黒バス夢 | ナノ


▽ 幼なじみの変化


三度の飯より推しメンが好き。これは宮地清志の信条的な言葉だった。
けれど、二年になって新入生が入ってきたある日からそれは覆されることとなった。
それまで女の子の話題しかしなかった男が、窓を眺めてアンニュイな顔をしながらため息なんてついてしまうのだ。
一体何があったのか、聞きたくても少し聞けない雰囲気。
それも、どうやら原因は後輩の存在らしい。
バスケ部に入った後輩は、なんだか変わり者だと聞いたことがある。
バスケでは負け知らずの帝光中学でシューターをつとめていたとされる緑間、そして、特殊な目でなんでも見通せる高尾。
この二人が、どうやら宮地の悩みの種らしい…。
一年生の癖に早々にレギュラーに入った奴らで、アイドルを好きな傍ら、努力を怠らず必死に練習してようやく勝ち取ったと言った宮地の言葉が嘘のようだった。
そんなに簡単に入れるものなのか…いや、秀徳のバスケ部はいつものように王者といわれる存在、そんな簡単なはずがない。
宮地だって、その辛さを十分わかっていることだった。
つまらなそうにため息をつくそれが、先輩としてのプライドを傷つけたからか、一年のくせに生意気だと蔑んでなのかわからないが、俺の目には痛々しく映った。

「みっやじさーん」

ある日、そんな声が教室の中に響いた。
俺はそちらを確認すると、そこには黒髪の男と緑髪の長身が立っていた。

「うるせぇ、少しは静かにできねぇのか轢くぞ」

宮地はそんなことを言いながら立ち上がった入口へと向かった。
何かを話しては楽しそうに笑って、そして、俺のほうに歩いてくる。

「おい、名前…英語の辞書貸して」
「え?」
「俺の他の奴に貸してんだ、頼む」
「仕方ないな」

宮地が頼む、なんて使うのは俺だけ。
少し優越感に浸りながらも辞書を持って待っている奴の方へと向かった。
改めて見てみると、緑髪の方は本当に背が高い。
宮地も高い方だが…。

「えっと…」
「俺っス、ありがとうございますっ」
「あ、はい」
「高尾、汚すなよ」
「汚さないですよ〜、俺これでも綺麗に使うんでっ」

礼儀正しいな、さすがバスケ部の奴らだ。
あそこはレギュラー争いが激しいから、先輩の僻みも強い。
高尾と呼ばれた後輩は俺の名札を見たのか助かります苗字先輩、なんて笑われた。
そして、隣にいる仏頂面の男は緑間というやつなのだろう。
背が高くて教室の入り口に頭をぶつけてしまいそうな位だ。
それなのに、背を曲げることはない…綺麗だと思ってしまうほどのその身体を見つめていれば目があった。
少しどうしようかという顔をしながら会釈をする。
そして、高尾の腕を引いたのだ。

「時間がないのだよ」
「あっ、そうだった。じゃあ、また返しに来るんでっ」
「早くいけ、ばか」
「はぁい」

緑間にひかれるようにして二人は廊下を歩いて行った。
なんつうか、でこぼこコンビみたいな…。

「ありがとな、アイツに辞書貸してやってくれて」
「いや、別に俺はあまりつかわないからいいんだけど」
「何言ってんだ、俺より頭いいくせに」
「だからって、勉強してるとは限らないだろ」

にやりと笑っていってやると、自然と足が出る。
宮地の癖だ。
笑って椅子に戻るが、宮地は俺についてきた。
俺と宮地の席は離れている。同じクラスでも幼なじみでもそれはしょうがないことだろう。

「まだなんかあるのか?」
「お前、なんか緑間みてなかった?」
「ああ、背高かったし…ちょっとびっくりしてだけだけど?」
「…そうか、突然言って気悪くしてるかと思って…」

そういって、宮地は頭を掻いた。
あ、ちょっと後悔してる。別にそこは何も気にしていないのに。
宮地は変なところで気を使うよな…そんなことを思って笑うと、宮地は何笑ってんだよと分が悪そうな笑顔を向けてくる。

「いや、宮地は後輩思いだなって思って」
「っ別に…あいつらが常識なってねぇから」
「そこまで心配しちゃうんだもんな」
「だから、何でもないって言ってんだろ」

なんでもなくないだろ、最近はアイドルよりそっちにご執心だ。
別にいいけど、なんつうか少しいけすかないだけで…。
宮地は小さいころから俺のものだと思ってきたから、あんな存在は予定外で…このまま宮地はどこに行ってしまうのかと思ってしまう。
アイドルが好きだと言ったから、俺もある程度には話しを合わせられるように詳しくなった。
けれど、部活のことになると俺はついていけない。
俺の入りこむ隙間はないんだ。

「まぁ、別にいいよ。ほら、授業始まる」
「あ、ああ…」

少し心配したような視線を向けてくるが、俺はそれを見ることができなかった。
俺は宮地に邪な感情を持っていた。
男なのに、好きだった。
そっと横で見てるだけでいいかと思っていたのだ。
そのために努力は惜しまないし…宮地が進学するとなれば俺はそれについて行くつもりだ。
就職先は少し変えると思うが、近くにいれる位置にいたいと思う。
自分でも健気だなと思う。こんなに、誰かを思い続けても意味はない。
授業を流し見ながら、ぼうっと考える。
宮地が楽しそうなのは何よりだし、幼なじみだから恋人になるのは難しいかもしれないがこれ以上離れることはない。
俺はそれで、十分満足していた。




「あ、苗字センパイ」
「あ、小さいの」
「あんまりないいかたっスね。これでも、平均なるんですケド」
「ごめん、つい…あのでかい方と並ぶとな…」

トイレ帰り教室に戻ろうと歩いていると、声をかけられて振り返ったら辞書を借りに来た後輩だった。
はい、と手渡された辞書を受け取り戻ろうとすると、あの、と呼びとめられる。

「まだ、なんか?」
「センパイ宮地さんのこと好きでしょ?」
「……別に」
「嘘つかないでくださいっスよ。なんとなーく、わかっちゃったんですけどね、いまので確信したんで満足でっす」

ニッコリ笑って、去ろうとするのを引きとめたのは俺だった。
それがばれるのは困る。
すごく困る。
ずっと隠してきたのだ、ここであっさりと後輩から暴露、なんてことはやらないでもらいたい。

「お前、なんでわかってんの」
「だからぁ、なんとなくですって。それに、そう思ってるのはセンパイだけじゃなさそーっスよ」

すらっとばらされた一言。俺の掴む手をやんわりと離させられてそれをじっと見つめた。
そして、その後輩の視線が俺の後ろをみているのに気付いた。

「なにしてんだ。俺のもんに手ぇだしてんじゃねぇよ、高尾」
「は…!?」
「なにもしてないっすよ。つーことで、授業なんで」

振り返る前に俺の首に腕が絡みついた。
きつくはないが、後ろへと引き寄せられて高尾と呼ばれた後輩から引き離された。
そして、後輩はニヤリと笑うと足早に三年階から姿を消したのだ。

「ったく、戻ってくんの遅いと思ってたら変なやつに口説かれてんじゃねぇよ」
「くど、かれては…ない」
「は?言い寄られてたくせに何いってんだ、教室もどんぞ」

無理やり俺の手を握ると教室へと連れて行かれる。
けれど、俺の頭の中はさっき後輩のいった、そう思っているのは俺だけじゃない、その一言が頭の中をぐるぐると回っていた。
この、口の悪い男がまさか。

「俺が好きなのは、キヨだけど」
「……は?」

ああ、その耳が赤くなるのとか。
信じられないって疑うように見る視線とか、少し嬉しそうに期待寄せるのその目とか。
なんか、まんまじゃないか。




END



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