黒バス夢 | ナノ


▽ 口が悪い甘えた


寒さも始めだというのに、剣道場には熱気が篭もっていて、時計をみればそろそろ時間だと俺は自主練を切り上げた。
大会に向けての練習をしているが、休むのも肝心。
俺はみんなの目をかいくぐり制服に着替えると剣道場を抜け出した。
そのまま帰るかと思いきや、そうじゃない。
俺は一際大きな声が聞こえる体育館へと足を向けた。

「嫌だっつってんだろ」
「そこをなんとかっ、宮地さぁん」

ドアを開けている所から中を覗き込めば、俺の待ち人とその後輩のやり取りが聞こえてきた。
すると、その近くで汗を拭う長身の眼鏡の後輩が俺を見つけた。

「こんにちは、苗字先輩」
「よお、緑間…キヨはまだみたいだな」
「はい、さっきから高尾が先輩にミニゲームをせがんでて…」

ふぅん、と適当に返事をしながら靴を脱いで中に入る。
緑間はいつものノルマを終えたばかりなのか、スポーツドリンクを飲んで喉を潤している。
俺がじっと見つめても、目が合わない。
あえて合わせないようにしているのが見て取れ、俺はニヤニヤとした笑いを浮かべながら緑間のユニフォームを引いた。

「なんですか?」
「お前、俺と目合わせないようにしてるだろ?」
「そんなことないです」
「あるだろ?高尾に言われたか?」

俺は高尾と緑間がそういう関係にあるのを知っていた。
そして少なからず俺が緑間をからかって遊ぶせいで、緑間に嫌われていて高尾からも近づいちゃダメだからねと念押ししているのも知ってる。

「……」
「図星かぁ、高尾がすることで嫌だったら逆らっていいんだよ?」
「大丈夫です、俺は嫌なことは嫌と伝えますから」
「そうかそうか、なら心配ないな。この前教えた奴どうだった?高尾イイ反応したか?」
「また苗字先輩の入れ知恵なのかと怒られました」
「あー、目敏いな」

この前ちょっとしたいざこざがあったときに口添えしたのがバレたらしい。
さすが高尾…つか、そろそろ学習してくれないとつまらないんだけどね。
入ったはいいものの、練習しているのはその三人だけだった。
部室の方から笑い声が聞こえてきているあたり、大坪や木村はそっちにいるらしい。

「緑間も帰るの?」
「はい、ですが…」
「あー、高尾が問題なわけね」

結局ミニゲームを始めてしまった二人に、どうしようもないなと苦笑を浮かべる。
俺は剣道だからあんな風にしてやることはできない。
相手してやれる高尾や緑間、それに此処の面子にどうしようもなく悔しい気分を覚えるのだ。
まぁ、これも慣れたけど。

「少しだけ付き合って、それから止めようか」
「苗字先輩は…」
「ん?」
「あ、いや…なんでもないです」
「なんだよー、言えよ。気になるだろ」
「なんでもないです」

言いかけた言葉を飲み込んだ緑間に途中で止めるなと咎めるも、口を噤んだまま言うことはなかった。
緑間は口数は少ないものの、人を観察する。
前は自分だけしか見えてなかったようだが、最近は違うようだ。
高尾と居て視界が広がったように思える。緑間一人じゃこうはならなかっただろう、高尾の存在があってこそだったのだと思う。

「まぁ、聞きだしたりしないけど。それをキヨにいったら怒るから」
「どうしてですか?何を言いたいかわからなかったのに」
「どうしてでも、俺のことを言いたいならそれはキヨにとって俺の弱点にしかならないから、これでも俺カッコ悪い男ナノ」

お茶らけて言うと、緑間は少し考えた後真面目にわかりました、と言ってくれた。
もう少し何か反応があってもいいのに、面白い奴だ。
最初こそ、背の高い変なやつだと認識だったのに、最近ではそれも180度変わった。
こいつの中で何かはっきりしたものがあってそれにそっているだけなのだと。
それが、皆には理解されない不思議な部分もあるのだということに。
お前もう少ししゃべれば、と言ったのだがそれを言った後高尾が割り込んできて、真ちゃんはこれでいいの、と言い張ってきたのでそのままになっている。
確かに、アイツがポジティブに誰かとしゃべくってたらそれはそれで熱でもあるのかと言いたいぐらいだが、多分、高尾は緑間のそれが好きなのだ。
変わらないこと、ではなく自分の影響で変わってくれることを望んでいる。

「お前も面倒臭い奴に好かれたよな」
「はい?」
「相当いれ込まれてるってコト」

訳わからないという目をする緑間と話していたら、そのうち宮地の話題も出してしまいそうになって目の前に視線を向ければ、宮地が綺麗なシュートを放ったところだった。
リングへと吸いこまれていくそれをみて、俺は嬉しくて笑みを浮かべた。

「よっしゃぁっ、高尾ざまぁ…って、名前きてたのか」
「やっと気づいたよ」
「くっそぉ、また負けた。げ、苗字さん」
「んだよ、ゲッてシバクぞ」
「高尾満足したなら帰るぞ」

緑間が俺と高尾が絡む前に声をかけた。
はいはーい、なんて言って先をいく緑間についていく高尾。
なんだかんだいって、守られているのは高尾だよな。

「大事にしちゃってまー」
「来たなら声掛けろ」
「んあ、キヨ。だって、楽しそうにしてるから、つい見てた」

あの雰囲気で入っていけるわけない、と苦笑を浮かべると俺の膝裏に蹴りが入った。

「いったっ、転ぶだろっ」
「なんつー顔してんだよ。別に俺はバスケできなきゃ死ぬわけじゃねぇんだよ」

緑間じゃあるまいし、と舌打ちする宮地。
そして、少し気分が悪そうに頭を掻いている。

「つか…お前がいない方が…」
「へ?」
「…んでもねーよっ」

小さくいわれた言葉にうまく聞こえず、もう一度聞き返すと顔を真っ赤にして着替えてくると言い捨て部室に入っていってしまった。
その後から、大坪や木村が出て少し談笑して帰っていった。
高尾と緑間がでてきて、高尾はくくっと笑っていて、なんだよと聞けば中、宮地さん一人っすよ。と素敵な情報をくれた。

「じゃ、俺らは帰るんで」
「おう、気ぃつけて帰れよー」

高尾の言葉に甘えて、俺は部室に入ると着替え途中の宮地は驚いたようにこっちを見た。
なんつうか、付き合うようになってそういう新鮮な反応返すようになったんだよなぁ。
もともと幼なじみだった俺達は、そんな恥ずかしいという気持ちを持つことはなかった。
ただ、俺だけが宮地の裸にドキドキとしていて、俺だけそんな気持ちになるのが気に入らなくて、あるとき部屋で着替え途中の宮地を抱いてからというものそれがすりこまれたらしく二人きりで着替えをしているという状況になると恥ずかしがってくれるようになった。
それはそれで、なんか意識されているみたいでムラムラしてくるんだよなぁ、と間違っても口にしたら暴言だけじゃすまなそうなので今のは心の中の言葉だ。
とりあえず、中に入って着替えをじっと見てみる。
しっかりついた筋肉は俺と同じぐらい。
ただ、俺の身体と宮地の身体では筋肉のつく場所が違うというだけで…。

「二人きりだな」
「なっ、盛んなよ」
「始終欲情するわけじゃないってー、それに家でできるのにこんなところであえてしないよ」

キヨの不利になることは、しない。そうやって笑えば、少し視線を逸らして分が悪そうにする。
あれ?この返事じゃお気に召さなかった…?
少しずれたところを行くのは、宮地も似たようなもので長年傍にいた俺でも時々間違える。

「あ、もしかしてシたい?」
「ちっげぇよっ、ただ最近してねぇなっておも……」

言いかけて慌てて自分で口を塞ぐ。
なんというか、お約束だけどそれって誘われているんだよな…。
不器用で、恥ずかしがりで、意地っ張りで、口が悪くて…それでも、愛されてると思う瞬間。
俺は立ち上がり、恥ずかしそうに後退さる宮地をロッカーに追い詰め、戸惑いの声をあげる間に口を塞いだ。
柔らかい唇は、焦りからか少し開いていてそこから舌を滑り込ませた。

「ンッ…」

甘えたような、思わず零れたようなその甘い声に我慢ができなくなりそうになる。
けれど、ここでしようものなら腹に添えられている優しい指先に途端力がこもることだろう。
俺は少し口の中を味わって離した。

「じゃ、今日いい?」
「…いやって、いってねぇだろ」
「そうと決まれば、早く着替えて帰ろうか」

口の悪い甘えたさんだな、と思いながら宮地の手をそっと離す。
自分でも大会が増えてきたせいでまったく触れていないと感じていただけに、触らせてもらえるのは嬉しい。

「キヨ、すき」
「っ…こんなとこで言うな、名前」
「ん、我慢できなくなるしね」

後ろを向いて服に手を通す宮地を背中から抱き締めると背中にちゅっと音を立ててキスをした。
途端、肘鉄が迎え撃ってきて素早く身体を離した。

「だから、待てっていってんだろうが」
「わかったわかった」

そのわりに耳が真っ赤ですよ。
クスクスと笑いながら、近くのベンチに座りながら着替え終わるのを待った。
そんなのんびりとして、意識された時間がなんだか幸せだなんて少し俺も変わってるのかもしれない。




END




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