黒バス夢 | ナノ


▽ お菓子だけじゃないの




ぱちりぱちりと将棋を打っているときが一番俺の癒やしだ。
頭を使うのも、仕掛けるのも、後にやってくる勝利が俺を満足させる。

「…ありません」
「ありがとうございました」

一方的に攻めるのも好きだし、誘い込むのも楽しい。

「苗字、最近容赦なくねぇ?」
「鬱憤晴らしてるんだから当たり前だろ」

さっきまで打っていた奴から言われるもお構いなし。
部活と言うものは日々の授業やなんかのストレスを発散させるためのものだ。
ここでも手加減なんてしない、そんなことしたら部内の実力があがらない。

「紫原いないからって、あたるなよ」
「うっ…なんでそれ知ってるんだ」
「氷室が言ってたから。バスケ部は忙しいな」

欠伸をしながら駒を片付ける様をじとっと見る。
敦は今東京に行っている。
ウィンターカップとやらで全国大会ならしい。
うちのバスケ部は強いし、弱いよりは良いけど…秋田と東京じゃ見に行くにもできないじゃないか。

「真面目にバスケしてるとこみてみてぇなぁ」
「部活休めば?」
「するわけねぇだろ」

部活を差し置いてまでは勘弁してくれと手を振れば、なら待ってるんだな、と冷たい一言。
まぁ、そうするしかないけどっ。
試合の日だけかと思ったのに、最後まで見てくとかいってたしなぁ。
氷室、あとでたっぷりなじってやる。どうせ、あいつが菓子で釣ったんだ。
でなきゃ、敦が見るわけない。

「…でも、いい加減あいつも素直になるときなのかもな」

好きな気持ちを否定し続けるのは、なんだか悲しいじゃないか。
あんなに練習して、バスケは背が高いからやってる…なんて、誰が信じるんだよ。
少しは離れてて寂しいとか思われてみたいが、部活なら仕方ない。
と、ここ三日間ぐらいは思うようにしてる。

「苗字、物思いに耽るのはいいけどもう終わりにするぞ?」
「おう、戸締まりよろしく」

早く帰ったところで連絡はないから帰ってきてないんだろうし。
暇つぶしに一人で打つかな…。
鞄を持って部室をでると寮へと戻る。

「あ、名前ちん」
「は!?あ、つし…」

寮の入口で、下を向いていた俺はその声で顔を上げた。

「本当だ、苗字」
「氷室も…え、戻ってきたのかよ。連絡なかったじゃん」
「アツシ、メールしなかったのか?」
「んー、充電切れてっし」

無理っしょ、と敦は電源の切れたケータイをだしてみせた。
いや、無理っしょじゃねぇだろ。
氷室の借りればいいんだし。
にやりと笑う顔に決して悪意がないなんて言えるわけがない。
俺は苦し紛れに敦の身体にパンチしてやるが、軽く受け止められて優しく握られた。
大きな手に包み込まれてしまったら、上手く言葉にできず黙る。

「じゃあ、俺は先に部屋に行くから」
「あ、なら俺も…」
「だぁめ、名前ちん俺も連れてって…からかって、ごめんなさい」

ぎゅっとされて耳元で謝られると嫌だと言えなくなる。
このままではダメだ、拒否しなくては…。
なのに、離さないとばかりに抱きつかれて甘い匂いを感じてしまったらどうにもならないじゃないか。

「意地悪した分、優しくしろよーでないと叩く」
「俺が名前ちんとヤるとき痛くしたときあった?」
「…多分、ない」
「あたりまえ、名前ちんのこと大事にしてるもんね」

お菓子より大事、と言う巨体は易々と俺の身体を抱き上げて運びだした。
抵抗したところで、無駄だとわかってるからそのまま運ばれてやる。
けど、俺はセックスしたいっていうよりこうしてたいほうが強いかな。
抱きしめられているだけでなんだか安心する。敦は癒し効果もあるんだなぁ。

「あ、でもダメだ。俺の部屋同居人いたんだ」
「え〜」
「仕方ないだろ、くっついてるぐらいならできるから」

冬休みで帰省している人は多い、俺の同居人は明日帰ると言っていたから今日はダメだ。
納得していない顔をする敦を宥めつつ、あいつは朝から帰るらしいから敦を一泊させれば問題ないだろう。

「明日になったらできる」
「ん〜、わかったし…」

少し残念そうな語尾にそんなにしたいのかよと笑ってクシャクシャと髪をかき回してやる。
よろよろとよろけながらも部屋まで運ばれれば中に入る。

「おいおい、とりあえず寮だぞ、ここ」
「だって敦が勝手にやったんだ。仕方ないだろ」
「こんばんはー、おじゃましまーす」

同居人は驚きの声を上げるが構わず部屋までいく。
こんなこと敦とつきあってからよくあることなので気にしない。
いやぁ、持つべきものは理解ある同居人だ。

「飯はー?」
「菓子あるから大丈夫、ありがとな」
「ん、じゃ…ごゆっくり」

ドアの向こうから気を使われて、帰省から帰ってきた後にでも何かお礼してやろう、と決めながらベッドに座ると後ろから腕に囲われる。
長いそれはいつも俺の後ろから回ってくる。
俺は身体を敦に預けていたが腕に触れて違和感に気づく。

「ヘアゴム?」
「あ、まさこちんに返すの忘れてたー」
「縛ったのか?敦が?珍しー」

後ろを向けば少し嫌なことを思い出していたのかぎゅっとされる。
どうしたと髪を撫でてやれば、肩に顔を押しつけてくる。
敦がこれをやるときは甘えたいときだ、何かあったのかと首を傾げた。

「負けちった」
「…そっか、そうだったな。お前、初めて負けたんだ」

沈んだ声に誰しも経験することだと振り返ると慰めるようにキスをした。
こうしてこいつは、また一つ知って立ち直って大人になるのだろう。

「大丈夫、敦強いから負けた相手にも勝てる」

よしよしと撫でてぎゅっと抱きしめる。体格差から、抱きついて見えるのは目を瞑ってもらおう。

「あたりまえだし、名前ちんが言うなら俺負けねぇし」
「よし、いい子」

頼もしい一言にちゅっと弾みにキスをしてやれば、甘い顔をする。
こいつの、こーいう顔好きだなぁ。
なんつうか、俺にしかいない顔ってやつ。

「そんな顔すんなよ、したくなんだろ」
「声出さなければいいんじゃね?」
「こら、他人の迷惑も考えて」

こういうところは子供っぽいんだけど、いや…ある意味男らしいのか?
言ってることはホントどーしようもない。
けど、好きだとも思うんだよな。

「考えなくても、名前ちんは俺のこと嫌いになったりしねーし」
「どうしよーもねーやつだな」
「名前ちんもだろ」

まぁ、そうだけどもっ。
どうしようもないけど、それなりに考えるんだって。

「慰めて欲しいか?」
「んーん、慰めるより食べさせて欲しい」
「そうだな、お前はそういう奴だったよ」

クスクスと笑いながら首筋に甘く噛みついてくる。
それがこそばゆくて、なんだか自分がお菓子になった気分だ。

「でも、最後まではだめー」
「ケチー」
「名前ちん強情」
「強情かもなぁ」

でも、俺だって結構寂しい思いをしたんだからじれてみろ。
よしよしと敦を宥めながらもう少し身体をくっつけていたいと思うのだ。
今度ヤるとき、髪を縛ってもらおうと密かに心に決めながら…。





END




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