黒バス夢 | ナノ


▽ 隠された本性

赤司とギクシャクして私は部活から足が遠のく日々を過ごしていた。
でも、ボールを触らないでいることはできなくてこっそりとストバスコートに通うのを繰り返していた。

「レオ姉、俺と競走しない?」
「やーよ、どうせあんたが速いんだもの。一人でやってなさいよ」
「えー、じゃあ会長…どう?俺とやらない?」
「いいけど、葉山には勝てないよ」
「こういうのは自分のタイムを伸ばすためのものだからいいんだって」

今の時間は体育で、男女別れてやるため1クラスでやるには人が少なく、2クラス合同での授業だ。
隣のクラスの会長まで一緒なわけだが、運動部でもないのに速いとはあまり信じたくない。
自分とタイムの近い順番で三人ずつ走る。
笛に合わせて走っていくので速く並ばないと手遅れになり…

「よし、俺二人より速く走ろ」
「なら、俺は葉山についていこう」
「結局こうなるんじゃない」

私葉山苗字と並ぶ羽目になり、私はため息をつきながら位置につく。
葉山はSFだ、オールラウンダーをするにはそれなりに器用にこなさなくてはならない。
加えてあのドリブルでコートを駆け抜けるのだ、当然部員でダントツを誇る。
私もそれなりだが葉山には及ばない。ただ、苗字には勝てると践んでいる。
いくら運動神経がいいと言っても、運動部には勝てまい。
ピッと鳴り、三人同時に地面を蹴った。
100メートルを駆け抜けていく。みるみる葉山は抜いて、私と苗字が並んだ。
信じられない気持ちで腕を振り脚を動かすが、結果は同着だった。

「会長早っ」
「はぁ、はぁ…実渕さんが速かったから…つい」
「ついてこないでよ」
「レオ姉、そういうもんだから」
「あーあ、振られちゃった」

息を切らしながら苗字はふざけて見せ、葉山はタイムが前回と同じだったが私と苗字のタイムは上がっていた。
不覚にも、苗字との関係がプラスに傾いてしまった。

「なーんか、レオ姉が騒いでるだけで二人って結構相性いいよね」
「そー思う?」
「冗談じゃないわよっ、私がこんなのと一緒?バカじゃないの」

そんなのは願い下げだと声を張り上げると、苗字と葉山が驚いていて私は居心地が悪く、逃げるように根武谷の方へと向かった。
一体なんだというのか、あれ以来こちらに絡んできて気分が悪い。
だが、今思い返してみれば苗字とはあまり遠い関係でもなかったのを思い出す。
今年から生徒会長になったから気に障っているだけで、去年から苗字はバスケ部によくきていた。
なにをするでもなく観客席で様子を眺め、気付いたときには大体いなくなっていることが多かった。
こちらとしては、好きなら入部すればいいのにと思っていたのだが見当は外れたようだ。

「少し休んだら長距離走だからなー」

体育教師の言葉に従い、息を整えながらトラックへと入り始める。
1キロを走るから5周だったか…身体が冷える前にやってしまいたいと、早々にスタートラインに立つ。
このダラダラとした雰囲気は好きじゃない、さっさとやって終わりにしたいところだ。

「レオ姉やる気満々」
「あんたには負けるわよ」

足が速いだけが取り柄のような葉山に言ってやると、違うもん、とムッとしている。
まぁ、どう走ろうと葉山は速いので私はゆっくりと走るのだ。
そして、ふっと見た先苗字の姿があったが少し顔色が優れない様子だった。
いつも運動していない奴がたまに本気を出すからそうなるのだ。
手を伸ばしかけて思い留まった。
さっき散々言った後で何をしようとしているのか。
身体に不調がでたら、自分で抜けるだろう。
子供じゃないし、何より関係ない。
私は手を引っ込めて、収集をかける声に気を取り直した。
笛が鳴り、走り出すが結局見捨てることは出来ず苗字の近くについていることにする。
少し距離を開ければ怪しまれることもないだろう。
いつもストイックな会長と言われるだけあって走る姿も乱れがない。
スピードも先頭の辺りだし、運動神経が良いというのは本当みたいだ。
変化が現れたのは残り一周になってからだ。
ラストスパートをかけてだんだんとスピードを上げていく、葉山はもう既にゴール間近だ。
こちらも後少しと言うところで失速する。
苦しそうにするが止まる様子のないところをみると走りきりたいのだろう。
仕方がないと隣に並び、一緒に走る。
先頭の方にいるため独走状態だから迷惑にはならない。
ゴールを踏み越えた途端崩れそうになったのを腕を引いて倒れるのを防いだ。

「大丈夫か?」
「あ、はい。平気で…」
「なわけないでしょ、保健室連れてきます」
「ああ、頼むな」

教師が声をかけてくるが元気に振る舞っている声を遮り腰を支えて運ぶ。
少しばかり身長差があるから運びにくい。体重も軽そうだし歩かせるより楽だろうか。

「ちょっと、掴まってて」
「は?…えっ」
「おんぶがいい?」
「…もう羞恥は一緒だからこれでいいよ」

抱き上げると緊張したように身体を強ばらせたので乗る方がいいかと聞けば諦めたように呟いたので、そのまま保健室に運んだ。
暑いわけでもないのに汗がすごい、スポドリを買うべきかと考える。
保健室に入れば誰もいなかった。

「ここの保健医すぐいなくなるのよね。寝てて、ちょっとスポドリ買ってくるから」
「なれてるんだな」
「ああ、葉山とか夏場はよくやるのよ」

水分とれ、というのによく忘れるためだ。ただでさえ走るやつがそれでどうする、とは思うがこちらが注意してやるしかない。
苗字に一言いうと保健室をでて、近くの自販機でポカリを持って戻る。
苗字はゴホゴホとせき込みながらベッドに座っていた。

「大人しく寝てなさいよ」
「いや、暑くて…」
「なら、これ飲んで。必要なら制服とってくるけど?」
「しばらく寝てるよ。ポカリありがとう」

買ってきたポカリを手渡せば笑みを浮かべて口を付けている。
脱水症状も軽いようだし、先生を呼ぶまでもないか、と見れば苗字は寝不足ならしく目の下に隈があった。
私は手を伸ばして頬に触れ、顔を覗き込む。

「寝てないの?それでいきなり運動すれば倒れて当然ね」
「あはは…ちょっと、バタバタしててね」

部費のこととか行事とか、委員会とか、とぼそぼそ言う苗字はやはりどこまでも生徒会長だ。
そっと苗字の手が私の手をやんわりと離した。

「実渕さんはやさしいね、嫌ってる俺にもそうやって助けてくれるんだから」
「あ…」
「もう大丈夫だから、戻ってくれる?回復したら自分で戻るよ」

嫌って…いないとは言い切れなかった。
私の脳裏を掠めたのは事故と言えるような言えないようなキスで…でも、このまま授業に戻ることもできなかった。
すると、苗字は私の手を握って曖昧な笑みを浮かべた。

「実渕さん、あんまり俺の傍にいない方がいいよ」
「どうして?」
「俺さ、実渕さんのこと好きだから」
「そっ…」
「だから、嫌なら離れて?」

苗字から言われた、直接的な言葉。
私は驚きながらも動くことができなかった。
私は苗字の気持ちに答えることはできない。
そんな気持ちなんか持ってないんだから。

「優しいところに惚れたけどさ、つけ込まれやすいって言われない?」

苗字の言葉に決意かのようなものを感じて、手を引かれた。
重力に従って私の身体が傾いで、苗字の顔の横に手を突くことで耐えたがそのまま顔が近づいてきて、今度はしっかりと唇が触れた。
さっきのんだポカリの味がして一気に現実に引き戻される。

「っ」
「ほら、もう行って」
「私は、あなたのことよくわからないわ…だから、嫌いって言うのとは違う」

会長は、嫌いだ。
だが、苗字名前としてなら…わからない。
そういう意味を込めた。伝わったのかわからないし、伝わらなくてもいいと思ってる。
呆然としているのを見て、どうしてそんなことを言ったのかわからずその場を離れた。
授業に出ようか迷っていると、タイミングよくチャイムが鳴り、私は戻ることなく教室へと向かった。

「レオ姉、やっぱさぼったんだ」
「さぼってないわよ」

制服に着替えていると体育から帰ってきたクラスメイトが入ってきて、葉山は私をみるなり不満顔だ。
ため息をつきながら戻ってきたところだと説明していると葉山が顔をのぞき込んでくる。

「あれ?レオ姉顔赤いよ、走ってきたの?」
「な、なんでもないわよっ」

葉山の一言に私は驚いて混乱する。
自分ではその自覚がまったくなかったからだ。
顔が赤いって、苗字にキスをされて…?信じられないと感じつつ初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。




保健室で残された俺は一人ため息を吐いていた。
なんてことをしたのかという後悔と、当然かというあきらめにも似た感情を抱いていた。
保健医が戻ってないのも良いことに俺はベッドに潜り込む。
必死のポーカーフェイスは通じたようで良かったが、まさかあんなことを言われるとは思ってなかった。

「嫌われて、なかったのか…」

生徒会長としては嫌われているのだが、そんなの関係ないだろう。
俺という存在を認めてくれた。それだけで、何ものにも代え難い喜びがある。

「本当の俺を見つけてくれたのは、実渕さんだけだから」

さっきのはあまりにも触れてくるから心配になったのだ。
こっちばかり意識するのも納得いかなかったし…。
ちなみに、俺の心はすでに奪われている。
一年の時にだ。
あの人はわからないだろう、それでいい。
あの時の俺と、今の俺はきっと違いすぎてわからないだろうから。
すると、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
水分をとったからかさっきより幾分かましになってきた。
俺は起き上がって飲みかけのポカリを手に取ると、教室に戻る。
今日は良い日になりそうな予感がする。
と言っても、もう1日も後半なのだけど。

「会長」
「ん?どうした?」

教室に向かっていると声をかけられた。
声の主は秋山だ。
書記で補佐をしてくれている。でも、基本は俺の見張りだ。
この前、目を盗んで逃げ実渕さんと隠れたことは記憶に新しい。

「どうしたじゃありません、体育たおれかけたそうですね」
「ああ、もう大丈夫だって」
「寝不足なんじゃないですか?」
「ちょっとだけだ。それに、やることはまだあるだろ」
「でも…」
「部活にもでられないのは一緒だろ」
「そういって疲れて逃げ出されたんじゃ困りますよ」
「もう逃げないって」

嘘だけど。
生徒会の仕事は大変だ、部活もできなくて縛り付けられて…勉強もしなくちゃだから自分の時間もあまりない。
でも、これは俺の八方美人が招いたことだからと諦めている。
多分この学校で俺を知らない人間はいないだろう。
俺は有名になりすぎてしまったんだ。
だからか、いつしか自分ではない自分を演じていた。
むしろ、それが本当の自分であるかのように。

午前の授業と午後の授業を終え、しっかりとその日の作業を終えるとすっかり日が暮れていた。
文化部は下校し、体育館やグランドを使っている部活はまだ残っている。
最近実渕さんは部活にでていないようだ。
赤司がちゃんと話し合わないのがいけないのだが、そこまで口をだすことはないだろうか…。
あまりバスケ部ばかりを贔屓していると目を付けられかねないのでどちらにしろ成り行きに任せるしかないのだが。

「じゃ、あとはよろしく」
「はい、会長も今日は早めに就寝してください」
「はいはい」

秋山は流石に倒れかけたのに無理はさせられないと雑務を引き受けてくれた。
置いていくのは忍びなかったが、また倒れられたら困ると言われては帰らないほかない。

寮へと帰り、さっそく手をつけるのは宿題だ。
洛山高校はそこそこ偏差値の高いところなので復習を兼ねてやってしまう。
だが、自分も相当疲れているのかだんだんと思考が鈍ってくる。
ちょっとだけ、のつもりで机に腕をつき上半身を預けた。



静まり返っていた部屋だが、外からの足音に俺の意識は浮上した。
時計をみれば、もう遅い時間だ。こんな時間に出歩いているのは誰だと、カーテンを開けて確認すると、実渕さんらしき背格好で俺はガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

「どこに行ってたんだろ。聞きに行かなくちゃ」

昼間のことなどすっかり忘れて、寝起きのまま部屋を飛び出していた。
二年生の階は二階で、階段は一つしかない。
そもそも、この寮は入居者が少なめで特別待遇の生徒に与えられる個室だ。
遠方からの生徒も受け入れているが、その誰もが洛山からの推薦だ。
俺は部屋からでるなり、階段を上がってくる足音を聞いた。
迷ったのは一瞬。

「実渕さん」

自分の部屋に向かおうとした背中に声をかけた。
振り返り、俺を確認すると部屋に走りだした。
俺は反射的に追いかけ、実渕さんがドアを開け、入ろうとしたところで俺も滑り込んだ。
パタンとしまったのを後ろ手で鍵をしめる。

「あんたね…普通入ってくる?」
「…それも、そうだね」

遠慮がなさすぎると呆れたように言われて苦笑しつつ、実渕さんをみた。

「どこに行ってたのか聞いても良い?」
「ここって、門限までに戻れば問題ないはずでしょ?」
「門限なんて、あってないようなものだよ。けど、この時間まで制服で出歩いてるのは不思議じゃない?」

生徒会長としてではなく、心配してるんだと見上げれば視線を一瞬逸らしたがまっすぐに見つめてきた。

「私、部活行ってないの。でも、体力落とすわけに行かないから近くのストバスコートで自主練」
「でも、この近くにないよな?」
「…ちょっと離れたとこよ」

分が悪そうに視線を逸らして言うのが可愛くて、つい笑ってしまいそうなのを抑えた。
なのに、手が伸びてきたかと思ったら頬を引っ張られる。

「笑ってんじゃないわよ」
「ふっ、ごめん…それは、赤司のせい?」
「よくわかってるのね。一年の主将なんて聞いたことないわよ」

そうだろうな、と思う。
けど、赤司しかいなかったのも事実だ。

「バスケ部に口出しするのはよくないとわかってるけど、実渕さんもわかってたんじゃない?三年は使えない、でも自分たちじゃ力不足。だから、本当は赤司みたいな存在が必要だった」
「……」
「彼は勝利に執着してる。彼についていけば洛山のバスケ部でも、優勝できる。俺はね、実渕さんに勝つことを教えたかっただけなんだ」

余計なことをしているのはわかってる。
全部俺のエゴだ。
そんなことをされなくても勝てると言われてしまえばそれまで。
それなりの覚悟を決めて言った。
だが、いつまで経ってもなんの反応もなく実渕さんを見れば、意外そうな顔をしていた。

「あんた、そんなにうちの部にかまけていいの?」
「え、あ…いや、ダメだけど…だめ、かな」
「だめでしょ。まぁ、そうやって言ってもらえてるなら頑張ってみようかしら」
「うん、悪い子じゃないのはみてわかるとおりだよ。実渕さんが彼を受け入れてくれたら後は、時間が解決してくれる」
「私はそんな大層な人間じゃないわよ」
「みんなをまとめれるのは、あなただと思ってるから」

違うか、と見れば照れたように視線を迷わせる。
かわいいなと感じて、ようやく自分が実渕さんの前にいる羞恥に襲われた。
昼間あんなことをしておいて、おいそれとよく顔を出せたものだ。

「あ、と言うことで…」
「その実渕さんって言うの止めない?」
「へ?くんがよかった?」
「違う、玲央って呼べばいいじゃない」

突然言われた言葉に思考が停止した。
それって、なんだ…昇格してる、のか?

「俺、実渕さんのこと好きっていったよね?」
「そうね」
「好きのままでいいってこと?」
「…気持ちだから、仕方ないんじゃない?」

意外な返事に頭はパンク寸前。
だけど、身体はしっかりと動いて実渕さんに抱きついた。

「こ、こら…私が好きとは言ってないでしょっ」
「なんか許してもらえただけで嬉しい。玲央はそのうち誰かにつけ込まれるよ?」
「あんた意外許さないわよ」

世話がやける、とため息を吐いた玲央を俺は見つめた。
それって、暗に好きって言ってないか…?
だめだだめだ、あまり図に乗りすぎると怒られる。
そう思うが、嬉しさのあまりさっきから身体が言うことを利かない。
抱きついたままの体勢から引き寄せると、顔が近づいて本日三度目の唇を頂いた。
が、流石に調子に乗りすぎたらしい。顔面に玲央の掌が被さってきてグイッと引き離された。

「調子に、のるなっ」
「ふひはへん」

けど、やっぱり顔が赤くて照れてるように見えるからそんな気はないと言われても期待してしまう。
今日はこれ以上できそうにないけど。

「あーだめだ、安心したら眠くなってきた」
「ちょっと…。思ったけどなんで、あんたがそんなに大変な思いしなくちゃいけないのよ」
「んー、色々あるんだよ」
「生徒会長だからって理由じゃないでしょ…って、だから」
「うん、うん…ごめん、寝る」

なんだか心配されている雰囲気だったが、一気に襲い来る睡魔に勝てそうにない。
慌てる玲央の事も知らず、俺の意識はフェードアウトしていった。




ピピピッと鳴る音に俺は意識を浮上させた。
聞き慣れない音に顔を上げたら、目の前に玲央の顔が飛び込んできた。
ヒッと声を上げそうになって手で押さえるが、目覚ましが鳴っているため起こさないよう心がけても起きてしまった。

「…おはよう」
「おはよう」

ちょっとばかし気まずい。
ていうか、昨日ベッドまで運んできてくれたのかと思うと申し訳なさが先立つ。
ついでに付け加えれば抱きついていたようでそっと手を離した。

「抱きつき癖があったのは意外だったわ」
「っ…抱き枕ないと寝れないんだ」

案の定見抜かれていて赤くなる顔を布団の中に潜ることで隠した。

「私朝練行かないといけないんだけど」
「…それって」
「赤司と打ち解けて欲しいんでしょ?」
「…うんっ」

玲央の一言に俺は大きく頷きガバッと起き上がった。
俺もシャワー浴びたいし、出て行くべきかとベッドをでる。

「ありがとう、玲央」
「なにがよ?」
「んー、全部」

ニッと笑えば一瞬キョトンとして苦笑を浮かべた。
もしかしたら、呆れられたのかも知れないが、それでも嬉しかった。

「ベッド貸してくれて、ありがとう」
「別に…気が向いただけよ」
「また、部活見に行ってもいい?」
「見るだけ、ただなんだから好きにしなさいよ」
「ありがと…好きだよ」

玲央は後ろを向いていて、目が合わないことを口実に小さく呟いた。
すると、ゴトリと何かを落とす音が聞こえたが、俺は構わず部屋のドアに手をかける。
が、それが開かれることはなくて俺の顔の横にドアを押さえる手があった。
恐る恐る振り返ると、顔を赤くした玲央がいてなんだと口を開こうとしたところでキスをされた。
嘘だろ、と思った途端離れて肩に手を移してくる。

「れ…」
「あんたばかり狡いのよ」

れお、と名前を呼ぼうとしたまま後ろのドアが開かれてそのまま外に放り出され、カチャリと鍵のかかる音が聞こえた。
捨て台詞に今度は俺が赤面する番で、自分の部屋に戻るなりドアをしめ、ずるずると座り込んだ。

「付き合ってもないのに、なにしてくれてんだ…」

肝が据わりすぎじゃないのだろうか。
ただ、言いたかったことが一つ。

「我々にはご褒美です」

にやける口元を引き締めるには一度冷たいシャワーでも浴びるべきか…と締まりのない顔をしながら、朝の身支度を始めた。




END


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