▽ 一番がいい
12月20日、日付が変わったと同時に真太郎と敦からメールがきた。
いつものことだと笑みを浮かべて、お礼の返信をして眠りについく。
朝になり、同室の名前の目がさめる前に朝食を用意していつものように部屋を出た。
朝練のため部室に入ると珍しく実渕がきていた。
といっても、彼はレギュラーの中で一番早いのだから特別おかしくない。
「おはよう、征ちゃん」
「おはよう、玲央」
ロッカーに荷物を置いたところで首に温かいものが巻かれた。
「マフラー?」
「今日誕生日でしょう?だから、プレゼントよ」
「そうか…ありがとう。でも、僕は誕生日を教えてなかった筈だが…」
「名前がメールしてきたのよ、明日は征ちゃんの誕生日だから祝ってやってーって」
「…名前が」
同じ部活なんだから教えてくれたっていいじゃない、と言われながら、そういわれれば名前にだけは誕生日を聞かれて答えた記憶があったことを思い出す。
それでも、随分前のことになる。
すると、ドアが開き根武屋と葉山も入ってきた。
「二人ともおはよう」
「おはよう、赤司っ」
「赤司、誕生日だろ?」
「ん…そうだが?」
まさかと思えば、手にポンと置かれたのは牛丼無料券。
俺も俺もと次に差し出されたのはお菓子詰め合わせだ。
ありがとうと受け取って、これも名前の仕業だろうなと感じた。
プレゼントのラインナップが中学の頃とあまりかわらないことにも懐かしさを覚えて笑みを浮かべた。
朝練を終えて教室にいくと、親しくしている生徒からも祝いの言葉をもらった。
先生までも僕の誕生日を祝ってくる始末で、一体名前は何を考えているのかと首を傾げる。
確かに祝ってもらえるのはそれなりに嬉しいが、何かが物足りない。
「…ああ、名前からはまだ言ってもらってないのか」
そして、口にして初めて言ってもらえてないことが寂しいのだと気づいた。
名前はこれが誕生日プレゼントのつもりなのだろうか。
だとしたら、一回屈服させて思い知らせる必要がありそうだ。
どうやってやろうかと考えつつ、その日もしっかり練習メニューを作成し放課後の部活はいつも通り行った。
その間も僕は祝われ続け、でも名前は一度も僕の前に現れなかった。
学年も違えば部活も違う、ただ寮で同室と言うだけだ。
それなのに、僕は名前に惹かれ名前も僕と同じ気持ちを共有しているのだと思う。
僕の気持ちがわからない…と言うことはないはずだ。
少しお互いに誤解をしてしまうことはあるが、それも大前提に揺らぎはない。
なんとなく、で伝わる想いは確かだと思う。
「だとしたら、これは奴特有の意地悪か…」
ようやくはち当たった可能性に怒りが沸々と湧いてくる。
帰ったらどうしようかと考えていると実渕から征ちゃん怖いわよ〜と聞こえてきたが無視をした。
終わるなり早々と帰宅した僕はドアを勢いよく開ける。
そして、諸悪の根元を探した。
「名前、あれはどういうことか説明、してくれるだろ?」
「お、赤司お帰り」
奴は自室にいて、ドアを開けるなりにへらと笑ってみせた。
僕はそのまま詰め寄ることも出来ず一瞬躊躇う。
「誕生日おめでとう、赤司」
「…朝から顔を合わせる機会があったのに、どうして言わなかったんだ」
「ん?俺はいつでも言えるから、今日はみんなに譲ったつもりだったんだけど…?」
キョトンと首を傾げた名前に僕は自分がその言葉に拘ってたみたいに言ってしまい、途端恥ずかしくなる。
名前は僕の反応をみて、ああ、と思いついたように手を打つ。
「一番がよかったのか、気付かなかったな。俺は赤司が祝われてるのを見てる方が結構新鮮で楽しかったんだけどな」
「見てたのか」
「まぁ、俺がふっかけたようなものだし」
何かあったら困るだろ、と椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる名前から目が離せない。
資料を見ていたからか珍しくかけていたメガネをポケットに入れると手を引かれて腕に閉じこめられた。
「たくさん、プレゼントもらったか?」
「ん?ああ…」
それがどうしたんだと見上げたらポンポンと頭を撫でられる。
なんなのかわけがわからない。
ムッとした顔をしていたのだろう、名前は不機嫌になるなよと笑った。
「みんなが征を祝うこと、これが俺のプレゼントだ」
「確かに嬉しいが…」
嬉しくないわけはなかった。
けど、それ以上に欲しいものがあったのだ。
僕は他の人たちの言葉よりも、目の前の男から発せられるのを待っていた。
「名前の言葉がよかったんだ」
「…ごめん、そんなに惚れられてるとは予想外だった」
「っ…惚れてないぞ!?」
「まあまあ、照れないで」
認めてしまえば楽なのになと名前は笑って優しくキスをしてくる。
宥めるようなそれを受け入れながらもっとしろと引き寄せた。
それに一瞬驚いた名前だが、すぐにその意図を汲み取って深くしてくる。
口内を荒らす舌にこちらは預けて好きにさせる。
僕は結構好き勝手されるのが好きなんだと知った瞬間だ。
ただし、名前限定だが…。
「ベッド行こう、全部愛させて」
「クサいセリフだな」
「ならどう言えば、征に伝わるのかな?」
「それでいい」
クスクスと笑って聞かれた言葉にこれ以上のマシな言葉が返ってくるとは思えず、辱めを受ける前に短く切り捨てた。
ベッドに押し倒されて制服を脱がされていく、ネクタイを解かれボタンを外す。
それをキスをしながらやるのだ。
どれだけ抱くことに長けているのだろうと、苛ついて前に経験豊富なんだなと嫌味を言ったことがある。
けれど、名前は驚いて大声を上げて笑った後、高校では僕が初めてで中学ではそんなにマセた餓鬼じゃなかったと言われた。
つまり、僕が初めてらしいのだ。
その後褒めてくれてありがとうと求めていると勘違いされたらしくたっぷりと致されたことは記憶に新しい。
だったらどうしてこんなにも手慣れているのか…聞きたいが、何が返ってくるかわからないため不用意に聞けない。
「これからしようってときに良い度胸だ」
「ァアッ…名前、やめっ」
「征が他のこと考えてるからだろ。なにも考えられないようにしてやろうか?」
いつの間にか下着まで脱がされ、目の前で名前の唾液で濡らされた指がテラテラと光っている。
脅し文句に、以前指だけで責められたことを思い出して必死で首を振った。
けれど、そんな抵抗にならないことをしたところで無駄で、指が大きく開かれた脚の間に入ってくる。
冷たさに震えるが、それが今どこまで入っているのかを思い知らせてくるようでピタリと指が止まる。
そこをクッと押されると、自分のものとは思えないほどの甘い喘ぎが漏れる。
聞かれたくなくて手で塞ごうとすると両手を取られ纏めて頭上に押さえつけられた。
「声は抑えるなって言ったよな?」
「ヒッ…あっあっぁぁああっ!!」
「いい声」
一気に動かされた指、抑えることのできない喘ぎが漏れて自分でも恥ずかしいと思うのに止まらない、下からはクチュクチュと耳を塞ぎたくなるほどの水音。
腰がバウンドして、指が引き抜かれた。
「はっ、はぁ、はぁ…」
「征、もうイってる」
「っ…見せるなっ」
自身を拭われたかと思えば指を開いて見せる。
とろりと光る白濁に顔を逸らすとくすりと笑みを深める。
頬にキスをして、足をもっと開かれ熱いものが触れると僕はもがいた。
「手を放せ」
「あ、そうだった」
これ以上動きを制限するつもりはないようで、素直に返事をすれば手が解放された。
そして、ん、と名前が抱きしめてくる声に従って僕も背中に手を回す。
ぐっと入り込んで近くなる距離にほっとため息を吐くとクスクスと笑う声がする。
そんなに、笑うところばかりなのかと名前を見上げれば僕の言いたいことがわかったのか違うよと首を振る。
「なんか、痛い思いさせてるのに俺に抱きしめられて安心した顔するから」
「なっ、そこまで何もかも預けきった顔はしてない。でも、別に痛い思いはしてない…から」
言ったあとで自分がとんでもないことを口走ったことに気づいて慌てて口を閉じるが遅かったようだ。
上を見れば嬉しそうな顔をしている名前がいる。
「征の誕生日なのに俺が嬉しくちゃだめだろぉ」
「あとでケーキを食べれば問題ない。難なら僕が本気を出していいバスケにでも付き合ってもらおうか」
「そういうバスケしか頭にないとこ好きだな。玲央や小太郎も巻き込もう」
いっそキセキの面子にも声をかけてみたいものだ、と名前は呟いてそこからブツブツと言っている。
「小太郎伝手で、秀徳に連絡してそこから連絡網式にチェンメして…っと、どうした?」
「いいから、動け」
「あ、そうだった。つい、征に負けない面子揃えようと必死になった」
あははと笑って動き始める。
そんなの関係ない、どうせ僕に勝てるのは誰もいないのだから。
でも、久しぶりにみんなに会うのはいいかもしれない。
まぁ、計画を立てなくてもWCで会うことになる。
バスケはごまかしでケーキが本音だったのだが、名前は騙されたらしい。
言うつもりはなく、それでもいつか気づくだろうと身体を委ねた。
さっきまでの性急なものとは打って変わって優しく感じさせる腰使いに僕は翻弄されて、甘く柔らかな温もりに心地よさを感じた。
「ほら、あーん」
「ん」
「おお、意外」
口元に差し出されたケーキに言われるまま口にしたら感嘆の声が上がった。
それと同時にしまったと自分のしてしまったことに舌打ちしたくなる。
「これは敦が…」
「敦?敦って誰?」
「キセキのメンバーだ、今は秋田にいる。お菓子が好きで、一緒に食べるのも好きだから無理やり口に突っ込まれた」
口を開けなければ口の周りがベタつくからあーんと言われる度口を開けていたことが癖になってるとは…。
「よし、俺もそれに参加しよう。敦がどんなやつなのか気になる」
「ふっ…驚くぞ?」
「なんで?」
「少なくとも、牽制しようなどとは思わないことだ」
あの長身をみて名前が何を思うかは気になるが、今は次のケーキが欲しいところだ。
次を取れと指差して求めれば、はいはいと口に送られてくる。
生クリームの甘さと苺がちょうどいい。
「征」
「ん?」
「好きだよ、誕生日おめでとう」
「っ…こほっ、いきなり何を」
「いやいや、こういうのはちゃんとしておかないとね」
髪を梳かれて笑みを浮かべ、ついでにキスまでついた。
今一読み切れないところもあるが、やっぱりそんなところも含めこの男がいい。
「僕もだ」
「誕生日効果万歳」
ちょっとしたことでいろんな表情を見せる。
そんな名前だから、こちらも全てを見せても良いと思えるのだろう。
僕は小さく笑みを浮かべ、一日の最後までしっかりと味わうように名前に甘えた。
END