黒バス夢 | ナノ


▽ 赤司くんがさよならを言う日

俺は練習試合に出たのもそこそこに黒子の穴を埋めるため、決勝戦に出た。
問題なく帝光中は優勝し、三年間の幕を閉じたのだった。
多分、一番辛い優勝だったのだろう…みんなはだんだん部活に出なくなっていた。
最初は紫原が、次は黄瀬、青峰…日に日に少なくなっていくレギュラー、だが帝光にはその穴を埋める奴らも赤司の手により選ばれ、今ではしっかりと機能していた。
ダンッ、ダンッ、シュッ…
一人暮らしの資金が無事に集まって、俺はバイトを辞めた。
だから、誰もいない体育館で一人練習をしていた。
高校で、やるつもりはないけれど…あいつらが、練習していた場所に少しでも長く留まっていたいと思ったから。

「名前」
「…赤司」

声を掛けられ、入り口を見たら赤司が立っていた。
緑間は他の体育館で練習しているのだろうか。

「こっちで練習しないのか?」
「俺はここがいいから」
「…そうか。ところで、高校はどこに行くか決めたのか?」
「…桐皇」
「最近になってバスケに力を入れ始めている高校だな」
「まぁ…でも、バスケはやらないよ」

ボールを拾い、壁に凭れると座り込んだ。
バスケはやらないけど、多分気になると思う。
だから、力を入れてる高校を選んだ。

「桐皇が青峰を欲しがってたのは、知ってるか?」
「っ…いや、知らなかった」
「でも、あいつはまだ決めてないみたいだがな」
「…そう」

赤司の言葉に驚くが、続く言葉にやっぱりなと思う。
俺と青峰はずっと同じ距離を保っていた。
キスはする、それも口寂しいとか唐突に思い立ったりしたときとか。
友達以上恋人未満な関係をずるずると続けていた。
俺としては、獣が休む場所を探しているようでつい 手を差し伸べてしまったに過ぎない。
黒子がいなくなって、ますますバスケから遠ざかったような気がする。

「他の奴らは決まったのか?」
「涼太が海常、真太郎が秀徳、僕が洛山、敦が陽泉だ」
「え…赤司と敦は違う高校なのか?」
「ああ、そうだが?」

俺は耳を疑った。
あんなにも仲が良くて、好き合っていただろう二人が別の高校に行くだなんて。

「聞いたことない名前だ、他県か?」
「僕は京都で、敦は秋田だな」
「ちょっ、京都と秋田!?それ、敦は納得したのか?」
「納得させた、陽泉は敦にとってとても心地良い空間になるはずだからな」

淡々と、でも赤司は満足そうに笑う。
だから紫原は部活にこなくなったのか…。
赤司がどういうつもりなのか。まだわからないが、色んな要素があってのことなのだろう。

「で、別れたのか?」
「どうしてそうなる?」
「や、でも離れるんだろ?」
「僕は、別れるつもりはないが…そうか、敦は違うかもしれないな」

赤司の言葉が揺れる。
俺は、こんなに不安を見せた赤司をみたのは初めてだった。
勝利しているものが正しいという赤司は、間違ったことなどないと己を貫くタイプだ。
それが、紫原という子供っぽい恋人の想いに不安がっている。
それこそ、この赤司征十朗の本心じゃないのだろうか。

「きっと、誤解してるんじゃないのか?言ってやればいいだろ、心は繋がってるって」
「名前…たまには良いこと言うんだな」
「あのな、普通のことだよ」

笑ってやれば、苦笑いを浮かべあまり長居するなよと言って体育館を出て行った。
赤司も本当は怖かったんじゃないんだろうか、このまま離れてしまうことが。
卒業までには、その溝が埋まればいいと、願いながら俺はボールをしまった。
帰り道、マジバで珍しい背中をみた。
俺は通り過ぎた入り口に戻り店内へと入る。

「黒子」
「っ…苗字くん、驚かさないでください。心臓に悪いです」
「言葉を返すようで悪いが、俺はいつもお前に驚かされてたよ」

黒子は一人、ポテトとシェイクを摘みながら本を読んでいたようだ。
俺は向かい側に座って、黒子の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「苗字くん、丁度良かったです。ポテト多いので食べてください」
「一人で食べきれないサイズじゃないだろ」
「夕飯が入らなくなってしまいます」

なら、頼まなきゃよかったじゃんと思いつつもポテトが食べたかったので拝借する。

「いつもは、青峰くんや黄瀬くんが食べてくれるので…つい」
「もう冬になるぜ?」
「わかってますよ、でもそれ以上に彼らといた時間が長くて…」

黒子はいつの間にか本を読むのを止めて俺を見つめていた。
お前は何を思って辞めていったのか、聞きたかったがはばかられた。
今でもこんなに考えてしまうなら、いっそ決勝まででたら諦めもついていただろうに。

「あ、青峰くんは…どうですか…?」
「あいつはもう練習すんのを止めたな。練習したら強くなるからって、真はずっと練習してる、敦は一人でいるし、赤司はかわらない。黄瀬は、黒子を探してるよ」
「…バカですね。一度も僕を見つけたコトなんてないくせに」
「わかってたことだろ、黄瀬がバカなことなんて」

黒子は俯いて、泣くかなと思うがそれはないようだ。
多分、キセキの奴らが黒子を見つけようとしたところで、できないだろう。
あいつらは、もう自分のことしか見えてないだろうから。

「でも、忘れますよ。高校に行って、仲間ができたら」
「そーゆーもんか?」
「そーゆーもんです」

寂しそうに笑みを浮かべた黒子は、まるでそうなってしまったら嫌だと言っているようだ。
ポテトを食べ終わり、シェイクを飲みながら店をでた。
外は少し寒くて、よく飲めるなと感じながら途中までを歩いた。

「そういえば、苗字くんはどうなんですか?」
「俺?俺は普通だよ、いつも通り」
「青峰くんとは、どうなんですか?」
「…あくまでそこを聞きたい訳な」

話を逸らそうとしたのだが、気になるようで少し下から見上げる視線が痛い。
俺は少し渋って、黒子が引く気がないのを見ると仕方なく口を開いた。

「どうもこうも、黒子がいないって拗ねていじけてる」
「…すみません」
「こぉら、嬉しそうな顔するなよ。お前は高校違うとこ行くんだろ」
「はい、だから苗字くんに青峰くんを任せられてよかったです」
「人事だと思いやがって、俺だって同じとこ行くことになるかはわからないんだからな」
「苗字くんなら大丈夫です」
「いや、青峰の方だって」

一番心配なのはあいつだ、そもそも俺は偶然同じになっただけで、加えて青峰が桐皇に行くとは決まってない。
そういうのに、黒子はきょとっと首を傾げている。

「あいつ、桐皇に誘われてるだけで…それに、他の高校からもエースが欲しがられてるだろ?」
「そうですねぇ、でも彼は桐皇なので大丈夫ですよ」
「ふぅん、その確信はどこからくるのやら」

黒子には時々赤司に似たようなものを感じるな、と思う。
口には出さないけど。

「あ、苗字くん」
「んあ?」
「いつまで青峰って呼ぶ気ですか」
「ぶっ…ちょ、なにいきなり」
「紫原くんは敦、緑間くんは真…彼氏以外をニックネームで呼ぶと言うのは…」
「待てっ、俺ら付き合ってないしっ」
「……え、僕はてっきり」

驚きに見開かれた目に俺は気まずくなる。
告白してないから付き合ってない…で、いいんだよな?
そんな風に言われると勘違いしそうになる。

「まぁ、そう言うわけだから…名前では呼ばねぇの」
「納得です。では、僕はここなので」
「ああ、じゃあな」

分かれ道で手を振り別れると俺は小さくため息を吐いた。
いつかは、この関係に白黒つけなくてはいけないのだ。

「告白、なぁ」

柄じゃないだろ、と思うが…このまま終わるくらいなら柄じゃないこともしなければと思ってしまう。
まぁ、もうしばらくは高校のことで手一杯になってしまうだろう。
卒業まで、気長にいこうと決めて一人大きな欠伸をした。




入試があと何十日と迫る新年、俺は意外な人物からのメールに気づいた。

「…青峰?」

内容は初詣に行こうというもの。
二人きりなのかわからず、それでも嬉しいと思う自分がいてすぐに返事をした。
俺は温かい服を着れば、母さんに初詣いってくると声をかけ家を出た。
寒さに身体を縮こませながら足早に待ち合わせ場所へと向かう。

「青峰っ」
「名前…って、なにしてんだよ」
「あったけぇ、ここで待ってんのになんでこんなに温かいんだよ?」

ぎゅっと抱きついた先、何だかぽかぽかすると首を傾げながら青峰が突っ込んでいるポケットに俺も手をいれた。
カサリと温かい感触がしてそれを掴む。

「おい」
「ホッカイロだ、ずりぃ」
「待ってたんだからいーだろ、返せ」

青峰から奪って自分のポケットに入れるが、手をひらひらと振って返せと言われると仕方なく手を出した。
だが、青峰はカイロを受け取ることなく俺の腕を掴んでカイロと一緒に青峰のポケットに入れられた。

「これなら温かいだろ」
「ははっ、さすが」

温かいけど、こんなことさり気なくするなと言いたくなる。
一々惚れ直して仕方ない。
隣に並んで歩き、神社へと向かう。
だんだんと人が多くなってきて、境内へとつく頃には人酔いしそうなぐらいの人にギブアップ寸前だ。

「新年早々は止めた方が良かったんじゃないか?」
「こういうときじゃねーとご利益なさそうだろ」

こんなに沢山の人の中で願い事をしても叶いそうにないと思ったのだが、青峰は違うようだ。二人で賽銭箱へ小銭を入れ手を合わせる。
目を閉じて、高校に受かりますようにと無難なことを願った。
あとのことは自分でなんとかするから、これから先の進むべき道は確保させてほしい。
そのあとおみくじを引きに行ったら、見慣れた緑髪が頭一つ飛び出ていた。
隣を歩く青峰もそうだが、背が高いとホント便利。

「真〜」
「っ…なんでお前達がいるのだよ」
「なんでって初詣にきたからに決まってるだろ」
「俺も誘われたんだ」

名前を呼べば、びっくりしてこちらを向いた。
最初に青峰と目が合い、次に俺をみた。

「お前達にいいことを教えてやろう。ここのおみくじは…」
「あー、別に説明しなくても引くから良いぜ」
「引くためにここにきてるんだしね」
「貴様ら…」

緑間の説明を遮り受け付けでお金を渡すと筒を渡される。
しっかり振って、一本出てきた棒に書いてある数字を言うと、紙を貰える。
青峰も同じように受け取った。

「お、吉か。緑間は?」
「ここのおみくじは大吉が少ないことで有名なのだよ、末吉だ」

緑間の結果に威張ることでもないだろと青峰が突っ込んで、それを聞きながら俺もおみくじをみた。

「おお、大吉だ」
「まじかよっ」
「なんで苗字がよくて俺は末吉なんだ…」
「結局、運だろ?」

ぽつりと言ったら緑間はますますショックを受けてしまった。
今のは地雷だったらしい。
みんな揃って木にくくりつけ、そこで緑間とは別れた。

「なぁ、バスケしねぇ?」
「ボールは?」
「邪魔だから置いてきた」
「バスケばかだなぁ、でも俺もやりたい」

青峰の誘いに笑って、変わらないことを実感する。
まだ、青峰がどこに行くのか知らないけどきっとバスケはやるんだろうなと思う。
いや、こいつにはバスケしかないから…。
青峰の中でわだかまりがとれていないのがわかる。
けど、周りはその力を欲しているんだ。
二人して公園のバスケコートまでくると、青峰は隠しておいたらしいボールを出してくる。
冬休みに入ってからというもの、さすがに部活に顔を出すわけにいかずボールに触るのが久しぶりだ。
上着を脱いで動きやすくする。
靴もスニーカーでよかった。
青峰がボールを持ちゆっくりと距離を詰めてくる。

「行くぜ」
「おう」

言うなり走り込んできた青峰を止めようとそちらに動くがすぐさま反対方向へと向きを変え、俺の横を抜いてシュートした。
始めからフェイントなんて卑怯だと青峰を睨むがニヤニヤと笑うばかり。

「っくしょ…!!」

こっちだって遊んでいたわけではないのだ。
舌打ちをするなり、青峰の懐へと飛び込む。驚いて後ろへと下がろうとする手からボールを奪い取り、その場に止まると集中して狙いを定めた。
自分の精一杯ジャンプし、ボールを放った。
少し歪な放物線を描いて、ゴールを潜る。

「よっしゃっ」
「いつの間にそんなの覚えたんだ」
「赤司が教えてくれた。あと、シュートは見て覚えた」

毎日のように練習をする緑間。俺はそれを無駄にするなんてことはなかった。
黄瀬みたいにすぐできるわけでも、シュート率が飛び抜けて上がるわけでもないが、同じフォームでシュートをする緑間をみて、自分の形を直した。
赤司はそんな俺を見て、機会があったら使えばいいと面白がって教えてくれたのだ。
一回しか使えないとも言われたが、こうして年明け早々青峰から一本とれただけでも成長だ。

「燃えさせてくれるじゃねーか」
「いや、もう使わないって…なにやる気満々になってんの!?」
「あ?名前が焚きつけたんだろ」

覚悟しろよ、とボールを拾いにいく青峰に調子に乗るんじゃなかったとそっと後悔したのだった。



「あー、もうギブ。動きたくない」
「おい、まだまだやれんだろ?」
「やれねーよ」

連続…何本かわからないぐらいやって、流石にヘトヘトになればベンチに寝転んだ。
冬だというのに暑くて冷たさを求めたくなると言うのはどういうことだ。
青峰も隣に座って暑いと言ってカイロを投げてきた。
俺もいらない。
でも、このまま捨てられそうなので上着のポケットに突っ込んで置いた。
すると、青峰の手が俺の肩に掛かる。
仰向けになれと示されて上をみたら青峰の顔が近づいてきてキスをされた。

「公共の施設だ、ばか」
「あ?んなの、関係あるか」

大有りだ、と反抗しようとするのを抑え込んで噛みつくようにキスをしてきて、冷たい舌が咥内に入るのを許していた。
しばらく、されるがままになっていると満足したのか離れていく様子をぼーっとする頭で見ていた。

「俺は、桐皇にいくことにした」
「それって…」
「練習はでなくてもいいんだとよ。試合で勝ち続けられるなら」

寂しそうに笑う青峰、本当は練習したいんだろ?
わざわざ初詣にもこうしてバスケするぐらいなんだから。
俺は青峰の手を握った。
俺の手をゆうに飲み込んでしまうぐらい大きい手だ。
それなのに今は頼りない。動いたからか温かいそれに俺は頬を擦り寄せ笑みを浮かべた。

「お前と一緒のとこ行けるの…嬉しいよ」
「そうだな」

まぁ、俺はまだ決まってないんだけど…。
とりあえず、合格圏内だからヘマをしなければ大丈夫だ。
それに、青峰が来るというのなら俄然やる気がわいてくる。

「よし、そうと決まれば家帰って勉強するぞ」
「あん?今日は一日いいんじゃねぇのかよ?」
「初詣行くだけに決まってるだろ?じゃあな、青峰」

ニヤリと笑っていってやれば、拗ねた顔をして、そーかよ、と呟いた。
ああ、もう…そんな拍子抜けみたいな顔しやがって。
俺だって、一緒にいたいに決まってるだろ。
けど、今一緒にいるのとこの先一緒にいるのと天秤にかけたら…いや、測るまでもないじゃないか。
俺は苦笑を浮かべて、青峰の肩を掴むと引き寄せ、チュッと音を立ててキスをした。

「充電完了、俺は頑張るんだから、お前は邪魔すんな」
「って、おまっ…名前」
「ん?」
「終わったら、覚えてろよ」
「…おう、覚えてる」

笑顔で別れた。
しばらくはお預け、そんな気分で手を振ったのだが…新学期早々受験受験と部活に顔を出すのもままならなくなった。
青峰は相変わらずで、紫原も推薦で秋田へと行くことで話が進んでいる。
余裕のあるやつは授業中昼寝をする。
焦る俺たちはそれどころじゃなく追い込まれ、バレンタインですらそれどころじゃなかった。





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