▽ 午後の時間
普通なら休むべき昼の一時、月に一回まわってくる図書委員という当番。
本の管理は勿論、昼休みを犠牲にして何が楽しくて座っていなければならないのか。
そして、いつもなら俺より先にきてるはずの影の薄い男がいない。
「さぼりかぁ?俺よりやる気あんのに珍しー…」
「すみません、遅れました」
「…お、おせぇよ」
いきなり現れた男に内心驚いたが、動揺を隠す。
いつになっても慣れない…慣れるはずがない。
あんなに突然現れて、ビビるだろ。
隣に座り、あとはあいつにバトンタッチ。図書委員のことはあっちの黒子の方がよく知っている。
今日もほとんど人のこない図書室、俺と黒子とちらほら生徒。
ちらりと窺えば黒子と視線が合って、少し驚きつつも俺から視線を逸らした。
「先輩、怒ってるんですか?」
「いや、そんなんじゃねぇから」
「なら、いいです」
…そしてまた無言。
別に喋っていたいって訳じゃないが、なんというか…恋人ならなんかあっても良いだろ。
そう、何の因果かわからないが俺は黒子に告白され付き合ってることになっている。
影の薄いこいつは、バスケ部にいるらしい。
前、茶化しに行ったら見つけられなかった。
ただ、黒子はしっかりと見ていたらしく俺が見ていたことに少し照れていた。
不覚にも、可愛い奴だと思ってしまった。
「先輩」
「ん?なんだよ」
「昼休み、もうすぐ終わりますよ」
「あ、ホントだな。じゃ、教室帰っか」
黒子の言葉に顔をあげると、あと五分で予鈴が鳴るところだった。
俺は大きく伸びをすると、椅子から立ち上がる。
午後の授業は適当にやり過ごして、そのあと部活で発散しようそうしよう。
だが、隣にいつまでも気配がないことに不思議に思って椅子を見るとじっと見つめられていた。
「な、なんだよ?」
「名前さん、このあとサボリません?」
「おま、優等生が聞いて呆れる」
「優等生なんて僕一言も言ってませんよ」
名前で呼ばれた。
これは黒子が盛ってる証拠。
逃げようかと思った途端腕を掴まれる。
チッ、逃げ損ねた。
「名前さん、ダメですか?」
「あーもー、そんな目で俺を見るなよっ」
こうなったら黒子は止まらない。
こいつより背が高くたって無理。
なんてったって、惚れた弱味だから。黒子につられて、俺もその気になってしまう。
なんだってこいつはいつもいつもいつも…。
「で、場所は?」
「軽音部で」
「はっ!?」
「あそこなら防音です」
ドヤ顔で言うなよ。
たしかに、ちょうど良い狭さで防音だが…そこは俺の城だ。
しかも、黒子はいつになく楽しそうな顔で俺の手を引いて行く。
ったく、なんだよたまってたのかよ…。
こいつのセックスは正直あまり好きになれない、その淡白そうな顔に似合わず、ねちっこくいつまでも責めてくるのだ。
「黒子、俺にサボらせんのか」
「…ダメですか?」
「だから、そんなじっとみんな」
じっと見つめるその眼差しを避けるように視線を逸らした。
わかった、お前がそれほどやりたいってことはもう嫌ってほどわかった。
「…しかたねぇな…部活までには終わらせろ」
「はい、僕も部活はしっかりやらないと怒られますので」
自分の体力の限界が近いなら、せめて終わりまで我慢しやがれ…。
はぁ、と俺はため息をついて黒子につれていかれるまま軽音部の部室に入った。
鍵を閉めて、チューニングを行うための長椅子に座ると黒子が肩に手を置いてくる。
ぐっと押されて、俺は押し倒された。
すぐに唇を塞がれ、がっつくようなそれに酔いしれる。
週二回はやっているというのに、体力のないこいつからどういう性欲が溢れているというのか…。
ほんとに、こいつはよくわからない。
「ん…」
「名前さん、声出して大丈夫ですから」
「どう、いう…ことだよっ」
「我慢しなくていいってことです」
ふっと甘い顔をする。
いつも無表情なこいつが、こういうときばかりは顔で雄弁に語る。
この顔が好きだ、美味しいものを食べたときにみせるような…。
「考え事ですか?」
「あ…いや、なんでも」
「教えてください、僕以外のことを考えるなんて酷いです」
「別にお前以外のことじゃ…」
「…僕のことですか」
「いや…」
ならいいです、とニッコリ笑って俺の服を脱がしている。
誤解だ…いや、誤解じゃないが…誤解だ。
違う、違うってというのに黒子はなんでか上機嫌で肌にキスをしてくる。
「うっ…はやく、しろ」
「わかってますよ、先輩も協力してください」
僕だけじゃできません、とそんな上から目線で言うな。
俺だって好きでお前に組み敷かれているわけじゃねぇンだぞ、俺が黒子を抱いたら壊してしまいそうで…だったら、小さいものを受け入れた方が楽じゃないかってそういう考えに至った。
だから、自分から抱かれているとかそういうんじゃねぇ。
「名前さん、考え事してるところ悪いんですが…もう舐めてもいいですか?」
「へっ!?…ちょっ黒子っ…うあっ…」
いきなり逃避していたらベルトをとられてジッパーを下げ下着から自身をとりだし、そのまま口に咥えた。
予告されたが、唐突なことに驚き黒子の頭に手を添えるが、舐める舌はとても気持ちが良い。
微妙な舌使いでなぶられて、吸われ、俺は目を閉じて感じ入った。
こいつのフェラは最初から気持ち良かった、誰かに教え込まれたのかなんなのかは全くわからないが、それが病みつきにはるほどに気持ちいい。
「はっ、あぁっ…くろこ、ふ…」
「気持ちいいですか、名前さん」
「ん、もっと…くれよ」
「はい」
口を離して、黒子が俺の自身を扱きながら脱がしてくる。
それを腰を上げて手伝いながら促せば黒子は嬉しそうに笑った。
ほんと…コイツって、普段顔に出ない分こういう時に見せる顔は格別だよな。
俺が求められてるってわかる。
細いのに節くれだった指が中へと入りこんできた。
俺は息を吐き出して、苦しくなる心臓を落ちつけながら、受け入れ、そうして指が増やされていくのにもだんだんと頭がまともな思考を失くしていく。
「くろこ…ふぁっ、くろこぉ…」
「せんぱい、こっちに手を回してください」
ちゅっと音をたててキスをして手を引かれる。
背中に手を回すとぎゅっと身体が密着する。
すると、黒子の心臓も同じ音をしているのがわかって安心すると同時にもっと欲しいとはやる気持ちが溢れてくる。
三本の指が、ぐちゅぐちゅとネバついた音が聞こえるのはどうしてだろう。
俺が知らない間に、何かを塗られていたみたいだ。
「おまえ、もっと顔に出せよ」
「え?」
「もっとほしがれ、俺ばっかみたいじゃねぇか」
正直こっちばかりが理性を失くしているみたいだ。
そう言えば、黒子は俺の手を引いて自分の股間へと導いた。
触れさせられたそこには熱く硬くなっているものがあって、俺は顔に熱が集まるのを感じた。
「顔に出ないのは、生まれつきなのですみません…でも、わかってもらえましたか?」
「っ…こえーよ」
「すみません、僕名前さんのことになると…ちょっと、止められなくて」
そのまま自分で服を脱ぎ、そこに自身を宛がってくる。
顔に似合わず、立派なそれに俺は息をつめた。
すぐに、息してくださいと言われて呼吸をさせられタイミングをはかって入りこんでくる。
「ぁぁ…はぁっ、あっ…う、く…」
「せんぱい、すきです…せんぱい」
「くろこ、名前」
「名前さん、すきです…」
好きです、と何度も囁きながら中を動かれて、俺は堪らず黒子の背中に爪を立てた。
黒子は嬉しそうに笑って、尚も攻めたてられて俺は呼吸をすることに精いっぱいになる。
自身からはとめどなく先走りが溢れて、堪えようもないほどの愉悦に理性も食い破られていく。
ほしい、欲しいと中が締めつけ蠢動する。
「くろ、こ…はっぁあっ」
「ほしいですか、ねぇ…名前さん、言って下さい」
「おくに…くれよ、黒子」
そそのかされるようにして強請った言葉。
途端黒子は、これまでの動きは何だったのかというぐらいに最奥を突き上げて俺の堪らないところを擦り上げてくる。
堪らず淫らな喘ぎ声をあげて、中を締めつけた。
顔をゆがませた黒子が脳裏に焼きつく。
そして、中へと広がった熱に俺もつられて白濁を放っていた。
「はっ…はぁっ…はっ、はっ…中に出しやがって」
「…すみ、ません…がまんできません、でした」
「ったく…やっぱり、部活終わってからにすりゃよかったじゃねぇか」
「でも、それだと僕動けないんで名前さんを満足させられないと思います」
「それなら、休みの日にすりゃいいだろ」
「…それは、僕がもちません」
「…ばか」
少しは我慢しろと言いたいが、俺もこの週二回のサイクルで丁度いいのだ。
これ以上接触がなくなるとなれば、それはそれで困るというもの。
なにも言い返すことができず、苦し紛れに暴言を吐くだけで精いっぱいだった。
そして、見つめてくる眼差しはいつも優しさを含めていて俺は手を伸ばし頬を撫でた。
「満足したか?」
「はい、名前さんに触れて満足です」
「ははっ、そーかよ」
正直に言うコイツには裏がなくて付き合いやすかった。
女と付き合ったこともあったが、こんなにも好きだと想いを告げてくる。
そんな奴を邪険にできるわけもなく、むしろ満足しているのだ。
時計を確認すればあと十五分ほどだ。
俺は黒子の手を引けばそのまま長椅子に二人して横になった。
「二人は狭いです」
「文句言うなよ、くっつきてーの」
隙間なくくっついていれば黒子はそっと身体を預けてくる。
柔らかい髪を撫でて、ちゅっと額にキスをする。
「先輩、狡いです」
「なにが?」
「僕もしたい」
黒子の言葉にしたければすればいいと、言いかけて口を噤んだ。
案の定ぶすくれた顔がそこにあった。
「言っておきますが、僕は平均身長です」
「はいはい、わかったって…これならできるだろ?どーぞ」
上体を起こしてやれば、それでも不服そうな顔をする。
しないのか、と窺うとぐっと胸倉を掴んで口付けたかと思えば、舌まで入り込んできて口内を舐め回す。
さっきの今でそこまでするなと言いたいが、上顎を舐められたとき、不覚にも一度収まった熱が蘇りそうになって慌てて黒子の肩を掴むと引き離した。
「ばかやろう、なに仕掛けてんだっ」
「…仕返しです」
「あーあー、悪かった。ちょっとからかっただけだろ」
よしよしと頭を撫でたら、ぽすっと胸に顔を埋めてくる。
甘えさせてやりながら時間もだんだんと押してくる。
俺は服を着直して、中に出されたものは後でなんとかしようと小さくため息を吐いた。
「時間だ」
「はい、もう少し一緒にいたかったんですが残念です」
「部活終わった後でも待っててやるけど?順平や俊の部活風景みたいし」
「ダメです」
「は?」
「名前さんは僕のなので色目使わないでください」
「色目じゃねぇよ」
なんつーことを言うんだ。
ただの友達だというのに…。
「今日はお前見つけるから、行ってもいいだろ?」
「…わかりました」
「しょげんなって、お前変なとこで心狭いな」
「ダメですか?」
「いーですよー、じゃ約束な」
子供っぽい独占欲に笑いながら小指を絡めて指切りをすると、納得したように離れて上着を着ている。
次の授業は出れそうだなと授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、二人で軽音部を出た。
「よく考えたら、職権乱用じゃねーか」
「部長さんがそんなこと気にしてたら部活できませんよ?」
「お前が言うな」
部室の鍵を閉めて、後ろめたさに呟くが黒子は素知らぬフリ。
小突いてやるもあまり効果はないようだ。
生意気な一年だ。
まぁ、悪くねぇけど。
可愛いところを知ってしまえばそれこそどつぼだったのだ。
これは仕方ない、運命だったんだと自分を納得させ、部活の後を楽しみにするのだった。
END