なんて。
………ん?

ちょっと待てよ、それって俺の今の状況考えたら俺はあいつのことが理解できるみたいじゃんか。
いやいやいや、あんな偏屈どうやっても付き合える気がしない。
つーか、付き合ってる奴いるじゃん。
ってそうじゃなくてっ。

「あー、混乱してきた」

つまりあれか、俺に理解者になれっていうきっかけだったわけか?
察しのいい俺は気づいてしまった、気づきたくないことに気づいてしまった。
あいつは確実に確信犯だ。自分でやってやればいいのに、一番近い存在になることがあいつの形じゃないのだろうか。
男の恋人なんかいたことないし、そんなことに俺は興味がないからますます理解できない。
頭を抱えたくなってきたが、そんなことを考えていたら先輩から怒鳴られたので俺は瞬間ピシッと背筋を伸ばしたのだった。




「真太郎のこと、どう思いますか?」
「別に、どうもおもわねぇよって言ったらどうするつもりなんだよ、苗字くん?」
「でも、高尾はそう思ってないよね。否定しなかったのがその証拠だ」
「……」

昼休み、今度は一人でいてそれを見計らってそいつはやってきた。
昨日と同じようにしてマイクを掴む方にした手を付きつけられ答えた。
けど、そいつはにやりと笑って殊勝な顔で緑間の席に座ると俺をまっすぐ見つめてくる。

「その様子じゃ、俺の考えてることわかってるみたいだな」
「わかりたくなかったけど」
「だと思った、高尾ってまわり見てるし、気つえるし、あいつのこと教えたら放っておけないだろうなって」

全くその通りだった。
気をつかえる云々はおいておくにしても、緑間のことを気にかけてしまっているのは否定できない事実だ。
妹がいるからか、俺は困ってるやつがいるとつい余計なことに首をつっこむことがよくあった。
自分でも自覚しているが、制御できないのが性格というものなのだろうか。

「で、放っておけなくさせてどうする気だよ?」
「高尾のプレイスタイルなら真太郎と息を合わせることもできると思うんだ」
「なんでお前がそんなこと言える?」
「ちょっと、見てたことあってさ。俺がそういうの決めちゃってごめん、ただ真太郎はあんなだし、高尾が気づいてくれた方が話しが速いと思ったんだ」
「…それ、彼氏としてどうよ」

つい口を突いて出た一言。
苗字は驚いた顔をしていて、まずかったかと一瞬戸惑った。

「もう広まってるんだ」
「え…あ、まぁ…あいつと一緒にいれば目立つんじゃねぇの?」
「いいよ、余計な虫とかつかなくてちょうどいいし」
「ぶはっ、なんだよその考え方」

まずそうにゆがんだ顔は一瞬にして元に戻り、けろりと言い放った。
余計な虫とかいっちゃうとか、どんな神経してるんだよ。
むしろそんな虫もつかないほどお前の彼氏は特殊だから大丈夫だと思えば思うほど面白くて腹を抱えて笑ってしまった。
その間、苗字はきょとんと首をかしげたままだった。
なんつうか、あの男にこいつありって感じだ。
いったいどうして恋人になったのかも気になるからおいおい聞いていくとして、これは乗りかかった船というものだろう。
俺は手を出して苗字の手を握った。

「高尾?」
「わかった、合うかわかんねぇけど。ためしにやってみる、最初はそれでいいか?」
「っ…ありがとう、高尾」

そして、その日から地味な俺の緑間へのアプローチが始まったわけだ。
ホントなんつうか涙ぐましい努力だった。
自分のことしか頑張らない緑間は本当に孤独だったのだ。
クラスでは苗字がいるが、部活では本当に一人。声をかけてみるが、最初は結構むしろされることも多かった。
けれど、慣れてくると俺の方を見るようになった。
何かあると頼ってくるようになった、俺は少しの優越感を得ていたのだ。
バスケの相性も悪くない、むしろ抜群といえるほどだ。
すべては苗字の筋書き通りに事が進んでいるような気がしていた。

「そういや、お前らっていつから付き合ってんの?」
「秘密」
「少しぐらい教えてくれたっていいんじゃねぇの?」

昼休み、緑間がいなくなって始まるのは俺と苗字の近況報告。大体俺が苗字に質問して終わる。
俺と苗字がつながっているってことは緑間は知らない。
それは苗字が決めたことで、これを知られてしまうと緑間が傷つくとか何とか。
そういうのは秘密を作らずいた方がいいのになと思いつつ深くは突っ込まないようにしている。
でも、二人の様子が少しずつ違ってきていることに俺は気づいた。
明らかに、距離が開いている気がする。一緒にいることも少ないようだし…まぁ、部活で残るようになったからかもしれないが緑間は俺と一緒に帰ることが多くなった。
さみしくないのかなと思うも、いつも苗字は変わらない。
緑間はそんな苗字と対抗してか、何でもないとでも言いたげにしている。

「お前らって、付き合ってるんだよな…?」
「そうだよ、何?」
「あんまり俺と二人きりにすると、しんちゃん奪っちゃうか…」

冗談交じりで言おうとした言葉は途中で止まった。
苗字が、真剣な顔で俺の手首を掴んできたからだ。
でも、我に返ったらしくすぐにいつもの笑顔に戻る。

「だめだよ、真太郎は俺のだから…あげない」
「ごめん」
「ん?何が?…それと、これからのことなんだけど…」

さりげなく逸らされた会話。
俺は一番言っちゃいけないことを言ったのかもしれないと気付いたのは後になってからだった。
よく考えれば、苗字との時間を奪ってしまったようなものだ。俺が緑間といる時間が増えたってことは、苗字との時間が無くなってしまったのだから。
そりゃ、俺だって面白がってやってたとことかあるけどさ…限度があるだろうが。
二人して意地を張るところは似ているのかと小さく笑って、俺が一肌脱ぐしかないかと決めた。




高尾と真太郎を近づける計画は順調に成功している。
このまま夏を迎えれば、たぶんIHを無事に切り抜けることができるだろう。
真太郎から聞いた中学の頃の話。
俺は、この高校で勝たせてやりたいと思った。
俺はバスケをやっていないからどんなにつらい思いをしてきたのかあまり想像ができない。
けれど、自分のことしか考えないことがいいことだなんて思えなかった。
真太郎にもこっそりと隠れて見学に来る女子をかき分け見たバスケ部部員の中で、一番しっくりきそうなのが高尾だった。
俺では、真太郎を満足させてやることはできない。
だから、せめて代わりを…と最初は考えていた。
思った通りに事は進んで、高尾は真太郎と一緒にいることが多くなった。真太郎も高尾の存在をあまり毛嫌いすることがなくなり、俺よりもそばにいることが増えた。
でも、その結果が自分の首を絞めることになるなんて思っていなかったのだ。
俺は帰宅部、当然真太郎と帰れる確率は下がってしまう。
自分で始めたことだったのに、こんな風に縛られるとは知らなかったのだ。

「真太郎、俺のこと…ちゃんと見ていてくれる…?」

小さくつぶやこうも、今は昼休みの自主練…届くはずがなかった。


放課後、帰宅部の俺は真太郎と途中まで一緒にいる。
けど、今日は何となくいってほしくなくてとっさに学ランの袖をつかんだ。

「?どうした」
「あ…いや、なんでもない…ごめん」
「別にいいが、ちゃんと帰るのだよ」
「ん…あのさ」

言いかけたのはいいが、何を言ったらいいのかわからずそのまま言葉は途切れた。
早く何か言わないと真太郎が怪しむと思うのに、うまい言葉が出てこない。
それに、今俺は何を言おうとしていたのだろう。

「ごめん、行っていいから」
「名前…今日は、早く出てくるから一緒に帰るのだよ」
「でも…」
「いいから、待っていろ」

待つのは苦じゃないだろうといわれて俺はうなずいた。
前もこうして真太郎を待っていた。

「いいのか?高尾がいるだろ?」
「どうしてそこに高尾が出てくるのだよ?俺はお前がいいといっている」
「…そうか、うん…待ってる」

当然のように言われて俺はようやく納得できた。
真太郎の中で俺はちゃんと変わらない位置にいるのだと。
俺は帰るのをやめて体育館へと向かった。
体育館の外、ギャラリーのあまり集まらない位置に俺は座った。
ギャラリーが集まるのは壇上近くのコートで、こちらは主にレギュラー以外のメンバーが練習をするため見る人が少ないのだ。
体育館のドアに背中を預けて、耳にはケータイできるベッドホンをつけ音楽を聞き始める。
練習を見るのも良いが、流石に少し遠すぎるし練習の邪魔になってしまう。

「どうせ、真太郎が起こしてくれるし」

待っていろと言われたからには、見つけてくれる恋人を想い一眠りする事にした。




部活を終え、今日は残ることなく引き上げると言えば高尾もついてきた。
なんでくるんだと聞いたら、興味あるからとそんな答え。

「お前が興味もつものなど何もないのだよ」
「またまたぁ、立派に恋人いるくせに何いってんだよ」
「…なんでお前がそれを知っている?」

頭の後ろで腕を組みついてくる高尾の一言に俺は反応した。

「お前に男の恋人がいるってのは結構な噂だぜ?」
「なら、あまり名前の耳にいれないでやってくれるか?」

噂、俺はそんなこと一言も聞いたことがなかった。敏い名前のことだ、きっと耳に入ってしまっていたのだろう。
だから、俺と距離を置くようになってしまったのだ。
最近名前の様子が変なのには気づいていたが、理由まで思い当てれずいた。
まさか、それで…と可能性が浮上してしまえば考えるより先に口止めを頼んでいた。

「真ちゃんが人に頼み事なんて珍しー」
「茶化すな、俺は真面目に言ってるのだよ」
「なら、交換条件」

俺のする質問に答えてくれたら、言わないでいる、と人差し指を立てた高尾に俺は頷いていた。

「苗字と真ちゃんって、いつから付き合ってんの?」

いきなり踏み込んだ話をされて、それも噂にする気じゃないだろうなと睨むと、ただの興味本位だってと付け加えてくる。
これで口止めできるならと、俺は口を開いた。

「5月ぐらいだ」
「入学して早々だな。きっかけは?」
「練習していたら告白された」
「それすげぇな、真ちゃんは気持ち悪いとかなかったんだ?」
「嫌悪感はなかったな、身近にそういうやつがいたから耐性がついてたのかもしれん」

高尾はいつも以上饒舌に俺へ質問を投げかけてきた。
こうして誰かに話すこともなかったため、俺も少し口が軽くなってしまった。
けれど、高尾自体もそんなに嫌悪している風にはみえなかったからいいのだろう。

「へぇ、真ちゃんはあいつのこと好きだったの?」
「いや、そのとき初めて知って、良く知らないから無理だと言ったのだよ」

でも名前は、知ってもらうために友達になろう、と言い出し、頷いたら二週間もしないうちに唇を奪われたのだ。
あまりにも堪え性のなさに面白くなってしまったことを思い出した。

「なぁんか、色々あったんだ。締まりのない顔してんぜ?」
「っ…」
「とってもイイハナシ聞かせてもらったお礼に教えといてやるけど、あんまり苗字の言葉鵜呑みにしてやるなよ、真ちゃん部活楽しそうにしてんの嬉しそうだけど、その間あいつ一人なんだからさ」
「…お前は、苗字を見ていたのか?」
「あー…いや、そうとも言えるし違うとも言えんだけど…なんつうか、俺はお前ら二人が放っておけなかったんだよ」

そういうことにしといて、と何か隠した素振りに俺は何を隠しているのだと問いつめようとしたところ名前を見つけた。
しかも、音楽を聞きながら眠ってしまっているようでドアに凭れて顔を伏せていた。

「お、寝てんじゃん」
「仕方のないやつなのだよ」

待っていろと言ったのにと抱き上げれば、高尾はリアカー乗ってけば?と提案してきた。

「二人は重いぞ?」
「いいのだよ、今日は特別。色々聞かせてもらったしな」

高尾はなんだか楽しそうな様子でチャリアカーをとりにいってしまった。
抱き上げられても起きる気配のない名前に自然と笑いながら高尾を待ち、到着すると起こさないように乗った。

「そういや、下世話を承知で聞くけど、どっちが突っ込む側?」
「なっ、本当に下世話なのだよっ」
「なんだよ、教えてくれたっていいじゃん」

いきなり問いかけられた質問に顔が熱くなる。

「…そもそも、そういう関係にはなってない」
「へぇ!?…てっきり手出したのかと思った…そうだよなぁ、真ちゃんそういうの疎そうだもんな」
「俺だって…男だ。いずれは…そういう風になると…思っている、のだよ」

高尾にバカにされていると思って、俺は言い返すが、名前がそういうつもりがなかったら意味はない。
忙しいのを理由にしていたが、名前は大丈夫なのだろうか。
俺の独りよがりになってしまわないだろうか…。
ふっと名前に視線を向けると、目があった。
そう寝ていたはずの名前はばっちりと起きて、俺を見ていた。
心なしか顔が赤くて、なんで照れているんだと考え今さっきまで話していた高尾との会話の内容を思い出した。

「あっ…これはだな、お前が寝ていたからで」
「あ、苗字おはよー。寝てたから送ってくぜ、真ちゃんの家まで」
「高尾、わかってて話振っただろ」
「あは、わかってるならちょうどいいんじゃね?」

俺は状況が呑み込めないでいたが、高尾と名前はわかっているようだった。
名前は俺の手を掴んで、ヘッドホンをとると俺をまっすぐ見つめてくる。

「こんなチャンス来ないと思ってたからあきらめてたけど、俺に真太郎…ちょうだい?」
「…リアカーの上なのだよ」
「高尾は知らないふりしてくれてるよ」

そういう問題じゃないだろうと思うのに、名前は真剣な顔をして俺を見つめる。
俺は根負けして、名前の手を握りしめた。

「残したら、許さないのだよ」
「ぶふっふぉ…ちょ、残すとかっ」
「高尾、笑わない。お前は今石像。あーゆーおーけぃ?」
「おーけぃおーけぃ」

俺を差し置いてこいつら二人は随分と仲がいいようだ。
いらっとした感情が芽生えて、名前の髪を引いた。

「なに、真太郎?」
「きす、を…」
「揺れるよ」
「いい」

早くくれと、唇を動かすだけして求めるとちゅっと触れるだけのキスをされる。
それだけで、俺のささくれ立った感情が少し静まった気がする。
名前は目を開けると、俺の髪を撫でてそのまま引き寄せられ頭を抱きしめられた。
丸まった背中をさすられ、自然と安心する。

「すげぇ、好き。しんたろう」
「なまえ…」

慰めるようにされて、少し落ちつき、きぃっとブレーキ音を立ててリアカーが停車した。
顔を上げると俺の家の前だ。

「俺真ちゃん家しかしらないからさ、ここでいい?」
「もちろん、ありがとう高尾」
「お前たち、異様に仲が良すぎるのだよ」
「「えー、まっさかぁ」」

なんの関係があるのかと探ったところで無駄なようだ。
二人して笑いあって、気分が削がれた。
名前も本当に降りて、高尾は帰って行く。
ちらりと視線が合って、いい?と言葉もないまま問いかけてくる。
俺は返事をするかわりに、名前の指に自分の指を絡ませていた。



二人と別れたあとチャリをこぎながら内心安堵に肩を撫でおろした。
もう少しでバレてしまうところだった。
俺と緑間は良い関係を築けているが、それが仕組まれたのが必然なのだと知らせるのは少し早い。
それに、俺だって楽しませて欲しい。

「でも、いーこと聞いたなぁ」

苗字に聞いても教えてもらえなかったことが、緑間に聞いたらするすると聞き出せてしまった。
これでしばらくは笑いのネタが尽きないだろう。
苗字ですらも楽しむ材料だな、と一人笑う。

「まぁ、二人の行く末を応援させてもらう代わりだしな」

それにしても、ちょっとばかりこちらが有利になりすぎたかもしれないが…。
今日はたっぷり楽しんじゃってよ、と苗字にエールを送りつつ明日からは三人で昼飯を食べようと決めた。




END


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