黒バス夢 | ナノ


▽ 黒子くんの不安と決意


楽しい時間というのはあっという間だ。
いつもと同じだった部活に変化が訪れ始めた。

「俺、今日部活サボるわ」
「は?…何言ってるんだ?」

青峰の言葉に俺は信じられない気持ちで見た。もう教室には残ってる生徒は居らず、俺と青峰は二人だけだった。
座ったままでいる青峰に声をかけたらさっきの返答が返ってきたのだ。

「なんで?お前バスケあんなに楽しそうにしてたじゃん」
「俺を楽しませてくれる奴がいない」
「な…」
「本当のことだろ、俺を前にして誰も挑んでこないんだからな」

静かに語る青峰の言葉は本当だった。
練習試合も、普通の試合でも、青峰がいるだけで一気に志気が下がる。
他の奴らがいてもそうなのだが、エースの青峰がいるから、と言い訳をつけられるのはいつも青峰だった。
こんなにもバスケが好きな奴が、そうやって誰かの言葉一つでと思うが…バスケは一人でやるものじゃない。

「つ、強い奴なんて他にもいるはずだ」
「いねーよ、俺に勝てる奴なんかいない」

悲痛なほどにその一言が胸に響いて痛みを伴う。
俺はそれ以上言うことができず、あれほど楽しみにしていた体育館へと続く道に背を向けて教室を出て行ってしまった。

「…青峰が、なんでそんなつらそうな顔すんだよ」

辛いのは、俺もだった。
青峰に誘われるようにバスケを始め、部活に入り、友達ができた。
俺はこんなにも中学生活を楽しく送れるなんて思ってもなかったと感謝すらしていたのに。

「苗字くん」
「…黒子?」

声がして顔を上げると、入り口に黒子が立っていた。
青峰がと言おうとしたら、黒子はわかってますよと苦笑をもらした。

「青峰くん、とうとう苗字くんがいても部活にでなくなっちゃったんですね」
「もしかして…」
「はい、青峰くんは苗字くんがいないとき部活にでていませんでした」

黒子の言葉に衝撃を受けた。部活をサボるなんて今日が初めてだとばかり思っていたから。
それに、他のみんなもそれらしいことなんて一言も聞いてなかった。

「みんな、苗字くんが辛くなるんじゃないかと言わなかったんですよ。それに、青峰くんも君がくるときは雰囲気柔らかかったですし」

黒子は俺の隣の席に座って、ちょんと居心地悪そうにして、俯いた。
きっと、誰よりも辛いのは黒子なんだ。
かけがえのない相棒なんだから…。

「俺も近くにいたのに変化に気付けなくてごめん」
「いえ、苗字くんには気づかれたくなかったみたいですから。それに、辛いのは僕じゃなくて君でしょう?」

黒子の手が伸びてきて俺に触れ、腕を掴んで引いた。

「僕たちといる意味もなくなってしまいました」
「え…」
「青峰くんがいない今、君は…バスケをやりたいと思いますか?」
「それは…」

黒子の目が真っ直ぐに俺を見ていた。
俺にとってバスケは青峰を繋ぐきっかけだ。
青峰がやらなくなった今俺はここに残る意味がない。
何も言えずにいれば、黒子の少し冷たい指が俺の頬に触れた。

「青峰くんを追いかけてあげてくれませんか?」
「……」
「僕では、ダメなんです。バスケを通してしか青峰くんをみてあげられない」
「俺だって…」
「君は、違いますよ。気付いてないんですか?」

黒子の言葉についていけない。
俺は青峰のバスケが好きだ。
そりゃ、人としても申し分なさすぎなぐらいに好きだと思う。
でも、気付いてないと言われて何にだ?と思う。
黒子は気づいているのか?だとしたら俺はどうすればいい?

「わかんねぇ」
「君は、あんな抱きしめられ方を青峰くん以外からされてもいいんですか?」

言われて考えてみる。
多分なにも思ったりはしないが、青峰のように安心はしないんだろうな。
じゃあ、なんで青峰ならいいんだろう。

「青峰じゃないと、ダメなんだ」
「そうですか。なら、青峰くんの傍にいてあげてください」
「なんで?」
「君が青峰くんじゃないといけないように、青峰くんも君じゃないといけないんですよ」

だから、追いかけてくださいと言われて背中を押された。
鞄をひっつかんで教室を飛び出す。
部活があるが、そんなのどうでもいい。
俺にとって大切なものは、きっと青峰だから。
校門まできて、青峰はどこに行ったのかと見回す。辺りは暗く、さっきまで晴れていたのが嘘のように空が雲で覆われていた。
行く宛など知らない、だって青峰はいつも体育館で、それこそバカみたいにバスケをしていたんだから。
とりあえず、青峰と行ったことがある場所を見て回ろうと決める。
まずはコンビニ、黒子と黄瀬と四人でアイスを買った。

「いらっしゃいませー」

店内を見るが、青峰はいない。
自分のバイト先であるマジバ…そこにもいない。
行きつけのスポーツ店も…近くの河川敷にも…。

「どこにいるんだよ、青峰」

ケータイをだして時間を確認すると、あちこちしたせいで一時間が経過していた。
もう、家に帰ってしまっただろうと俺は諦め始めて帰ろうかと思ったが、一つ探し忘れているとこがあることに気づく。

「公園だ」

バスケットコートのある公園。
さすがに、サボると言った足で向かうわけがないと思った。
でも、これだけ探していないとなるとそこも確認しないと落ち着かない。
俺はこれで探すのは最後にしようと公園へ向かった。

「…いるし」

バスケットコートの方へ行けば、見慣れた青髪。
俺は深いため息を吐いて、フェンス越しにバスケをしている人を見つめている青峰に近づいた。

「あお…」

声をかけようとして、その顔が辛そうに歪むのを見てしまった。
ああ、どうしてバスケに愛された男は、こんなにも苦しい想いをしないといけないのか。
俺は手を伸ばして後ろから抱きしめた。

「はっ…名前!?」
「お前ばっか、辛いと思うなっ」
「お前、部活どうしたんだよ?」
「サボった、俺は青峰がいたからバスケしてたんだ。青峰がいなかったらあそこにいても意味がない」

俺は青峰の傍にいたいんだ。自分で放った言葉に納得していた。
どうして、こんなにも傍にいたいのかも同時にわかった。
愛しいのだ。
理由もなく漠然と思ったこの感情は友達のそれではない。

「名前…離せ」
「…青峰」

静かに命令されて、俺はそっと離れた。
何感情的になっているんだ、青峰が同じ気持ちだともわからないのに。
俺は、今自分がしてしまった行動に恥ずかしくなって俯いた。

「まぁ、そうだよな」
「え…」
「名前、ありがとな」

青峰の手が伸びてきて俺の髪をワシワシと撫でてきた。
乱暴で、優しい手。
俺は顔を上げた、相変わらず辛そうな顔してるけど、さっきよりは良さそうだ。

「なぁ、バスケしよ」
「あのな、俺はサボったんだ。バスケしたくねーんだよ」
「でも、ここにいたじゃん。ホントはバスケしたいんだろ?やりたくないならさ、教えて」

青峰にはやっぱりバスケから離れて欲しくない。
部活はやらなくても、二人きりでも…。

「…シュート練ぐらいなら付き合ってやる」
「よっしゃっ」

ため息混じりの言葉に嬉しくなる。
そして、ハッと気付いた。

「ボール持ってない…」
「ボールならあるぞ」

用意がないことに残念がったら青峰が当然のようにだしてきた。
サボるっていった奴がやる気満々とかどういうことだよ。
俺は笑いながらそのボールを受け取った。

「じゃ、見てろ」
「いっとくが、厳しいぜ?」
「どんとこい」

言い返すと青峰は楽しそうに笑った。
二人で人が捌けていったバスケットコートにはいる。
少しでも、バスケが嫌にならないように。
俺が青峰を守ってやりたいと思った。





バスケをする体育館にホイッスルが鳴り響く。
僕は青峰くんを除くキセキ達を眺めていた。
あの大きな光を失ったそこは穴があいて綻んでいくよう。
青峰くんの変化に気づいたのは、丁度合宿が終わったころからだった気がする。
苗字くんがバイトのとき大体僕と青峰くんは一緒に帰る。
コンビニで二人アイスを買って、食べながら歩いていたときのこと。
青峰くんは唐突にバスケがつまんなくなったと話した。
僕はいきなりのことにショックを覚えて、胸が痛んだ。
確かに開花した青峰くんには誰もかなわなかった。
そのときは、そのうち現れますよと元気づけたが、段々と青峰くんは部活に顔を出さなくなっていった。

「弱くなれば釣り合うなんて、本当に君はアホですよ」

体育座りで顔をうずめていれば、頭をポンと撫でてきて顔を上げたら黄瀬くんがいた。

「どうしたんスか?黒子っち」
「なんでもないです」
「それにしても、今日も青峰っち来ないっスね。苗字っちも今日はバイトないのにこないみたいだし…」

何かあったんスかね、と隣に座る黄瀬くんは何も知らない。
赤司くんは薄々感づいてると思うが、他のメンバーは他人に興味ないから気にしていないだろう。

「さぁ、どうなったんでしょう」

二人が引き合っているのはわかるが、何しろ鈍い。
苗字くんが気づいても、踏み出せないままになってしまいそうだ。
どんな形でもいい、このままでは青峰くんが一人になってしまう。
最初こそ、相棒のくせに、とか色々言いたいことはあった。
けど、それが青峰くんの戸惑いだと思った。
彼は寂しいのだ、周りに誰もいない状態で、どうしていいかわからない。
でも、僕では青峰くんをどうすることもできない。
苗字くんなら、青峰くんの望む形で傍にいられるだろう。

「黄瀬くん」
「はいっス」
「疲れたので、ちょっと肩貸してください」
「えっ…は、はいっ」
「なんで敬語なんですか」

しどろもどろになる黄瀬くんは楽しいなと思いながら、頭の中では別のことが気になって仕方ない。
青峰くん、君はこのままこなくなるつもりですか…。




金曜日、部活前に俺は赤司に呼び出されていた。
この前は無断でサボってしまったし、怒られるのだろうかと思うとちょっといきたくない。
けれど、無視をしたらそれでも怒られるのだろうからいくことにした。
もちろん、青峰も一緒だ。

「怒られんのかな」
「あいつ怒るとこえーしな」

二人せーのとかけ声をしてドアを開けたら、そこには紫原と緑間もいた。

「紫原のつけたあだ名ちん〜」
「敦、真も…三人仲良くお揃いで」
「なんの用だよ、赤司」
「なんも何もないだろ、サボるのはいいが部活にはでろ。苗字はいいが、青峰…お前は勉強もできないんだから部活だけは続けろ、いいな」
「うっ…」
「それと苗字、このまま辞めてもいいけど、俺はお前の秘密を知ってる。どうする?」

紫原にギュッと抱きしめられてホールドされながら言われた脅しに息を飲んだ。
そこまでして俺をバスケ部に置かせる意味がどこにあるのだろう。
青峰は納得できるが、俺の方はいい加減だ。

「俺がバイト辞めて証拠がなくなったら?」
「おい」
「…俺には止める術がなくなるよ」

笑顔で赤司はいう。
赤司は俺がバイトを辞めないことを知ってるし、部活を辞めないのもわかってる。
そこまでして引き止める理由がまだわからないままだ。

「別に俺は辞めないよ。ちょっと、この前はサボっちゃっただけだって」
「そうか、特別引き止めたりしないが、一言言ってくれ」
「はぁい」

そして、赤司は青峰に視線を向けた。

「今言ったように、部活にはでろ。練習に参加しろとは言わないよ」
「…わかった」
「ただし、試合にはでてもらう。お前の戦力はかかせないからな」
「へーへー」

話はそれだけだ、と言われてほっとする。
それが伝わったのか紫原の腕に力が入る。

「どうしたんだ、敦?」
「ん〜、紫原のつけたあだ名ちんすげー抱き心地いいね」

赤ちんと同じぐらいと言われて、それは身長が同じぐらいだからかと口にしようとしたら手が引かれた。
誰だとそちらをみれば青峰だった。
俺は驚きつつ一瞬黙って、敦の腕を叩いて解くように告げる。

「ごめんな、俺青峰のものだから」
「はっ!?」
「峰ちんずるい〜」
「ずるいもないだろ、紫原はこっちだ」

冗談に驚いてもらったところで、青峰の隣に行く。
まぁ、あんなの見せられたらなぁ。
子供かよと一人楽しくなってると赤司がじっと俺の方を見ていた。

「そろそろ、苗字を試合にだそうと思ってる」
「え、嘘だろ」
「俺は冗談は苦手だよ」

赤司は笑いながら俺のことも試してみたいのだと言った。

「この前のミニゲーム、悪くなかったからな。まずは練習試合を計画しているからそこからだ」
「やったな、名前」
「やったっつーか、なんつーか…うん、嬉しい」

俺は心底バスケが好きというわけじゃないし、しかも黄瀬みたいに才能もないのに選手のような扱いを受けさせてもらうのは少し後ろめたかった。
けれど、赤司がそういうのなら従うほかない。

「心配しなくていい、もうあんなことはないようにする」
「ははっ、心強いな赤司」
「おい、もういいだろ」

横から声をかけられたと思ったら、俺の身体が引き寄せられた。
あの一件以来、妙に赤司に警戒している。
赤司としては青峰をからかっただけだろうに…。

「そんなに苗字が大事なら自分のものにすればいいんじゃないか」

うわ、煽ってる。それ挑発だから、赤司サン。
緑間は焦っているのか落ち着かなそうだし、紫原は傍観してるけど。

「…俺のもんだろ」
「おう、お前のもんだ」

まぁ、鈍感でもいーじゃね?
俺はぎゅっと青峰を抱きしめて背中を撫でてやる。
獣をあやすときの気持ちがなんとなくわかったよムツゴロー。

「じゃ、もらう」
「んっ!?」

ふっと告げられた青峰の言葉になんだと顔を上げたとき、唇を塞がれた。
しかも、俺が勢いよく顔をあげたせいで殆どぶつかった形で、だ。

「紫原のつけたあだ名ちんっ」
「いってぇ」

俺は驚いて硬直、引き剥がしたのは紫原の両腕。
そして、青峰は緑間の持っていたラッキーアイテムの新聞紙で殴られていた。

「あははっ、実に面白い」
「赤ちん、笑い事じゃねーしっ」
「まったく、中学生の身分で破廉恥なっ」

わーわーといつもの三人が騒いでいるが俺は一言も喋れなかった。
むしろ、顔もあげることができない。発熱したように熱くて、冗談じゃなくやばかった。
赤司の時とは違う、ただの肌の接触じゃない。

「名前、嫌だったのかよ」

赤司には聞こえないように少し潜めた声。
そんなこと、あるわけないだろ。
口に出せず、まだ熱の引かない顔をあげてみせる。
目があった、青い瞳が俺をみた。

「こいっ」
「あっ」
「峰ちんっ」
「苗字、今日は許してやる」

なにが許されたのかわからないが、俺は青峰に腕を引かれていた。
紫原が声をかけてくるけど、答える余裕もない。
これについていったらどうなるんだろう、俺は青峰に引きずられるようにして体育館を抜け出した。
渡り廊下を走り抜け向かっているのは校内だ。
放課後になった時間、残っている生徒はおらず、どこからか吹奏楽部の楽器の音が聞こえる中、三階まで駆け上り空き教室に滑り込むように入った。
青峰が入り、俺が入ると青峰はドアをしめ鍵までしめる音が聞こえた。

「あおみ…んんっ」

名前を呼ぼうとしたら噛みつくようにキスをされた。
触れ合うだけで背筋が痺れる。
これ以上触られるのが怖くて、首を振って嫌がれば両手が頬にかかって、また唇を塞がれる。

「んぅ…はっ、あお、みね…」
「なまえ…もっとだ」
「ふ、ぅ…ん」

触れ合わせているだけでは足りなくて、青峰の舌が俺の唇を舐めた。
いれさせろと言うようにノックされ、薄く開いたら中に入ってくる。
青峰の舌が熱くて、擦りあわされるたびに力が抜ける。
ガクッと自分の膝が折れて、俺は座り込み唇も離れた。

「はっ、は…ちょ、と…」
「すまん…」
「いや、いいけど」

素直に謝る青峰に、まだ告白もしてないことを言うべきか迷って、恥ずかしいので言うのは止めた。
心配そうに顔を覗き込まれ、もう一度キスをしたくなって今度は俺から口付けた。

「つか、夢中で飛び込んだはいいけど…もう一つドアあるからな」
「…忘れてた」

鍵をかけたところでもう一つドアがあることを示してやれば青峰は離れた。
今一瞬理性が飛んでた、あの流れでいけば自分がどうなっていたのかと考えるとちょっと恐ろしい。
いや、本気で嫌という訳じゃないけど…心の準備って言うか…。
正直、喰われるかと思った。

「どーする?戻るか、耽るか?」
「戻るだろ?」
「…もちっ」

躊躇いない返事に俺は笑って、二人で部活に戻った。
紫原には抱きつかれて、なぜか身体を心配され、赤司には結局戻ってきたんだなとニヤニヤと笑われた。
その端で盗みみた黒子は安堵のため息を吐いていた。




青峰がいつも通り部活にでるようになって冬を越し、俺たちは三年になった。
なんだか、長いようで短かった時間はきっとバスケという俺たちを繋ぐもののお陰だと思っている。

「苗字、行ってくれ」
「お、おう」

県大会、準決勝で俺は赤司に呼ばれた。
ユニフォームをもらって、試合の参加を促される。
緊張でどうにかなりそうなのを、黒子が背中を押してくれた。

「黒子…」
「頑張ってきてください。苗字くんなら、大丈夫です」
「ん、黒子の分ももらってくな?」

ぎゅっと手を握って言えば笑顔で頷いてくれた。
コートに入れば相手の緊張が伝わってくる。
赤司には特に何を言われたわけでもないからいつものようにしてしまっていいのだろう。
俺は周りを確認して青峰に二人、あとはみんなに一人ずつ。
俺はこの試合が初めてだからか、誰もつかなかった。
黄瀬からボールをもらうと、視線で合図することなく俺の後ろにいる緑間へとパスをだした。
センターラインから放たれたボールは高い放物線を描きリングへと吸い込まれていった。

「ナイシュー」
「当然なのだよ」

ポンと背中を叩けば、緑間は眼鏡を上げてみせた。
照れてる、と笑っていたら隣からスゲーと声が聞こえてきた。
チラリと緑間の脇から見てみれば、敵チームのPGだった。
緑間のシュートに目を奪われたかのような一言に俺はにやりと笑う。

「真、ファンができたみたいだぜ?」
「フン、生半可な努力しかしない奴に言われても嬉しくないのだよ。何事も人事を尽くしてこそだ」
「でも、満更でもない顔してるくせに」
「苗字」
「はいはい、持ち場に戻りますよー」

茶化すなと言われて、笑いながらいつもの位置へと移動すると、さっきのPGが俺の方へとついた。
まぁ、俺以外背が高いもんなぁ。
同じぐらいの視線の位置に、物珍しそうに見ていたら目があった。

「いきなりでてきて、キセキの世代じゃないよな?」
「…うん、興味あるんだ?」
「いや、まぁ…あるのかも。どんな気分?」

俺たちを抜きにしてボールが回っていくのを眺めていた。
青峰や黄瀬にボールがあるうちはこちらも手を出しても邪魔になるだけだ。

「どんな気分って?」
「楽しい?」
「そうみえるなら、お前の頭お花畑ちゃんだ…なっ」

点が入ったと同時に俺はそいつを振り切ってボールを取りに行く。
黄瀬も他の奴らもマークがキツくなってきたな。
もらったはいいが、繋げられる相手がいない。
紫原に一瞬視線を向かわせると、さっきの奴の手が邪魔をする。

「早々抜けると思われちゃ困るわ」
「ですよねー」

ゴールまでは少し遠い位置、俺はシュートに構えた。

「名前っ」
「あっ…」

後ろから青峰の声がして、俺の手からボールを浚うとそのままレイアップを決めてみせた。
振り返れば、自力でマークを振り切ってきたらしい。
青峰は俺の所にくるなり、ぐしゃぐしゃと髪を乱してくる。

「痛いいたいっ」
「お前はっ、あれほど追い詰められてシュートする癖直せっつたのにっ」
「ごめん、ごめんなさい…許して」
「ったく、ヤバかったらどこでもいいから投げろ」

そっちの方が危険行為だろと言いたくなるが、注意されたことをできなかったことは反省しないといけない。
つか、一瞬俺の代わりにシュートを決めてくれた青峰に不覚にもときめいた。
コートの中で見る青峰があんなにもかっこよかったなんて…と心臓を押さえれば視線を感じて、横を見たらさっきのPGがこっちをみていた。

「対等じゃねーんだ」
「俺はなんでもないからな」

白けた目でそんなことを言われたらそう返すしかないだろ。
ただの数合わせなんだと笑ったら、ムカつくと言われた。

「バスケ好きでもねー奴が勝ってんじゃねぇよ」
「それは俺も同感だ」

回ってきたパスを受け取ると、少し離れた位置にいる緑間へと渡した。綺麗なフォームで吸い込まれていくボールはみんなの視線を浴びて、寸分の狂いなく試合終了のブザーと共にリングをくぐったのだった。

「高尾っ」
「へいへい」

チームメイトに呼ばれていくその背中は、少し沈んでいるように見えた。
挨拶に並んだときにはもうそれは成りを潜め、挑戦的な目をしていた。
そうやってこいつらは、敵を増やしていくんだなと感じていた。



あたりまえのように流れていく日々で、少しずつ…確実に変化が起きている。
夏に入り全中決勝前に突如、黒子が部活を辞めた…。






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