黒バス夢 | ナノ


▽ 感情栓



いつも俺にべったべたくっついて鬱陶しいぐらいに笑ってなんでも受け止める奴が、今日は元気がない。
俺はそれに気づかないふりをした。
どうしたらいいのか、わからなかったから。
けれど、それを突き動かさせたのが真ちゃんってのが、少し自分でもムカつくところだった。

「高尾、お前はそれでいいのか?」
「っ…」

引き止められた腕、部活に行こうとしていた足を止めさせたのは真ちゃんだった。
真顔でそんなことを言ってきて、笑おうと思ったのにできない。

「なんだよ、部活…俺がなきゃって言ってたのは真ちゃんだろ?」
「ばかめ、恋人を放っておくような輩となんか部活なんかしたくないのだよ」

それに、そんな情けない顔をしていたら宮地さんや他の先輩たちに感づかれるのだよ、と眼鏡を押し上げて言う真ちゃんに頭が上がらねぇなぁなんて思いながら、自分でも情けない苦笑をしてしまっていると思った。

「わり、真ちゃん。この埋め合わせはしっかりすっから」
「当たり前だ、早く行くのだよ」

真ちゃんに背中を押されて、もう教室を出てしまった名前を追いかける。
アイツを慰められるのは俺だけ、なんてそんな大それたことは思ってないけど、縋るような視線にこっちまで胸を締めつけられる思いをした。
走って、走って…背中を見つけた。
いつもより肩が落ちている気がする…こいつ、こんなに小さかったっけ…?
よく見ていなかったのは俺の方かもしれない。
呼びとめようとして、口を噤んだ。
ここで呼びとめてどうする気だ…いや、そんなの迷ってる暇ないじゃんかっ。

「名前っ」
「…ぇ?…あ、れ?高尾!?」
「そう、お前の求めてる高尾ちゃんでっす」
「なんで、部活は!?お前なにしてんの!?」

振り返って、焦ったような声に自分がどういう状況に置かれたっていつでも俺の心配なんかして…ホント、どうしようもない奴。
息を整えて名前に近づくとその手を握った。
握りしめていたらしく、その手は少し開きづらかったけど俺が自分からそういうことをするとは思ってなかったらしく驚いている。

「手、握って」
「あ、おう…な、なーんだよ。高尾からしてくれるなんて珍しー」
「からかってんじゃねぇよ、なんかあったんだろ…無理に笑うな」

俺から握りしめている手は力が入っていなくて、しっかり握ってくれと言えば、いつもの調子で俺をからかってこようとしているから名前をまっすぐ見つめていってやる。
ぴくっと手に力がこもった。
俯いて、ずるいと小さく呟いたきり名前の顔から笑顔が消えた。
これが、なんにも取り繕っていない今の名前。
俺は名前の手を引くように歩きだして、部屋が良いかと名前の家に向かう。

「今日は、なんでもしていーぞ」
「…なにそれ、いつもは俺がさせてくれって言っても、抵抗するくせに」
「それは、お前がそれでも俺のこと抱くからだろ。今日は、なんでもしていい、から」
「ばかだなぁ、そんなん…今日酷くするよ?」

制御できる気がしない、と言われた。
目も見ていない。
どこかうつろなその視線に色を取り戻すことができるのなら…俺は、なんでもできるんだよ。
いつも、俺は真ちゃん真ちゃんいってるけど…俺は、お前のこと好きだよ。
真ちゃんは、それを一番よくわかってる。だから、こんなことになってんだけど。

「これでも俺、名前より丈夫にできてんだよ」

見縊るんじゃねぇと、言ってやれば繋いだ手に力がこもった。
痛いほどのそれに俺は、顔を歪めることなくそれが名前の痛みだと受け止めていた。





「ヒッ…った、はっ…あぁっ…ぅっ」

部屋につくなり無理やりベッドに押し倒され、服をはぎ取られるようにして何の準備もなく突き上げられた。
思うように動けなかったのか、結合部にローションがそのまま垂らされて抽挿を開始してくる。
痛みに顔を歪めるも、名前の悲壮な顔を見てしまったらそんなことも口にできなくて必死にいつもの喘ぎ声を口から絞り出していた。
痛いけど、こいつのほうがよっぽど痛そう。
手を伸ばして、頭を抱え込みもっとしろよと耳に吹き込んだ。

「ばか…和成の、ばか」
「っあ…ばかは、どっちだよ」

顔を押し付けているそこが濡れる気配がしてくしゃりと頭を撫でてやる。
何が起こってんのか、俺には理解できないけど…これで慰められるって言うなら、俺はなんでも差し出してやる。
少しぐらいの痛み、お前の痛みだと思って受け止めてやる。
中を動く熱いものは俺をずっと苛み続けているが、だんだんとそれが気持ち良くなってきた。
名前に慣らされた身体、それは当たり前の反応だ。
それでいい、俺は今ちゃんとお前のこと愛せてるかな。
ぎゅっと抱きしめられている手に力が入って、俺を貪る名前。
ねぇ、俺って気持ちいい?俺でお前は、慰められてくれんの?

「ぁぁあっ、はっ…なまえ、なまえっ…ふぁっ、ひぁっ」

自分でも恥ずかしいぐらいの声が口から出るが、気にしなかった。
名前の俺に触れる手が、壊れモノに触るようで、それが気にくわない。
もっと、もっと…俺を使ってもいいから…。

「何泣きそうになってんの、和」
「…なってね、よ…おまえが…俺に頼らねぇのが、悪いんだろ」

いつもいつも俺にべったりなくせに、今日はそれもなくて勝手に一人で帰ろうとしてっし…それに、俺を見てくれない。
自分のことでせいいっぱいなのは、わかってるけど…俺をみろよ。
俺はここにいるだろ、俺はお前のことちゃんと好きだよ、あいしてるよ…なんで、俺をみないんだよ。
情けなく溢れた涙、優しい指先がそれを拭って、顔をあげれば目元を赤くした名前と目が合った。

「ごめんね、和成…かず、好き…好きだよ」
「ん…しってる」

それが俺の強がりだって、気付いたのかさっきまで乱暴だったものが優しくなる。
どんなに痛くたって酷くしきれない男は、謝りながら好きだと言い続けてた。
理由もなく酷くされて、それでもお前が楽になるならと思った。
俺は、少しでも役に立てているのか不安だけどゆっくりとなくなっていく眉間のしわとか、苦笑いが多いけど笑えているところとか、ほどけていくものに安堵していく。
感じるとは到底遠いセックスだったけど、しっかりとイくことだってできた。
それ以上はできなくて、名前は俺の身体をタオルでしっかりと清めてくれた。

「もういいって」
「ダメ、しっかりしないと明日腹痛くなるかもしれないだろ。そしたら、和成部活できないだろ」
「あー、まぁ…でもどうとでもなるし」
「だめだ」

いつもはすぐに高尾に戻る呼び名も、今日はいつまでも和成と呼ばれていた。
少しの羞恥を覚えて、身体を預けていると終わったのかベッドに横になり俺を抱きしめてくる。
ぎゅっと囲われるようにされて、名前は息を吐きだした。
なにも言わないけど、俺はこいつを慰められたのだろうか…。

「もうちょっと、今日は一緒にいて」
「ん…」
「でも、帰りたければ無理やりでてっても、いいから」
「じゃあ、少し離して」

手を離させて俺は起き上がった、振り返れば何かを耐えるようにした顔。
俺が離れたら困るんじゃん、思わず笑ってしまいそうになりながら俺は来た時から放り出されている制服に手を伸ばした。
皺になったら困るから、俺のと名前のをハンガーにかけてポケットにいれているケータイをとりだすと家にメールをいれる。
家族を心配させるのはダメだからな。
そして、返信を待たずポケットにケータイを戻して再び名前の元へ。

「今日は、一緒にいてやる。ありがたく思えよ」
「…和、お前最高っ」
「わっ…調子のんな、ばか…アッ」

名前呼びから戻らなかったのは、まだし足りなかったからかと気付いたのはさっき綺麗にしたばかりの身体を再び暴かれるようになった後のこと。
どれだけ抵抗したってむりだから、この際大人しく抱かれておかれときますか。
少しでも早くいつもの名前に戻ってほしいし、と物足りない自分に言い訳をしながらそんなことを思ったのだった。





END




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