黒バス夢 | ナノ


▽ 赤司くんがさよならを言う日2

怒涛の日々が過ぎ去り、気がつけば桐皇学園への入学が決まった。
安心したのもつかの間、今度は卒業式の練習が始まり、午前授業だけになった。
そしたら、図書委員の人が風邪とかで急遽整理を手伝わされることになって、全く縁のなかった図書室へと足を踏み入れた。

「黒子…」
「…苗字くん」

声をかければ俺を見上げて驚いたように見てくる。
そりゃそうだろ、俺は図書委員じゃないし本にも興味がない。
ただ俺は先生の傍にいて都合がよかっただけ。
本当に偶然の出会いだった。
俺は黒子の隣に行けば作業を始めた。

「お前、行くとこ決まった?」
「はい、なんとか」
「なら、良かった」

バスケはやるのか?なんて聞けなかった。
きっと黒子はもうやりたくないんだろうな。
でも、バラバラになったとき黒子ならみんなを倒して頂点にたつことができるだろう。
黒子のやりたいバスケは多分強い。ここでもしやりたくないと言わせてしまえば、本当にやらなくなってしまう気がした。

「もうすぐ、卒業だろ?黄瀬が探してるの知ってるか?」
「はい、でも…僕は会えません」
「探してるの知ってるなら会えよ、このまま離れ離れなんて一番最悪なパターンだろ」
「黄瀬くんが僕を見つけられない、これが答えです」
「……強情」

言えば睨まれた。
けれど、その通りだろ。
確かに黒子は俺でも見つけれるぐらいに何もしてない。
黄瀬が見つけられないというのは、つまりそういうことなのだ。
俺は黒子の頭に手を置けばくしゃりと撫でた。

「お前がそうしたいっていうなら何もしないけど、後悔だけはすんなよ」
「はい、ありがとうございます」

黒子は苦笑いを浮かべて、頷いた。
このあと適当に仕事をこなして家路についた。
学校に無事入学が決まったため、少し前から引っ越しの準備をしている。
近く迎える卒業式には、一抹の不安だけが残っていた。




そして、流れるようにして迎えてしまった卒業式当日。
かったるい式が終わるなり、その不安を取り除くべくある男の腕を掴んだ。
「紫原のつけたあだ名ちん〜、なに?俺これから帰るんだけど、秋田に行く準備しなきゃ…えっ、ちょ…紫原のつけたあだ名ちんー」

だめだ、このままじゃ赤司と紫原が離れ離れになってしまう。
それだけはダメだ。
黒子と黄瀬ならまだ会える余地はある。
でも、秋田と京都じゃ誤解は深まるばかりだ。
俺は紫原の腕をしっかりと掴んで人を掻き分け進んだ。
呼び出してないけど赤司なら、このあと絶対あそこに向かうはずだ。

「ねぇ、いい加減にしろよ。俺だって暇じゃないんだって〜」
「赤司の気持ちを知らないままで平気なのか?」
「…赤ちんのところにいくんだったらなおさら勘弁だしっ」
「敦、いつまで拗ねてるんだよ。こいって」

赤司の名前を出した途端嫌がる紫原にそうじゃないんだと言うが、全く聞く耳をもってくれない。
一人では連れて行くことはできず、諦めかけたときもう片方の腕を緑間が掴んだ。

「いい加減にするのだよ。お前らをみていたらおちおち卒業もできないのだよ」
「真…」
「ミドチン〜」

緑間のお陰でなんとか紫原を第一体育館へ連れて行くと、案の定そこには赤司の姿が。

「赤司っ」
「どうした、珍しく大勢じゃないか」

声をかけると驚いた様子もなく、怯える紫原とは対照的に赤司は落ち着いていた。
俺は紫原を押し出し、苦笑いを浮かべる。

「出過ぎた真似だと思うけど、ちゃんと伝えよう、二人とも。俺は、赤司が好きな敦と敦を好きな赤司が好きだ」
「赤司、今日のいて座は素直に気持ちを伝えることと言われていたのだよ。それに紫原、てんびん座はしっかり相手の話を聞くこと、だ」

あとはしっかりやれ、と緑間は俺の手を引いてくる。
俺は素直に引かれるまま二人から離れた。
けれど、赤司と紫原を放置できず近くの建物の影に入って見守ることにした。

「真も心配してたんだ」
「フン、あいつらが一緒にいないのは調子が狂うのだよ」
「まぁ、進学して離れ離れになるけど…どこかで繋がってたいよな」

何を話しているのかまでは流石に聞き取れないが、赤司は俺に言ったように伝えているのだろ、紫原はいつになく真剣だ。

「でもさ、このまま離れたまま距離ができたほうがいいんじゃないかって思ったときもあるよ」
「紫原を思えば、そうだろうな」

あいつはいろんな意味でまだ幼い、緑間と俺が思っていたことは同じだったらしく苦笑いが零れる。
けれど、二人をくっつけたのは赤司が離れたくないと願ったからだ。
ちゃんと説明できて納得できたらしく、紫原が赤司を抱き寄せている。
そのまま流れるようにキスをしようと顔を近づけていく二人を見たとき、マズいと思ったと同時に視界を塞いだのは緑間の手だった。

「いくら友人と言えど、ラブシーンを見せる訳にはいないぞ」
「俺も見る気はないよ。…これで、終わりだ」

これ以上は邪魔者だと後ろを向いて、手をはずせば少し頬を赤くしている緑間がいて、俺はつい笑ってしまった。
でも、これで終わりじゃないと言われ手を掴まれた。
何がなんだかわからず、緑間に引かれるままついていくと第四体育館に向かうようだ。
そして、聞こえてきた。ボールの弾む音、 バッシュのスキール音。
ここで聞くのはあまりにも久しぶりで、でも音でしっかりと誰なのかわかった。

「つか、なんで真が…」
「付き合ってもないのにキスをするな。きっちりと向き合うのだよ」
「…はぁい」

嫌ではないのだ、でもこれが俺たちの在り方を変えてしまいそうで不安だった。
もとから不安定なものだったけど…。
緑間に背中を押された。
俺は自分で歩き出し、体育館のドアに手をかける。
離れていく緑間にありがとう、と笑みを向けて俺はそのドアを押した。

「名前か、なんだか久しぶりだな」
「うん、久しぶりだな。色々忙しくて…お前は自由に勝手にしてるし」
「あーまぁ、自由だったし?」
「羨ましい奴だな」

入っていった俺に気づいた青峰は何気ない話題を振ってきた。
まぁ、青峰に近付けば甘えてしまいそうな自分が嫌で距離をとっていたのもある。
授業以外でまともに顔を合わせたのも正月以来だろうか…。
俺はその場に体育座りをすると、青峰も隣に座った。
近くに来る体温に緊張して、痛いくらいに心臓が脈打った。
どう切り出そうか迷って、青峰の言葉を待ってみるが肝心な時に一言もくれない。
どうしようか、いきなり告白はない…なら、どうやって流れを持っていくか…。
色々な言葉が頭を駆け巡り、隣の視線を感じてそっちに顔を向けたら青峰が俺を見ていた。
そして、その目が何かを待っているものだとわかると俺は手を伸ばしていた。

「俺は、青峰のもの?」
「ん?そうなんじゃねぇの?」

頬に触れ、真っ直ぐ見つめる。嘘は、ない。
顔が近づいてきてキスされる、と目を閉じようとしたとき、寸前で止まった。
「言えよ、いい加減」
「……っ」

それは、明らかなる言葉の催促だった。
見透かされたような言葉に、顔を引こうとしたが青峰の手が俺の腰と後頭部に添えられて動くことができなくなった。
カァッと顔に血が上って、恥ずかしさに唇を噛む。

「名前」
「なんで…」
「お前を捕まえるの待ってたんだ、覚悟決めろ」

いつもアホ峰なくせに、どうしてこういうときにそんなことを言うのか。
俺の心の準備とか、少し待ってくれてもいいじゃないか。

「言わねーのか?なら、俺が聞く。名前、俺が好きか?」
「ちょっ…まって、離せよ」
「離さねー、早くしろ」

至近距離でそんなこと言われても、答えるに答えられない。
青峰が喋る度俺の唇に息がかかる。
尋常じゃないぐらいの緊張状態に俺の心臓は壊れそうだ。

「む、むり」
「名前、はーやーくー」
「お前、いきなりすぎ」
「いきなり?…ああ、まぁそうかもしんねーけど…流されてきた奴も大概だと思うぜ?」
「うぅ…」

行動で示すのは簡単だ。
けど、言葉にするのは勇気が要る。
その言葉で相手を縛ることになってしまうかもしれないのだ。
だから、言葉選びは慎重に…できるだけ的確にと思ってるのに目の前の男はそんな余裕すらなくさせる。

「ほら、言えよ。言えたらキスしてやる」
「ばか、あほ…好き、だ…んんっ」

半ば自棄のように言った途端噛みつくようにキスをされた。
あの、初めてキスされたときのような…獣じみていて食われるかと思った感覚に似ている。

「んは…む、ぅん…ンッ」

舌を絡めて、どこも舐められ味わわれている。
息継ぎをする間もなく、酸素が足りなくて手を伸ばすのに俺は青峰の背中にしがみつくことしかできなかった。
どうしよう…このまま、ここで…

「青峰っちーーー!!」
「っ!?」
「おわっ」
「あれ?二人ともなにしてんスか?」

まぁ、そうなるよな。
バカなことを考えた天罰としてか突然入ってきた黄瀬に、俺は青峰を突き飛ばした。
キョトンと首を傾げる黄瀬になんでもないと首を振った。

「ってー、名前っ」
「ごめんっ」
「青峰っち、最後に俺と勝負してようっス」
「あー?ったく、一本だけな」
「そういわず、三本」「どうせ、俺の勝ちだ」
「わかんないっスよ、今日は俺が勝つかも知れないっス」

負けねぇっスよ、と上着を放り投げるのを俺は茫然と眺めて青峰のが俺の顔に被った。

「ぷはっ、あいつ…」

地味に突き飛ばしたことを怒ってるみたいで、少し反省したがいつものことなのでそれ以上は気にしない。
ボールを追いかける黄瀬、何者にも捕らわれない青峰。
ふっと黄瀬と視線が交わって、すまなそうに笑った。
その瞬間、黄瀬は俺たちがここで何をしようとしていたのかわかった上で入ってきたようだ。
俺は流石に恥ずかしくて自分の足に顔を埋めた。

「ばか、俺のばか。なんで許そうとしたんだよ」

節操がないことを怒れないなと苦笑しつつ、黄瀬を眺めた。

「最後の最後で持ってかれた…」

青峰の中学最後は黄瀬との1on1で締めくくられるらしい。
まぁ、爛れた思い出が残らなくてよかったと言うべきかどうなのか。
二人引けをとらずやりあっているのを見て、俺はケータイを取り出した。
二人が丁度近いところにピントを合わせた。
カシャリと中学生最後の日を謳歌する二人を幸せそうに眺めた。
「名前」
「ん…?赤司」

声をかけられて入り口を見れば、さっき紫原と引き合わせたはずの赤司がいた。
もういいのかと思いながら手招きされそっと体育館を抜け出した。

「敦はいいのか?」
「ああ、あいつはクラスの奴らに強制連行されてな…でも、僕がこっちにいるあいだは敦も一緒らしい」
「そうか…なら、よかった」

晴れ晴れとした笑顔を浮かべる赤司の変化に気づいたが、敢えて口に出すことはしなかった。
二人の関係が取り持たれたら、それこそ思い残すことはないと笑った。

「名前に一つ言いたくてな」
「なに?」
「青峰をよろしく頼む」

赤司の言葉に俺は赤司を見つめた。
赤司が予想していたことは現実になってしまったと言うのだろうか。
わからない、俺では赤司の真意を読みとることはできなかった。

「ああ…一つ聞いて良いか?」
「答えられる範囲なら」
「赤司は、変わらないよな?」
「わからないな、新たな生活環境で人間は変わるものだから」
「それも、そうだな」
「さよならだ、名前」
「また、会う日まで」

赤司は最後まで、赤司だった。
彼が今後どうなるのかは、未知の領域だができれば…そのままでいてほしいと思う。
さようなら…赤司。
そして、帝光中学。

「おい、名前勝手に消えんな」
「青峰」
「なにしてんだよ」
「ん?神様にさよならいってたんだよ」






END




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